マーケティング担当者は、信頼性の高い消費者との関係を確立し維持するために、強固なアイデンティティ(あるユーザーを識別するためのあらゆる情報)基盤にリンクした適切なウォールド・ガーデンを持ち、パブリッシャーと関係を確立する必要がある。

 

何年もの間、マーケティング担当者は消費者を理解しリーチするためにクッキーを活用してきたが、今後はそれができなくなる可能性が極めて高い。欧米では既に活用が禁止されている。しかし、この未知の領域をナビゲートすることは可能である。成功の鍵は、プライバシーに配慮した識別可能なコネクションと、それを保有している人との関係を構築することである。

 

マーケティング担当者は、多くの要因によって、クッキー以外に目を向けざるを得なくなっている。消費者のプライバシー保護への要求やカリフォルニア州の包括的なプライバシー法施行により、いわゆるウォールド・ガーデン(クローズド・プラットフォーム)が台頭し、メディアの分断化がさらに進んでいるのだ。

 

クッキーがその有用性を失いつつあることに、誰も驚くことはないだろう。しかし、クッキーが絶滅への道を歩もうとしている今、マーケティング担当者は、消費者を特定し、マーケティングパフォーマンスの成果を測定する新しい方法を必要としている。それは、彼らが知っている旧式のオーディエンス・ターゲティングから大きくシフトしなければならないことを意味する。

 

今、マーケティング担当者には、かつてサードパーティのクッキーから得ていたインサイトを補完するために、これまで以上にファーストパーティおよびセカンドパーティのデータに投資することが必要とされている。そのためには、すでに消費者との有効な関係を有しているパブリッシャーやコンテンツ制作者と提携し、効果的でパーソナライズされたマーケティングを継続しなければならない。

 

マーケティング担当者は、ウォールド・ガーデンにおいて、全体的なブランドメッセージ発信のために、アイデンティティを必要としている

マーケティング担当者にとって、消費者のアイデンティティ管理の重要性は目新しいことではない。市場リサーチ会社であるForresterは、2016年の時点で、「インサイトとエンゲージメントのシステムの連携を目指す企業にとって、シームレスで関連性の高いクロスチャネルの顧客体験を促進することは、これまで以上に重要となる」と述べていた。Forresterは、マーケティング担当者が、複数のタッチポイントにおいて、人々との円滑なインタラクションを創出する新しい方法を必要としていること、そして、それがクッキーではないことを理解していたのだ。

 

多くの点で、プライバシー保護の強化を求める消費者の要求によって、マーケティング担当者は、アイデンティティを中心としたマーケティング業界へと向かうこととなった。人々は、どのブランドがどのような目的のために自分の個人データにアクセスできるかを、さらにコントロールしたいと考えていた。2018年のカリフォルニア州消費者プライバシー法によって、マーケティング担当者は、強制的に、消費者に個人データをコントロールする権限を与えなければならなくなった。その結果、近い将来、消費者データがサードパーティのクッキーを介して出回ることはなくなるだろう。消費者は、より公正な対価を得ることにより、ブランドに情報へのアクセスを許可するかどうかを選択することができる。

 

消費者アイデンティティは、ブランドが、人々とのこの価値交換をどのように管理できるかの核となる。お金の流れを追えば、これがすでに実行されていることがわかるだろう。広告予算がどこに向かっているかを観察するべきだ。現在、デジタル広告費の70%以上が、クッキーではなく、識別可能な消費者への直接のリンクを持つ分野に流れている。

 

識別可能な消費者とのインタラクションの多くは、3つのデジタル広告収益のリーダー であるAmazon、Facebook、Googleのウォールド・ガーデン内で行われている。なぜだろうか?プライバシー問題にもかかわらず、これらのブランドは、消費者との信頼関係を築くことに成功しているのだ。結局のところ人々は、今でも便利なサービスであるGoogleを毎日利用している。そして今でも、Facebookとその子会社であるInstagramを使っている。実際、市場調査会社であるeMarketerのデータは、新型コロナウイルスのパンデミック禍に人々が友人や愛する人とつながるために、FacebookやInstagram、Snapchatの利用時間を増やしていることを示している。

 

その価値交換は、明確である。これらの最大手企業は、消費者が求めるだけでなく、頼りにするコンテンツやサービスを提供しているのだ。つまり、消費者は、それらのコンテンツやサービスを利用する代わりに、eメールや電話番号などの個人特定可能な情報や、興味に基づく情報へのアクセスを喜んで提供しているのだ。そして、それらのプラットフォームはこうした情報をもとに、カスタマイズしたサービスを提供し、消費者との関係を維持、成長させていくことができるのである。

 

AmazonやFacebook、Googleは、消費者との関係を構築していく中で、消費者のアイデンティティ・ガーデンを成長させてきた。これらの企業は、認証済みの消費者 ID データの宝庫を保有しており、その結果、自社プラットフォーム上でのサードパーティ・クッキーの有効性を制限している。これは、理にかなっている。彼らは、サードパーティ・クッキーが必要ではないというだけなのだ。彼らは、貴重な消費者アイデンティティへのアクセスを困難にすることで、その優位性を獲得し、維持してきた。

 

また、モバイルデバイスの利用が増えたことにより、クッキーが完全に動作しないとまではいかないまでも、信頼性に欠けるようなったことも、この変化の一因となっている。しかし、サードパーティ・クッキーが時代遅れになっても、マーケティング担当者は、複数のタッチポイントで、消費者とのシームレスでパーソナライズされたインタラクションを作り出す必要がある。そのためには、ウォールの向こう側にある特定可能な消費者データにアクセスする必要があるのだ。これは、ウォールド・ガーデン、もしくは、すでにそのような関係を持っている企業と提携することを意味する。

 

これは、消費者がどこにいようとも、一貫性のあるメッセージで彼らにリーチし、キャンペーンの効果を測定したいと考えているマーケターにとって不可欠なものであろう。たとえば、チャネルを横断するアイデンティティ・インフラストラクチャによって可能となった全体的ビューがなければ、マーケティング担当者は、職場と自宅のコンピュータで同じ顧客に対応することができない。また、オンラインでの購入を反映したダイレクトメールオファーを提供することもできない。また、マーケティング施策を、広告サーバー、DSP、プラットフォーム、パブリッシャーによって生成された測定可能なインサイトに結びつけることは不可能である。

 

アイデンティティ・パートナーシップによって、プライバシーと顧客体験を向上させる方法

マーケティング担当者が、クッキーのない広告環境で仕事をするためには、プライバシーに配慮した消費者アイデンティティ・アプローチは、極めて重要である。コンサルティング会社であるWinterberryが発表した最近のレポートでは、マーケティング担当者は、「潜在的なクッキーレスの未来に備え、モバイル広告IDやその他の個人識別情報の役割をモニターする必要がある」と言及。同レポートによると、そのプロセスの一部として、「(包括的な)マーケティング規律としてのプライバシー」を組織全体に統合することを提案している。

 

消費者アイデンティティというアイデアは、プライバシーと相反するものだと考える人もいるかもしれない。しかし、全くそうではない。実際のところ、消費者アイデンティティは、消費者のプライバシーを保護する。なぜなら、マーケティング担当者を、関連性が高く信頼できる体験を提供するために消費者について知る必要のある情報にのみ、結びつけるからである。パブリッシャーやプラットフォーム、その他のコンテンツ制作者が保有する消費者IDとマーケティング担当者を結びつけるパートナーシップは、人々とブランド間の信頼関係を強化するのに役立つ。

 

コンサルティング会社であるPwCの調査によると、65%の顧客が、ブランドが提供するポジティブな体験は、優れた広告よりも影響力があると回答。これは非常に重要なことである。ブランドに関する満足度の高い経験は、プライバシーが守られ、関連性があり、消費者がブランドとの関係性において適切であると考える方法でカスタマイズされている場合に生み出される。消費者とブランドの間のポジティブなインタラクションは、信頼に基づいたファーストパーティ・データを生み出すのに役立つ。これは、Forresterが “アイデンティティ・バックボーン “と呼ぶものの基礎となる。

 

言いたいことを、タイムリーに示す例がある。現在、屋内退避をしている我々の多くは、見える景色を変えたいと思いながら、変化のない四方の壁を眺めている。そして、あなたは、家を改装したいと考えているとしよう。あなたは、壁を壊そうと考えていて、あなたのパートナーは、子供部屋のペンキの色を変更したいと思っている。

自宅で、過ごす時間が豊富にあれば、DIYをすることにするだろう。そして、いくつかの必要な用具を購入するために地元の用品店を訪問する。商品を購入したのはあなた自身であり、あなたが結婚していて子どもがいることを用品小売店が知る理由はないので、用品店は、それらの事実を明らかにできるデータを持っていない。

 

しかし、用品店は、知る必要があること、つまり、あなたが購入した商品について知っている。あなたがもし常連客であれば、あなたはロイヤルティプログラムのメンバーなので、すでにメールアドレスと住所を提供していて、購入商品にはロイヤルティポイントが付与される。ほとんどの消費者にとって、これは明確で適切な価値交換である。そして、次回の購入時に、10%の割引が適用されるメールを受け取った場合は、さらにその価値が高まる。

 

これは、アイデンティティ・ソリューションによって可能となる。消費者は、自分の生活をより楽にし、実際に自ら関わりを持つことを選択したブランドとの関係を向上させるといったこのようなやり方を評価しているため、満足し受け入れている。そして、アイデンティティは、ウォールド・ガーデンやブランドが、消費者が提供したいと考える情報だけを確実に入手するために使用された場合、さらに価値のあるものになる。

 

あなたのパートナーが、壁をただ壊すのではなく、家の裏を増築するべきだと決めたとしよう。屋内退避が、人々にこんな影響を及ぼすこともあるのだ!あなたは、ネットで住宅ローンの金利を調べるだろう。銀行は、あなたが共同当座預金口座を持っているので、結婚していることを知っている。そして、子どものために529大学教育費預金(教育費用の貯蓄プラン)口座を持っていることも。金融サービス提供企業として、それらの関連データは、知っておくべきものである。

 

これらのブランドのいずれかが、たとえばFacebookのようなウォールド・ガーデン・プラットフォーム上で、これらのインタラクションに基づいてオファーを提供するために、あなたに連絡したいと思うかもしれない。この場合、ブランドと消費者のアイデンティティをリンクさせる信頼できるプライバシー保護された接点を持つことで、用品店、銀行、ウォールド・ガーデンのいずれも、あなたが提供することを許可した情報だけを見ることができるようになる。

 

簡単に言えば、あなたは自分の完全な個人アイデンティティを把握している一方で、バリューチェーンの各事業体は、消費者としてのあなたのアイデンティティを、それぞれ個別のレンズを通してでしか知らないということだ。ブランドがみる情報は、ブランドごとに異なる。各ブランドが既に別々に持っている情報を、消費者が共有を許可しない限り、データのクロスオーバーはない。

 

消費者のコントロールを強化し、信頼関係を高める

用品店、銀行、そしてもちろんAmazonなどのブランドは、それぞれ消費者が識別可能なデータへのアクセスを引き渡すことに同意するのに十分な信頼を築いてきた。

 

銀行は、金融商品の販売だけを目的としているわけではないかもしれない。顧客との信頼関係を高めるために、有益なコンテンツを提供しているかもしれない。信用組合であるPacific Northwest Credit Union Advantis は、まさにそのような取り組みを行っている。顧客がローンの支払いをスキップすることを可能にするだけでなく、この小規模な金融協同組合のウェブサイトには、”不確実な時期に財務を安定させるための5つのヒント “を特集した記事など、関連性のある満足度の高いコンテンツが掲載されている。

 

これらは、ポジティブで関連性のあるブランド・エクスペリエンスの例であり、アイデンティティのバックボーンビルダーである。それは、クッキーレスな世界で消費者とつながるために必要な信頼を築くだけでなく、マーケティング担当者が、より優れたエンゲージメントを可能にすることによって、消費者とのより強固な信頼関係を構築するために有効である。適切なパブリッシャー、ウォールド・ガーデン・プラットフォーム、アイデンティティ・ソリューション・パートナーとのパートナーシップを通じて、マーケティング担当者は、消費者とつながり、信頼の絆と優れたブランド・エクスペリエンスを生み出すことができるのだ。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の5/11公開の記事を翻訳・補足したものです。