バイヤーペルソナなしにターゲットとなるeコマースオーディエンスに販売しようとすることは、懐中電灯を持たずに暗闇の中を見るようなものだ。
不正確な詳細や、当て推量に基づいた間違っている可能性がある認識に頼らなければならない。バイヤーペルソナ(顧客やオーディエンス、マーケティングペルソナとも呼ばれる)は架空のものだが、見込み客から収集された調査ベースのインサイトに基づくものである。
AmazonやFacebook、Walmartなどのeコマースやソーシャルメディアプラットフォームも例外ではない。潜在的な購入者に光を当てる必要があるため、マーケターは暗闇の中で売り込みをしているわけではないのだ。
データ重視のペルソナ
バイヤーペルソナとは、あるタイプの顧客の特性を一般化したものである。eコマースビジネスマネジメントプラットフォームのData Hawkでマーケティング責任者を務めるRaphaël Menesclou氏によると、バイヤーペルソナは、同じような関心を持つ人々のグループではなく、特定の一人に対するマーケティングであり、より多くの人々にアプローチできる可能性が奪われているため、正確なバイヤーを表すものではないという。
バイヤーペルソナを作るのに、なぜデータが必要なのだろうか。その質問に対し、「データなしにバイヤーペルソナを作成することは、特定の質問に対して調査に基づかないで答えるようなものだ」と同氏は答える。その結果は不正確で、せいぜいのところ推測に過ぎない。
「データは主張を立証するために使用される。今日のデジタル時代では、データは我々の日常生活の中に織り込まれている。我々の行動のほとんどは、デジタルフットプリント(インターネットを使用した際に残る記録)を残しており、その足跡から我々の行動がよく分かる」と同氏。
データからこのような行動を検証することで、セラーはより効果的にターゲットの消費者を決めることができると、同氏は付け加える。
バイヤーペルソナのはじまり
バイヤーペルソナの利用は、オンライン上の最新のソフトウェアトラッキングの仕組みによって生み出された、素晴らしく、目新しいデジタルイノベーションというわけではない。だが、あらゆる行動を追跡し、金銭情報を収集し、その情報をデータベース・プロバイダーに販売するというウェブサイトの機能は、バイヤーペルソナの全体像の大きな部分を占めている。
最初のバイヤーペルソナは「Kathy(キャシー)」と呼ばれ、1990年代後半にソフトウェアエンジニアでデザインコンサルタントのAlan Cooper氏によって作成された。同氏は、実用的なインタラクションデザインツールしての仮想的なアーキタイプに関する著書で広く知られている。
Kathyは、ソフトウェアやアプリケーションの使い勝手が悪いことで有名だった時代に、デザイン思考のために使われたツールだ。ソフトウェアは、一般的なユーザーが最も頻繁に行うインタラクションの方法に関する問題を抱えていた。Cooper氏はそれらの問題を解決し、のちに新しい製品カテゴリーを定義することに成功した。
結果が入り混じらないようにする
買い物客の正確な反応を引き出すペルソナの構築は、マーケターが実施する調査の種類に左右される。Menesclou氏は、ペルソナは正確な場合もあるが、不備がある場合もあると指摘する。
例えば、潜在顧客のショッピング行動を知ることは、カスタマージャーニーの中で買い物客が最も購買をしやすいタイミングを認識するための手がかりとなる。特定のバイヤーペルソナの購買行動に合わせたマーケティングや広告戦略をうまくキュレートするには、マーケティングチームによる広範で、定性的な調査が必要となる。
正確な調査は、主要なペルソナ要素とリンクしていなければならないとMenesclou氏は話す。バイヤーペルソナを作成するための要素としては、名前、人口統計学的な詳細、興味、目標、ペインポイントや性格のタイプなどがある。
「これらはすべて、マーケティング戦略に影響を与えうる」と、同氏は話す。
マーケターは、既存顧客と見込み顧客に関する定量的かつ定性的な調査によってデータを収集することで、これらの情報を取得する。これらのインサイトを得るための最良の方法は、調査、フォーカスグループ、そしてインタビューである。
多ければ多いほど良いわけではない
同じ顧客に対して、複数のペルソナを設定することができる。しかし、それは多ければ多いほど良いというわけではない。
「広範囲のペルソナを複数作成するよりも、十分に調査された少数のペルソナを作成する方が有効だ。バイヤーペルソナが多すぎると、最終的にはメッセージが弱くなり、最初のマーケティング戦略に集中できなくなる可能性がある」と、Menesclou氏は説明する。
メッセージ性を低減させうる状況としてマーケターが考慮しなければならないのは、バイヤーペルソナが複数ある場合だけではない。例えば、AmazonやWalmartのマーケットプレイスでは、同じ顧客でもペルソナが異なる可能性がある。
調査によると、WalmartとAmazonの平均的な購入者の人口統計に大きな違いはなく、おそらく両者の違いは収入レベルの問題だけだろうとMenesclou氏は述べる。
「Amazon用のバイヤーペルソナとWalmart用のバイヤーペルソナを作成する場合、セグメンテーションを行いすぎる可能性がある」と、同氏。
例えば、いくつかのセグメントに分類されたバイヤーペルソナは、同様のペルソナに分類される他の消費者を無視してしまう可能性がある。
ペルソナの仕組み
バイヤーペルソナは、マーケティングチームがターゲットとするオーディエンスをよりよく理解し、そのオーディエンスに対して適切なプロモーションを行うためのマーケティングツールとして機能するものである。ペルソナは、企業の販売目標ではなく、顧客の購買の優先順位に取り組むことに焦点を当てている。
ペルソナの原動力は何だろうか。マーケターは、既存のバイヤーや希望するオーディエンスに関する深掘りした調査に基づいて、ターゲットオーディエンスを表す人物の詳細な説明を作り上げる。
ペルソナは、広告コンテンツを適切なインフルエンサーに合わせるのに役立つ。また、ペルソナは、メールやニュースレターをセグメント化する方法、広告キャンペーンのタイミングを計画する方法、そして、適性がない見込み客にマーケティングを行うことでエネルギーを浪費しないための方法を示してくれる。
Amazonでの販売を支援するためのプラットフォームAmifyの創設者兼CEOであるEthan McAfee氏によると、本質的に、バイヤーペルソナは、ブランドが自社の商品を購入する可能性が高い顧客にターゲットを設定することに役立つという。
「例えば、あなたがカリフォルニアに住んでいて、15~40歳であることをブランドが知っているとしたら、中西部に住んでいる70歳の人よりも、サーフボードを購入する可能性ははるかに高いとみなされるだろう」と同氏。
「ブランドは、名前やメールアドレスが分かれば、そのデータを組み合わせて、住んでいる場所、年収、子どもの有無などの多様な統計データを得ることができ、そこから自社商品の購入可能性がある人を絞り込むことができる」と、McAfee氏は説明する。
これらすべての情報をもとに、商品を購入する可能性が5倍、10倍、さらには100倍高い顧客をターゲットにすることができるのだ。
「これはブランドにとって非常に効果的な広告だ」と、同氏は話す。
カスタム・レコメンデーション
バイヤーペルソナは、Amazonや他のオンラインマーケットプレイスなどの販路にとっての主要なマーケティング手法であるとMcAfee氏は話す。例えば、AmazonとFacebookは、他の多くのマーケットプレイスとともに、バイヤーペルソナを使ってウェブサイトに表示される広告のターゲットを絞っている。
「ほとんど誰しもが、ウェブ上で特定の商品を勧める広告を目にしたことがあるだろう。それらのレコメンデーションは、バイヤーペルソナに基づき、人それぞれで異なる」と同氏。
ある人は、Amazonでホッケー用品のレコメンドを受け取るかもしれない。同じ世帯で別のAmazonアカウントにログインしている人は、衣料品のレコメンドを受け取るかもしれない。そうしたことが起こるのは、Amazonが個々人の興味を把握しているからだ。
ペルソナソフトウェアやプラットフォームの開発者は、調査を通じてバイヤーペルソナを作成するプロセスを推進している。だが、そのプロセスをガイドし、ソフトウェアのサポートやサポート資料を提供する十分なソースをオンラインで見つけることができる。
「バイヤーペルソナの作成に利用できる、非常に高機能で高価なソフトウェアシステムがある一方、Facebookや他のプラットフォームは、できるだけ手軽に課金させバイヤーペルソナを作成できるようにしようとしている。例えば、私がヨガスタジオのオーナーである場合、スタジオに来る可能性が高いバイヤーペルソナに適合するような近所の人々を、郵便番号でターゲットにすることができるなどである」と、同氏は説明する。
※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の6/10公開の記事を翻訳・補足したものです。