パーソナライゼーションのための方法がどれだけ効率的に行われ、時間の経過とともにどのように改善されているかを確認することは、ROI測定の一部分である。

 

本記事は、パーソナライズされたエクスペリエンスのROIに関する3回シリーズの第3回目である。初回の記事(オーディエンスの測定)はこちら、第2回目の記事(コンテンツの測定)はこちらで読むことができる。

 

パーソナライズされたエクスペリエンスの観点からオーディエンスとコンテンツをどのように測定するかについて詳述したところで、ブランドがパーソナライゼーションを進めるプロセスにどのようにアプローチすべきかを説明しよう。

 

プロセスの測定では、パーソナライゼーションのための方法がどれだけ効率的に行われているか、そして時間とともにそれがどのように改善されているかを確認することが必要となる。

 

本記事では、以下の内容を取り上げる。

・パーソナライゼーションを運用するための3つの観点。

・1対1のオムニチャネルエクスペリエンスに全力投入したいと考えているブランドのためのリアリティチェック。

・パーソナライゼーションの実現可能性とパーソナライゼーションを行わない場合のコスト。

 

最高のパーソナライズされたエクスペリエンスには、チーム間の連携が必要

連携が不十分で、社内の業務が分断されている組織は、社外の顧客にシームレスにパーソナライズされたエクスペリエンスを提供することが難しくなる。現実の世界ではどのようなことが起きているか、いくつか事例を見てみよう。

・マーケティングチームがサイロ化し、「eコマースチーム」と「eメールマーケティングチーム」が定期的に連絡を取り合わない。

・部門がサイロ化し、マーケティング、データ、エンジニアリングのそれぞれがまるで別の惑星にあるかのようになっている。

・製品チームがサイロ化し、ウィジェットAとウィジェットBがまったく異なる方法でマーケティングやサポートが行われている。

 

さらに困ったことに、上記のすべてが起きている組織もある。だからといって、容易に解決できる問題から手をつけてはいけないというわけではない。最も共通性があり、潜在的なメリットがあるところから改善することに注力しよう。

 

例えば、モバイルアプリのコンテンツとメールキャンペーンの作成プロセスに重複が多い場合は、そこから着手しよう。もちろん、一夜にしてオムニチャネルのパーソナライゼーションが実現するわけではないが、一貫性を持たせることができる。さらに重要なこととして、組織内でさらなる調整とコラボレーションが必要となる理由を説明することもできる。

 

サイロ化した部門間の壁を取り、組織内の連携を強化することは、より包括的で価値のあるパーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスを作るための重要なステップとなる。

 

仮説をテストし、逸話的なノイズを排除する

ほとんどのマーケターは、パーソナライズされたエクスペリエンスがエンゲージメントやコンバージョンにどれだけ効果的かについて、自身の考えを持っている。問題は、こうした考えの多くが逸話的であり、科学的であるとは言い難いことだ。

 

これに対抗するためには、以下の内容を含む、真のテストを行う必要がある。

・仮説(我々の仮定は何か)

・帰無仮説(仮説が正しいだろうと判断するために、まず否定されなければならないものは何か)

・さらなるテストの実施や労力の投入を正当化する統計学的な有意水準

 

つまり、「統計学の基礎」に立ち返るということだ。

 

上記の手法でパーソナライゼーションの効果を判断する最善の方法は、バリアント(テスト対象とするグループ)「A」がすべてのユーザーに一般的なメッセージ・オファー・体験を提供し、バリアント「B」がそれをパーソナライズするという、真のA/Bテストを行うことだ。統計的に有意なデータを用いることで、パーソナライゼーションの取り組みの有効性を確認することができる。

 

また、これをいくつかの次元で検証することも勧めたい。パーソナライゼーションは、より微妙なものにも、より極端なものにもなり得る。パーソナライゼーションの提供に必要となるコストは、実際に発生する直接費用であれ、時間やリソースであれ、パーソナライゼーションが必要となるコンポーネントの範囲によって異なってくる。例えば、多種多様な顧客画像を作成するには多大なリソースが必要となるが、データベースの検索は、最初のルールが設定されていれば、コストを最小限に抑えることができる。

 

パーソナライゼーションにどれだけ大規模に取り組むかにかかわらず、テストや検証の土壌を培うことで、チームがより大きな成功を得ることの妨げとなる混乱や逸話的なノイズを排除し、正しいことに集中できるようになる。

 

フィードバック・ループと継続的な改善

もちろん、厳密なテストも、その結果をワークストリーム(効率向上のために定められた一連の作業や優先事項)に反映させるためのプロセスがあって初めて良いものとなる。そのためには、パーソナライゼーションの取り組みを強化し、最適化する方法を常に模索し続けることが必要だ。そして、フィードバック・ループとプロセスに対するガバナンスの2つが重要となる。

 

まず、実施した取り組み(テストを含む)で得た学びからフィードバック・ループを作り、それに依存している人々やプラットフォームが確実につながるようにする必要がある。

 

私はこれまで、何が、どこで、誰に起こったかを正確に測定し、詳細なレポートを作成することには優れていても、その結果を次に何かをするための変化やアクションに転換する有意義な方法を持たない組織と仕事をしてきた。

 

そうした企業には、グラフや報告書が格納された素晴らしいライブラリがあった。しかし、彼らの取り組みは報告書に記載されたものや、まぐれ当たりに違いないものなどを逸話として共有する以外には、決して改善されることはなかった。

 

さらに、フィードバックを取り入れて変化・適応できるようにしつつも、あまり変化を急ぎすぎないようにするための一連のプロセスも必要だ。こうすることで、社内のチームや顧客が、良かれと思ってやり過ぎたことによって混乱したり、不満を感じたりするのを防ぐことができる。

 

ここで、パーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスのガバナンスモデルが役割を果たす。急な変化が常に最良というわけではないことを覚えておこう。むしろ、優れたガバナンスモデルとは、以下のようなものをいう。

・透明性と一貫性がある。

・適切なスピードで変化し、パーソナライゼーションの取り組みを調整できる。

・チームに負担をかけたり、カスタマーエクスペリエンスに矛盾を生じさせたりするような過度の変化を避ける。

 

フィードバック・ループとガバナンスモデルは、カスタマーエクスペリエンスを継続的に改善する能力を標準化・体系化し、その結果、パーソナライゼーションの取り組みがもたらすROIを向上させる。

 

後れを取っている組織は、先行者に追いつくことができるだろうか?

この記事を読んで、ここに書かれていることは素晴らしいと思った方もいるかもしれないが、これを短時間で実現することは不可能だ。パーソナライズされたエクスペリエンスの先行者は、後れを取っている組織が追いつくのを立ち止まって待ってはくれない。

 

大手のブランドでは、部門や製品ごとのサイロ化に悩まされるかもしれない。小規模なブランドは、これらすべてをうまく行うために必要なリソースやインフラに苦労するかもしれない。パーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスをサポートするシステムとプラットフォームの構築には、投資が必要となる。

 

厳然たる真実は、後れを取っている企業は、困難があろうとも、追いつくことが不可欠だということだ。日を追うごとに、出遅れ組と先行組の差は広がり続けている。先行組の企業が得たプロセス、プラットフォーム、テストから得た知識、そして失敗から得た知識は、より価値のあるものになっていくだろう。

 

つまり、パーソナライゼーションの強化を行うかどうかは、検討事項ではない。むしろ、重要なのは、収益性を維持しながら、社内(従業員チーム)や社外(顧客やパートナー)のオーディエンスを混乱させることなく、競合他社とのギャップをいかに埋めるかということなのだ。

 

そのためには、反復的かつ段階的なアプローチが最適であり、間違いなくそれが唯一の方法である。強力な優先順位付けモデルは、どの取り組みがリソースへの影響を最小限に抑えながら、ビジネスと顧客に最大の影響を与えるかを理解するのに役立つ。

 

パーソナライゼーションのROIの測定

パーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスを生み出し、提供することから真の投資収益率(ROI)を得るには、オーディエンス、コンテンツ、チャネル、そしてこれらすべてを創造し、管理し、継続的に改善するためのプロセスを網羅する全体的な視点が必要なのだ。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の12/27公開の記事を翻訳・補足したものです。