ニュー・ノーマル(新常態)は実生活だけでなく、オンライン上でも多くの変化をもたらそうとしている。特にCRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)領域においてどのような変化がもたらされるのか考えていこう。
まず大前提となるのは、ウイルスによって社会から多くの「自発性」が奪われているということである。
新型コロナウイルスが発生する前の我々は、衝動的に買い物をし、本能的に意思決定を行い、「自発的に」行動していた。そして長期的な計画は、多くの市民にとって得意分野ではなかった。本気で専念すれば、月にもいけるにもかかわらず、である。行動経済学の始祖の一人であるDaniel Kahneman氏は、これを完全に認識し、著書でも解説している。
CRMの役割
では、この点において、CRMの役割はどうだろうか?現状のCRMの主なアプローチ方法は、次のベストな製品やアイデアを提案し購入に結びつけるための意思決定ツールをサポートするために、顧客データを取得することである。しかし、近い将来(これは私の友人であるSteve G.が好む言葉である)、基本的には正確度(accuracy)を上げるために調整されているアルゴリズムを、さらに精度(precision)を上げて調整する必要が出てくる可能性がある。
正確度(accuracy)と精度(precision)の違いとは、何なのだろうか?
accuracy(正確度)とは、正しい答えを得ることを意味し、precision(精度)とは正しい答えを繰り返し得ることを意味する。CRMを導入している場合、正しい答えを導き出すアルゴリズムは、(取引を成立させる!という点で)accurate(正確)で効果的であるといえだろう。しかし、CRMがサポートするビジネスプロセスにおいて、返品が多い場合や、不満を抱える顧客がいる場合には、それは、precise(高精度)であるとは言い難いのだ。
精度が低下することによって、返品によるコストが増加し、顧客が他社へ行ってしまい、客足は落ちるのである。
ようやく店舗営業が再開され始めたが、我々は今でも多くの時間を自宅で過ごしている段階だ。Amazonの配達や食品のドロップオフ、そして、カービングサイドサービスを利用して、日々の食事をなんとかやりくりしているのである。そして、勇気ある人は、自身でヘアカットもしたという。大抵のことはうまくいったといえる(おそらくヘアカットは除外)が、配送料は高くつき、なかには返品ができない商品もある。
しかし、想像してみてほしい。次のネクスト・ノーマルでは、多くの取引が画面を介して行われることになるのだろう。我々はまだ、その極めて初期段階にいるため、ミステリーショッピング(消費者側の視点にたったマーケティングリサーチ方法)も行われていない。これは、衣類を購入する際の限界を、実際にはテストしていないということである。適切でないものを購入したときに、それを解決するためのサポートが必要となるということが、問題なのである。
返品を減らすためのより良いアルゴリズム
スマートフォンのカメラを使って採寸をし、完璧なオーダーメイド製品を提供するサイトは、すでにいくつか存在している(カスタムメイドのメンズ服を販売するMTailorはその一例である)。このようなサイトは、衣類以外のカテゴリでも、今後ますます目にする機会が増えることが予想される。問題は、専門小売業者がソフトウェア・ベンダーになるか、あるいは、少数の専門小売業者がより大きなCRMソリューションに吸収されてしまうという点である。
その結果、返品のないオンラインショッピングを実現するためのより優れたアルゴリズムが仲介する、専門分野に特化したプロセスが増加するかもしれない。そこで、「自発性」の出番である。注文した商品の半分は、試着し、すでに持っているアクセサリーと合わせてみた後で返品するだろうと思いながら、買い物をすることをやめる時代が近づいているのかもしれない。
これは、だいたいが低価格のため、たまに発生する返品の諸経費を補えるできるほど利益率が大きくない製品(非高級品)で起こるだろう。一方で高級品のベンダーは、サービスこそが高級品の真髄であるため、返品に対応するサービスを提供し続けるだろう。
しかし、日常的な買い物については、アルゴリズムの強化と、それをサポートするためのより多様なデータ収集が有効になると思われる。可能性はあるだろう。返品不可なものを購入する前に、人々が共有することを非常に嫌がるような、太もものサイズ、体重、または直近の視覚処方箋といったデータ取得し管理するパーソナルなスマートフォンアプリが開発され、そのような商品を購入する際、それらを必要最低限の範囲で共有することになるかもしれないのだ。
そして20年後、このウイルスに感謝し、それがもたらしたもの全てが、カクテルパーティーの面白い話のネタになるのかもしれない。
※当記事は米国メディア「Ecommerce Times」の6/18公開の記事を翻訳・補足したものです。