マーケターは、新しいシグナルを探し出してより深いインサイトを引き出し、AIの力も大いに借りながら、顧客をより理解するようになるだろう。

 

データはマーケターの仕事の中心にあり、これは2023年にマーケターが最も重視することになるだろう。GoogleにおけるサードパーティCookieの廃止の遅れや、米国バージニア州などの州における新しい法律といった変化は今年、組織にさらなるプレッシャーを与えることになるかもしれない。マーケターは、今あるファーストパーティデータを最大限に活用すると同時に、それを補完する方法や、単により多くのデータを取得する方法を見出す必要がある。

 

2023年においても、優先事項の多くは変わらないが、リスクはさらに高くなる。本記事では、2023年にデータがマーケティングを変える方法をいくつか紹介しよう。

 

信頼関係の構築とデータセットの所有

消費者との信頼関係の構築は、ますます重要になってくる。

マーケティングAI企業FlytxtのCTOであるPrateek Kapadia氏は、「サードパーティデータがなくなるということは、ファーストパーティデータの価値が高まることを意味する。そのため、組織はユーザーとデータ所有者のコミュニティ内で信頼関係を築くことが必要となる」と述べる。「組織が真にその信頼を得ることができる唯一の方法は、データの利用に関して透明性とコントロールを提供することであり、これは2023年の重要な目標になるだろう」。

 

eコマースマーケティングプラットフォームTadpullの社長兼共同創設者のJake Cook氏は「すべてのブランドはiOS以降、マーケティングミックスで何が有効かを評価するためには、顧客データセットを所有することが重要であるという事実に気づき始めている」と語る。「Meta から答えは得られない。Shopifyからも、Googleからも答えは得られない。それらはあまりにもバラバラで、真実のソースがないのだ。そのため、企業は、すべてを自分で理解し、データから何が有効かを知ることで、マーケティング資金を賢く分配できるようにすることが求められているのだ」。

 

リミックス可能なコンテンツが引き出す新たなシグナル

マーケターは、モバイルユーザーに対して躍起になっている。AppleにおけるモバイルID(IDFA)の段階的な廃止により、広告主がカスタマイズした広告を配信するのに役立つデバイスデータが制限されるようになった。こうしたギャップを埋めるために、マーケターは、ソーシャルプラットフォーム上で広く共有され、リミックス可能なコンテンツにますます依存するようになるだろう。

 

インフルエンサーマーケティング企業InfluentialのCEOであるRyan Detert氏は、「TikTokやInstagram、YouTubeショートのプラットフォーム上の機能を利用した『リミックス可能』なコンテンツは、ユーザー生成コンテンツのスケールと配信を促進するだろう」と語る。「うまく活用すれば、ソーシャルコンテンツは、“ポストIDFA”の世界で活用できる新たなシグナルも引き出すだろう」。

 

インテリジェントなウェブページデザインとメールキャンペーン

B2Bメディアでテクノロジー企業のFoundryでCROを務めるMatt Yorke氏は、マーケターやパブリッシャーは、“ユーザーのプロファイルや好みを理解した上で、価値があり、関連性の高いコンテンツにアクセスできる”よう、ウェブページのデザインやログインベースの環境を細かに調整することに関心を向けるだろうと語る。

 

また、マーケターやパブリッシャーは、オーディエンスにレコメンドする追加の関連コンテンツを提案するインテリジェントなメールキャンペーンや、フォームの送信時だけでなく、入力された最初の文字からデータを取得するAIも活用するだろうと、同氏は話す。

さらに、「ユーザーのデータを取得するために、ユーザーのウェブ行動を理解し、その行動から学習するAIも活用される」と加えた。

 

AIを活用した新しいスコアリングのフレームワーク

B2Bマーケターは、AIを利用してデータを大規模に処理し、複数のバイヤーから得た複数のシグナルをスコアリングするだろう。

 

「人工知能(AI)を使って表面的なアクションをスコアリングする現在のフレームワークを超えて、さまざまな設定で複数のバイヤーからの複数のシグナルや、アカウント内で行われているデジタルエンゲージメントのクオリティを分析するインサイトを提供する必要がある」と、FoundryのCMOであるBrian Stoller氏は述べる。

 

また同氏は、「クリック数やダウンロード数などの指標は、表面的なインサイトしか提供しない独立したアクションだ。マーケターは、人々がどのようにコンテンツを体験し、関与し、反応しているかを調査・理解する必要がある。ここでいう指標には、ページ滞在時間、閲覧したページ、アクティブ・セッション(コンテンツのスクロール)、クリック・ストリーム(ユーザーが閲覧中にクリックした画面の領域の記録)、閲覧・エンゲージした複数のアセット、エンゲージしている購買グループの複数のステークホルダーなどが含まれる」と加える。

 

コンプライアンス違反に対する追加の罰金

フランスの化粧品小売Sephoraは2022年、CCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)に基づく初めての公的執行で、120万ドルの罰金を支払うことに同意した。また、2023年に入って早くも、GDPR(EU一般データ規則)がMetaに多くの打撃を与えている

 

「来年はこのようなケースがさらに増えると予想される」と、テクノロジーコンサルタント55のパートナーであるHugo Loriot氏は述べる。「米国ではコンプライアンス規制の強化、特に議員が連邦プライバシー法、また直近ではデータプライバシーに関する単一の国家基盤となる米国データプライバシー保護法(ADPPA)の法案可決に向けて、今も取り組みを続けていることで混乱が生じているが、GDPRは近い将来、ブランドが従うべき黄金律となるだろう。プライバシー保護の『猶予期間』は終わりつつある。提訴されたくなければ、グローバルブランドと米国ブランドの双方がコンプライアンス基準を確実に満たしている必要がある」。

 

AIから得られるより深いデータインサイトと、より人間味あるマーケティング作業

「合成データと基礎モデルの利用によってデータ機能とアプローチが向上するにつれ、アルゴリズムはより深いインサイトを提供できるよう進化し、マーケターは顧客ニーズを理解してビジネス目標を迅速に達成できるようになるだろう」と、マーケティングAI企業Persadoのバーティカル戦略担当シニア・バイス・プレジデントであるVipul Vyas氏は述べる。

 

AIがアナリティクスAIやジェネレーティブAIという形でワークフローに加わることで、マーケティングチームのメンバーにとって仕事がより人間味あるものとなる可能性がある。

 

「人間にはAIにない特性がある。それは、予想外の顧客ニーズに適応する創造性、問題解決のためにさまざまな知識センターを活用するクロスドメインの専門性、そして相互理解に不可欠な共感力と信頼性だ」と、顧客コミュニケーションプラットフォームFrontのCEO兼共同創業者であるMathilde Collin氏は述べる。「一部の人が予想するAI主体のディストピアとは全く異なり、この世界では顧客体験がよりパーソナライズされ、より細やかなものとなるだろう。場所、勤務時間、創造性、専門性、共感力など、これまで履歴書に書かれていたものをはるかに超えて柔軟性を持つことができるようになるため、従業員もより人間味を感じるようになるだろう」。

 

より社会学的なデータが必要

データがますます不足しているとしても、マーケターによりよく理解されたいという顧客の要望はさらに高まるだろう。

 

「顧客と顧客の価値観を理解することが大事だ」と、データ管理ソフトウェア企業CommvaultのCMOであるIsabelle Guis氏は語る。「2023年、マーケターは、顧客が言うかもしれないことの文化的・政治的な意味、あるいは何も言わなかった場合に意味することを理解する社会学者になる必要がある。要するに、顧客の『個々人の好み』を理解する必要があるということだ」。

 

また、「周知のように、かつては比較的当たり障りがないとされたツイートも、今では政治的発言と捉えられることがある。同時に、プラットフォームそのものも問題となることがある。顧客がプラットフォームをあまり利用しなくなったり、あなたがプラットフォームを利用する(あるいは利用しない)ことで顧客が違う考え方をしたりする場合があるためだ。イベントの場合、マスクやワクチン接種を求めるか? マーケターとして、我々はビジネスと社会のレンズを通して見られていることを肝に銘じる必要がある」と、同氏は付け加える。

 

ノンアドレサブルなキャンペーンの増加

広告主は、IDに依存するアドレサブル(ユーザーを特定できる)なターゲティングの代わりに、より高度なノンアドレサブルなキャンペーンに注目するようになるだろう。

 

「現在、広告機会の30%は広告IDが付与されていない」と、Yahooの最高売上責任者(CRO)であるElizabeth Herbst-Brady氏は語る。「2024年までに、この数字は75%を超えると予想される。機械学習を利用したコンテキストターゲティングやその他の緻密な戦術など、広告主がIDを使うことなく、大規模にオーディエンスにリーチできるためのソリューションを採用する必要性が、これまで以上に明確になっている」。

 

また、「ノンアドレサブル広告の方がアドレサブルの場合よりも安価であることから、不透明な経済環境において、広告主は、ノンアドレサブルを採用することで費用対効果を実感することができる。ノンアドレサブルへの対応は、ウェブに限らず、オムニチャネルにとっての課題となるだろう」と、同氏は付け加える。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の1/5公開の記事を翻訳・補足したものです。