効果的なファーストパーティデータ戦略を立てることで、パーソナライゼーションとプライバシーという2つの顧客ニーズのバランスを取ることができる。

 

本記事は、カテゴリーリーダーを同業他社から際立たせるためのノーススター目標(長期的で高レベルな野心的目標)に関する4回シリーズの第2回目である。初回の記事(”One to One, omnichannel personalization”「1対1のオムニチャネルパーソナライゼーション」)はこちらで読むことができる。

 

今日の顧客には、時に相反する2つのニーズがある。彼らは、高度にパーソナライズされたコンテンツやオファー、体験を提供する一方で、高いレベルのデータプライバシーを維持することを望んでいる。顧客体験を向上させ、顧客の個人情報の適切な管理者となることは、ブランドにとってWin-Winの関係を築くことにつながる。

 

私の最新の著書「House of the Customer」では、どれほど野心的であるように思えたとしても、すべてのブランドが目指すべき4つのノーススター目標について概説している。前回の記事では、その1つ目の目標である「真に1対1となる、オムニチャネルのパーソナライズされた顧客体験の提供」について説明した。

 

この4回シリーズの2回目となる本記事では、ブランドが正確なインサイトを取り入れて素晴らしい体験を提供できるようにしながら、顧客のデータを保護する真のファーストパーティのカスタマービューを持つことについて説明する。

 

ファーストパーティデータが重要な理由

このトピックにあまり馴染みのない人にとっては、この騒ぎは何であるか不思議に思うかもしれない。結局のところ、貴社はCRM(顧客関係管理)を導入し、メールマーケティングのための許可とオプトインを取得しているのだ。それでは、ファーストパーティデータがこれほど重要である理由をいくつか説明しよう。

 

業界は変化している

政府の規制については後述するが、マーケティングテクノロジー業界自体も大きな変化を遂げており、場合によっては自主規制となっているものもある。これらの変化には、以下のようなものがある。

 

・サードパーティCookieの廃止 – AppleとMicrosoftが最初の一歩を踏み出し、数か月後にはGoogleが追随する予定だ。

・モバイル端末でのトラッキングがより侵襲性の低いものとなる。

 

さらに、サードパーティCookieを使用して広告のターゲティングを行う従来の手法は、信頼できる当事者のみが共有するプライバシー重視のデータクリーンルーム(IT企業などのプラットフォーマーによって提供される、個人が特定されないデータ環境のこと)によって崩壊しつつある。

 

このアプローチでは、パブリッシャーは独自の広告ネットワーク(またはネットワークの価値を高めるためのパートナー)やその他のソリューションを構築する。これにより、マーケターや広告主は、データプライバシーに対する消費者の要望の高まりに配慮したやり方でオーディエンスにリーチできることに大きな自信を持つことができる。

 

規制とコンプライアンスのニーズ

業界ではさらに多くの変化が起こっており、その一部は規制によって引き起こされている。世界は、消費者データプライバシーの透明性と監視を強化する方向へと移行している。

 

欧州連合のGDPR(EU一般データ保護規則)が先導し、米国のカリフォルニア州やその他の州、そして世界中の他の国々がそれに続いている。

 

この移行により、あらゆる種類と規模の企業は以下のことが求められる。

 

・顧客データの保護

・顧客データの入手経路と使用方法の把握

・責任を持って顧客データを使用し、パーソナライズされた体験を提供することによる競争力の維持

 

パーソナライゼーション

ファーストパーティデータが重要であるのは、高度にパーソナライズされた体験を提供するためには、より適切で、より関連性の高い、より正確なデータが必要なためだ。

 

これまでに、関連性の高さが顧客の増加、ロイヤルティの向上、クチコミによるリファラルの増加にいかに役立つかという統計データを目にしたことがあるはずだ。パーソナライゼーションが収益を上げるという主張には誇張されているものもあるが、多くの証拠がそうした主張を裏付けている。

 

明らかに、今こそ、ブランドはファーストパーティデータ戦略を採用すべきだ。上記の理由はいずれも説得力があるが、競合他社も同様にこれらの分野に注目し、投資している可能性が高いという事実もある。だからこそ、迅速に行動する必要があるのだ。

 

ファーストパーティデータ戦略の構成要素は何か

ファーストパーティデータ戦略の重要性を理解したところで、次は、その戦略を立てるためのポイントについて説明しよう。そのために、3つの主要な構成要素について見ていこう。

 

1.統一されたカスタマービュー

最初の要素は、顧客に関する情報を保存している可能性のあるすべてのチャネルとプラットフォームにおいて、顧客に関する単一のビューを作成することだ。

 

マーケティング、広告、CRM、カスタマーサービスなどのデータを1つのまとまったビューに紐づけることで、販売前、販売中、販売後のビジネスとカスタマージャーニー全体を可視化することができる。

 

2.統合ツール

二つ目の要素は、最初の要素の自然な副産物であることがある。カスタマービューを統一する必要があることで、そのデータを収集、管理、分析するためのツールを統合することも必要となるのだ。

 

カスタマーデータプラットフォーム(CDP)を中核としながら、異種システムをシームレスに統合したり、重複するプラットフォームを削除したりすることで、顧客に関する堅牢なファーストパーティビューを持続可能な方法で維持することが可能となる。また、カスタマージャーニーオーケストレーションやネクストベストアクション(リアルタイムAIを活用してさまざまな消費者の行動データを統合・分析し、それぞれの消費者にあった最適なアクションを推奨するもの)などのツールを使うことで、このビューに基づいたアクションを起こすことも可能となる。

 

3.データガバナンス

ファーストパーティデータ戦略の最後の要素は、顧客データガバナンスである。断片化されたデータはリスクをもたらし、また不正確なデータや不完全なデータは顧客の不満を引き起こす。

 

顧客データをどのように収集、管理、更新するかは、ブランドに対する顧客の信頼に大きく影響する。

 

データガバナンスは、1回限りの作業ではない。貴重な顧客データを任されたチームには、一貫したメンテナンスとトレーニングが必要となる。そのため、ガイドラインや顧客データの活用方法を定期的に見直し、更新し、ベストプラクティスと規制要件に対するコンプライアンスを確保する必要がある。

 

これら3つの要素には多くの個別要素が含まれることもあるが、これらからファーストパーティデータ戦略の範囲を概観することができる。

 

マーケティングのアプローチはどのように変わるだろうか?

貴社では上記の要素の一部または全てを備えているかもしれないが、優れたファーストパーティデータ戦略とは、単に適切な要素を備えていればよいという訳ではない。その有効性は、それらの要素をどのように利用するかにかかっている。ここでは、ファーストパーティデータがマーケティングの方法を変える可能性があることをいくつか考えてみよう。

 

「ブランド・ガーデン」を設置する時が来た

ファーストパーティデータを何年も育んできた企業にとっては、これは大きな変化ではないかもしれない。

しかし、製品を販売する仲介業者がいる場合や、広告をサードパーティデータに大きく依存しているのであれば、顧客と直接会話し、販売するための強固なインフラ、あるいは、ある人が言うところの「ブランド・ガーデン(独立したテクノロジーパートナーと提携して個々のブランドが所有・運営する専用のマーケティングエコシステム)」の構築を始めよう。

 

質問を増やすだけでなく、適切な質問をしよう

より多くのファーストパーティデータが必要であるということは、顧客にもっと多くの質問をする必要があると解釈するのは簡単なことかもしれない。しかし、必ずしもそうとは限らない。顧客は、貴社ブランドとの関連性が感じられ、製品や体験をより良くカスタマイズすることができる情報を共有したいと考えているのだ。

 

貴社の製品やサービスとは無関係と思われる質問を多数すると、顧客の信頼を失う危険性がある。そのため、データ提供のリクエストは関連性のあるものにとどめ、顧客がより多くのデータを共有することで得られる報酬を明確に示すようにしよう。

 

協調的なアプローチを検討する

ブランド・ガーデンは、貴社のビジネスに適していないだろうか?貴社は顧客に直接質問する機会が十分ではないだろうか?

 

そうであるなら、補完的なブランドを見つけ、ファーストパーティデータを共有する協調的なアプローチで顧客にリーチし、オファーやメッセージ、体験をパーソナライズする能力を高めることを検討してみよう。

 

このアプローチには、顧客データクリーンルームの共有やその他の共同作業も含まれる場合がある。ただ、貴社が何をしているか、誰と提携しているか、なぜそれが顧客の利益となるかを必ず顧客に明確に説明しよう。結局のところ、顧客は自分のデータが見知らぬ第三者と共有されていることに対してすでに警戒心を抱いているのだ。

貴社が信頼する相手とのみ仕事をするよう留意している場合でも、信頼できるパートナーを選別するプロセスを顧客に理解してもらう必要がある。

貴社のマーケティングの見方は変わらないかもしれないが、顧客データの収集、活用、保護により重点を置くことで、貴社のマーケティングの一部が変わる可能性があり、またブランドとその将来の取り組みを改善し、保護することができる。

 

どのように着手すればよいか?

GoogleによるサードパーティCookieの廃止などの日程はまだ流動的であるようだが、すぐに取り掛かることが重要でないという意味ではない。まだ着手していない方のために、アイデアをいくつか紹介しよう。

 

自社のファーストパーティデータの現状を把握する

まず、顧客データの成熟度を高めるにあたり、自社がどのような状況にあるのかをよりよく理解することから始めよう。真のファーストパーティデータ戦略を構築するためには多くの点をつなげる必要があるとしても、貴社は思うよりも先行しているかもしれない。

 

サードパーティデータの利用について評価する

次に、サードパーティデータに依存している部分と、業界の進化によって生じる影響について、より深く理解する必要がある。ギャップ分析を行い、すぐに計画を立案できるようにしよう。

 

ギャップを埋めるためのファーストパーティデータ戦略を策定する

最初の2つのステップが完了したら、次に以下のような戦略と実行計画を立てよう。

 

・ファーストパーティ顧客データに関するギャップを埋める。

・サードパーティデータの使用を最小化または中止した場合に生じるマーケティングインフラの不備を補う。

・オーディエンスが切望する、今後のためのパーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスを構築する。

 

ファーストパーティデータ戦略で適切なバランスを取る

上述の通り、効果的なファーストパーティデータ戦略があることは、2つの顧客ニーズのバランスを取ることができることを意味する。

 

・まず、よりパーソナライズされた体験をサポートする機能が得られる。

・そして、顧客データをより詳細に管理し、最高レベルのプライバシーを維持することができる。

 

この4回シリーズの3回目となる次回の記事では、ブランドが顧客生涯価値モデルを採用する必要性と、それが顧客とビジネスの双方にもたらすメリットについて説明する予定だ。

 

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の1/30公開の記事を翻訳・補足したものです。