Chromeブラウザのサードパーティ・トラッキングクッキー廃止を2023年後半まで延期するGoogleの決定は、業界を驚かせた。しかしそれは、実際に驚きだったのだろうか。アドテクノロジー業界の関係者は、このニュースをどのように受け止めたのだろうか。
Jonathan D’Souza-Rauto氏(メディアエージェンシー、Infectious Media社ビダブル・プロダクト責任者)
「Googleによるサードパーティ・クッキー削除プロセスの延期決定が、デジタルメディア業界の多くの人にとって驚きではない理由は数多くある。代替案であるGoogleのプライバシーサンドボックスの開発は、期待されていたスピードでは進んでおらず、その一部に関しては多くの疑問が残っているといってもよい。特に欧州では、Googleが開発中のクッキー代替技術であるFLoC(Federated Learning of Cohorts)を用いたプライバシーサンドボックスは、GDPR準拠に関して問題を抱えており、同社が、特定の市場でしか使用できない製品をリリースするはずはない。もしGoogleが、以前のサードパーティ・クッキー削除スケジュールを守っていたら、Google広告製品をChromeから切り離すという約束を実行する必要があるが、それも、ゆっくりとしたペースで始まっている。また、現在Googleは、規制や法律の面で厳しい監視下に置かれている。このような状況では、延期が理にかなっているのかもしれない」。
「私が懸念しているのは、クッキー消滅がスローモーションで起こることにより、デジタルオーディエンスへの新しいリーチ方法を生み出さなければならないという広告主の切迫感が薄れてしまうのではないかということである。今回の延期のニュースが、代理店や広告主に古い悪習慣を維持する正当な理由を与えないよう願っている」。
Joanna Catalano氏(デジタル・ビジネス・プラットフォーム、Piano社チーフグロースオフィサー)
「パブリッシャーやブランドは、当然のように『よかった、これでしばらくは心配しなくてもいい』と安堵のため息をつくかもしれない。しかし、実際は全くそうではない。プライバシーの確保とトラッキングの抑制を求める消費者と規制当局の本質的な動向は、現在も少しも変わっていない。ユーザーは、自分のデータとその使用方法をコントロールしたいと考え、規制当局は、彼らのプライバシー保護を強化・拡大することを約束している。
パブリッシャーやブランドは現在、今回の延期を利用して、個人IDや適切な個人情報を共有することに前向きな、エンゲージメントとロイヤルティが高いユーザーを基盤とした強固な戦略を立てることができる。匿名ユーザーと既知のユーザー、ダイレクト広告とプログラマティック広告など全体に有効な多面的戦略を熟知し実行できる技術的および戦略的パートナーを見つけることは、即座に価値を生むだろう。ブランドは、この延期期間を、Googleへの依存度を下げ、検索広告とデジタル広告を強固に維持する機会と捉えるべきである。そのためには、繰り返しになるが、パブリッシャーとブランドは、ユーザーとの直接的な関係を築き、広告とマーケティングにおいて多様なテクノロジーソリューションを構築しなければならない」。
Fred Whitton氏(プログラマティック・ソリューションを提供するTotal Media 社 デジタルパートナー)
「GoogleがCookieの廃止を延期したことは、マーケターや業界にとって複雑なニュースである。一方で、クッキーに混乱を強いられているマーケターやデータソリューションプロバイダーに対し、それは刑執行の猶予期間を与えた(アドテック企業の株価はすでに上昇している)。しかし、これはオープンウェブのよりプライバシーを重視したモデルへの有意義な再構築を遅らせており、特に、現行フォームのテストが7月に終了する予定のFLoCアプローチにとって、問題となるだろう。データ管理と広告供給において公平な競争条件を確保する必要があり、今回の延期とCMA(英競争市場庁)の調査との因果関係は注目すべきである。総合的に考えて、これはデジタルメディアの次の章へ移行を遅らせる新たな要因となっている。また、ブランドによる消費者とのより深い関係構築のための投資を継続する必要性を低下させるべきではない」。
Tim Sleath氏(アドテック企業、VDX.tv社プロダクトマネジメント担当副社長)
「プライバシーサンドボックス・イニシアチブの準備状況、FLoCに対する規制や商業上の疑問、そしてインターネット上の大多数のパブリッシャーが有意義な変更を求めていることを考慮すると、以前から、切り替え時期を2022年後半まで遅らせる必要があると考えられていた。Googleが、打ち切り前に、まずW3C(Web技術の標準化を行う非営利団体)プロセスへの対処を完了し代替案を準備していなかったことは残念ではあるが、それには多くの理由がある。広告エコシステムの大部分は、すでにサードパーティ・クッキーレスの状態を忠実に守っており、今回の延期についても祝福や緩和ムードとなるべきではない。むしろ、マーケターは、利用可能なクッキー・データシグナルを引き続き使用し、ハウスホールド(世帯別)などの他のアイデンティティソリューションを強化することが重要である。そして、そのために、さらに18ヶ月の猶予が与えられるのであれば、歓迎すべきことである」。
Richard Jalichandra氏(B2Bテック・マーケットプレイス、Spiceworks Ziff Davis社グローバル・ジェネラル・マネージャー)
「当然Googleは、常にクッキー廃止計画を延期するつもりであったし、そうせざるを得なかった。今回の延期は驚くべきことではない。それよりも、『いつ発表するのか、どれくらい遅らせるのか』という点が重要な問題だった。延期しなければ、今、Googleの周りで起こっている独占禁止法に関する議論が加熱しただろう。また、Googleのクッキー廃止によって何万ものパブリッシャーやeコマース企業が大きな影響を受けることを考えると、計画を立てるための十分な時間がなければ、エコシステム全体が崩壊していただろう」。
Konrad Feldman氏(アドテック企業、Quantcast社CEO兼共同設立者)
「今回の延期のニュースを聞いて安堵のため息をつき、人員やリソースを他のプロジェクトに再配置する準備をしているCEOやブランドリーダーは、考え直した方がいいだろう。Googleは、サードパーティ・クッキーおいてさらなる時間を必要としたかもしれないが、ブランド、エージェンシー、パブリッシャー、テクノロジー企業は、長期的な代替策を見つけることに集中すべきである。そうすれば、2021年後半で実行すべき猛ダッシュを、2023年前半で強いられることを回避できる。また、SafariやFirefoxなどのオープンインターネットでは現在、すでにサードパーティ・クッキーの代替手段を必要としている部分が多く存在する。ポストクッキー・ソリューションは、今回のGoogleの延期にかかわらず、現時点において価値がある。Quantcastは、健全な業界標準に基づいて、サードパーティ・クッキーに代わる革新的で相互運用可能なソリューションの開発に引き続き注力していく」。
Todd Parsons氏(オンラインディスプレイ広告会社、Criteo社チーフ・プロダクト・オフィサー)
「Googleの発表は、活気に満ちた健全なオープンインターネットを頼る人々にとって歓迎すべきニュースである。業界に準備期間を提供するというGoogleの決定を評価するが、Criteoの戦略が、期限の延長による影響を受けることもないし、変更されることもない。当社は、クライアントがサードパーティの識別情報を使用せずにオーディエンスにリーチし、エンゲージするための製品開発を続けている。これには、ファーストパーティ・メディアネットワークへの投資、コホートベース・ターゲティング、Googleのプライバシーサンドボックスへのイニシアチブ、コンテクスト広告などが含まれる。これらすべては、マーケターが、プライバシーセーフ、かつ、同意を得た上で、効果的に顧客と関わることを目的としている」。
Kasper Skou氏(ターゲティングソリューション提供会社、Semasio社CEO兼共同創業者)
「Googleの延期決定のニュースは、業界全体にとっては喜ばしいが、インターネットユーザーの主な識別手段であるサードパーティ・クッキーからの脱却を阻害するものではない。クッキーは、消費者とのコミュニケーション、データとコンテンツの交換条件の説明、バリューチェーンを通じたインフォームド・コンセントの収集、保存、伝達における公平な交換の促進において、そして、これらすべてをユーザー(使用中のデバイスでなく)中心に実行するための良い手段とはいえない。
誰もが口には出さないが、現在、インターネットユーザーの40%は、クッキー経由で識別することができない。データ駆動型広告の未来に向けて、すでに始まっている素晴らしい取り組みを継続しなければならない。そして、エコシステムにおいて、消費者に十分な情報を提供し、彼らを対等なパートナーとすることを前提に実行しなければならない」。
Alexander Knudsen氏(アドテック企業、Amobee社ソリューションエンジニアリング担当VP)
「Googleのサードパーティ・クッキー廃止の延期は、責任ある決定である。パブリッシャーと広告主の双方にとって素晴らしいニュースであり、今回の延期措置により、すべての関係者に利益をもたらすスケーラブルなソリューションをベースとする提携のためのより良い環境が整うだろう」。
Anne Hunter氏(オーディエンスインサイト・プラットフォーム会社、DISQO社 プロダクトマーケティング担当VP)
「Googleはマーケターに時間的な猶予を与えているかもしれないが、消費者は待ってはくれない。消費者は今、自分の個人データの使用に関する透明性と価値を求めている。クッキーを使用し続ければ、ダメージが深刻になるだけだろう。クッキーは、不完全な測定ツールであることに変わりはなく、マーケターは、ゼロパーティのデータソースを使用して、完全な同意を得て消費者の行動を完全に把握するべきである。最終的には、クッキーへの過度な依存によって、ブランドの目的と消費者の価値観がずれてしまう危険性がある」。
Raquel Rosenthal氏(ガバナンス・ソフトウェアプロバイダー、Diligant社CEO )
「デジタル広告業界全体は、今夜はぐっすり眠れるだろう。しかし、広告主が長く立ち止まることはないと考えている。今回の延期は、あくまでも延期であり、主に、FLoCに対する最近の批判に対応し、業界関係者がクッキー廃止に向けて十分な準備をするための期間である。今後2年間、広告主は間違いなくサードパーティ・クッキーを最大限利用し続けるだろう。しかし、(ようやく)クッキーレスの代替手段となるIDや測定方法に関するテストや習得の勢いが加速されるだろう。最終的には、今回の延期と最近のiOSにおける変更の結果として、業界関係者と消費者の双方にとって有益な新しい広告ソリューションと規制が生まれることを期待している」。
Dmitri Lisitski氏(B2Bマーケティングプラットフォーム、Influ2社共同創業者兼CEO)
「Googleは、代替手段を導入しクッキーを “ハック “しようとしている。Googleが言う”代替手段 “とは、レスパーソナルで、より行動に基づいているものである。しかし、導入した代替手段は、実際にはCookieと何ら変わらないものであり、クッキーが消滅すれば、主な収入源が広告であるGoogleにも悪影響を及ぼす。
クッキーとは実質的に異なる代替手段や新しいソリューションが必要である。しかし、今のところ、理想的ではないにせよ、クッキーが最良の選択肢である。なぜなら、ターゲットを絞らないアプローチは、よりひどく、広告主と消費者の両方の広告体験の質を低下させるからである。それゆえ、最終的には、クッキー廃止は時期尚早であり、今回の決定はすべての人(特に、Facebookのような最大手を含む広告プラットフォームにとって、)にとってメリットがある。そして、広告主はもう少しだけ生き延びることができるだろう」。
Bruce Biegel氏(広告コンサルタント、Winterberryグループ シニアマネージングパートナー)
「今回の延期は、広告市場(とGoogle)に、適応するための時間を与えるための休止措置だと考えている。Appleの変更により生じる課題が解決されるわけではない。そして、今回のニュースは既存のアドテクノロジーのデータ、ID、DSPエコシステムにとって有益であるが、同時に、市場は州レベルでの新しい規制の取り組みと戦わなければならず、短期的な市場の変革は、推進されるだろう。この件については、まだまだ続きがあるだろう」。
※当記事は英国メディア「Mobile Marketing Magazine」の6/25公開の記事を翻訳・補足したものです。