カゴ落ち(カート放棄)に対するプログラムの最適化には、あらゆるタッチポイントにおいて、ブランドが発する言葉や口調がブランドヴォイスと一致している必要がある。

 

最近、クライアントのメールプログラムの監査で、その企業が数年間、カゴ落ちメールのプログラムを更新していないことに気付いた。それは、デジタルマーケティングのタイムラインでいえば、何光年も放置しているようなものである。

数ある問題の中でもとりわけ、メッセージテンプレートがブランドを表現するものではなくなっており、明らかにいくつかの必要な最適化が実行されていないことが分かった。

残念なことではあるが、これは珍しいことではない。我々は、メールプログラムをセットアップしたのに、そのことを忘れてしまう。それは、メールプログラムが、我々がメールに関する日常的な問題に取り組んでいる間にバックグランドで実行されるものであるからだ。

今、「カゴ落ちメールを、最後にチェックしてからどれくらい経っただろう?」と考えていることだろう。不安に感じるのは正しい。

カゴ落ちメールプログラムはB2Cの問題と考えられているが、ダウンロードや登録といったプロセスを開始するものの、それらを完了しないといったケースにおいて、B2Bプログラムにも当てはまるだろう。B2BとB2Cのいずれであろうとも、カゴ落ちに対するメールはブランドが送信できる最も有効なトリガーメールの1つであることから、その自動化についてしっかり把握しておく必要がある。

 

なぜカゴ落ちメールは重要なのか

カゴ落ちに対する適切なリマインダーを提供することにより、強い購入意図を示した人にリアルタイムで接触することができる。これは、非常に有効である。

しばらくの間、カゴ落ちメールを確認していない場合には、本記事のアドバイスを読み進め、自社の発信するメッセージをアップデートしてほしい。そして、メッセージが、ブランドメッセージと合致すること、画像が最新であること、リンク先や電話番号が有効なものであること、そして、メッセージがモバイルで正しく表示され、機能することを確認すべきである。

 

まずは、少し過去の話を

ずいぶんと進歩を遂げたものだ。かつて、カゴ落ちメールは、送信自動化を実現した最初のメッセージの一つであった。

Omniture(2009年にAdobe Systemsにより買収された米国のオンラインマーケティング企業)のような企業は、過去24時間以内にカゴ落ちしたすべての人の連絡先を含むファイルを配信していた。そして、その情報を取り込み、翌日にカゴ落ちのリマインダーを送信できるよう、プロセスを自動化する方法が見出された。

 

デザイン、送信するタイミング、メッセージのコンテンツなどの詳細についても試みが行われた。こういった話は聞いたことがあるだろう。

その後、2000年代初めに、SeeWhy(米国のマーケティング企業。現在はSAPが母体)という企業が、翌日配信されるファイルを待つのではなく、マーケターが1時間以内にカゴ落ちメールを送信できるようなテクノロジーを発表した。

なぜ、1時間という設定がそれほど重要だったのだろうか? それは、同社が、カゴ落ち後の最初の1時間にレスポンス率が最も高いことを見出したからだ。それによって、信じられないような大変動が引き起こされた。

大儲けすることを考えよう!

テクノロジーと思考のリーダーシップが我々に示したことは、ダイレクトマーケティングにおいて、ある特定の事柄をどれほど懸命に検討したとしても、我々が思いついていないことや他の考え方が必ずや存在するということだ。

要は、既存の枠組みにとらわれずに考えることであり、それこそがSeeWhyがやったことである。同社は、現在でも有効なやり方で、メールの自動化と思考を再定義したのだ。

 

カゴ落ちメールプログラムを最適化する5つの領域

カゴ落ち対策メールを送信する32%のマーケター(英国のマーケティング企業Econsultancy2019 年版”Email Census”「閲覧には要登録」による)の一人であるとしたら、それは、素晴らしいことである!さっそく、あなたのプログラムが、確実に最大の生産性と効率性をもって実行されているかどうかを確認するためにチェックすべき5つの領域を見てみよう。

 

1.タイミング

SeeWhyは、最初のカゴ落ちメールプログラムを送信するまでの時間を24時間から1時間に変更した。しかし、だからといってそれを採用し、リマインダーを1時間に設定し、それ以上は気にしないというわけではない。

あらゆるビジネスは異なっており、業種や顧客も異なる。顧客は、1時間より早く、もしくは、1時間以上経ってから送信されたメッセージに対してもっとよいレスポンスをする場合もあるだろう。顧客の期待とデモグラフィック(人口統計学的な属性)を考慮して、最適な時間を見つけるためにテストを行うのだ。

最初のメールを1時間で送信するように設定しているとしたら、それはなぜなのか?誰かが、その時間がベストだと言ったのか、それともそれを自分でテストしたので、そうしているのだろうか?ちょっとした微調整によって、結果に大きな違いが生じえるのだ。

あるクライアントでは、3通のメールのタイミングを変更しただけだが、コンバージョン率(ウェブサイト訪問者のうち、そのサイトで商品を購入した率を示す指標)は、継続的に増加し続けている。些細な調整で、大きな変化をもたらすことができるのだ。

ミレニアル世代のオーディエンスは、5分以内にそのリマインダーメールを見たいと思うかもしれない。年配の顧客にとっては、1〜2時間後でもいいかもしれない。

 

2.値引きするか否か

Acxiom(米国のデータベースマーケティング企業)では、さまざまな収入層の買い物客がどのようにファッション商品を購入するかを研究した。そこから知得した結果は、誰もが何かを購入するよう促されるには「値引き」が必要であるという、従来の小売業の考え方に反論するものであった。

むしろ、2つの最も有効なコホート群(ユーザーのグループ)は、「わたしに似合うかどうか?」と「ブランドは何か?」によって、動機付けられていたのだ。

 

カゴ落ちメールについては、値引きをすべきかどうか「テストする」必要がある。他のすべてと同様、それは、ブランドエクイティ、顧客、商品の品揃えやその他の要因によって決定すべきである。だが、誰もが値引きを求めるわけではないのだ。

 

ただし、購入を促すインセンティブとして値引きコードを使う場合には注意すること。目の肥えた買い物客は、カゴ落ち客を呼び戻すために永続的な値引きを提供するサイトについて、知っているからだ。それゆえ、彼らは10〜20%の追加値引きを求めてカートを意図的に放棄する。彼らは、それが手に入ることを知っているのだ。

 

そうして、企業は、売上を得ることができるが、利益を不必要に犠牲にしているのだ。

 

ある小売企業は、ウェルカムメール(会員登録した顧客に送信するメール)に値引きを含めることが購入を促進するかをテストしたところ、割引はそれほど重要ではないことが分かった。

独自のテストを設定し、値引きがより多くのカゴ落ち客を呼び戻すか、消費者のニーズに影響を与える割引率、そして、一連のメールの中でどのメールがにおいて値引きが最も効果的となるかを確認するのだ。

 

3.メールにおけるブランドヴォイス

注:以下すべてのメールは、筆者個人の受信トレイから紹介している。筆者は、登場する企業のいずれとも関連はない。

 

カゴ落ちメールは、受信トレイで3つの一般的なことを伝えている:

・手助け:メールには、「どうしましたか?」とある。人々が、カートを放棄する理由の一つは何かが起きたからだと認識しているのだ。買い物客が、他のことに気を取られる。呼び鈴が鳴る。赤ちゃんが泣く。犬が外に出たがったり、家に入りたがる。あるいは、他の商品の買い物を続けたいか、「今すぐ購入」ボタンをクリックする前に購入について考えたいのだ。これらのメールでは、「何かお困りの場合には、お電話いただければお手伝いいたします」とある。これらは、B2Cでも機能するが、B2Bでは非常に効果的である。

 

 

・事実:「カートに商品が残っています。入れ直してください。」という、中立的な口調のメール。消費者からすると、これらのメッセージは効果がなく、時には怠惰であると感じられる。マーケターからすると、カゴ落ちメールは、ブランドヴォイスをチャンスに満ちたメッセージで表現する絶好の機会である。これらのメールには、事実が記載されているものの、買い物客がカートに戻る理由を与えたり、問題の解決や質問への回答を手伝うことはない。

 

 

・取引完了の推定:これらのメールは、より断定的であり、旅行やホスピタリティ業界で頻繁に目にするものだ。メールでは、取引の完了を求める代わりに「ナッシュビルに行く用意はできましたか?」や「今日、その旅行を予約しましょう」と言ってくる。重要なことは、取引の完了だけではなく、どこかに行くことの興奮を伝えることにある。また、これらのメールは、顧客が強い購入意図を有しており、あとは、ただクリックするだけであると推測しているのだ。

 

 

 

カゴ落ちメールで使用する言葉と口調は、ブランドヴォイスに合っている必要がある。自社のマーケティング戦略における、他のすべてのタッチポイントでどのようにコミュニケーションをしているかに目を向けてほしい。それは、カゴ落ちメールに反映されているだろうか?

 

4.オンライン広告

これは、より頻繁に目にするものであり、迷惑なものである。一つ目は、閲覧履歴の基づくリマーケティングである。小売店のウェブサイトで食洗機を閲覧すると、その後訪問するあらゆるサイトで食洗機の広告が表示される。

もう一つは、カートに入れた商品を使って広告を行う会社だ。「カートに忘れ物をしていますよ」という意味ではなく、そのストアのスペシャル商品として紹介するといったものだ。誰もが、これが自分のウェブサイトの閲覧履歴によるものであると分かっているし、騙されることはない。

オンライン広告とカゴ落ちメールを組み合わせたら、どのような効果があるだろうか?より多くのカートの決済に有効だろうか?ソフトセル(商品の特徴を間接的な表現で訴求する販売手法)を用いてみてほしい。カートの商品と当たり障りのない商品を組み合わせることにより、メールが不快で迷惑なものにならないようにするのだ。

 

マーケティングチャネルでできることをすべて活用して、レスポンスを最大化するのだ。これには、ダイレクトメールも含まれる。

 

5.テストの繰り返し

20年前に学んだこと、そして、今日でも覚えておくべきことは、カゴ落ちメールは画一的なプログラムではないということだ。タイミングから言葉まで、多パターンの一連のメールをデザインすべきである。それは、困難なものとなりえるが、すべての不確定要素を正しくするための重要なプログラムなのだ。

 

レスポンス率を上げるのに役立つ可能性のあるすべての要素に目を向け、徹底的にテストすることだ。「これが正しく設定されていると分かっている」と、確信して言える必要がある。

 

また、テスト計画を作成し、それからテスト結果のログを作成する必要がある。どの方法を選択したにしろ、成功に向けた準備が整ったことが分かるよう、適切にテストを実行することが重要だ。

 

これらのメールのデザイン、テストや時間設定については、一冊の本を書くこともできるほどなので、これは、なしうることの最重要事項ということではない。それは、始まりなのだ!

 

ここから始めよう:

  • カートに入っている商品の画像付メールと画像なしメールのテスト
  • さまざまなレベルのパーソナライゼーションのテスト
  • 送信するメール数のテスト
  • 最初のカゴ落ちリマインダーを送信するまでの時間のテスト
  • 頻度のテスト-送信されるメール間のタイミング

 

また、総収益だけを見るのではなく、それぞれのカゴ落ちメールから得た収益を評価することだ。

 

終わりに

カゴ落ちメールプログラムは、金のなる木だ。これは、バックグラウンドで実行され、日々お金を稼いでいるプログラムであり、収益ミックスに不可欠なものである。これらのメールが最適化されていることを確認し、正しい軌道を保つよう、それらに目を向け続けることだ。

そして、覚えていてほしい。21世紀も、もう2020年代が始まっている。カートを離脱した顧客の日々のファイルを取得するために、もう真夜中まで待つ必要はない時代なのだ。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の3/12公開の記事を翻訳・補足したものです。