拡張現実(AR)などのテクノロジーを活用したより充実した体験の提供など、消費者が実店舗に求めるものはさらに増加している。

 

SNSアプリのSnapchat調査によると、2020年の長期にわたるロックダウンの後、約半数の消費者は、外出して実店舗で買い物をしたいと考えていた。しかし、来店する消費者の実店舗体験に対する期待は、果たして以前より高まっているのだろうか。実店舗を有するブランドのマーケターは、デジタルとフィジカルのハイブリッド体験(Uberallはこれを「フィジタル」と呼んでいる)をどのように生み出すかを考えるべきだ。

 

このような期待は、特に、実質的な購買力を有しつつあるZ世代の消費者層の増加から予想される。しかし、全般的にみると、顧客が新しいインストアテクノロジーを取り入れるには時間がかかる可能性がある。

 

高い期待

AT&THBO Max(米国の定額制動画配信サービス)は、実店舗に対し、拡張現実(AR)やその他のテクノロジーで充実化された体験など、より多くを期待している消費者を重視している。「我々AT&Tの小売店は、イノベーションを実現するための素晴らしい場所だ」と、AT&Tの小売・スペシャルエクスペリエンスマーケティング担当副社長のJeannie Weaver氏は述べる。

 

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「新たな形式のインターフェースやインタラクション、リアルタイムのビジュアライゼーションツールやプラットフォーム、そして、あらゆるものを処理するコンピューティングパワーの純然たる速さは、個人や大人数のグループのいずれをも、信じられないほど熟考され、洗練されたデザイン体験に引き込むための有意義な手段であることが証明されている」と、米国のエクスペリエンスデザイン企業HUSHの共同設立者であるDavid Schwarz氏。

 

昨年、同社は、AT&TやWarnerMedia(米国の総合メディア企業)と協力して、モーションキャプチャや顔認識を、消費者がHBO Maxのコンテンツを探索するためのインターフェイスとして使用する、対面型小売店での体験を提供してきた。「HBO Max Orbitでの体験は、まさにそれを具現化した素晴らしい事例であり、顧客やファンが大好きなキャラクターと触れ合える具体的な方法を提供することができた」とWeaver氏は話す。このインスタレーションは、SXSW(毎年3月に米国テキサス州オースティンにて開催される世界最大級の複合フェスティバル)でデビューし、 その後2021年末までに、サンフランシスコ、シカゴやダラスのAT&T Discovery District内の厳選されたAT&Tストア数店で展開される。

 

「音声や顔によるトラッキングと同種のユニークなインタラクションを利用して、新しいエンターテインメント作品の特別な公開カットにアクセスできるというアイデアは、SXSWの戦略だった」とSchwarz氏。

 

対面型店舗では、HBO Max Orbitセットアップにより、来店者はあらゆる動きや顔の表情を使ってディスプレイを操作し、HBOテレビドラマシリーズの「ゲーム・オブ・スローンズ」や「フレンズ」などのヒット作品を含むHBO Maxライブラリのコンテンツにアクセスすることができる。

 

 

また、来店者には、体の動きを使ってハードウェアを操作する方法を説明するイントロダクションが用意されている。「来店者は、何か特定のものを探すのではなく、取り込まれた幅広いコンテンツを見て回ることで、HBO Maxの世界を探索することができる。すべてが非常に直感的になっているのだ」と、HBO Maxのブランドマーケティング担当上級副社長のJason Mulderig氏は語る。

 

「Orbit体験の根本にあるのは、ユニークで遊び心のあるインタラクションを通じて、顧客と豊富なコンテンツとの間に、スピーディーでリアルタイムなつながりを作り出すことだった」とSchwarz氏は述べる。「もちろん、HBO Maxで『フレンズ』のどのエピソードも見つけることはできる。しかし、小売業や体験の観点からは、HBO Maxの異なる20の作品シリーズに登場する20人の登場人物全員が同じ”I love you”のセリフを言っていたり、彼ら全員が一度は完全に同じポーズをとっていたりすることを見つける方が、はるかに面白いのだ」。

 

「顧客が関心を持つのは、裏方で動作している特定のテクノロジーではなく、そのテクノロジーが顧客自身の実体験にどのように現れるかということだ」と、同氏は付け加える。

 

つながりを保つ

パンデミックの間に、顧客は非接触型の支払いや商品の受け取り、事前の来店予約など、店内でのデジタルな体験に少しずつ慣れてきている。

 

消費者にHBO Max Orbitの体験に参加してもらうためには、同じようなデジタル設定が必要である。また、それによって、AT&TとHBO Maxが顧客とのつながりを保つことができる。「ゲストには、HBO Max Orbit体験に参加するための予約情報(QRコード)がメールで送信される。これにより、HBO Max Orbitが、顧客のインタラクションをもとにカスタムメイドした、共有可能な動画を提供することができる」とMulderig氏は述べる。

 

ハイライト動画は、HBO Maxのファンにとって記念となり、ソーシャルメディアで友人にブランドへの親近感を伝える手段となる。しかし、この飽和したデジタル生活圏では、特定の場所にトラフィックを生み出す直感的で感覚的な体験を作り出すことが重要視されている。

 

今後のブランド戦略は、HBO Max Orbitの勢いに乗って、他の体験を取り入れていくことだ。こうすることで、興味を持ったファンは、見逃さないように何度もリピートすることになるだろう。「HBO Max Orbitは、我々が最近開始した5G+を利用した体験の一つに過ぎず、今後さらに増える予定だ。実際、AT&Tは、2022年初頭までに、5G+を導入した30以上の直営店を始動させようとしており、より多くの顧客にこうした体験を提供できるよう取り組んでいる」とWeaver氏。

 

「顧客は、自宅では同じようには手に入らないものを店舗で見つけようとしているのだ」と、Schwarz氏は語る。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の8/12公開の記事を翻訳・補足したものです。