消費者はソーシャルメディアに無関心なのか、それとも積極的に利用しようとしているのか。2024年、マーケターが力を入れるべきポイントを紹介する。

マーケターは、広告やオーガニックなソーシャルキャンペーンを通じてソーシャルメディア上でオーディエンスとかかわり続けるだろう。近年、ソーシャルメディアは、TikTokに触発されたユーザー生成コンテンツがさらに増え、多様化し続けている。そして、お金に余裕のある消費者には、ソーシャルコマースを通じて買い物をするという新しい方法が登場している。

 

2024年、これらのチャンスはどのように広がっていくのだろうか。マーケターがソーシャルメディアを活用する方法をいくつか紹介しよう。

 

消費者がログオフしても、広告主は予算の投入とシフトを続ける

自分の目で見れば信じるだろう。消費者がソーシャルメディアから離れつつあるのは明らかだが、それは目新しいことではない。とはいえ、X(旧Twitter)では、2023年に大手テックブランドやエンターテインメントブランドの撤退が相次いだ。悪質な陰謀論に関わることは、良いビジネスではない。米大統領選挙イヤーに罵詈雑言が飛び交えば、ユーザーはオプトアウトしていくだろうか?

 

「ソーシャルメディアユーザーたちが直ちに大量離脱するとは予想していないが、エンゲージメントが最小化する可能性がある」と語るのは、アメリカに本社を置くリサーチ・アドバイザリー企業GartnerのアナリストであるDan Gutter氏だ。「消費者がすぐにソーシャルメディアをまったく利用しなくなる可能性は低いだろう」。

 

Gartnerは最近、2025年までに消費者の50%がソーシャルメディアでのやりとりから「離れる、または大幅に制限する」と予測した。2023年夏にGartnerが調査したところ、消費者の53%が、前年または5年前と比較してソーシャルメディアは悪化したと回答している。

 

「とはいえ、マーケターが2024年中にエンゲージメントの低下に気づいた場合、SEO投資だけでなく、デジタル動画やストリーミングなどその他のデジタルチャネルが、そのチャネルスペースでの代替手段となるだろう」とGutter氏は述べた。

 

YouTubeは避難者の受け入れ先になるかもしれない

Gartnerが予測するように、消費者の無関心がソーシャルメディア全体に根付くとすれば、YouTubeは標準よりも息が長いものになるかもしれない。

 

「YouTubeは、消費者が潜在的に受け入れやすいソーシャルプラットフォームの一例である」とGutter氏は言う。「ソーシャルメディア利用者の約3分の1(31%)は、特にYouTubeの広告に寛容であるとのことだ。ソーシャルメディアの利用者がソーシャルチャネル上で最も多く使用するブランドコンテンツの種類には、娯楽コンテンツ(47%)と教育的なコンテンツ(42%)が含まれる。これらは、どちらもYouTubeが得意とするコンテンツである」。

 

同氏はさらに、「ソーシャルマーケターにとって、広告疲れは依然として根強い問題である。Gartnerの消費者調査データによって、総広告忌避率(データ追跡を許可するよう求められた場合、消費者がアプリやWebサイトから完全に離れてしまうこと)は2021年から2023年の間に20%から33%に上昇したことが分かった」と付け加えた。

 

ソーシャルメディアはブランドと消費者の交流を促す

潜在的な広告疲れやブランドの安全性の問題にかかわらず、ソーシャルメディアは多くのブランドにとってデジタルメディア投資の最重要課題であり続けるだろう。

 

「プラットフォームのフラグメンテーション(断片化)や、生成AIのような新たに出現したテクノロジー、消費者の行動や嗜好の進化が、デジタル(メディア)の中に大きな変化を起こしており、ソーシャルはブランドと消費者の交流の連結点となっている」と、米国のデジタルエージェンシーRazorfishの消費者およびコンテンツエクスペリエンス担当EVP(エグゼクティブバイスプレジデント)であるCristina Lawrence氏は語る。「これは、ブランドや企業の顧客へのアプローチ方法が、消費者の嗜好、行動、関心、エンゲージメントに関する膨大なデータと引き換えに、エンゲージメント、関連性、価値の瞬間を提供することを重視するように変化している。現代のマーケターにとって、2024年のこの変化を認識し、活用することが最も重要である」。

 

TikTokの短いオーガニックコンテンツは、ソーシャルメディアエンゲージメントにパラダイムシフト(認識や価値観の転換)をもたらし、既存ブランドにも新規参入ブランドにも同様に新たな機会を提供している。

 

「ブランドは、全体的な戦略の中にソーシャルを統合することで、多様なプラットフォーム独自の強みとオーディエンスを活かすことができる。幅広い消費者の共感を呼ぶ、印象的なコンテンツ作成や体験を通じて、結束力のある効果的なマーケティングプレゼンスを示すことができるだろう」と、Lawrence氏は語った。

Instagramのリール投稿やTikTokの長尺動画フォーマットは、より深い物語を伝えることができる、とLawrence氏は加えている。

 

コミュニティは小さくなり、オーディエンスにより焦点が絞られる

「インターネットは圧倒的な規模とノイズがあるため、人々はより管理しやすいコミュニティ空間を築き上げてきた」と、米国のカリフォルニアに拠点を置くコンサルティング企業Big Valley MarketingのソーシャルメディアマネージャーであるArianna Crawford氏は語る。

 

Mastodon(ミニブログサービス)やBluesky(Twitterから独立したマイクロブログサービス)のような『フェディバース(複数の独立したソーシャルメディアが相互に接続、連携しているネットワーク)プラットフォーム』の台頭や、多くのInstagramユーザーが、フィード画面よりストーリーズ機能を見る時間の方が長いことからも、このことがわかる」と、Crawford氏。「このような小さなスペースができるにつれて、1つの投稿を複数のプラットフォームで多くに広めるというブランド戦略は、時代遅れになるかもしれない」。

 

Crawford氏は、2024年以降にマーケターがソーシャル上で実行するべき次の3つの重要な改善点について言及した。

 

1.オーディエンスのセグメントをよりよく理解し、優先順位をつける

2.オーディエンスがどこでどのようなコンテンツを求めているのかを、より的確に把握する

3.ソーシャルプラットフォームでのオーディエンス増加を専門とするスタッフを増員する

 

ソーシャルVRはコアオーディエンスを確立する

VR(仮想現実)とAR(拡張現実)ハードウェアの売上は、2023年に40%減少した。しかし、Appleは2024年に、待望のVision Proヘッドセットを発売する予定だ。

 

「主要なプレーヤーは、自社のハードウェアでオーディエンスを引き付け、エンゲージメントを図ることに大きな関心を持っており、ブランドにとっては、アーリーアダプター(早期導入者)としてプラットフォームと提携して実験を行う機会があるかもしれない」とLawrence氏は言う。

 

「すでに比較的ニッチな分野のオーディエンス向けに、(バーチャルプラットフォームの)VRChatのような体験に積極的に参加する人が選ばれている」と同氏は説明する。「2024年には、コミュニティの交流は、ブランドが行うことができるような小規模な調査実験として継続されるだろう。ブランドによってソーシャルVRに大規模な投資が行われるためには、大幅な導入が必要になるだろう」。

 

Lawrence氏はさらに、「広い視野で見れば、米国に本社を置くRobloxのような主要なゲーミングプラットフォームを含むが、それをはるかに超えて拡張できるゲーム体験は、ブランドの統合とつながりのあるゲーマーオーディエンスと関わる機会を多く提供してくれる」と付け加えた。

 

ソーシャルコマースの広告は、多くの消費者にとって依然としてショッパブルにはならない

TikTokは、2023年に直接商品を購入できるTikTok Shop機能をリリースし、Instagramやソーシャルコマースを提供する他のソーシャルメディアプラットフォームに追随した。確かに、ソーシャルコマースはデジタルユーザーに新たなショッピングオプションを提供する。しかし同時に、eコマース大手のAmazonは広告ネットワークを拡大している。そして、ブランドはソーシャル上にショッパブル広告を追加し、マルチチャネルでの販売戦略を取り入れている。これが、2024年にショッパブル広告が危機を脱することができない理由である。

 

米国のマルチチャネルマーケティングテクノロジー企業Acxiom のCEO兼社長のChad Engelgau氏は、「ショッパブル広告は、多くの消費者にとってまだ比較的新しいものだ」と言う。「我々が最近発表した『Where Marketing and AI Collide(マーケティングとAIの軋轢)』では、消費者の62%がショッパブル広告を知っているが、17%しかショッパブルソーシャルメディアで購入したことがないことが分かった。利用時に理想的ではない顧客体験をすると、消費者は従来の検索エンジンや小売メディアネットワークなど、より信頼できる方法の利用に戻るかもしれない」。

 

同氏はさらに、「ディスプレイ、動画、メールなど、さまざまなコンテンツ形態からの直接購入も含め、デジタルコマースの領域は拡大を続けている。このパラダイムシフトは、購入と広告を可能な限りあらゆる場所で統合する、いわゆるAmazonモデルと比較できる。Amazonは2023年に米国のデジタル広告費全体の12.4%を獲得すると見られ、動画、スポーツ中継、オーディオ、食料品などの広告を提供することで広告を伸ばしている」と付け加えた。

 

Gutter氏によると、ソーシャルコマースの消費者導入率は過去2年間横ばいで、2021年から減少しているという。Gartnerの消費者調査データでは、2023年のソーシャルユーザーの導入率は8%、2022年は7%で、2021年の14%からいずれも減少していることが分かった。

Gutter氏は、「今のところ、消費者の関心は必ずしも高まっているわけではないともいえるだろう」と語った。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の1/3公開の記事を翻訳・補足したものです。