AR(拡張現実)分野は進化し続けている。Bosch(ドイツ発、世界的なテクノロジー・サービスのリーディングサプライヤ)やPanasonic(日本の大手電気機器メーカー)、Huawei(中国の大手通信機器メーカー)、Pico(中国のデバイスメーカーでVR/AR向けハードウエア、ソフトウエアの開発を手掛ける)などのデバイスメーカーは、非常に小型で高性能なスマートグラスとARヘッドセットを導入しており、それらは米国内最大の消費者向けテクノロジーカンファレンスの1つであるCES 2020で先月発表されている。

 

エンタープライズAR(法人向けAR)のパイオニアであるTeamViewerは、常にARベースのカスタマーサポートに新しい打開策を提案している。最近は、新しいスマートフォンアプリ「TeamViewer Pilot」の導入。これにより、AndroidおよびiOSに内蔵されたARツールを使用して、離れた場所でPCに向かっている専門家とARベースのコミュニケーションを行うことができる。

 

ARを理解しコントロールする

ARとは正確には何なのか。その答えは簡単ではない。ARはグラフィックディスプレイを使用し、現実に存在する「reality(実物)」の上に画像を重ね合わせる。これらは、スマートフォン、スマートグラス、車内ディスプレイ、高性能で本格的なARヘッドセットなど、複数の方法で実現可能だ。

 

これらの製品には、グラフィカル機能とインタラクティブ性に関しての違いがみられる。スマートグラスは、基本的なヘッドアップディスプレイを介して、世界中のユーザー視点に2D情報を投影する。スマートフォンと本格的なARヘッドセットは、よりグラフィック面でよりパワフルで、複雑なインタラクティブ3D画像をユーザーの視点に投影できる。

 

消費者は、スマートフォンベースのアプリケーションに最も慣れ親しんでいる。なかでも代表的なものが、ソーシャルメディアアプリSnapchatとモバイルゲームアプリPokémonGoの2つである。2012年、Googleのスマートグラス「Google Glass」は、一時的に世界中で注目の的となったものの、プライバシーについて反発を受け、すぐに消費者向け市場から姿を消した。そして2014年、エンタープライズ市場に参入したのだ。

 

Google Glassは世界中の想像力を掻き立てたが、最初のスマートグラス製品ではなかった。Vuzix(米国の多国籍テクノロジー企業。VR、ARのサプライヤ)などの他企業は、10年以上前に、元々は軍事用として使用するためのスマートグラスと、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を導入していたのだ。本格的なARヘッドセットスペースの2大巨頭は、Microsoft(米国のソフトウエア開発・販売会社)のHoloLens(世界初の自己完結型ホログラフィック コンピューター)とMagic Leap(米国のHMD方式複合現実ウェアラブルコンピュータを開発企業)のヘッドマウント仮想網膜ディスプレイ(画像が網膜に直接投影されるシステム)だが、これらの製品を認識している消費者はほとんどいない。

 

ARについての消費者の認識

ARは、消費者がテクノロジーや相互関係、そして周囲の世界との関わり方に革命を起こす可能性を秘めている。そして、スマートフォン市場が成熟するにつれ、多くの人々はARデバイスが将来的にスマートフォンやパソコンにさえも取って代わる可能性があると考えている。第一に、消費者は、ARとは何かを知る必要がある。第二に、人々はARを使用しなければならないのだ。

 

Parks Associates(米国の調査会社)は、米国で10,000のブロードバンド世帯を対象として行った四半期調査のうちの1つで、さまざまなARテクノロジーとデバイスに関する消費者の知識についてのテストを行った。米国のブロードバンド世帯主のうち、テストの対象となったARデバイスまたはARテクノロジーを「よく知っている」と回答した人はわずか12%であることが明らかとなった。「よく知っているかどうか」は世代によるところが大きく、(ともにインターネットに慣れ親しんだ世代である)ミレニアル世代の1/4、Z世代の1/3の世帯主が「よく知っている」と考えている。

 

消費者に最も馴染みのあるデバイスはGoogle Glassであるという調査結果の一方で、調査対象となった消費者の2/3はGoogle Glassについて「まったく知らない」と回答。iPhoneとAndroidのARについてはさらに状況が悪く、およそ80%の消費者がこれらのアプリケーションについて、「まったく馴染みがない」と主張している。消費者の多くは、スマートフォンアプリのフィルターや車両のバックアップカメラを使用した経路ガイダンスなど、ARベースの機能を使用していたが、これらのソリューションを「AR」として認識していない人が大半なのだ。

 

ユースケースについての消費者の関心

ARとは何かを説明したところ、米国のブロードバンド世帯の60%以上がARを活用した情報の受信に関心を持っていることが明らかとなった。

 

また、消費者は、いくつかのARユースケースに関心を示した。彼らが最も好むユースケースとして、ナビゲーション(ハンドヘルドまたはヘッドマウントARデバイスでのターンバイターンインストラクションの受信)と、価格比較ショッピングツール(ユーザーが商品を販売している小売業者や商品価格を確認できるもの)がある。

 

これら上位2つ以外には、測定アプリ、運動アプリ、小売業者と製品のレビューに関心が分かれた。消費者のAR習熟レベルは、調査対象となったユースケースの関心度の順位に影響がなかった。

 

ARに慣れ親しんでいる人は、馴染みのない人よりも調査対象ユースケースについてはるかに高い関心を持つ傾向がある。「少なくとも1つの調査対象ユースケースに興味がある」と回答しているのは、ARに精通している人の90%であるのに対し、ARに馴染みのない人では60%に留まった。

 

 

 

 

好まれるフォームファクタ

新たなフォームファクタがスマートフォンに慣れた消費者を取り込んでいくには、困難なこともがあるだろう。スマートグラスまたはヘッドセットHMDのいずれかについて、7段階評価で「魅力的」であると感じている米国のブロードバンド世帯の消費者は30%程度であることが明らかになった。

自己申告による回答では、さまざまなHMDフォームファクタ間で大きな差は見られなかった。概して消費者は、通常の外観のスマートグラスを特殊なヘッドセットと同じくらい魅力的だと感じているようだ。

 

しかしながら、消費者はARに慣れ親しんでいるかどうかに関係なく、わずかな差ではあるが、特殊なものよりも通常の外観のスマートグラスの方をより好むことがわかった。こうしたデータは総合的にみて、自分がARに慣れ親しんでいると考えている消費者でさえ、さまざまなフォームファクタの独自の利点または欠点をほとんど認識していないことを示している。

 

まとめ

AR市場の開発の大部分は、エンタープライズ分野で行われている。企業は10年半以上にわたって消費者向けAR市場の開拓を試みてきたが、それほど前進はみられない。

しかし、まだまだ素晴らしい可能性を秘めている。全体的なARの認知度は低いが、消費者は多くは、ARユースケースについて価値があると考えている。Z世代とミレニアル世代の意識の高まりは、急激な変化がすぐそこまで迫っていることを示しているのだ。

 

※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の2/4公開の記事を翻訳・補足したものです。