2023年に消費者の体験や行動はどのように変化するのか、そして競争力を維持するためにマーケターは何をすべきなのかについて解説する。

たとえマーケターが2022年に使用したテクノロジーや戦略に完璧なやり方を見つけたと思ったとしても、新しい年にはそれを切り替えなければならない。それには、ある大きな理由がある。それは、顧客が変わるからだ。新しいテクノロジープラットフォーム、デバイス、トレンドが消費者の新しい行動を生み出し、マーケターはそれに対応しなければならない。

 

以下は、2023年に消費者の体験や行動がどのように変化するか、そしてマーケターが競争力を維持するために何をすべきかを示したものである。

 

コンポーザブル・インフラストラクチャーを採用する企業はさらに増加する

企業規模の組織ではすべての人とシステムが関与しているため、新しいテクノロジーの更新と導入は、企業にとってより大きな課題だ。2023年には、デジタル変革のコストを軽減するために、より多くの企業がコンポーザブル・アーキテクチャー(モノシリックなシステムをコンポーネントとして分割することで、安全で迅速、かつ効率的なシステムの見直しを可能とするアーキテクチャー)を採用するものと思われる。

 

企業向け統合PaaS(プラットフォームas-a-service)を提供する米国企業Digibeeの北米担当フィールドCTO(最高技術責任者)であるTam Ayers氏は、「これから起こる急速な変化についていけない企業は、遅れをとるだろう」と述べている。

 

Gartner(米国のITアドバイザリー企業)によれば、2022年にコンポーザブル・アプローチを採用する組織は、新機能の導入において競合他社を80%上回るだろうとAyers氏は述べている。

 

デジタルエクスペリエンスプラットフォーム(DXP)のSitecoreは2022年、シルク・ドゥ・ソレイユのような組織がすべてのデジタルアーキテクチャーを一つのベンダーにコミットするのではなく、様々なデジタルエコシステムの中から選択できるように、コンポーザブルオファリングを拡張した。

 

「コンポーザブル・インフラストラクチャーの採用が進むにつれて、より分散化されたITモデルへのシフトが見られるようになるだろう」とAyers氏は述べる。「ITが消滅するわけではないが、旧来のシステムは変化するだろう。その代わりに、より多くの責任が企業内に生じ、新しいアプローチをサポートし、活用する技術者や開発者、その他の人々が採用されることになるだろう」と同氏は続けた。

 

AIは、より多くのモバイル体験における発見を向上させるために活用されるだろう

消費者は、店舗で買い物をしながらも、携帯電話で調べ物をしようと、再びこぞって行動に移している。デジタル・タッチポイントは、パンデミックによるロックダウン時に小売業者が顧客と接することができた唯一の手段だった。現在、消費者はこうしたつながりをどこにでも持ち運ぶことができる。

 

このため、小売業者にとっては、たとえ店頭での客足が回復していても、モバイル体験がこれまで以上に重要になっている。モバイル・タッチポイントの最も重要な役割のひとつは、商品や次善の策を推奨することだ。それは、消費者が何かを発見する手助けをするのに役立つ。

 

課題は、人によって興味が異なるため、新商品やメッセージの表示を個人に合わせて調整する必要があることだ。小売業者は、ユーザーの関心事を幅広く把握するために、こうした体験にさらにAIを導入していくことになるだろう。

 

パフォーマンスマーケティング企業WunderkindのCRO(最高売上責任者)であるRichard Jones氏は、「探索、発見、そして自分に合ったものを見つけることができれば、消費者を非常に早くロイヤリスト(優良顧客)に変えることができるので、ブランドは、より良い発見プロセスを提供するために、実店舗でカスタマイズした顧客体験のためのAIを維持することが期待される」と述べている。

 

コンテンツマーケティングにAIを活用することも増えていくだろう。しかし、これは長期的には反動を引き起こし、コンテンツの基本に立ち戻ることになるだろう。

 

カナダの電気通信会社MitelのCMOであるVenkat Nagaswamy氏は、「2023年にはジェネレーティブAI(AIが自ら学習しながら完成品を作り出すような新たな設計手法)が急速に普及し、これまで人間が作成していたSEO重視のコンテンツがAIに取って代わられるだろう」と述べている。「それだけに、数年後にはコンテンツが過剰になり、最終的には基本に立ち返り、より高品質だが低容量のコンテンツに注力するようになるだろう」と同氏は続けた。

 

消費者の価格意識は高まり、コマースもそれに応えるようになる

「迫り来る経済(低迷)により、消費者は価格に敏感になり、質素な行動や中古品の買い物をするようになり、2020年からリセール市場は3倍に拡大した」と、Jones氏は述べた。「これは、若い世代に対応する新進気鋭の再販アプリに新たな機会をもたらすだろう」。

 

質素な買い物客に対応する新たな機会が生まれるだけでなく、多くのブランドがメッセージをピボットし、価格に焦点を当てることになるだろう。

 

消費者情報会社GWIの消費者動向マネージャーであるLaura Connell氏は、「企業の社会的責任は米国の買物客にとって引き続き重要だが、コストへの関心が高まるにつれ、最優先事項ではなくなった」と、述べている。「しかし、ブランドの失態は、消費者の優先順位が下がったからといって、企業が社会的責任や信頼性、インスピレーションを失うわけではないことを示し続けている。むしろ、ブランドは消費者とのコミュニケーション方法を調整していくだろう」。

 

また、同氏は「現在、購買意欲が低下し消費者の財布の紐はこれまで以上に固くなっているが、多くの人が前向きな気晴らしを探し続けるだろう。2023年には、消費者は自分が生きている世界からの逃避を求めて、何を、いつ、どれだけ買うかを再優先するようになり、音楽の選択、旅行、その他の行動に影響を与えると予想される」とも述べている。

 

「優良顧客はライフスタイルや予算に合った、より安い商品の推奨やインセンティブを与えてくれるブランドを信頼している」とJones氏は述べた。

「手間のかからない返品やロイヤルティプログラムは、2023年に顧客をリピーターにするために利用されるだろう」と、同氏は続けた。

 

ライブショッピングは、小売業のマーケティング戦略の最前線に登場する

有料キャンペーントラッキング会社HypeAuditorの共同設立者兼CEOであるAlexander Frolov氏は、「ライブショッピングは大きな収益源となる可能性があるため、小売業者が今後ますますライブショッピングを優先するようになると予想している」と語った。

 

購入ボタンや買い物かごのアイコンをクリエイターの動画の近くに配置すれば、あらゆるソーシャルプラットフォームが小売業者にとってソーシャルコマースの対象となる。このようなパートナーシップはここ数ヶ月で構築され、2023年には本格的に始動するだろう。

 

「小売業者が直面するハードルとしては、シームレスなオムニチャネル体験を提供し、ソーシャルメディアプラットフォーム上で従来の小売機能を適応させることが必要になることだ」とFrolov氏は述べた。「TikTokInstagramは、小売業者が信頼できる優れた作成ツールを提供しているが、自社のウェブサイトとの最適な統合を確保する必要もある」と、同氏は語った。

 

ローコードによるカスタマーエクスペリエンスプロセス

企業がコンポーザブル・インフラストラクチャーを利用してどのように変革していくかは、すでに見てきたとおりだ。このような迅速な適応の必要性から、ローコード(必要最小限のソースコード開発でソフトウエア・アプリ開発を行う手法)のカスタマーエクスペリエンス(CX)プロセスの採用も進むと思われる。

 

SaaS企業Acquiaの製品担当SVPであるDeanna Ballew氏は、次のように述べている。

「2023年は、数えきれないほどのタッチポイントやシステムでシームレスな顧客体験を実現するために、ユーザーフレンドリーでローコードなプロセスやシステムが増加するだろう。ベンダーは、業界標準のAPIを採用し、企業はCXエコシステムを内部や外部システムとスムーズに統合できるようになるだろう」。

「コンポーザブル・テクノロジーは、今後ますます戦略的なCX投資の対象となる分野だと思う」。

「コンポーザブル・テクノロジーは、さまざまなソースからのコンポーネントを組み合わせて使用できるため、ベンダーロックイン(特定のベンダーに依存せざるを得ない状況)を回避しながら、より俊敏に対応することができる。このアプローチにより、マーケティングチームはITチームと連携して、より多くのことを達成できるようになる」。

 

動画プラットフォームWistaの共同設立者兼CEOであるChris Savage氏は、「消費者は、ブランドに対して、テキスト、オーディオ、ダイナミック動画など、コンテンツを消費するためのさまざまな選択肢を提供することを望んでいる。2023年にマーケターは、より多くのオーディエンスにリーチし、顧客体験を高めるために、コンテンツ配信の多様化に注力する必要がある」と語った。

 

メール認証とモバイル最適化

メール配信サービス企業Email by Sinchの配信担当副社長であるKate Nowrouzi氏は、「2023年は、メールマーケティング担当者にとって、メール検証ツールなど、ターゲットオーディエンスにメールを受信して読んでもらう可能性を高める技術を活用するチャンスだ」と述べている。「これらのソリューションは、リストに登録されたメールアドレスが本物かどうかを検証し、受信者がマーケティングメールを開封する可能性を、過去の行動に基づいて判断する。これらのツールは、高い配信性を確保し、メールリストをより戦略的にすることで、その送信者の評判を守ることができる」と続けた。

さらに同氏は、「2023年、シームレスで真のオムニチャネルカスタマーエクスペリエンスを提供するためには、メールのモバイル最適化が不可欠になる。最もシンプルな形として、マーケティング担当者は、ノートパソコン、iPhone、Androidなど、どのデバイスでも同じようにメールが表示されるようにしたいと思うようになるだろう。さらに一歩進んで、大手ブランドはモバイル向けのインタラクティブなメール機能に力を入れ始めるだろう。ブラウザで顧客ポータルにログインするのではなく、直接メールから予約できるようにすることで、顧客体験から厄介な摩擦を取り除き、行動喚起(コール・トゥ・アクション)をさらに促すことができる」と付け加えた。

 

※当記事は米国メディア「Martech」の12/27公開の記事を翻訳・補足したものです。