CX(カスタマー・エクスペリエンス)に注力する海外の小売業者からインスピレーションを受け、自社のオーディエンスのエンゲージメントを向上させるため、その学びを活用せよ。

 

小売業界のデジタルマーケターにとって、その競争の激しさは言うまでもない。彼らは常に、いかに他の小売業者を打ち負かし、より多くの買い物客を取り込むかについて策をこらしているのだ。

単に競合他社をボックスアウトするために支出を増やすだけでは、長期的な解決とはいえない。また、多くの小売業にとっては、実行可能なことではない。解決策はカスタマー・エクスペリエンスだけでなく、よりパーソナライズされたマーケティングアプローチにも同時に投資することだ。なぜなら、カスタマー・エクスペリエンスのサイクルへの投資により、マーケティングや広告効果をさらに増大させることができるからである。

 

カスタマー・エクスペリエンスに改めてフォーカスすることこそが、今後の小売企業の成功の鍵となるだろう。ここでは、カスタマー・エクスペリエンスの主要分野において秀でている小売業者4社と、それぞれのアプローチから学ぶべきマーケティングの教訓を紹介する。

 

Ulta(Ulta Beauty:米国の化粧品専門チェーン)

優れている点:ロイヤリティプログラム

 

ロイヤリティプログラムは、非常に一般的なものとなった。そのため、多くの小売マーケターは、単にロイヤリティプログラムを設けるだけで、深く考えて実行せず、継続的な最適化も行っていない。通常ロイヤルティプログラムは、初めて買い物をする人向けのクーポンや、小売店のニュースレターへのサインアップと引き換えに、その他一般的なインセンティブを提供するものである。

 

より効果的なロイヤリティプログラムを実行するためには、パーソナライゼーション(顧客一人一人に最適化したマーケティング施策)、オーディエンスのセグメンテーション(顧客を特定の条件に基づいて分類し、最適なタイミングのマーケティングにより顧客とのつながりを強化すること)、そしてメッセージングに優先的に取り組む必要がある。適例として、S&P 500 Retailing Index(米国株価指数)において、Amazonをしのぎ最優良銘柄で2019年を締めくくった、Ultaの実店舗およびオンラインにおける顧客ロイヤリティプログラムUltamate Rewards Program が挙げられる。Ultamateのロイヤリティメンバーは、同社の総収益の95%以上を生み出している。

 

Ultaがこれほどの成功をおさめている理由は、一体何だろうか?同社は、ロイヤリティプログラムを、顧客とのつながりを構築し、維持するためのコミュニケーションツールとして第一に使用していることが挙げられる。このプログラムは、Ultaに「ゲストチェックアウト(アカウントの新規登録やログインをすることなくサービスを利用できる)」取引以上のインタラクションを行うチャンスを提供してくれた買い物客に対し、特典を提供する仕組みである。このようなよりパーソナライズされた体験が、競争の激しい小売業界でUltaが成功を収めた主な理由である。

 

教訓:まず、ロイヤルティプログラムをリレーションシップチャネル(顧客との良好な関係の長期維持により、強化されたロイヤリティーを創出すること)と位置づけ、その後に収益獲得を目指す。

 

REI(REI Co-op:米国アウトドア用品販売店)

優れている点:ソーシャルコンシャスネス(社会的意識)

 

社会的影響をどのように考えるかというソーシャルコンシャスネスの高まりにより、ブランドは、自社にとって重要な問題に対し明確な立場を表明するようなり、同時に、自社顧客基盤とのより深いつながりを構築できるようになった。この点において最も優れている小売業者は、ソーシャルコンシャスネスをDNAに刻み込んでいるといえる。

 

米国最大のアウトドア用品販売店であるREIを例に挙げてみよう。REI はブランドとして、その活動の全てにソーシャルコンシャスネスを浸透させている。同社のProduct Sustainability Standards(製品持続可能性基準)は、社会的責任と環境保全をサポートするために、自社とそのブランドパートナーに責任を課している。REI は、製品にリサイクル素材やその他の持続可能素材を優先的に使用している。そして、おそらく同社について最も印象深い出来事は、ブラックフライデーの際に、従業員や顧客が外で過ごす時間を奨励するため、閉店し始めたことだ。ソーシャルコンシャスネスは、REI と同社の顧客の価値観の基盤なのである。

 

REI は、マーケティングの観点から見ても、ソーシャルコンシャスに関しての先駆けといえる。REIの、常に買い物客に「屋外に出る」ことを推奨するという核となる価値観は、「#OptOutside」キャンペーンや何千冊ものアウトドアガイドブック、ボランティアイベント、そして、Eメールでのメッセージングの根底にある。同社のソーシャルコンシャスネスおける強みは、強力で首尾一貫したマーケティングメッセージに反映されている。

 

教訓:価格や配送などが要因となる底辺競争を回避し、共有されたコア・バリュー(企業が最も重要とする価値観)のもと、顧客を獲得する。

 

American Girl(米国発の人形や洋服、絵本の販売企業)

優れている点:リテールテインメント(小売りと娯楽を掛け合わせることで購入を促す商業形態)

 

リテールテインメントの概念は、従来の実店舗型小売業の見直しに伴い飛躍的に発展した。多くの買い物客は、商品の陳列が不十分で品揃えが少なく、不愛想な接客の店舗についての耐性ができていた。しかしこのような状況を覆した小売業者は、ブランド構築と販売を新たなレベルに引き上げている。

 

例えば、米国で大人気の人形や絵本などを販売するAmerican Girlは、店舗体験という点において優れた小売業者といえる。ニューヨーク市の40,000平方フィートの広さを誇る旗艦店は、最高のリテールテインメントである。若い顧客と彼らの人形は、変身をしたり、誕生日パーティーを開いたりすることができる。カスタムデザインショップでは、子どもたちが人形の衣装をカスタマイズや、自分用の服を探すことができるのだ。

 

また、子どもたちは店内体験についての写真をソーシャルメディアでシェアし、親は特典のためにサインアップすることにより、買い物客の店頭での思い出を、確実にマーケティングに結びつけることができる。こうしたマーケティングでは、リテールテインメント体験を積み重ねることで効果を得ることができるのだ。また、同時にその体験を強化することで、顧客のリピート率を高めることが可能となる。

 

教訓:他のマーケティングチャネルで店内体験を充実させ、買い物客のブランドに対するポジティブな記憶を強化する。

 

IKEA(スウェーデン発、世界最大の家具量販店)

優れている点: AR(拡張現実)

 

店舗での非日常的な体験がオフラインにおけるブランドの差別化をはかる一方で、オンラインでの体験を変革する上で大きな役割を果たしているのが、AR(拡張現実)である。家具とアパレルは、これまでオンラインで購入する際の抵抗が大きかったため、ARによって特に恩恵を受ける小売業の2つの分野といえるだろう。買い物客は、こうした商品を購入前に触ってみたい、試着してみたい、試してみたいと思うものなのだ。

 

例えばIKEAは、3DイメージングとAR技術を使って、顧客が自宅の部屋の中に商品を配置した商品を視覚化できるようにしている小売業者の1つである。IKEA Place appでは、買い物客は、膨大なIKEAの在庫リストを活用しながら、部屋の中に複数のアイテムを配置し、さまざまなアイテムの組み合わせがどのようにフィットし、どのように見えるかを確認できる。こうしたテクノロジーにより、家具カテゴリーは近年オンライン小売業の中で最も成長著しいカテゴリーの1つとなっている。

 

同様に、3Dボディ・イメージング技術によって、オンラインでの衣類の買い物の不具合を劇的に軽減するとともに、消費者がサイズや色についてより適切な判断ができるようにサポートすることで、返品を減らすこともできるようになった。ARを正しく活用することで、商品カタログに命を吹き込むことができ、購入に至るジャーニーをサポートする直接的な役割を果たすことが可能となる。

 

教訓:購入者の意思決定プロセスにおいて、直接的にARを活用することで、オンラインショッピングに内在する軋轢を克服する。

 

小売業のデジタルマーケターは要するに、カスタマー・エクスペリエンスに大きな関心を寄せているのだ。彼らの成功は、自社のビジネスが顧客に提供する体験の質に左右されるといえるだろう。これまでと同様、差別化が重要であることに変わりはない。それぞれの戦いに臨む小売業者のインスピレーションから得た学びを、自社のオーディエンスのエンゲージメント向上のために活用してみてはいかがだろうか。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の3/23 公開の記事を翻訳・補足したものです。