Vayu Roboticsの配送ロボットは、深層学習モデルをベースにしたモビリティ基盤と強力な受動型センサーにより、LiDAR(レーザー光照射の反射情報をもとに対象物までの距離や対象物の形などを計測する技術)を必要とせず、さまざまな環境下で時速20マイル(約32km/h)以下、最大重量100ポンド(約45kg)までの荷物を自律走行で配送することができる。
サンフランシスコのベイエリアに本社を置き、自動運転用機械学習モデルやセンサーを開発するVayu Roboticsは、2024年7月23日に低コストの路上配送ロボットを発表した。同社は、このロボットによって、オンラインで注文された商品の配送にかかる高額なコストの問題を解決できると考えている。
Vayu Roboticsが手掛けた四輪ロボットは、一般的に路上自動走行する乗り物に使用される高価なLiDAR技術を使用せず、強力な受動型センサーを備えた深層学習モデルのモビリティ基盤を採用している。
LiDARは、レーザー光線を使用して距離を測定し、物体や周辺環境の高解像度画像を作成する遠隔センサー技術である。レーザーパルスを発射し、反射した信号を検出することで、ターゲットの正確な3Dマッピングと分析を可能にする。
「LiDARが使用されるのは、従来のカメラでは光量の不足や過酷な天候などが原因で故障モードになることが分かっているからだ」と、VayuのCEOで共同創業者のAnand Gopalan氏は説明する。「しかし、LiDARを搭載する場合は常に、高性能だが生産が難しく高価格なものになるか、生産は容易でも低性能なものを作るかというどちらかのトレードオフになる」。「ロボットにLiDARを搭載すると、コストが1万ドルから1万5,000ドル高くなる」と同氏。「それは、配送のような用途では法外な費用である」。
有望なイノベーション
Vayuはプレスリリースで「従来の移動ロボットは、一度にひとつのタスクをこなすために構築された高価なLiDARセンサーとソフトウェアモジュールに依存しているため、高価なハードウェアと脆弱なソフトウェアが新しい設定に対応できない原因となっている」と説明している。
Vayuの基盤モデルは、生成AIの中核をなす機械学習テクノロジーであり、強力な受動型センサーと組み合わせることで、LiDARを必要としない。そのため、Vayuの配送ロボットは、走行予定の道路を事前にマッピングすることなく自律的に動くのだ。店内や市街地を通り抜け、時速20マイル(約32km/h)以下で最大重量100ポンド(約45kg)までの荷物を運び、車寄せや玄関先に荷物を下ろすことができる。
同社によると、この配送ロボットはすでに実社会で活躍しているという。さらに、同社は最近、ある大手eコマース企業(企業名は明らかにされていない)と、超高速での商品配送を可能にする2,500台のロボットを導入するための大規模な商業契約を結んでおり、同様のオファーが他社からもあるという。
同チームはまた、他のロボット用途向けにLiDARセンサーをVayuのセンサーテクノロジーに置き換えるべく、世界的大手ロボットメーカーと協力している、と付け加えた。
「全体的にいえば、Vayuは自律型配送の分野で前途有望なイノベーションを提供し、AIと費用対効果の高いセンサーテクノロジーを活用し、従来のLiDARベースのシステムに代わる競争力のある代替手段を提供している」と、ラスベガスに本社を置き、テクノロジー市場に関するリサーチを行うSmartTech Researchの社長兼主席アナリストであるMark N. Vena氏は語った。「しかし広く採用され、成功するには、いくつかの課題とリスクを乗り越えなければならない」と同氏は続けている。
ロボット導入が加速する可能性
オレゴン州ベンドにあるアドバイザリー企業、Enderle Groupの社長兼主席アナリストであるRob Enderle氏は、Vayuのテクノロジーが大規模に稼働するようになれば、この種のロボットのコストが大幅に削減され、この分野への普及が加速するだろうと付け加えた。
同氏は、「LiDARは有効だが高価なセンサーで、適切な範囲をカバーするためには、すべての車両に複数搭載する必要がある」と語った。「ナビゲーションシステムは配送ロボットの中では最も高価なシステムだが、Vayuのテクノロジーにより、そのコストが大幅に削減できるだろう」。
LiDARセンサーはカメラやレーダーを使用するより高価だが、能動的センサーは車両周囲の物体の位置を正確に測定できるという安全上の大きな利点もある、と語るのは、デトロイトにある市場情報およびアドバイザリー企業Guidehouse Insightsのeモビリティ担当主席アナリスト、Sam Abuelsamid氏だ。
「カメラのみを使用することも可能だが、正確な距離を測定するには立体的に組み合わせて構成する必要がある」と同氏は語った。「それぞれのカメラが異なる方向を向いていて、AI推論に依存している場合、その精度は決して高くない。たとえば、バスのサイドボディに貼られている写真を歩行者と誤認する傾向がより高くなる」。「レーダーまたはカメラと組み合わせたLiDARは、安全性の観点から優れたソリューションである」と同氏は力説。LiDARのコストは劇的に下がっているとも付け加えた。500ドル以下のLiDARはHesaiやRoboSense(いずれも中国のLiDARメーカー)から容易に入手でき、Luminar(米国のLiDARメーカー)は1,000ドル前後で提供している。
規制と運用上の課題
Vayuのロボットによる企業のコスト削減は、部品コストの削減にとどまらない。「受動的センサーは、一般的にメンテナンスが少なく耐久性が高いため、運用コストの削減と信頼性の向上に貢献する」とVena氏は語った。
だが、受動的センサーにも欠点はある。「これらのセンサーは、一般的にLiDARシステムより精度や詳細度が低く、特定の条件下でVayuのナビゲーションや障害物検知能力に影響を与える可能性がある」とVena氏は指摘する。「照明、天候、動的な障害物などの環境要因は、ロボットのパフォーマンスを低下させ、安全上の懸念を引き起こす可能性がある」と同氏は説明した。
「そのうえ、LiDARの不足を補うための堅牢なAIアルゴリズムの開発は技術的に困難で、リソースを大量に必要とするため、信頼性の高い運用を保証するための研究開発に多大な投資が必要になる」。
また、配送ロボットが一般的に直面する規制や運用上の課題もある。「多くの都市では、このような自律型ロボットを運用するための規制があり、歩道や自転車専用レーンの通行が認められない場合もある。また、時速20マイルでの走行が許可されない道路もある」とAbuelsamid氏は説明。「配送品を受け取る人がいなければならないのも問題だ」と付け加える。「ロボットタクシーの場合、乗客は自分で降車するので、その後出発できる。しかし、荷物の場合、目的地でモビリティから降ろす人が必要だ。自律型ロボットが配達に行っても受け取る人がいなかった場合、そこで待機するか、配達をせずに戻ってこなければならない」。
チャンスはある
Vayuの自律型配送ロボットが直面する課題はあるものの、多くのチャンスを切り開くことができると、Vena氏は主張する。
「そのコストの優位性により、以前はロボット配送ソリューションが高額すぎて手を出せなかった中小企業なども、新たな市場に参入することができる」と同氏は語った。「また、Vayuの機能を強化し、アプリを拡張するために、他のテクノロジー企業との提携や協力の機会もある」と続けた。Vayuはプレスリリース内で、同社の技術は形態に依存しないため、さまざまな車輪型、四足型、二足型のロボットに使用できる、と説明している。
「短深度から中深度のセンサーにLiDARを使用している場所ならどこでも、我々のテクノロジーがその深度センサーに取って代わることができ、場合によっては標準的なカメラのコストでより安定した出力を提供することもできる」とGopalan氏は断言する。
Vena氏は、規制環境の見直し、市場での採用、高度なセンサー技術を持つ企業との競争など、チャンスとともにリスクもあることを警告している。「Vayuが成功するためには、技術的な進歩を先取りし、サイバー脅威に関連する潜在的なセキュリティリスクに対処しなければならない」と語った。
注:本記事で紹介したVayuの画像と動画は、Vayu Roboticsの提供によるものである。
※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の7/24公開の記事を翻訳・補足したものです。