勃興と淘汰を繰り返す、EC業界のM&Aの流れと、その背景にあるもの

 

EC業界も徐々に成熟期に入ってきており、5~10年前とは明らかに市場のトレンドは変わりつつある。コロナ禍を境に消費者も事業者も新たなECとの向き合い方を形作るステージに入ったEC業界ではあるが、依然として市場規模は年々伸び続けている。今回は、ここ数年の国内外のEC業界のM&A(合併・買収)の流れと、その背景を探求し、今後の市場展望読み解いていきたい。

 

<参考>

過渡期を迎えたEC業界に押し寄せる大型合併の流れと今後の市場展望

うねり続ける海外の資金調達・買収 - 目立つ国境も業種も跨いだ思惑

年末年始も動き続けたEC業界再編 - 買収・資金調達から占う2016年の展望

 

 

それでは、2022年2月からのEC業界におけるM&A(合併・買収)の動きを時系列に確認していく。

 

DCMホールディングスがエクスプライスを子会社化

 

2022年2月20日、ホームセンター事業などを手掛けるDCMホールディングスは家電を中心としたEC通販サイトの運営などを行うエクスプライスの全株式を取得し、子会社化することを発表した。

エクスプライス株式会社は、日本最大級の専門店EC事業を展開しており、家電を中心に幅広う商品を提供している。自社サイトだけでなく、楽天市場、PayPayモール、Amazonなどの外部モールにも出店し数多くの賞を受賞している。また、DCMホールディングスは、これらのEC運営のノウハウはグループの新しい事業領域の基盤として活用できるとしている。EC分野で強みを有しているエクスプライスとリアル店舗で強みを有しているDCMが連携することにより、EC事業においてリアル店舗を有効活用し、相互に顧客を引き寄せることが期待される。物流面においても双方のネットワークを統合・最適化をすることで物流スピードが向上し、コストも効果的に削除することができる見込みである。

 

<参考>

エクスプライス株式会社と資本業務提携し、同社がDCMグループに参画

 

 

米AmazonがiRobotを買収⇒断念

 

2022年5月22日、米Amazonはロボット掃除機「ルンバ」など家庭用ロボットの開発をしているiRobotの買収を発表したものの、2024年1月29日にEU規制当局の承認が得られなかったため断念した。

AmazonによるiRobotの買収は、データ結合、スマートホーム市場の拡大、物流革新、新製品開発、市場支配力強化という多角的なシナジーをもたらす。この買収により、iRobotの先進的なロボティクス技術と家庭内データが強力なAmazonの機械学習能力が組み合わされ、消費者に対してよりパーソナライズ化されたショッピング体験と効率的なサービスが提供されることが期待された。また、AmazonはiRobotの技術を活用し、既存のスマートホーム製品のラインナップを拡大し、スマート市場における自社の地位を更に固めることが目的であった。物流と配送の面では、iRobotのロボティクス技術がAmazonの物流センターの効率性と配送スピードの向上に寄与し、全体的なオペレーションの最適化を実現するとしていた。更に、両社の技術とリソースを組み合わせることで、家庭用ロボットや新しいスマートホームデバイスなど、新しい製品やサービスの開発が加速されると予想された。

このように事業戦略的にはかなりのシナジー効果が期待出来たものの、これによりロボット掃除機市場の適正な競争が妨げられることなどが指摘され、EU規制当局の承認が得られず断念することとなった。

 

<参考>

Amazon and iRobot Sign an Agreement for Amazon to Acquire iRobot

 

 

Eストアーが志風音を子会社化

 

2022年7月25日よりEストアーはファッション・スキー/スノーボード・スポーツ・ランドセル事業を行う志風音の株式を取得し、子会社することを発表した。

Eストアーは、主にSaaS型ECシステム「ショップサーブ」を提供する会社で、顧客店舗の売上向上に向けたマーケティングサービスをワンストップで提供している。一方、志風音はアパレルを中心とした商品企画・製造・販売などを行っており、特にファッション、スポーツ、ランドセルなどのカテゴリーに強みを持っている。この子会社化により、Eストアーは自社のEC支援ノウハウとデータ分析技術、マーケティング知識を志風音のサプライチェーンと組み合わせることで、海外EC向けの新しいプラットフォームを開発し、DXを進めることを目指している。また、Eストアーは中期経営計画の一環としてEC関連ビジネスの成長を促進する「ハンズオンDX事業」を展開しており、志風音の買収はこの事業戦略の一環であると言えるだろう。

 

<参考>

株式会社志風音の株式取得(子会社化)に向けた基本同意書締結に関するお知らせ

 

 

ギフティがpaintoryを子会社化

 

2022年9月14日、eギフト事業を展開するギフティがカスタマイズウェアサービスを提供しているpaintoryの全株式を取得し、子会社化することを発表した。

ギフティはカジュアルギフトサービス「giftee」、eギフトやチケットを発行し販売する「eGift System」などを個人、法人、自治体を対象に広くeギフトサービスを提供している。また、paintory社は、日本の「ものづくり」の仕組みをITの力でより良いかたちへと変革し、次の世代へバトンをつなぐことを目指し、「当たり前をつなぐ、当たり前をつくる」ことをミッションに、誰もが簡単にオリジナルデザインのアパレルを制作・販売できるウェブサービスを展開している。

この株式の取得により、新たな市場への進出とサービス範囲の拡大が期待される。また、両社のサービスを組み合わせることで、特に法人向けギフト市場において新しい商品やサービスの開発が可能になり、業務効率化や売り上げ拡大の貢献が見込まれる。

 

<参考>

株式会社paintoryの株式の取得(完全子会社化)に関するお知らせ

 

 

キングジムがエイチアイエムを子会社化

 

2022年9月22日、文具事務用品及びインテリアライフスタイル雑貨事業を展開するキングジムが生活雑貨を販売しているエイチアイエムを買収した。

キングジムは文具事務用品やインテリアライフスタイル雑貨の製造・販売を行っており、エイチアイエムはキッチン用品や生活雑貨など日常生活を便利にする商品を企画し、インターネットで販売している。子会社することで、キングジム社は自社の事業領域を拡大し、ECF事業を強化することが目的である。この子会社化により、キングジムはエイチアイエムの持つEC事業の知見と製品ラインナップを取り入れ事ができ、自社製品との相乗効果を狙っている。

また、エイチアイエムの持つ商品とキングジムの商品を組み合わせることで、売上の拡大も期待されている。これにより、キングジムは事業の多角化を図り、市場での競争力を高めることができると。

 

<参考>

株式会社エイチアイエムの株式取得(子会社化)に関するお知らせ

 

 

GMOペパボがONEの「Super NFT Products」事業を譲受

 

2022年10月5日、GMOペパボONEのNFTオリジナルグッズ購入サービス「Super NFT Products」事業を譲り受けた。

GMOペパボがONE株式会社の「Super NFT Products」事業を譲受した理由として、Web3関連技術への取り組みを加速するという目的がある。GMOペパボはインターネット上でのクリエイターの表現活動を支援するサービスを提供しており、この取引によりクリエイター・エコノミーの拡大に寄与することを目指してる。特に、GMOペパボのサービス「SUZURI byGMOペパボ」では、クリエイターがオリジナルグッズを作成・販売できる機能を提供している。「Super NFT Products」は、NFTを単なるデジタルアセットとして保有するだけでなく、それをリアルな生活の中で楽しむためのサービスであり、国内外のクリエイターに利用されている。この事業譲受により、GMOペパボはNFTコンテンツクリエイターへのさらなる支援を行い、Web3技術を活用した新たなサービス開発に注力する予定だ。

 

<参考>

GMOペパボ、ONEのNFTオリジナルグッズ購入サービス事業を譲受

 

 

小学館がTokyo Otaku Modeを子会社化

 

2022年11月21日、小学館は日本のアニメ・漫画・ゲームなどのオタク文化を海外に発信することが目的である会社のTokyo Otaku Modeの全株式を取得し、子会社化することを発表した。

小学館がTokyo Otaku Mode(TOM)を子会社化した理由は、自社のコンテンツの海外展開をさらに強化するためである。TOMは、日本のアニメ、マンガ、ゲームなどのオタク文化を全世界に紹介し、アニメグッズなどの越境EC事業を展開している。この会社の特徴は、日本のポップカルチャーを海外に向けて効果的に発信できる強力なネットワークと通販事業のノウハウを持っている点だ。特に、Facebookページを通じて日本のアニメや漫画の最新情報を英語で配信し、全世界に約2000万人のフォロワーを抱えている。

小学館は、雑誌、書籍、コミックの出版など幅広い事業を展開しており、2022年には創立100周年を迎えた。この子会社化を通じて、小学館は自社の知的財産を活用し、海外事業のさらなる発展を目指している。小学館とTOMは、両社の協力関係を深め、全世界のファンに日本のコンテンツやサービスを届けるための事業を推進するという方針である。

この動きは、日本のアニメ、漫画の人気が全世界に広がる中で、外貨獲得の可能性を秘めた成長産業としてのコンテンツ産業の重要性を反映していると言えるだろう。

 

<参考>

小学館は株式会社Tokyo Otaku Modeの 発行済全株式を取得いたしました

 

 

ZHD、LINE、ヤフーが合併

 

2023年2月2日、Zホールディングスが完全子会社であるLINE及びヤフーの合併を発表した。

ZホールディングスがLINEとヤフーの合併を決定した主な理由は、経営統合によるシナジーの拡大と、よりプロダクトファーストの組織体制を実現するためである。この合併により、迅速な意思決定と各サービスの連携強化、統廃合を推進することでグループの全サービスの付加価値を向上させることを目指している。

特に、AIの研究開発において、両社で重複していた機能を統合し、人員を集中させることで新しいサービス開発の効率を向上させることが期待されている。これは、合併によって出せるシナジーを最大化し、効果を2倍、3倍に増すことを目的としている​​。

また、広告事業やeコマース、フィンテック、社会領域など、様々な事業分野でのシナジーが期待されている。たとえば、広告では、「Yahoo! JAPAN」、「LINE」、「PayPay」といったプラットフォームが連携し、効率的なマーケティングソリューションを提供する予定である。フィンテック領域では、「買う」、「予約する」、「支払う」といったユーザーのアクションに合わせた最適な金融商品の提案を拡充する予定だ。

 

<参考>

当社ならびに完全子会社であるLINE(株)およびヤフー(株)を中心とした合併方針決定のお知らせ

 

 

アスクルがAP67を子会社化

 

2023年2月8日、オフィス向け事務用品を主に扱うネットショッピングサイトを運営するアスクルが歯科業界向け通販サービスである「FEED デンタル」を運営するAP67の発行株式の85%を取得し、子会社することを発表した。

AP67は、歯科用品通販サービス「FEED デンタル」を運営するフィードなどを傘下に持っており、特に歯科業界向けの製品を扱っている。この子会社化により、アスクルは医療・介護分野への事業展開を強化し、中期経営計画における「オフィス通販からのトランスフォーメーション」戦略を実現していく予定だ。

アスクルは、これまでのオフィス通販に加えて、医療・介護、製造業といった分野での顧客ニーズに応えることを目指している。AP67の歯科医院向けサービス「FEED デンタル」は、海外商品を含む幅広い品ぞろえを持つことで知られ、アスクルの顧客基盤との相互活用を通じて販路を拡大し、グループ全体のシナジーを最大化することを狙っている。

 

<参考>

株式会社AP67の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

 

 

楽天が楽天西友ネットスーパーを子会社化

 

2023年12月20日、楽天が大手スーパーマーケットチェーンである西友ネットスーパーの子会社化を発表した。

楽天が楽天西友ネットスーパーを子会社化した主な理由は、倉庫型ネットスーパー事業への集中と、ビジネス運営の迅速化及び柔軟性の向上を図るためである。この子会社化によって、楽天は意思決定の迅速さを高め、最適なタイミングで様々な選択肢を検討・実施することで、早期の収益改善を目指す。

楽天は、1億を超える楽天IDと楽天ポイントプログラムを軸とした強固な会員基盤である「楽天エコシステム」を更に活用し、EC事業や他のサービスで培ったテクノロジーやアセットを倉庫型ネットスーパー事業において最大限生かす方針だ。また、「楽天全国スーパー」というネットスーパーのプラットフォームを通じて、全国の小売事業者のDXをさらに支援することも目指している。

楽天は、事業の拡大と共に、「楽天エコシステム」のさらなる活用や新規顧客の獲得、購買回数及び購買金額の向上、品ぞろえの見直しや強化による粗利率の向上、物流網の再構築を通じた配送効率の向上などに取り組む予定だ。これにより、楽天は国内ネットスーパー市場におけるリーディングカンパニーを目指す予定である。

西友に関しては、実店舗を起点とする店舗出荷型ネットスーパー事業に注力し、「西友が身近にあるしあわせ」のビジョンを実現するために、実店舗とオンラインの両面で最高のOMO(オンライン・マージ・オフライン)サービスを提供することを目指していく予定だ。

 

<参考>

楽天による楽天西友ネットスーパー株式会社の完全子会社化合意に関するお知らせ

 

 

M&Aの流れと今後の市場展望

 

勃興と淘汰を繰り返すEC業界において、長年このような合併・買収・子会社化は行われてきている。ここ数年の流れを見てみると、1.新しい顧客層へのアクセス、2.イノベーションによる競争力の強化、3.シナジー効果による効率化とコスト削減、の3つにまとめることができる。1では、海外市場への進出や、リアルの強みを持つ企業とオンラインでの強みを持つ企業の統合による効果創出を狙ったものが目立った。2は、ここ数年の大きな特徴であり、AIやNFTやビッグデータなどのイノベーションを獲得し事業成長を狙ったもので、このような狙いのM&Aが非常に増えてきた。3は、主に巨大企業が更なる成長のために取る戦略が多かった。

合併・買収の成否はまだ分からないものの、各ケースを見ても、その狙いは非常に明確になっており、今後もこのようなトレンドはEC業界では継続的に続いていくのではないだろうか。