欧州最大級のソフトウエア会社SAP Digital InterconnectのシニアプロダクトマネージャーMarut Gaonkar氏(下記画像左)と、戦略的アカウント担当ディレクターのRob Heuser氏は、ソーシャルチャネルが、友人との出会いの場から、ブランドのエンゲージメント獲得が期待できる場へと進化していることに着目している。

 

あらゆる年齢層、ユーザー層にとって、ソーシャルメディアは生活に欠かせないものとなっている。今年初めに創業16周年を迎えるFacebookは、Statista社(ドイツ発、マーケティング戦略立案や市場調査の最適プラットフォーム)によると、現在1日平均17.3億人という驚異的なユーザー数を誇るという。しかも、これはFacebookのみの数値である。WhatsApp(米国発、世界最大のインスタントメッセンジャーアプリケ―ション)、WeChat(中国発のインスタントメッセンジャーアプリ)、Facebook MessengerSnapChat(スマートフォン向け写真共有アプリケーション)、InstagramPinterest(ピンボード風の写真共有ウェブサイト)、TikTok(中国発のモバイル向けショートビデオプラットフォーム)など、その他数え切れないほどのソーシャルサービスやメッセージングサービスを含めると、ソーシャルアプリの世界で生きている人の話を聞いても驚くことはないだろう。メッセージングアプリ世界トップ3のWhatsApp、Facebook Messenger、WeChatは、いずれも10億MAU(Monthly Active Users:月あたりのアクティブユーザー数)を超えているのだ。

 

ソーシャルチャネルは、数年前までは人々が友人と関わり合い、交流するための場と考えられていた。その場に、企業は歓迎されていなかった。それが今日、一変しているのだ。顧客はお気に入りのソーシャルチャネルで馴染みのあるブランドを目にすることについて、何とも思わず、そこで企業と喜んで交流している。実際に多くの顧客は、現在それを期待しているのだ。年齢層を問わず、企業とのコンタクトは電話やメールよりもメッセージが好ましいと答えた人は64%にものぼっている。

 

力関係がシフトし、顧客が企業よりも力を持つようになった。そして今日、企業とつながる顧客は、自分の選択を明示するようになった。企業は、顧客に対して、コミュニケーションに使用するチャネルを指示することはできなくなったのだ。顧客は、選択肢があること、そして企業が自分の好みを尊重することを期待している。

 

これは、ブランドにとっては課題である。多くのチャネルとプラットフォームが存在する中、人々が異なるチャネルを希望し、対象となるエンゲージメントのタイプによってその選択が異なる場合、どのようにしてそれらすべてのチャネルを効果的に維持し、それぞれの希望するチャネルで人々と関わり合っていくべきなのだろうか。さらに重要なのは、各ソーシャルチャネルのビジネスアプリやプロセスへの統合を成功させるために必要となる、さまざまなメッセージング要件やその他のプロトコルの複雑さに、開発者がどう対処するかということである。

 

 

素晴らしい顧客体験

とはいえ、ソーシャルチャネルは大きなチャンスを与えてくれるものでもある。企業が正しく理解することで、ブランドロイヤリティやアボカシー(熱狂的なファン心理)につながる実に素晴らしい顧客体験を提供できるという、良い側面があるからだ。

 

それだけではなく、ソーシャルチャネルを活用して顧客や見込み客と関わることは非常に効果的といえる。ソーシャルチャネルでのメッセージ1件あたり、そして、エンゲージメント1件あたりにかかるコストは、多くの場合、一部の人気チャネルよりも平均的に低コストで済む。さらに、WhatsAppなどの有料ソーシャルチャネルでは、顧客から会話が開始した場合、企業と顧客との双方向のやり取りの最初の24時間は、企業に無料のカスタマーケアウィンドウが提供されている。顧客や企業がソーシャルチャネルを実行可能なエンゲージメントツールとして受け入れ始めているため、ソーシャルチャネルで配信されるメッセージのエンゲージメントレベルも非常に高く、さらに改善されているのだ。とりわけ、現在のCOVID-19パンデミックなど混乱の時代において、ソーシャルチャネルは、顧客にリーチし対話する必要がある場合に重要なオプションとなりえている。

 

こうした理由から、企業はソーシャルチャネル上での自社のプレゼンスの重要性を感じ始めているといえよう。Facebook Messengerでは、現在推定4,000万社の企業が活動しており、企業と顧客の間では毎月200億通のメッセージが送信されているのだ。

 

ソーシャルの顧客エンゲージメント戦略における重要性を認識するブランドは、選択を迫られている。各ソーシャルチャネルを、個別に一つずつ統合することができる。ほぼすべてのソーシャルチャネルはAPIを公開し、ブランドがプラットフォームと統合できるようになっている。ただし注目すべきは、WhatsAppはSAP Digital Interconnectなどの検証済みのビジネスサービスプロバイダーとのみ連携できるとする点である。

 

このアプローチの問題点は、顧客が企業と関わるために、自分の好みのチャネルを選択できるというアイデアを真に実現するためには、ソーシャルチャネルごとに異なる統合要件と、API仕様をもつ複数の統合が必要となることだ。こうした統合とテストには、数週間から数か月かかる場合がある。

 

代替策は、CPaaS(プラットフォームとしての通信サービス。通信機能をAPIで接続するクラウドサービス)ソリューションを使用することだ。CPaaSソリューションでは、個々のソーシャルチャネルやプラットフォームとの統合という面倒な作業がすでに済んでいるため、数日で稼働させることが可能となる。さらに、より多くのチャネルがCPaaSソリューションに追加されるにつれ、最小限の開発ですぐに利用できるようになる。

 

 

優先チャネル

最先端のCPaaSプロバイダーは、企業がソーシャルチャネルを含む顧客の好みのチャネルに通信トラフィックをオーケストレートし、ルーティングすることを可能にする。それだけではなく、CPaaSプラットフォームには、フェイルオーバー機能(稼働中のシステムやサーバーに障害が発生した場合、同等の待機システムに切り替える機能)も搭載されており、顧客が優先チャネルを介してコンタクトが取れない場合は、二次選択チャネルでメッセージを自動的に送信することができる。Built-in analytics(組み込み分析機能)により、メッセージが配信、開封、処理されたかどうかを確認し、できていない場合には次の適切なステップを実行できる。また、顧客が企業に対して示す選択肢にかかわらず、どのチャネルが最高のパフォーマンスを発揮するか、そして、顧客にとっての推奨チャネルを推測することで、顧客とのコミュニケーションを最適化することができるのだ。

 

CPaaSによって、企業は、あるチャネルから別のチャネルに移動し、顧客をセールスファネルの下方へと促すことができる。例えば、店舗で買い物をしている顧客に対し、プロモーションについての詳細情報を得るために、キーワードを数字にしてテキスト化するように誘導することもできる。そうすることにより、ウェブサイトへのリンクが送信されるか、エージェント、チャットbot、またはその2つの組み合わせた双方向コミュニケーションが開始される。そして、より高額な商品については、メールアドレスを共有するよう誘導することもでき、動画、音声、画像、文書、あるいはデモンストレーションなどの詳細な情報を送信し、顧客に空いている時間に検討してもらうことができる。それは、CPaaS機能なくしては起こり得なかった会話を始める方法といえるだろう。

 

これは、CPaaS機能によって、顧客や見込み客とのコミュニケーションを効率化し、顧客が望む方法とチャネルで、顧客との会話を可能にする一例に過ぎない。この機能を活用しないなど、考えられないのである。

 

更に詳しく知りたい場合は、‘Making Sense Of A Multichannel, Social World’‘Using Multichannel Digital Channels to Improve Critical Enterprise Communications’、 ‘Understanding the Complexity Of Messaging Channels and Digital Engagement’ を参照し、SAP Digital Interconnect Communityに参加しよう。

 

※当記事は、英国メディア「Mobile Marketing Magagine」の6/1公開の記事を翻訳・補足したものです。