市場拡大を続けるソーシャルギフト - 独自の取り組みで活路を見出すAnny now、grappy、Gratz!

 

eコマースのトレンドの中でソーシャルギフトは一定の地位を獲得していると言っていいだろう。4年前から海外発でトレンドは始まっているが、2014年度でも国内ソーシャルギフト市場規模が82億円と前年度比82.2%も増加している(矢野経済研究所調べ)。ソーシャルギフトへ新規参入する企業も相次いでおり、2020年には1,110億円まで拡大すると予測されている。eコマースの他のトレンドと比較してみると、2013年のグルーポン市場が396億円、2014年のフリマアプリ市場が200億円と言われているので、現時点ではそれらの1/2~1/4程度の市場規模といえよう。eコマースコンバージョンラボではソーシャルギフトについての特集は3回目となるが、今回は新たに開始されたソーシャルギフトサービスから、それらの独自の取り組みを見ていく。

 

市場拡大を続けるソーシャルギフト

 

<参考>

ソーシャルギフトはどこまで手軽に進化するのか - e-Gift system、LINEギフト、SPOTLIGHTS

ソーシャルギフトはO2Oマーケティングに革命を起こせるのか (前編・海外) - Facebook Gifts、Wrapp

ソーシャルギフトはO2Oマーケティングに革命を起こせるのか (後編・国内) - giftee、okurune

 

 

相手に選んでもらうギフトサービス「Anny now」

 

2015年7月1日にiOS版がトレンダーズからリリースされた「Anny now(アニー・ナウ)」。

 

 

スマートフォンで「今すぐきちんと贈れる」ギフトECサービスとして開始されたAnny now。サービスの大きな特徴は三越伊勢丹が商品提供を行い、取り扱われているギフトは三越伊勢丹と共同で選定され、相手には伊勢丹のラッピングで届けられることだろう。このように高品質なギフトを届けることができるため、友人の誕生日、結婚のお祝い、出産祝いなど、様々なお祝いの機会がある中で、「何を渡したらいいかわからない」「相手や自分が忙しくて渡せない」という、悩みに十分に答えることができるサービスとなっている。

使い方も簡単だ。まずは、どんなシーンで、どれくらいの金額のものなのかを決めていく。シーンは、Birthday(誕生祝)・Wedding(結婚祝)・Baby(出産祝)・Thank you(御礼)・Celebration(おめでとう)から選ぶことができ、3,000円、5,000円、10,000円相当の商品から選ぶことが出来る。

条件にあった商品リストから贈り主はギフトを3つ提案し、贈られた側はその中から1つを選ぶことができる。贈られた側に選択肢を与えることで、ある程度好みのものを受け取れる仕組みとなっている。ソーシャルギフトの特徴であるが、Anny nowもメッセージはLINEやメールを使って送ることができ、相手の住所を知らなくてもギフトを贈ることができる。メッセージをもらった相手は、ギフトを選択し、住所を入力し、プレゼントを受け取る。このようにちょっとした気遣いを贈る側と贈られた側に提供しつつ、とても簡単にギフト選びから受け取りまで行うことができるのだ。さらにAnny nowは、アプリ上で同名のギフトマッチングマガジンAnny Magazineも読むことが出来るので、ギフトの参考にしたり、自分自身も欲しいものが見つかる可能性もある。

 

 

心のこもったモノが贈れる女性向けギフトサービス「grappy

 

2015年7月7日にリリースされたソーシャルギフトサービス「grappy(グラッピー)」。

 

 

このアプリも、「Anny」や他のソーシャルギフトサービスと同様に住所を知らない相手であっても、簡単にギフトを贈ることが出来る。Facebook、Twitter、LINE等のSNSでやり取りをすることが一般的になった今、親しい相手であっても、電話番号や住所を知らないことは珍しくない。そのため、結婚や出産の時に何か贈りたいと思っても、贈ることが出来ないケースが多かった。また、そのタイミングで住所を聞いてもサプライズ感が薄れてしまうもの。そのような状況の中で、住所を知らない人に、ギフトを贈りやすくするために作られたのが「grappy」だ。このサービスのターゲットは、20~30代の女性。この世代は、就職・転職・結婚・出産などライフイベントが多く、ギフトを贈る場面も多い。しかし、仕事や子育てなどでギフトを買いに行く時間がなく、手渡しも難しい。また、40代以降の人と比べるとSNSの使用率も高く、住所を把握する習慣も少ない。このような女性は、ギフト券などの電子ギフトではなく、人のためにモノを選びたいという傾向があるため、女性が贈りたくなるようなギフトを展開することを重視している。今後「grappy」は掲載店舗数の増加を目指し、更なるサービスの充実を図っていくようだ。

 

 

企業の市場調査を逆手に取った無料で贈れる「Gratz!

 

2015年4月27日にリリースされた「Gratz!(グラッツ)」は、いいもの、おすそわけをコンセプトとした、新たなソーシャルギフトサービスだ。

 

 

このサービスはビジネスモデルが秀逸だ。ユーザーは企業がサンプリング調査やプロモーションの目的で配布する電子クーポンをSNSの友達に贈ることができるソーシャルギフトサービスだ。いわばメーカー協賛型のソーシャルギフトプラットフォームといえる。

使い方としては、贈り手となるユーザーがLINE、Facebook、Twitter等のSNSを通じた友人にメッセージカードとともに、電子クーポンを贈る。メッセージを受け取ったユーザーは、それをコンビニエンスストアや大手スーパーにて実際の商品と無料で引き換えるという仕組みだ。

現在、各メーカーは新商品を発売する際に、大規模なサンプリング施策を実施している。しかし、サンプリングを実施した後の継続購入率の低さや、配送・配布などにコストがかかるという問題を抱えている。また、サンプリングでは「無料だからもらう」というモチベーションの消費者が集まってしまうため、ブランド向上や実購買喚起につながりにくい。これらの課題を解決するために、配送料のかからない電子クーポンでコストを抑え、ソーシャルギフト体験によって、商品のプロモーションを広く行うことが出来る。キャンペーンの参加者は、直接クーポンが当たるわけではなく、友人にプレゼントされる仕組みであるため、純粋に対象商品・ブランドに興味、好意を抱く利用者を中心に集客することが可能。また、プレゼントであるため、その受け手にとって商品を価値のあるものととらえられることで、商品イメージ向上や長期的なブランドロイヤルティ獲得につながるという副次的効果も期待できる。

 

 

独自の取り組みで活路を見出すAnny now、grappy、Gratz!

 

2011年にリリースされて欧州を中心に瞬く間に広まった元祖ソーシャルギフトサービスの「Wrapp」はサービスをチェンジし、ソーシャルギフトから方向性を変えることを発表している。また、Facebookが展開していたソーシャルギフトサービス「Facebook Gifts」も昨年の8月にサービスを終了。時代の先鞭をつけた2つの海外のサービスは終了したものの、韓国や日本ではいまだにソーシャルギフトは活発のようだ。

国内では大丸松坂屋の百貨店業界初と言われたソーシャルギフトサービス「okurune」や会員数26万人といわれる国内のソーシャルギフトの雄「giftee」をはじめ、複数のサービスが健在だ。

そのため新規に参入するサービスはしっかりと差別化を図る必要がある。「Anny now」は三越伊勢丹と提携することで、商品ラインナップの不安を払拭し、安心して高品質なものを相手に贈ることができるという点で差別化を図っている。また、「grappy」は、20~30代女性にターゲットを絞り、その女性たちが贈りたくなるような商品を取りそろえ差別化を図っている。そして最後に紹介した「Gratz!」は、ビジネスモデル自体の差別化を図っている。企業がプロモーションやサンプリングのために配布する電子クーポンをSNSの友達に贈るためユーザーは無料でプチギフトを贈ることが出来るのに加え、企業側は効率的なプロモーションとして利用することが出来る。昔と比べるとギフトがカジュアルなものへと変化したことと贈り物の価値を利用し、企業のサンプリングの価値を向上させる。このように、ユーザーと企業にWin-Winの関係を提供することで差別化を図っているのだ。

国内のソーシャルギフト市場はしばらくは健在のようだが、欧米の同サービスの衰退は何を意味するのか。栄枯盛衰の激しいEC関連サービスだけに、しっかりとした価値を提供することができるかがソーシャルギフトサービスの活性化の鍵となってくるのではないだろうか。