ユニバーサルIDはCookieの代替品として期待されているが、この分野はまだ未成熟で混乱が続いている。

 

Cookieの代わりとなるものが必要だ。2023年の中頃までにCookieは消滅してしまうからだ。

 

マーケターは、ゼロパーティデータ(ユーザーが広告主に対して意図的に共有するデータ)、ファーストパーティデータやコホート分析をチェックしている。しかし、ユニバーサルID(UID)を忘れてはいけない。

 

最も基本的なこととして、UIDはユーザーを認識し、彼らの情報をまとめ、そのデータを承認されたパートナーと共有する必要がある。標準化された方法や実行方法がないため、それは様々な方法で行われる。

 

「UIDには、主に『認証型』と『推測型』の二種類がある。認証型IDは、メールアドレスのような個別のユーザーデータを使って構築される。推測型IDは、IPアドレスやユーザーエージェント文字列、デバイスモデルのようなデバイスレベルのデータによって作成される」と、ポーランドに本社を置き、アドテックおよびマーテックソフトウェア開発を行うClearcodeのマーケティング責任者であるMike Sweeney氏は説明する。「一部のUIDは、ユーザーレベルとデバイスレベル両方のデータを使ってIDを強化し、照合率の向上に役立てているものもあるだろう」。

 

良い点は、UIDはCookieのない未来へのひとつの道筋であることだ。悪い点は、その道筋が完全に明確ではなく、将来が少しかすんでいることだ。

 

クッキー(Cookie)でないとしたら、クラッカー(データの不正取得)だろうか?

 

CookieにもUIDにも欠点がある。

シンガポールに本社を置く、データトランスフォーメーション企業のEyeotaのプロダクトSVPであるRob Armstrong氏は、「Cookieを設定するすべての企業は、自社のIDを持っており、基本的にライブで情報の交換を行うか、共通のCookieスペースを共有しなければならない」と説明する。「一つのウェブサイトが50社の異なる企業が作成したCookieで埋め尽くされる可能性がある。それが、私たちがこの問題に直面している理由の一部だ」。

 

「サードパーティのCookieを1対1で置き換えるものではないが、UIDはおそらくプログラマティック広告業界が有するCookieに最も近いものである」とSweeney氏。「しかし、UIDには重要な利点がひとつ不足している。それは『規模』だ」。

 

「UIDは、より詳細な情報と引き換えにメールを提供するといった消費者の行動を要求する。一方、Cookieは、ウェブサイトにアクセスするだけでユーザーのブラウザに忍び込める」と語るのは顧客インテリジェンスプラットフォーム、Resonate(本社:米国)のCTOである Tom Craig氏だ。Cookieはユーザーを複数のドメインで追跡できるが、UIDはユーザーが訪問したドメインに限られる。「この欠点は、マーケターが今後のマーケティング戦略を計画する際に、UIDよりも広い視野で考える必要がある主な理由のひとつだ」とCraig氏は語った。

 

ユーザーIDを確立するには認証が必要だ。「通常、ログインにメールアドレスを使う米国では、メールが最も簡単な方法だ」とOracle(本社:米国)のプロダクトマネージメント担当副社長のChris Bell氏は述べた。「アジアでは、それは携帯電話の番号だ」。

 

「変わらなければならない。ユーザーが安心して個人情報を提供できるようにしてほしい」とBell氏は付け加えた。

 

画一的にすべてに対応できるわけではない

UIDはまだ標準化されていない。米国に本社を置き、IDソリューションを提供するLiveRamp、米国に本社を置く多国籍アドテクノロジー企業The Trade Desk、英国に本社を置き、デジタル広告に活用されるIDソリューションを提供するID5は、UID分野でソリューションを提供している多くのベンダーの一部だ。

 

Sweeney氏は、「The Trade DeskのUnified IDによるアプローチは、通常、サイトへのアクセスや追加の資料と引き換えに、顧客から提供されたメールアドレスを使用してUIDを生成している」と説明する。

 

「LiveRamp、Tapad(クロスデバイスソリューションを提供。本社:米国)、 Signal(米国の非営利団体Signal Foundationが提供するオープンソースのメッセンジャーソフトウェア)、 Neustar(クラウドベースのサービスを提供するテクノロジー企業。本社:米国)、 Zeotap(顧客データプラットフォーム。本社:ドイツ)、 Epsilon(広告およびマーテック企業。本社:米国)、 Flashtalking(グローバルで独立系プライマリ広告サーバーおよび解析テクノロジーを提供。本社:米国)といった企業も、メールアドレスを使用してIDを作成しているだろう」と、Sweeney氏は続ける。「しかし、彼らはウェブブラウザのCookie ID、スマートフォンのモバイルIDやIPアドレスなど、さまざまなソースから収集された他の決定論的および確率論的なデータ片も使用するだろう」。

 

Craig氏は、「独自のソリューションは、それだけで成立するような規模にはなり得ない」と話す。「それぞれのサイトが対応可能なソリューションを導入する必要があるが、おそらくそれらのサイトが独自のソリューションを導入することはないだろう」。

 

「標準化することで普及し、設備投資を促す。そして、安定をもたらすが、それが欠けているのだ」とArmstrong氏。「このため、特定の企業は、業界における存在感や、多くの企業が協力している有名企業であることから、より際立ったユニバーサルID態勢を採っているものと考えられる」。

 

多くの企業はほとんどルールがない中で進めている

「UIDの市場は未成熟で、40社ほどのベンダーがソリューションを提供している」とBell氏は指摘する。そのような会社を立ち上げるのは簡単だ。難しいのは「意味のある違いを生み出す」ことだ。

 

成功するには、ベンダーがパブリッシャーと「強力なタッチポイントを持つ」必要があり、結果として、パブリッシャーがその会社のUIDスキームを使用するようにしなければならない、とBell氏は語る。そして、アドテック・プロバイダによる採用を強化する必要がある。これは、マインドシェアを作り出すゲームなのだ。

 

Sweeney氏は、「ユニバーサルIDの標準化が十分でないことは、現時点ではそれほど問題ではない」と言う。「しかし、ユニバーサルIDの数が非常に多いため、相互運用性に関する問題が生じる」。

 

デジタルマーケターが、ひとつのUIDに勝負をかけるには時期尚早だ。UIDソリューションには、決定論的な識別を軸にするものと、確率的な判断に依存するものがある。「何が正解かは現時点ではわからない」とBell氏は話す。もし、競合するすべてのUID企業がその答えを知っていたら、「彼らは皆、その答えを目指して突っ走るだろう」と同氏。「私の仮説では、(ソリューションは)急速に数が絞り込まれるだろう」。

 

絶望して諦めてはいけない

UIDはまだ未成熟である。ベストプラクティスはまだ見つかっていない。マーケターは何ができるだろうか。

 

Bell氏は、「顧客との関係を築き、同意を得た個人データの収集にもっと力を入れるべきだ」と語った。そして、ベンダーの状況に合わせて取るべき方策を決めよう。「ひとつのUIDスキームにすべてをかけるのはリスキーだ」。今後12~36か月の間に状況は一変するだろう。

 

「試練の時であるのは間違いない」と語るのはArmstrong氏。「飛行機から飛び降りる前にパラシュートをチェックしなければならない」。CookieではなくUIDを使用したブラウザをテストし、Cookieを使用した通常のブラウザに対するパフォーマンスを把握してみてほしい。

 

Armstrong氏は、「そこへ至る方法論にも注意してほしい。確率論的であれば、Cookieにより近いものになる。決定論的であれば、大きく違って見えるだろう。そしてその場合、ただ使えるかどうかということよりも、もう少し戦略的に考えることができるだろう」と付け加えた。

 

「まずは、既存のアドテックパートナーと話をして、ユニバーサルIDソリューションのいずれかと統合されているかどうかを確認することが重要だと思う」と、Sweeney氏は語った。

 

Craig氏は次のチェック項目をあげている。

 

・消費者(顧客や見込み客の双方)とどのような相互作用があるか。

・Cookieの廃止後、それらの相互作用はどう識別できるか。

・それらの相互作用からメールアドレスを取得したり、要求したりするチャンスはあるか。

・ビジネスのニーズに最も適したIDプロバイダがあるとすれば、それはどこか。

・自分の会社には、IDのカバー率を上げ、メールアドレスを収集する戦略があるか。

 

「メールとUIDを収集している企業は、運用型プラットフォームと連携し、それらの顧客をターゲットにしたり、リターゲティングしたりできるようになる」と、Craig氏は語った。「そうした企業は、顧客に対してより多くのことを知り、パーソナライズされた行動を取ることができるようになる。UIDの収集がなければ、マーケティングはコンテキストやコホートベースのターゲットに限られ、すべてのパーソナライゼーションは過去のものとなってしまうだろう」。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の5/23公開の記事を翻訳・補足したものです。