技術者にも一般人にも繰り返し伝えていることだが、この2年間でデジタルの状況は一変した。多くの人が同じフレーズ、あるいは他の似たようなフレーズを聞き飽きていると思われるが、eコマース・プラットフォームを持つ企業にとっては特に重要なことだ。

 

eコマースの新時代を迎えるにあたり、企業が関連性を保つための方法は数多くある。すべてのeコマース・プラットフォームは、最新流行商品を提供し、クローラブルでモバイルフレンドリーなサイト構造を備え、24時間体制の顧客サービスを確保しなければならないと言ってもよいだろう。しかし、何よりも、強力なサイト内検索を提供することが、顧客を維持し収益を上げるための最大の要因の1つとなり得るのである。

 

優れたサイト内検索機能によって、いくつかの簡単なキーワードをもとに、消費者を目的の場所へ素早く導くことができる。ますます多くの小売業者は、収益とブランド認知度の向上に努める中で、現在のプラットフォームを見直すようになっている。

 

妥協を許さない消費者を満足させる

オンラインショッピングの利用者は、テクノロジーに精通しているだけでなく、自分が何を求めているのかを知っている。彼らは、最初にクエリを入力した際、パーソナライズされた関連性の高い検索結果が表示される事を期待する。サイト内検索によって、企業は何百万もの追加収益を生み出すことが可能となり、消費者がコンバージョンする確率を1.8倍に向上させることができるため、ペースの速い消費者に対応するための最適なツールの1つである。

 

しかし、悲しいことに、多くの企業が認識しているように、強力なサイト内検索機能を開発・維持することは、口で言うほど易しくはないのだ。

 

平均的なサイト内検索エンジンは、曖昧な検索単語の解釈、スペルミスの修正、ユーザーエラーの解釈などにおいてうまく機能していない。2021年の調査によると、全世界の消費者の94%が過去6カ月間に小売業者のウェブサイトで検索した際に、無関係な検索結果が表示されてされた、また、85%は検索結果が悪かったためにそのブランドに対して悪い印象を抱いたと回答している。

 

不十分なサイト内検索体験は、ただちに、顧客がウェブサイトを放棄することにつながる。米国の市場調査Harris Poll調査によると、米国小売事業者のサイト放棄による損失は、年間3000億ドル以上となり、大きな問題となっている。

 

AIが救う

そこで登場するのが、AI(人工知能)だ。検索プラクティスにAIを活用する企業が増加している。機械学習は、クリック、カートへの追加、サインアップ、コンバージョン、購入などのデータを活用し、関連性だけでなく検索結果のランキングを向上させることが可能だ。

 

例えば、「iPhone」という検索ワードで20種類の結果が出たが、閲覧されているのは6番と8番の結果だけである場合、AIはその2つの製品を検索結果の上位に表示すべきであることを学ぶ。

 

消費者のトレンドが時間と共に変化しても、AIは過去の販売状況や消費者のプロファイルに基づいて検索結果を継続的に調整する。これは、Googleが時間の経過とともに検索結果を改善する方法と似ている。つまり、より関連性の高い結果が上位に表示されるのだ。

 

過去20年間、GoogleやAmazonなどの企業は、何千人ものデータサイエンティストや検索エンジニアからなるチームを作り、驚くべきAI機能を設計してきた。両社とも、数百万人のユーザーを持つ巨大なデータセットを対象としたAI機能を設計している。

 

ほとんどの企業は、社内に専門知識を蓄積するためのリソースを持たず、AIアルゴリズムをより洗練するための同じ量のトラフィックも持っていない。しかし、幸いにも、新しいサイト内検索ソリューション・プロバイダーによって、より一般的なeコマースのユースケースに対する非常に強力なサイト内検索が提供されている。

 

従来の検索エンジンでは、検索結果のランキングや整理を手作業で行うことが可能だが、AIの方がはるかに正確で、労力も少なくて済む。AIモデルは、ウェブサイトと消費者のコンテキストを解釈することができるため、ほぼ瞬時に正確な結果を提供することが可能だ。ユーザーがキーワードのスペルを間違えたり、無関係なクエリを入力したりしても、AIを搭載した検索エンジンは、関連性のある結果を提供することができる。

 

AIを活用したパーソナライゼーション

検索の関連性とランキングが高い水準で運用されていれば、高いレベルのパーソナライゼーションが実現できる。

 

パーソナライゼーションは、一部のAIを搭載した検索エンジンが提供できる付加的なメリットの1つだ。消費者の83%は、ショッピング体験にある程度のパーソナライゼーションを期待している。つまり、自分のニーズや過去のショッピング行動によってカスタマイズされたデジタルジャーニーを期待しているのだ。

 

AIを活用した検索は、パーソナライズされた検索結果やレコメンデーションを提供することができ、平均注文数量を増加させ、ユーザー満足度がさらに向上する。例えば、顧客が過去にiPhoneを購入したことがあるか、iOSデバイスでサイトを閲覧していることが分かっている場合、「ヘッドフォン」や「スマホケース」の検索結果をApple関連商品でパーソナライズすることが可能だ。

 

データが多ければ多いほど、AI搭載の検索によってスマートな商品レコメンデーション(おすすめ)を行うことができる。過去の購買行動、最近の検索履歴、プロフィール属性(性別など)、あるいは、位置情報などのブラウザベースのIP属性などのデータが使用できるのだ。

 

ベクトルベースの結果

AIを活用した検索のもう一つの注目すべき要素は、ベクトルベースの検索結果だ。

 

ベクトル検索は以前からあったが、キーワードベースの検索に比べて速度が遅く、なかなか普及しなかった。しかし、新しいテクノロジーの登場により、その状況は変わりつつある。ベクトルは、企業が同義語を作成・管理する必要性をなくし、ロングテール検索や症状ベース検索などをサポートすることができる。

 

例えば、簡単な例として、ジャケットは、コート、パーカ、プルオーバーと呼ばれることがある。従来、オンラインショップでは、訪問者がどのキーワードを使用しても欲しいものを見つけられるように、同義語を作成したり、タグなどのメタデータを追加したりする必要があった。しかし、ベクトルベースの技術によって、それも過去のことになる。

 

まとめ

AIがなければ、企業は自社検索エンジンのパフォーマンスを高い水準で維持するために、並々ならぬ努力をしなければならない。ほとんどの検索エンジンは、手作業で書かれた検索ルールとアルゴリズムに基づいて運営されている。そのため、検索エンジンのポテンシャルを最大限に発揮させるためには、ルールを常に更新する必要がある。いうまでもなく、この方法では、しばしば不正確な結果を招く。

 

最近では、GoogleとAmazonがオンラインショッピング市場を独占している。これは、この2社が何万人ものデータ科学者と検索エンジニアを雇い、業界をリードする製品を前例のない速度で販売・流通させることができるからだ。

 

小売事業者は、AIを活用した検索を導入し検索プラクティスを強化することで、グローバルマーケットプレイスに対抗できる強力なプラットフォームを構築することが可能となる。

 

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の1/11公開の記事を翻訳・補足したものです。