モバイルアプリは、便利でユビキタス(すっかり死語となったが)なものである。そして、人々がブランドと交流するための中心的な手段となりつつある。
ただし、アプリを提供しているでは不十分だ。モバイルアプリは、モバイルデバイスのエコシステム上に存在するため、人々は、アプリがユーザーフレンドリーで、すぐにアクセスできることを期待している。アプリが、ユーザーを惹き付け、維持するためには、シームレスでシンプルかつ直感的なエクスペリエンスを提供する必要がある。
今回は、モバイルアプリやカスタマーエクスペリエンス(CX)分野の専門家に取材を行い、アプリデザインを成功させる要因と、アプリの今後の方向性について意見を求めた。
Moxtra(デジタルチャネルソリューションを提供する米国企業)の最高ブランド責任者であるLeena Iyar氏は、「CX(カスタマー・エクスペリエンス)は、企業がどこに拠点を置くかにかかわらず、顧客との確かな関係を維持することができるため、ブランドの将来にとって不可欠なものだ」と語った。
「eコマースアプリに関して考慮すべき重要なことは、顧客に価値を提供することだ。つまり、顧客があなたのビジネスに対する他のエンゲージメントで得られるであろう価値と、同等のものを提供すべきだということである」。
「顧客は、アプリで素晴らしい体験をすれば、そのアプリをあなたのビジネスと対話するための専用チャネルとして使い続けるだろう。アプリが顧客にとって便利であればあるほど、ビジネスに対する顧客のロイヤリティは高まるのだ」とIyar氏は語った。
結局のところ、アプリのデザインは、顧客を惹き付けるだけでなく、顧客を維持するものなのだ。
Mobiquity(デジタル製品やサービスを設計・提供する米国デジタルコンサルタント企業)のカスタマーエクスペリエンス担当シニアディレクターであるBritt Mills氏は「eコマースアプリをデザイン・実装する際には、CX(カスタマーエクスペリエンス)を考慮することが重要だ。これは、満足度の低いエクスペリエンスは、文字通り収益の損失、それどころか、顧客の損失につながるためである」と説明している。
「アクセシビリティ、柔軟性、および利便性への期待の高まりが、eコマースアプリのCXにおいて、ますます重要になってきている」と、Mills氏は付け加えた。
KISSの原則
アプリは、おそらく他のどのデジタルインターフェースよりも、人々を惹き付けるためにシンプルで使いやすいものでなければならない。
「Keep it simple,(シンプルにせよ)」と、NerderyのチーフクライアントサービスオフィサーであるArpit Jain氏は語った。「複雑なエクスペリエンスを望む人はいない。極めてシンプルにし、顧客が何かを購入する際に、その体験をナビゲートすることをあまり考える必要がないようにするべきである」。
アプリがシンプルであればあるほど、透明性が高く感じられ、ユーザーは、アプリが自分のデジタルライフの延長であるという感覚を持つのだ。
「eコマースアプリをデザイン・構築する際には、常に人間の視点から始めることが重要だ」とMills氏は述べている。
「第一に、顧客がアプリに何を求め、何を必要としているかを特定することから始める」と同氏は提案した。「次に、ユーザーがシンプルかつ楽しめる方法で目的を達成できるようなエクスペリエンスをデザインする。個人のデータや購入傾向を活用したパーソナライズされたオファーは、ロイヤルティ向上とリピーター獲得の鍵である」。
楽しくする
アプリデザイナーは、アプリを魅力的にするための新しくクリエイティブな方法を模索しているが、その手法の1つが、ゲーミフィケーションをデザインに取り入れることだ。
(アプリ内ストーリーを介してユーザーにパーソナライズされたエクスペリエンスを提供する)InAppStoryのCEOであるVladimir Lastovsky氏は、「誰もがゲームが大好きで、賞品が大好きだ。だからこそ、多くのB2C企業は、大規模なプロモーションにおいて、より多くのユーザーを惹き付けるためにゲームの仕組みを試している。ゲームプレイとアクション関連のブースト広告を融合することでメリットが得られる」と語った。
「たとえば、ユーザーが、商品を購入したり、連絡先を提供したり、または、ソーシャルシェアをしたりすると、賞品を獲得するチャンスが増える。私たちの経験から、アプリ内ゲームは、30%以上のユーザーを取り込むことができるため、顧客とのコミュニケーションのための唯一無二のエンゲージメントツールとなっている」。
ストーリーズなどのコンテンツを組み込むことで、ユーザーを惹き付け、アプリ内での関心を維持することもできる。
「CXは、今日、ブランドが差別化を図るための主要な方法の1つである」とLastovsky氏。「今日の激しい競争の中、ユーザーは、高品質の製品やサービスを得るだけでは満足しない。ユーザーは、オンボーディング、サーフィン、チェックアウトの際には、より多くの優れたエクスペリエンスを必要としている」。
「ストーリーズは、大多数の顧客にとって、なじみのあるネイティブなCXをもたらす」と、同氏は認めた。「今日のInstagramのユーザーは、フィードよりもストーリーズに多くの時間を費やしている。ストーリーズの豊富なビジュアルフォーマットにより、多くのエンゲージメントを獲得し、ユーザーの注意を引き付け、結果としてビジネスが必要とする方法でコミュニケーションをとることができる。ストーリーテリングのフォーマットは、プロモーションキャンペーン、製品機能、ライフスタイル、エンターテインメントについて語るための理想的な形といえるだろう」。
データを活用する
アプリは、企業にユーザーに関する豊富なデータを提供する。そして、そのデータを活用して、ユーザーにとって有意義なエクスペリエンスを作成することができるものだ。
「広大かつ競争の激しい市場で、ブランドは、独自のヒューマン・エクスペリエンスを生み出し、進化する顧客の期待に応えようと努力している」と、Tealium(リアルタイムマーケティングサービスを展開する米国企業)の製品戦略責任者であるSav Khetan氏は語った。
「顧客データは、顧客体験と顧客維持において大きな役割を果たす。データは、顧客が何を望んでいるかをブランドが把握し、顧客がオンラインまたは店舗のどちらで買い物をする可能性が高いか、また、どの取引が顧客にとって最も魅力的かを予測するのに役立つ」と語った。
ただし、これらのデータを収集し利用する場合でも、そのプロセスについて、ユーザーに対して透明性を確保することが重要だ。
「ブランドは、強固な顧客関係を維持するため、データ収集について透明性を保つ必要がある」とKhetan氏はアドバイスする。「自身のデータがどのように使用されているかを顧客が理解する、価値交換マーケティング戦略は、透明性を保ち、顧客体験を向上させるための最良の方法の1つである」。
「個人データが、どのように、そして、なぜ使用されているのかを事前に顧客に伝えることで、顧客がブランドとデータを共有する可能性が高まるのだ」。
今後の展望
アプリは絶えず進化しており、変化する顧客の要求や期待に対応する必要がある。それは、顧客が何を望み、何を必要としているかを理解することを意味している。
Miva(米国の個人向けeコマースショッピングカートソフトウェアおよびホスティング企業)のプロフェッショナルサービスおよびカスタマーサクセス担当バイスプレジデントであるMegan Stillerman氏は、「エンドユーザーが誰であるか、また、彼らにとって何が重要であるかを確実に知ることで、彼らの生活を楽にし、彼らのビジネスをさらに安定させるより優れた機能をデザインできる」と述べている。
「これは、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)を活用したクロスチャネル・パーソナライゼーションへの急速な移行、B2BとB2Cのショッピング体験の融合、Amazonをはじめとする大規模なマーケットプレイスとの購入支出額獲得競争において、マーチャントがコンバージョンやAOV(平均注文額)を高めるために行うグロースハック(部門をまたいで高速で分析、検証する横断的なマーケティング手法)を支援する必要性など、私たちが目の当たりにしているトレンドの原動力となるだろう」と、Stillerman氏は結論付けた。
※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の7/2の記事を翻訳・補足したものです。