米国に本社を置く大手家電量販店Best BuyとAmazonは2018年4月18日、複数年の独占販売契約の締結を発表。Best Buyは米国とカナダにおいて、Amazonの次世代Fire TV内蔵スマートテレビ「Fire TV Edition」の独占販売を行う。

 

Best Buyはこの夏から、(Best Buyのプライベートブランド)Insigniaと、10機種以上を展開する東芝ブランドの4KとHDのFire TV Editionモデルの販売を開始。発売される新機種のスマートテレビはFire TV機能を内蔵し、視聴者はAmazon Prime Video、NetflixHBOPlayStation VueHuluなどのさまざまなソースからのストリーミングコンテンツとライブ放送テレビ番組を楽しむことができるという。

 

Fire TV Edition スマートテレビ

 

Fire TV Edition(Fire TV 内蔵)のスマートテレビには、Alexa(AmazonのAI音声認識アシスタント)搭載の音声リモコンが付属する。ユーザーは付属のリモコンで、アプリにアクセスしたり、テレビ番組を検索したり、音楽を再生したりできる。またテレビの設定や入力の調整や、他のスマートホームデバイスを操作することも可能だ。Amazonのスマートスピーカー「Amazon Echo」 とのペアリングにも対応する。

 

Amazon CEOのJeff Bezos氏は、次のように述べた。「AmazonとBest Buyは、長年にわたり協力関係を築いてきた。そして今回、両社のパートナーシップは新たな段階を迎えることとなった。Insigniaと東芝ブランドのFire Editionスマートテレビでは、観たい映画やテレビ番組を美しい映像で視聴することができるだけでなく、日々進化するAlexaを体験することもできる」。

 

百聞は一見に如かず

多くの消費者は、Amazonで書籍から食料雑貨まであらゆるカテゴリーの商品を頻繁に購入しており、家庭用電化製品はその中でも最も人気が高いカテゴリーの1つである。しかしテレビの購入については、一度実際に商品を見てみたいのが消費者の心理だ。(こうした理由から)Amazonが、Fire TV機能搭載製品をBest Buyなどの大規模な実店舗に展示したいと考えるのは、当然のことである。

 

「テレビのような製品の場合、やはり実物を店頭で見て、画質を確認することは重要だ」と、ロンドンに本社を置く情報会社IHS Markitのコンシューマー機器部門最高責任者Paul Gagnon氏は述べる。

「多くの家電製品は、仕様を確認するだけで購入されている。しかし米国の消費者は未だに、オーディオ製品やビデオ製品に関しては購入前に実際に店頭で性能を確認したいと考える」。

 

「大型テレビの購入の際には特にその傾向が強い」と語るのは、マーケティング会社NPD Groupのテクノロジー&モバイル担当バイスプレジデント兼産業アドバイザーであるStephen Baker氏。

「37インチ以下の小型テレビは、まだオンラインで購入されている。しかしAmazonは、Fire OS製品のシェア拡大のためには、店頭で実物を体験させる必要があることを認識している」と述べた。

 

テレビ市場における競争

Amazonは今回のBest Buyとの提携によって、潜在顧客がショールームで目にする多様な機種のテレビに、自社のプロダクトを搭載することが可能になる。

 

「現在北米では、スマートテレビは、テレビ販売台数の70%以上を占める重要なカテゴリーである」とIHSのGagnon氏は述べた。

今回の提携は、スマートテレビ分野に限らず、Fire OSブランドの認知度向上につながるだろう。

Gagnon氏は「SamsungとLGの独自スマートテレビプラットフォームは依然として重要な存在である。しかし2017年には、米ストリーミング製品メーカーRoku TVが、Fire TVと同様に第三者プラットフォームとして大きな成長を遂げた」と言う。

2017年には北米スマートテレビ分野において第2位のオペレーティングシステムプラットフォームとなったRoku。AmazonはそのRokuの市場シェアを獲得したいと考えているのだ。

 

「AmazonはRokuのシェアを獲得するために、顧客に認知され信頼されているテレビブランドと提携する必要があり、Best BuyのInsigniaと東芝は、まさにそれにふさわしい」と、NPDのBaker氏は言う。

 

競争よりも提携を

Amazonは既存小売業者にとって脅威とみなされてきた。特に家電製品に関してはそうであったが、今回のケースでは、競争よりも提携が相互にとってメリットになった。

 

「Best Buyは現在順調に成長を遂げている小売業者であり、Amazonとは競合関係にある一方で、パートナーとなることもできる」と、Baker氏。

「今回のケースは、小売業者としてではなく、ハードウェア会社としてのAmazonの提携なので、小売分野の競争にはほとんど影響を及ぼさないだろう。実際のところAmazonのハードウェア事業はRokuや他のスマートテレビ内蔵プラットフォームと競合関係にあるため、店舗内でのより広い製品展示スペースの獲得を必要とするためのAmazonの戦略なのである」と同氏は加えた。

 

しかし、ハードウェア分野におけるパートナーシップであっても、Best Buyがオンライン小売業者のサポートに関与するということは、別の側面があることを示唆している。

 

「AmazonとBest Buyのパートナーシップは、eコマースと実店舗の小売業者が、それぞれ異なるプレッシャーに直面していること、また、協働関係を築くことにより成功する可能性が高くなると考えているということを意味する」と、マーケティング会社であるMergermarketのシニアリサーチアナリストElizabeth Lim氏は語る。

「Amazonは、今では小売や医療などの伝統的な分野において、破壊的な混乱を招く脅威となっている。しかしさらに市場シェアを拡大する必要があるのだ」と、同氏。

「Best Buyにとっては、生き残れるかどうかの問題であり、独占状態のAmazonのeコマースプラットフォームへの繋がりを得ることを意味している」

 

「独自のプラットフォームを構築しようとした両社であるが、今回の提携は実のところ、“勝てないのであれば、仲間になる”というケースに当てはまる。今回販売されるFire Editionスマートテレビについて言えば、消費者の製品へのアクセス手段を増やすことで、Best Buyで直接購入することも、またAmazonでオンライン購入することも可能になる。消費者の製品についての関心は高まり、それぞれのネットワークで話題となるだろう。最終的には、すべての当事者にメリットがあるのだ」。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の4/19公開の記事を翻訳・補足したものです。