デジタルファーストのブランドは、売上のためだけでなく、没入感のあるブランド体験のために実店舗に投資している。
eコマースは盛り上がりを見せているが、実店舗は依然として重要なブランドのタッチポイントである。NetflixやWayfair(家具や家庭用品の米国ECサイト)のような企業は、実店舗が、単なる取引の場ではなく、ブランドイメージやロイヤリティを形成する影響力のあるブランドアンバサダーであることを証明している。
課題は明らかである。ブランドはどのようにして人々を引き付け、永続的なつながりを構築する対面のような体験を作り出せるのだろうか?その答えは、デジタルショッピングに欠けているもの、つまり、オンラインではできないようなやり方で感情的な関わりを深める、没入感のある顧客中心の体験にある。
究極のブランドアンバサダーとしての小売業
長年、小売業のKPI(重要業績評価指標)は、1平方フィートあたりの売上に重点が置かれてきた。しかし、この考え方には重要なポイントが欠けている。実店舗は単に販売するだけではない。今日のデジタル世界では、ブランディングと顧客エンゲージメントが重要なのだ。
Netflixは、2025年末までに実店舗をオープンする準備を進めている。これは、同社のデジタルファーストのモデルとはかけ離れているように見えるかもしれないが、同社はより多くのサブスクリプションを販売するためだけに店舗をオープンしているわけではない。むしろ、同社は実店舗の空間をインタラクティブなブランド体験に変えようとしているのだ。
『ストレンジャー・シングス(同社が配信する米国のSFホラードラマシリーズ)』の世界に入り込んだり、『ブリジャートン家(同社が配信する米国の歴史ドラマシリーズ)』に関連した没入型体験ができたりする店舗を想像してみてほしい。このような空間は、感情的なつながりを呼び起こし、エンゲージメントを高めるようにデザインされている。それは、人々が店舗を出た後も長く記憶に残るような体験を生み出すことなのだ。
この考え方はNetflixに限ったことではない。Warby Parker(米国のアイウェアブランド)やWayfairのようなeコマースファーストのブランドもまた、実店舗の体験的側面に傾倒している。
デジタルファーストの企業としてスタートしたWarby Parkerは、現在では数十店舗を運営している。同社はeコマースの利便性と店舗での専門知識を融合させており、顧客は実際に店内でフレームを試着しながら、バーチャル試着のようなデジタル機能も楽しむことができる。同社の店舗は単にメガネを買う場所というだけではなく、ブランド体験の延長線上にあり、商品のショールームとして、またWarby Parkerの顧客第一主義を体現する場所である。
またWayfairは、顧客エンゲージメントとブランドプレゼンスを高めるため、実店舗の拡大も進めている。同社は2024年5月、イリノイ州ウィルメットにあるショッピングモール「Edens Plaza」に初の大型店舗をオープンした。2階建て、15万平方フィートのスペースでは、家庭用の家具、インテリア、家庭用品、家電製品、ホームセンター製品などを幅広く取り揃えている。また、店内にはレストラン「The Porch」を併設し、顧客に総合的なショッピング体験を提供している。
売上重視のKPIを超える
小売業がブランドアンバサダーであるならば、企業は成功の測定方法を考えなければならない。店舗は、売上だけでなく、ブランド認知度、ロイヤリティ、アドボカシー(支持)を高めるものでもある。そのため、CMO(最高マーケティング責任者)は実店舗の成功とは何かを再考する必要がある。
売上だけに注目するのではなく、エンゲージメントの指標を検討しよう。何人が来店し、店内体験に参加し、来店をソーシャルメディアでシェアし、初回来店後に再来店したのか。
Appleは、実店舗が製品販売に重点を置きながら、ブランドアンバサダーとしての役割を果たしていることを示す好例である。Apple Storeは、新規ユーザーにとって次のような重要なタッチポイントとなる。
・Appleのエコシステムに参加する
・エキスパートによるサポートを受ける
・ブランドのプレミアムなカスタマーサービスを体験する
Appleは、実店舗での製品体験、Apple Store内に設けられている技術サポートカウンター「Genius Bar」でのパーソナライズされたサービス、コミュニティ構築イベントに重点を置くことで、実店舗を戦略の中核に据え、販売とブランドエンゲージメントをシームレスに融合させている。
一方、Amazonは、実店舗へのアプローチを進化させてきた。「Amazon Go」、「Amazon Fresh」、「Amazon 4-Star」など、複数の実店舗コンセプトを立ち上げる一方で、いくつかの取り組みを縮小し、実店舗が利便性だけにとどまらない、独自の価値を提供する必要があることを示唆した。
しかし、Whole Foodsへの投資とAmazon Freshの継続的な改善は、即時性と直接触れて購入することが必要となる食料品のようなカテゴリーにおいて、同社が実店舗の果たす役割を認識していることを示している。Amazonの取り組みは、実店舗がオンラインショッピング体験を模倣するのではなく、補完することで成功を収めることを強調している。
輸小売業の未来:ブランド体験と顧客とのつながり
現代の実店舗戦略の中心にあるのは、顧客中心主義である。長い間、実店舗は効率性と収益性を重視して設計されてきた。しかし、この分野で成功を収めているブランドは、顧客体験を最重要視している。
米国のファッション小売企業のEverlaneは当初、実店舗をオープンすることに抵抗があり、同社の元CEOは実店舗をオープンする前に会社をたたむと発言したことは有名である。しかし、顧客の要望はそれとは異なり、同社は2017年にニューヨークに第1号店をオープンした。同社が認識したように、顧客は今でも購入前に商品に触れたいと考えている。この変化は、Everlaneの実店舗拡大を後押しし、2023年は過去最高益を記録した年となった。
実店舗は復活しているのではなく、進化しているのだ。成功するブランドは、ブランドアンバサダーや顧客体験の拠点として機能するという、実店舗の真の役割を理解しているブランドである。売上以外のKPIを見直し、顧客中心の小売戦略に注力することで、オンラインチャネルでは実現できない方法で、長期的な関係とロイヤリティを築くことができる。
マーケティングリーダーにとって、これは次なるフロンティアである。つまり、実店舗の目的を再考し、顧客とつながる新たな機会を切り開くチャンスである。重要なのは、店舗をオープンするかどうかではなく、その店舗をいかにしてブランドの真の延長線上に置き、顧客ロイヤリティを高める存在とするかということなのだ。