活気づくファッションレンタルEC市場 - 各サービスはどのように差別化を図り勝機を見出していくのか

 

“ファッションレンタルEC”は、オンラインにて洋服を月額制でレンタルすることが出来るサービスだ。米国から流行がはじまり、日本でも昨年後半から次々にサービスが開始された新しい業態のため、聞き慣れない方も多いだろう。ファッションレンタルECは月額制を取ることが多いため、サブスクリプションコマース(定期購入)の側面を持つのだが、それに加えてCDやDVDなどのコンテンツに近い商品には以前からあった“レンタル”という概念を、洋服に持ち込んだ非常に新しいサービスといえよう。昨今ではベビーカーなど利用が一時的に限定されているものにもレンタルの概念が普及してきているが、果たして“ファッション”という領域にはレンタルという概念は適しているのか。話題の4つのサービスを紹介し、今後を考えてみる。

 

活気づくファッションレンタルEC市場 - 各サービスはどのように差別化を図り勝機を見出していくのか

 

<参考>

サブスクリプションコマース(定期購入)はどこまで定着するのか

 

 

air Closet

 

月額制で好みに合った洋服が何着でも届く女性向けのファッションレンタルサービス「air Closet」。

 

 

ITベンチャーのノイエジークが今年2月にローンチした同サービスは、スタイリストが選んだ洋服3着が手元に届き、それらを好きなだけ楽しむという仕組み。返却期限は特に設けていないため、ユーザーは気が済むまで着たら返却するという流れだ。料金は送料込みで月額6,800円、クリーニングは不要なので気軽にレンタルを楽しむことができる。また、気に入ったアイテムは買い取ることも可能。将来的には、メンズ、キッズ、シニア向けのアイテムも取り扱いを検討しているとのことだ。

ここで少し利用方法について説明しよう。ユーザーは登録後、アイテムリストの中から自分の好みに合った服の画像をクリックする。すると、それによって個々の好みがデータベース化され、より好みにマッチしたアイテムの提案が可能になるのだ。実際に商品を届けてもらう有料会員登録する際には、コンサバ、フェミニン、スタイリッシュ、オフィスカジュアルの中から好みに合ったスタイルを選び、さらに好きな色や着てみたい洋服の色を選んでいくことで大まかな系統が定められる。会員登録の過程で全身が写っている写真を登録する必要があるため、これによってよりイメージに合ったアイテムが送られてくるのだ。サービス利用中は、ユーザーが届けられたアイテムの感想を伝えることによって、より個々の好みに近付けていく。時には自分では選ばなかったようなアイテムが届くので、スタイリングの幅が広がると評判のair Closet。取り扱いブランドは公表されていないが、大手ファッションビルや百貨店にテナントを出しているブランドが中心で、商品単価は数千円〜3万円程度。ターゲットは20代前半の女性といったところだろうか。

 

<参考>

キュレーションコマースへの進化の道程(前編)~藤巻百貨店からhatch、SumallyそしてSTYLESEEKへ

 

 

 SUSTINA

 

今年3月にスタートアップのオムニスが立ち上げたのが、月額5,800円で女性向けファッション製品が借り放題となる「SUSTINA(サスティナ)」だ。

 

 

SUSTINAの最大の特徴は、買取りとレンタルが一体となっているところ。ユーザーがクローゼットに眠る衣服をレンタル品として提供し、借りる側はそれらのアイテムを1回につき最大5点までレンタルすることができる。前述のair Closet同様レンタル期間は定められておらず、月に何度でも好きなタイミングでの利用が可能だ。

取り扱いブランドは、aquagirl、CECIL McBEE、SNIDEL、MOUSSY、MERCURYDUO、SEE BY CHLOE、JILLSTUART、SLY、ROSE BUD、ABAHOUSE、Adam et Rope’、SHIPS、Stella McCartney、Paul Smith、BANANA REPUBLIC、A.P.C.、agnes b.、FRED PERRY、REPLAY、Abercrombie & Fitch、American Eagle、American Apparel、BURBERRY、Spick and Span、HYSTERIC GLAMOUR、STUNNING LURE、BARNEYS NEW YORK、ESTNATION、Deuxieme Classe、MAISON DE REEFUR、JOURNALSTANDARD、TOMORROWLAND、BEAMSなどで、20代〜30代の女性向けのアイテムが並ぶ。

サービス開始前にユーザーに対象ブランドのレンタル品提供を呼びかけ、ターゲット層に合ったアイテムを豊富に揃えた。ただしサービス開始から3カ月以上経った今も大変混み合っており、現在はレンタル品を提供したユーザーを優先的に利用させる方法を取っている。SUSTINAではスマートフォンでのサービス利用を前提とし、レンタルなどの手続きはすべてアプリから行う。

 

 

Laxus(ラクサス)

 

月々6,800円でシャネルやルイ・ヴィトンなどの高級ブランドバッグが使い放題になる「Laxus(ラクサス)」。

 

 

以前からファッションシェアリングを提供していたエス株式会社が今年2月にリリースした同サービスは、なんと1,000種類以上の女性向けバッグの中からお気に入りの1点を無期限でレンタルできるというものだ。取り扱いブランド数は30近くにおよび、そのうちセリーヌ、エルメス、グッチ、バレンシアガ、クロエが50種類以上、シャネル、ルイ・ヴィトン、プラダにおいては100種類以上の在庫を抱えている。新作も随時入荷しており、最新コレクションからのセレクトも可能という点はかなり魅力的だ。Laxusではあらゆる層に刺さる20万円〜40万円の価格帯のアイテムを用意しているため、年齢、職業、趣味趣向問わず多くのユーザーから支持されている。

注文はアプリから受け付けており、その手軽さも人気の秘密。利用する際には用途やカテゴリー、ブランド、サイズ、色などからバッグを検索し、気に入ったアイテムをクリックするだけで2、3日中に商品が手元に届く。もし希望のバッグがレンタル中の場合は、「入荷待ちに並ぶ」をクリックすれば予約が可能だ(ただし入荷待ちできるバッグは1点のみ)。新しい商品と交換したくなったらアプリで次の商品を予約し、手元にある商品を返却するだけ。交換は無料だが、同じ利用月内で2回目以降に交換する場合は、荷造り手数料として1回1,000円が発生する。

人気のバッグはすぐに予約でいっぱいになるのでは?という声もあるだろう。しかしとにかくアイテムの種類が多いため、とりあえず何かをレンタルしながら予約を待つという使い方で十分満足できるのではないだろうか。また、Laxusでは扱う商品が高級品ゆえ、傷を付けてしまったら……という心配もあるかもしれないが、その点はキズ保証という制度がカバー。万が一キズを付けてしまっても、通常使用の範囲内であれば保証が適用される。何かあった時はメッセージ機能を使えばすぐにカスタマーセンターとコンタクトが取れるため、たとえ不安な点が出てきてもすぐに解決することができるし、Laxusにない商品のリクエストや利用者買い取りにも対応。すべての流れがアプリ内で完結するにも関わらず、顔の見える安心感のあるサービスだ。

今後は国内に限らず、米国(ニューヨーク、サンフランシスコ)、マカオ、シンガポール、香港、台湾、韓国への展開を計画しているというLaxus。取り扱うのはどれも購入を躊躇するような高額アイテムばかりなので、この手のレンタルECの中では最も需要のある使い勝手の良いサービスになるのではないだろうか。

 

 

FreshNeck

 

ネクタイを中心としたビジネスマン向けのファッションアイテムが月額定額制で借り放題となるニューヨーク発のサービス「FreshNeck(フレッシュネック)」。

 

 

昨年10月より日本版のサービスが開始されたが、元々は創業者が弁護士として働いていた頃、手持ちのネクタイを同僚と交換して使っていたことをヒントに2012年にニューヨークで立ち上げられたサービスだ。日本版では、ネクタイやカフリンクス、ポケットチーフなど、約500種類のメンズファッションアイテムが月々3,800円からレンタルできるようになっている。取り扱いブランドは、テッドベーカーやブリューワーなどのカジュアルブランドから、アルマーニ、ゼニア、エルメス、シャネル、フェラガモ、グッチ、ブルガリ、バーバリーといったラグジュアリーブランドまで実に60種類以上。一度に3点までのレンタルが可能で、プラス500円のデラックスオプションを付ければ4点まで同時にレンタルすることが可能だ。会員プランは月額3,800円(税込)のスタンダード会員と月額5,900円(税込)のプレミアム会員の2種類を用意。主にカジュアルブランドであればスタンダード会員、ラグジュアリーブランドのレンタルを希望する場合はプレミアム会員の登録が必要になる。

レンタルをする際は、Webサイト上に並ぶ商品画像を見ながら気に入ったアイテムを「クローゼットに追加」と登録するだけ。商品にはそれぞれデザインの特徴や価格などが記載されており、説明好きの男心をくすぐる作りとなっている。商品選択後は2日〜5日程度で自宅のポストにレンタルアイテムが届き、返却時は同梱の返却用袋をポストに投函すれば返却が完了する仕組みだ。他のサービス同様返却期限は設けておらず、レンタルしたアイテムが気に入ったら小売価格の20〜60%の値段で購入することも可能となっている。

 

 

各サービスはどのように差別化を図り勝機を見出していくのか

 

米国では「LE TOTE」などのファッションレンタルサービスが人気を集めているが、国内でもここで紹介したようにこの1年以内に非常に多くのサービスの提供が開始されている。まさに開始早々にしてレッドオーシャンと化している市場といえる。ここで紹介した以外にも「Dress Stock」のようにドレスレンタルなど商材をかなり絞ってサービスを提供するプレーヤーも増えてきた。また市場は既に動き始めており、アクセサリーの月額制レンタルサービスの「Lovin’Box(ラビンボックス)」が昨年12月にair Closetを運営するノイエジークに事業譲渡。さらに、メンズ向けのファッションレンタルサービスの「bemool(ビモール)」はこの7月9日にサービスを終了し、買い物代行にシフトすることを発表。一方で、「Licie(リシェ)」はサービス開始に向けて準備を進めるなど、めまぐるしくプレーヤーが入れ替わっている。

レンタルという概念は、商材が消耗しにくいコンテンツ系のCD、DVDや本などには適しているが、消耗や他人が使ったことが気になるファッションはハードルが高い部分もある。しかし各サービスとも、返済期限なしとし、レンタルしている商品の買い取りも可能とするなど、他のレンタルサービスにはない特性を持たせてそのハードルを越えようとしている。

また、Licieではアパレル系のECサイトと提携することで、そのECサイトのテストマーケティングや試着と言った位置付けとしていくなど、新たなビジネスモデルの構築を目指している。さらに、air Closetを運営するノイエジークは寺田倉庫と業務提携を行うことで、商品の保管・配送・クリーニングなどを全て寺田倉庫に委任するなど通常のECサイトにはない幅広い提携を行っている。このように、レンタル商品の絞込み・サービス特性、だけでなく関連事業者との積極的提携による新たなビジネスモデルの構築により、新規ユーザーの獲得や運営コストの圧縮を行い差別化を図ることが大前提となってくるだろう。

ファッションレンタルECがより大きな市場を作っていくためには、大手ソーシャルサービスや、キュレーションサービス、さらには百貨店などの既存の大手プレイヤーと連携しユーザーを取り込むなどの大掛かりな施策が必要となってくるだろう。今後もファッションレンタルEC市場の動きは注目していきたい。