過渡期を迎えたEC業界に押し寄せる大型合併の流れと今後の市場展望

 

今やEC業界はさまざまなサービスにあふれ、多くのユーザーが日常的に利用するようになっている。市場規模は依然として右肩上がりとなっているものの、それほど大きな成長をすることが難しくなってきている。業界のリーディングカンパニーは固定化され、市場を覆すようなテクノロジーも事業領域もそれほど見当たらなくなってきているのも事実だ。そんな過渡期になりつつあるEC業界の状況を打破するため、大型の合併や買収の動きが見られるようになってきた。今回はこの半年間程度で起こった、国内のEC業界の大型合併・買収の動きと狙いについて見ていく。

 

<参考>

年末年始も動き続けたEC業界再編 - 買収・資金調達から占う2016年の展望

うねり続ける海外の資金調達・買収 - 目立つ国境も業種も跨いだ思惑

 

 

オイシックスと大地を守る会が経営統合

 

2016年12月22日、オイシックス大地を守る会が2017年の秋を目処に経営統合することを発表した。

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現在、日本の自然食品宅配業界で一番人気を誇るのは「らでぃっしゅぼーや」であり、それを追いかけるのが「オイシックス」と「大地を守る会」である。2016年3月期の決算報告によるとらでぃっしゅぼーやは223億円の売上を計上し、オイシックスは201億円、大地を守る会は136億円の売上だ。今回、オイシックスと大地を守る会が合併することで、337億円の売上となり、ライバルのらでぃっしゅぼーやを大幅に越える売上が見込まれる。

株式会社オイシックスの運営するOisixは、健康食材の定期宅配サービスを行っており、「一般のご家庭での豊かな食生活の実現」を目指している。

決められたセット販売ではなく好きな量を購入出来る点や、入会費・年会費がかからない点、土・日含め日付指定が可能な点などが特徴である。らでぃっしゅぼーやと違い、セット販売でなく産地や種類を自分で選べるところが、らでぃしゅぼーやでは食材が使い切れず残ってしまうという顧客に人気のようだ。しかし、らでぃっしゅぼーやより少し値段が高いところが利用をためらってしまうケースもあるようだ。

株式会社大地を守る会の運営する大地を守る会は、日本で初めて有機農産物の宅配システムを開始した。

宅配サービス以外にも自然住宅事業やレストラン事業なども行っている。有機栽培や無添加といった安全性に定評がある。また、らでぃっしゅぼーやと違い、退会する際入会金の返金があることも魅力のようだ。

両社が合併することでマーケティングノウハウを共有し、共同商品開発などを行うことで売上向上が見込まれる。また、オイシックスの利用者は30代~40代、大地を守る会の利用者は40代以降と利用者層がずれているため、お互いのサービスでの競争は生まれず、相乗効果を生み出せると考えられる。さらに、物流センターやシステムを統合することでコストダウンすることが出来、消費者側の利点としては、宅配サービスのデメリットである、配送料や配達手送料が安くなる可能性がある。しかし、健康や安全さに対してこだわりの強い顧客の存在する自然食品宅配業界において、合併することによって両社本来の利点が失われ、少しの違いで顧客を失うリスクがあるのも事実だ。

大地を守る会取締役社長の藤田氏を会長に、オイシックス取締役社長の高島氏を社長に据えて活動する予定。両社は2017年2月末までに臨時株主総会を行い、承認を受けるようだ。

 

<参考>

オイシックスと大地を守る会が2017年に経営統合へ ー 自然派食品宅配でトップに

 

 

DeNAショッピングとauショッピングモールの統合

 

KDDIは2017年1月30日よりDeNAショッピングauショッピングモールを統合して新サービス「Wowma!(ワウマ)」をスタートする。

Wowma!は「毎日が『Wow』になる」をコンセプトとした、総合ショッピングモールサイトである。DeNAショッピングは「Wowma!」、auショッピングモールは「Wowma! for au」としてサイトは別で運営をし、将来的には統合する予定だ。現在のサイトの違いは、ログイン画面のみであり、auユーザーはWowma! for auからauIDでログインすることができ、DocomoSoftBankユーザー、または、旧DeNAショッピング会員はWowma!からログインすることができる。

 

両サービスは、購入金額に応じて1%のポイントを付与し、毎週土曜日はポイント還元率が10%になる。auスマートパスプレミアム会員には毎週土曜日にさらに5%が加算され、合計15%のポイントが付与される。今までDeNAショッピングとauショッピングモール利用者は、キャンペーン期間が別にあったため作業が大変であったが、今回サービスを一貫化することで利用者の作業も効率化されるという利点がある。

今回のWowma!が誕生するまでには3つの段階があった。最初、DeNAショッピングは株式会社ディー・エヌ・エーが、auショッピングモールはDeNAの子会社である株式会社モバオクとKDDIが共同で運営していた。次に、2016年10月7日、DeNAは新たな子会社であるDeコマース株式会社にショッピングモール事業の運営を吸収分割によって継承。最後に、2016年12月28日にDeNAはDeコマース株式会社の全株をKDDIに63億円で譲渡し、Deコマース株式会社はKDDIの完全子会社となり、KDDIコマースフォワード株式会社として新たに開業した。それが今回Wowma!をスタートするきっかけとなった。

今までauショッピングモールはKDDIがauユーザーに向けて、DeNAショッピングはDeNAがDocomoやSoftBankユーザーに向けて販売促進を行っていた。この状態のままサービス提供を進めたとしても、ユーザーは限定化され、集客出来ない部分が生まれ、規模拡大は難しい。そのため、2つのサービスを一括し、今後のEC業界で生き残りをかけて戦うことを決めたのだ。しかし、KDDIの子会社が運営するWowma!に対してauのイメージがついて回ることが考えられ、auのイメージがあるWowma!をわざわざDocomoやSoftBankユーザーが利用しようと思うほどのメリットをどれだけ出せるのかは気になるところだ。

2017年2月1日から2017年3月31日まで、「Wowma!誕生祭」が行われ、毎週土曜日に加え、月曜日、水曜日にも購入金額に応じて10%のポイントが付与される。今後Wowma!は、株式会社丸井グループAOKIホールディングス株式会社ゴルフダイジェスト・オンラインといった大手企業も参加し、出品数を増やしていく予定だ。統合の成否は今後どのように他モールと差別化を図っていくかにかかっているのではないだろうか。

 

<参考>

「auショッピングモール」と「DeNAショッピング」を統合へ、新サイト名は未定

「DeNAショッピング」と「auショッピングモール」がブランド統合、1月30日に「Wowma!」に

 

 

千趣会子会社にJFRオンライン事業を譲渡

 

2016年12月27日、千趣会JFRオンラインの事業を、新設する100%子会社が譲渡することを発表した。

 

株式会社千趣会は、ファッション用品やインテリア、雑貨などを販売する通信販売「ベルメゾン」を運営する会社である。

現在は通販カタログ商品をオンラインで販売する「ベルメゾンネット」が人気を博している。

J.フロント リテイリング株式会社は株式会社大丸と松坂屋ホールディングスが経営統合して誕生した会社であり、「大丸松坂屋百貨店」やパルコを運営する会社である。また、JFRの完全子会社である株式会社JFRオンラインは、「大丸・松坂屋通信販売カタログ」や、そのオンライン販売である「大丸・松坂屋通信販売Dmall.jp」を運営する会社である。

2015年4月17日に千趣会とJFRが資本業務提携を結んだことから両社の関係は始まった。千趣会の持つネット販売のノウハウと、JFRの持つリアル店舗運営のノウハウをお互いに活かすことで、両社の課題を克服することを目的とした。また、このときJFRが千趣会の株約22.6%を約100億円で取得し、千趣会の筆頭株主となった。同年7月には期間限定トライアルとして大丸松坂屋とベルメゾンネットで相互販売を開始。2016年3月には千趣会の婦人ファッションブランド「Kcarat(ケイカラット)」を、同年8月には千趣会のオリジナル婦人靴ブランド「BENEBIS(ベネビス)」を、大丸松坂屋店舗と千趣会カタログ、両社のECサイトで販売し、両社のブランドとして再構築した。しかし、ネット通販業界でベルメゾンネットはベルーナに圧倒的な差をつけられていた。そこで今回JFRオンライン事業を千趣会の子会社が行うことによってネット通販業界の勢力図を書き換えようとしているのだ。

JFRオンラインの使用していた物流センターやコールセンター、フルフィルメント業務は今後千趣会の運営と一体化を図ることで、コスト削減が見込まれる。また、JFRオンラインの約30万人の利用者はシニア層女性のため、30代~50代女性が利用者である千趣会と利用者の連続性が生まれ、より利用者を増やすことが出来ると考えられる。ネット販売を得意とする千趣会のノウハウを利用することで、大丸松坂屋のネット販売を拡大することができると期待されるが、どのようにして大きくするのか方法は明らかになっていない。

2017年1月中旬に千趣会の完全子会社である株式会社フィールライフが設立され、2017年3月1日にはJFRオンラインの事業を継承する。JFRオンラインは2019年2月に清算完了する予定だ。

 

<参考>

千趣会、大丸・松坂屋の通販事業を譲受へ

 

楽天、フリマアプリ「FRIL」運営会社を買収

 

2016年9月5日、楽天がフリマアプリ「FRIL(フリル)」を提供するFablicを買収した。

株式会社Fablicは、日本初のフリマアプリ「FRIL」を運営する会社である。FRILは、ファッション用品を中心に、女性向けの商品が多く取り扱われており、10代後半~20代女性から支持を得ている。楽天もフリマアプリ「ラクマ」を運営しているが、こちらはオールジャンルを幅広く取り扱っていることが特徴だ。

その楽天は、Fablicの全株式を取得することで完全子会社としたうえ、楽天オークションのサービス提供を10月いっぱいで終了し、ラクマのサービスに本腰を入れた。これは、楽天がフリマアプリ業界に本格参入することを表していると言えるだろう。メルカリとラクマのアプリ画面が酷似していることなど、楽天はフリマアプリ事業でなかなか独自の色を出すことができていなかった。この買収により楽天独自の特色が出ることが期待される。

現在のフリマアプリ市場では、メルカリがトップを走り、それを二番手にFRIL、三番手にラクマが追いかけるという構図が出来ている。今回楽天の買収によって、FRILとラクマがどこまでメルカリに近づけるかがポイントとなってくるだろう。一方で、メルカリには到底追いつけないと感じた楽天が、二番手企業の買収によって二番手を確保したという穿った見方も市場には存在する。

今回の買収でFRIL側が得られる利点は、楽天IDを使ってログインが可能になることや、楽天スーパーポイントを利用したポイントキャンペーンが実施されることなどが考えられる。また、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社スタートトゥデイが展開している「ZOZOフリマ」が、同じファッションに特化したフリマサービスということで、FRILから顧客を流れさせないようにする考えもあるようだ。しかし、ZOZOフリマは、同じくスタートトゥデイの運営するファッションコーディネートアプリ「WEAR」との連動がある。WEARの公認ファッショニスタである「WEARISTA」と呼ばれる、芸能人やフォロワーの多い一般人の私物が販売されることがある点で、メルカリの一強状態のフリマ業界でも、今までとは違ったところから着実に顧客を得る仕組み作りをトライしている。

2016年11日24日には両サービス合計で1,000万ダウンロードに達したようだ。楽天グループの傘下に入ったことで資本を得たFRILは、10月から手数料無料化や、CMの実施による成果が、着実に現れた結果となった。今後は、アメリカへの進出を成功に納めたメルカリに対抗して、メルカリがまだ進出を果たしていない東南アジアへの進出を考えているようだ。

 

<参考>

フリルとラクマは計1,000万ダウンロードー3ヶ月でフリルの流通総額は3倍に

 

 

大型合併の流れと今後の市場展望

 

過渡期を迎えたEC業界において、このようにいくつかの大型合併・買収が行われてきた。今回は4つの合併・買収を取り上げてきたが、どれも業界のリーディングカンパニーは関与せず、二番手以降の企業が関わっていることがわかる。それは、固定化されてきた業界でいかに首位の会社に追いつき、追い越すかということを考えた結果だと考えられる。合併・買収は経費削減といった利点があり、オイシックスと大地を守る会のように上手くいく可能性が高いものもあるが、その一方で、合併・買収をしてもリーディングカンパニーに追いつくことが出来るのか疑問を持たざるを得ない場合もある。しかし、合併・買収による成果が出るのはまだまだ時間がかかるため、合併・買収した後の展開を長期間で見ていく必要がありそうだ。今後もこのようなトレンドは他のセグメントでも断続的に起きてくるのではないだろうか。