ChatGPTなどの生成人工知能(AI)の試行というと、より速く、より創造的な文章を「書く」ことがすぐ思い浮かぶかもしれないが、生成AI技術はeコマースにとってさらに多くの可能性を秘めている、と言える。しかしながら、リスクがないとは言えない。そこで、戦略と具体的な例を確認しておく必要がある。

 

まず、「AI is everywhere(AIは当たり前)」という言葉は、テクノロジーやeコマースでは非常に一般的になっている。何をAIとみなし、何をAIとみなさないかについては議論の余地がある(たとえば、より高度な「もしXが起きたら、Yをする」というif-thenルールはExcelでも実行できる)が、この記事で注目しているのは、「生成AI」である。これは、大規模言語モデル(LLM)ベースのツールで、コマンドやプロンプトに対して最も論理的な回答を計算して表示するものだ。

 

「生成AIは生産性を上げる」

米国に本社を置くグローバルなコンサルティング企業McKinsey & Companyは最近の調査で、ChatGPTやBardのような文章生成AI、そして、MidjourneyCraiyonのような文章から画像を生成するAIまで、生成AIによって多くの分野で生産性が上がっていることを改めて強調している。同社によると、小売業(特にオンライン小売業)のマーケティング、販売、カスタマーサポートには特に影響が大きい、という。これはソフトウェア開発にも当てはまる。

 

「反復作業を自動化することで、人は複雑な問題の処理により多くの時間を割くことができる」

 

たとえば、小売業者は既存のAIツールと生成AIを組み合わせてチャットボットの能力を強化し、人間の従業員の対話スタイルをより適切に模倣することができるようになる。顧客の質問に直接返信すること、注文の追跡やキャンセル、値引きのオファーやアップセルも可能だ。そのうえ、反復作業の自動化によって、人は複雑な問題の処理やコンテキスト情報の取得により多くの時間を割くことができる。

 

 

 

AIツールを使用している小売業者

ニューヨークを拠点とするレディースウェアブランドのRutiは、Feel(米国に本社を置く販売インタラクションプラットフォーム)のAIツールを実装し、ChatGPTを活用している。このツールは3人のバーチャルな販売員をアシストするように設計されており、最初は提携したブランドからの標準的な顧客の問い合わせに対応できるようにトレーニングされる。ブランドのシステムと統合されると、顧客とのやり取りから学習し始める。たとえば、「紫のイブニングコーデのおすすめを教えてほしい」と尋ねる顧客がいるとする。それに対して、AIのサポートを受けたバーチャルアシスタントが、スタイルに関する質問に答え、カタログから適切なアイテムを提案する。

 

RutiはAIツール実装後、コンバージョン率が54%から57%に上昇した。

 

Rutiによると、同社のコンバージョン率は2022年下半期の54.3%から2023年上半期には57.2%に上昇した。さらに、同時期の平均注文金額は54.4%から59%に増加した。

 

Zalandoの新しいファッションアシスタント

大企業もこの分野を開拓している。ドイツのファッションEC大手Zalandoは近々、ChatGPT搭載の新しいファッションアシスタントの最初のベータ版をアプリとウェブサイト上に導入する予定だ。これは、ウェブサイトでの顧客体験と認識の向上を目的としている。

 

たとえば、顧客が春のスペインで行われる結婚式でどのような服を着れば良いか聞くと、Zalandoのファッションアシスタントはフォーマルなイベントであることを理解し、その時の気候を予測し、それに基づいたおすすめの服装を説明する。将来的には、顧客の好み(フォローしているブランドやサイズに合った商品など)を組み合わせて、よりパーソナライズされた商品を選び提案することを目指している。

 

試着できるAIツール

Googleは最近、消費者がオンラインで購入する衣料品についてよりイメージをわかりやすくするツールを発表した。米国の買い物客は、Anthropologie(米国のレディースライフスタイルブランド)、Everlane(米国のオンライン衣料品小売業者)、H&M(スウェーデンのアパレルメーカー)、LOFT(米国のレディースファッションブランド)などのブランドの女性用トップスを、Googleを利用してバーチャルに試着することができる。なぜそのような機能をリリースしたのか。オンライン買い物客の42%がモデルの写真ではイメージが伝わらないと感じており、59%がオンラインで購入した商品が予想と違っていたため不満を感じているためだ、とGoogleは主張している。

 

バーチャル試着で、顧客はさまざまなモデルの着こなしを見ることができる。

 

アパレル向けバーチャル試着は、リアルなモデルによるさまざまな着こなしを見ることができる。新しい生成AIモデルは衣服の画像を1枚取り込むだけで、様々なポーズを取った実際のモデルに、ひだ、折り目、フィット感、伸縮具合、しわや影がどのようになるかを正確に反映することができる。この機能は、XXSから4XLまでのサイズ幅で、さまざまな肌の色、体型、人種、髪型に対応している。

 

しかし、ここで終わりではない。新しいガイド付き絞り込み機能は、買い物客が完ぺきな商品を見つけるまで微調整が可能だ。機械学習と新しい視覚マッチングアルゴリズムのおかげで、消費者は色、スタイル、形などを入力することで絞り込むことができる。店舗での買い物と違って、1つの小売業者に限定されることもない。このツールはウェブ上にあるストアから選択肢を表示してくれる。

 

 

新商品を迅速に作成できる

McKinseyは、生成AIツールが新しいデザインをデジタルで迅速に作成することで、商品の新しいバージョンの開発プロセスを強化することができる、と言及している。デザイナーはゼロからパッケージデザインを考えたり、既存のデザインにバリエーションを増やしたりすることができる。このテクノロジーは急速に発展しており、テキストを動画に変換することも可能になるかもしれない。

 

「低コストでコンテンツを作成することによって、より多くのバリエーションを増やせる」

 

これを踏まえて、ある新しいコンサルタント会社は、ChatGPTとMidjourneyを使って、オランダのスーパーマーケットチェーンAlbert Heijnの店舗雑誌Allerhandeに掲載されている実際のレシピの超写実的な画像を作成した。「費用はかからず、1分もしないうちに画像を作成することができた」とクリエイターのWouter van Haaften氏は語った。同氏はさらに、コンテンツをより迅速に、より低コストで作成することで、さらに多くのバリエーションを作り、大規模なA/Bテストを行うことができる、と説明した。「(マーケティングの)重要業績評価指標を最適化し、最終的に大きなROIを得ることができる」。秘訣はAIモデルとの正確なコミュニケーションだ、と彼は結論付けている。

 

生成AIを使用するリスク

しかし、生成AIの導入にリスクがないわけではない、とMcKinseyは強調する。小売業や日用品メーカーの幹部は生成AIを業務に統合する方法を模索する際には、このテクノロジーから価値を獲得する能力に影響を与えるかもしれない、いくつかの要因に留意する必要がある。生成AIによって作成されたコンテンツが事実に基づいているのか、推論に基づいているのかを理解する必要性が高まっており、新たなレベルの品質管理が必要となっている。

 

企業は、AIがアシストするプロセスについて、より詳細な品質チェックを実施しなければならない。

 

企業は、これまで人間が処理していたプロセスに新たな品質チェックを導入する必要がある、とMcKinseyは指摘する。これにはカスタマー対応担当者の書いたメールも含まれる。

商品デザインのようなAIがアシストするプロセスについて、より詳しく品質チェックを行う必要もあるだろう。

 

eコマースにおける生成AI活用の可能性

このことを考慮すると、eコマースにおける生成AIのさらなる可能性はすでに生まれつつある。例として、「自動的に」生成されるバーチャルな世界の開発がある。メタバースを作成するIlumine AIと画像を生成するMidjourneyのような異なるツールの組み合わせによって、短期間でバーチャルな空間を作成することができる。今のところ、これらのエクスペリエンスは主にゲームの世界で使われているが、オンラインショッピング環境への応用はまったく考えられないことではない。

 

小売業者は、テキスト調整に基づいた顧客体験の改善を検討すべきだ。

 

しかし、さまざまな調査によると、小売業者は現在、コスト危機とその他の財務上の圧力など、ほかにも気にしなければならないことがあるため、これがまだ手の届かないことだと感じている彼らにとっては、Amazonのようにテキスト調整に基づいたユーザー体験を改善する方法に目を向けることが望ましい。Amazonは、AIを利用して各商品のすべてのレビューを要約し、消費者のフィードバックを最もよく表す数語に置き換えている。

 

そして、生成人工知能システムの一般的なメリットにも述べておこう。人間の同僚にタスクを頼むのと同じように、ツールにタスクの実行を頼むことができることだ。プロンプトを正しく入力するには時間がかかり、試行錯誤が必要だが、幸いなことに、すでに多くのヒントや例が無料で入手できる。

 

※当記事は欧州メディア「Ecommerce News」の7/3公開の記事を翻訳・補足したものです。