うねり続ける海外の資金調達・買収 - 目立つ国境も業種も跨いだ思惑

 

EC業界は既にある程度の市場が形成されてきており、大きな市場変動を起こし影響力を一気に拡大するには資金調達や買収は欠かせなくなってきている。ここ半年程度に絞ってみても海外のEC業界では大きな資金調達や買収の動きが目立っている。今回は海外のEC業界での資金調達・買収の事例から見える思惑を考えていく。

 

<参考>

年末年始も動き続けたEC業界再編 - 買収・資金調達から占う2016年の展望

動き出したEC業界再編の流れ - 大規模買収・提携でEC業界地図はどのように塗り替わるのか

アメリカの最先端スタートアップに見る、日本の今後3年のEコマース関連サービスのゆくえ

アメリカの最先端スタートアップに見る、日本の今後3年のEコマース市場のゆくえ

 

 

クラウドPOS「Lightspeed」が累計1.2億ドルを調達 2015年9月

 

Lightspeedはレストランなどの小売店にクラウドPOSを提供するカナダの会社だ。2015年9月に6,100万ドルを調達し、2005年の創業以来総額1億2,600万ドルを調達したことを発表した。

Lightspeedが提供するクラウドPOSは、店舗で会計をする際に必要な会計作業だけでなく「どの商品がいつ誰にどれだけ売れたのか」という販売記録や分析機能も兼ね備えている。クラウドPOSの浸透により、最近ではハードウェアの選択肢も広がっている。主にコンビニやスーパーマーケットで使用されている固定型のPOS専用機に対し、クラウドPOSはiPadやパソコンなどの希望する対応デバイスにインストールするだけで簡単にスタートできる。1.店舗形態に合わせて柔軟なカスタマイズが可能 2.安価なタブレットで始められるので初期費用を安くおさえることができる 3.見た目がスタイリッシュというメリットが特徴となっている。Lightspeedは既に100カ国36,000店舗以上で導入されており、全導入店舗での取引総額は年間120億ドルとなっている。

またLightSpeedは今年3月から新しくLightspeed eComというショッピングカートの提供を開始したことを発表した。Lightspeed eComではテンプレートの豊富なカスタマイズや製品管理機能が用意されているだけでなく、作成した販売サイトと同社が提供するクラウドPOSとの連動が可能だ。したがって、Lightspeed eComのオンライン店舗とオフライン店舗(実店舗)を抱えるショップオーナーは、LightspeedのクラウドPOSを使って業務管理を一括で管理し、顧客により柔軟なショッピング方法を提供することができる。

 

 

ファッションECサイト「MATERIAL WRLD」が10億円を調達 2016年3月30日

 

ファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社スタートトゥデイニッセイ・キャピタル株式会社は、ニューヨーク発の二次流通ファッション EC サイトとプリペイドカード事業を運営するMaterial Wrldに対して 2016年3月30日付で出資したことを発表した。

Material Wrldは、アメリカの著名百貨店・ブランドと提携し、主に女性消費者に対してハイブランドのアパレル・バッグ・靴の下取り事業やEC 事業を展開している。通常のファッションアイテムの下取りと違う点は、買取金額が現金ではなくMaterial Wrldが発行するプリペイドカードに入金され、指定の店舗でプリペイドカード内の入金額を購入にあてることができる点だ。今回の資金調達を受けてMaterial Wrld社は今回調達した資金を、設備投資、運転資金、マーケティ ングおよび組織体制の強化のために活用していく。

 

 

Amazonが人工知能スタートアップOrbeus を買収 2016年4月6日

 

Amazonは人工知能のスタートアップであるOrbeusを買収した。

買収額は不明。Amazonは自社の倉庫業務を自動化して配送サービスを向上させ、新サービスを開始するためにAI分野に対して重点的に投資しているようだ。

 

 

アリババがLazadaに1,000億円超を出資 2016年4月12日

 

アリババグループはドイツのRocket Intrnetが運営する東南アジア最大級のECサイトLazadaに対し約10億ドル(約1,070億円)を出資することを発表した。

5億ドルでLazadaの新株を、残り5億ドルで既存の株主から保有株を買い取るという内訳だ。Lazadaの運営会社Rocket Internetは今回の買収により「アリババの傘下に入ることで、5億6,000万人の消費者に対して豊富でユニークな品揃えを提供することが可能になる」との見解を示している。

 

<参考>

激動する東南アジアのスタートアップECサービス - メガマネーでグローバルEC企業との争いを制することが出来るのか

 

 

Shopifyがバーチャルアシスタント「Kit」を買収 2016年4月13日

 

150国以上にわたりショッピングカートサービスを展開するShopifyは、バーチャル・アシスタントKitを買収することを発表した。

買収額は不明。KitはMessengerやSMSなどのチャット上での対話を通して中小企業のマーケティング作業を代行するバーチャルアシスタントだ。ショップオーナーがチャット上でKitが提示する選択肢に”Yes”と答えるだけで、KitがFacebookやInstagramでの宣伝更新、顧客へのDM送信やマーケティングなどを自動的に代行するシステムとなっている。今回の買収によりShopifyは会話型コマースの構築を目指しており、「メッセージ発信アプリはモバイルのインターネット上での突破口であり、会話型コマースの導入はShopifyの大きな可能性となることを確信している。」と述べている。

 

<参考>

ECモール・カート・アプリの2015年流通総額まとめ - 国内12・海外7の各主力プレイヤーの値から見る市場トレンド

 

 

eBayがTicketbisを買収 2016年5月24日

 

eBayはスペインのチケット売買サイトであるTicketbisを買収したことを発表した。

買収額は不明。今回の買収によりTicketbisはeBayのグループ企業であるアメリカ最大のチケット売買サイトStubHubの傘下に入ることになる。今回の買収によりStubHubはTicketbisの既得市場(ラテンアメリカ・ヨーロッパ・アジア環太平洋)である47の市場を新たに獲得、取引量とグローバル展開において世界最大となる。

 

 

Salesforceがデマンドウェア株式会社を約3,000億円で買収 2016年6月1日

 

世界15万社以上にCRM(顧客管理サービス)を提供するSalesforceデマンドウェア株式会社を約28億ドル(約3,000億円)で買収したことを発表した。

デマンドウェア株式会社はロレアルやマークス&スペンサーなどの大手小売業を中心に世界で250社以上、1,000以上のサイトで法人向けのデジタルコマースソリューションを提供している。Salesforceは柔軟なシステム構築が可能なクラウド型のプラットフォームを得意とするデマンドウェアを買収することによって、ECや店頭など様々なチャネルで顧客企業から消費者へのパーソナルな対応の実現を目指す。

 

 

目立つ国境も業種も跨いだ思惑

 

ここ半年程度の動きを見てみると、もはやECサイト単独で戦略を考えることが出来なくなっていることが如実に現れている。店頭連携や人工知能、チケット販売など業務や業種を跨いだ資金調達・買収の動きや、異なる地域への投資が非常に目立つ。また世界的な覇権を強めたい、Amazon、アリババ、Shopify、Salesforceなどのビッグプレーヤーが買収の流れを強めており、業態の拡大を続けている状況だ。

今までインターネット上での一次元的な購買手段でしかなかったECが、より包括的で立体的な商取引空間へ進化していることは確かだ。国境を越えたグローバル市場の台頭や販売チャネル(オフライン・オンライン)の多元化、異業種間提携などあらゆる分野で吸収・統合が進むECが今後どのように成長していくのか。今後も進んでいく国境や業種を超えた統合の動きに注目したい。