無数に存在するeコマース企業向け売上増加戦略の中で、「プレオーダー(先行予約)」は最も見過ごされやすい戦略の一つかもしれない。しかしプレオーダー販売は、早い段階でのバズ(インターネット上の大きな話題)を生み出すことができ、新製品の需要を喚起するのに非常に効果的な方法なのである。

 

「プレオーダー」とは、現時点では購入できないが近いうちに一般発売される商品に対する先行受注のことを意味する。その商品は、まだ開発途中かもしれないし、すでに製造され梱包も完了しているが、店頭にはまだ並んでいないだけかもしれない。

 

小売業者は発売予定の新商品について、興奮や欠乏感をあおるために商品の発売を実際のところ控えているだけということも。プレオーダーは、自動車(Tesla)やエレクトロニクス(AppleとSamsung)、ゲーム(任天堂からセガに至るまで全パブリッシャー)など、さまざまな業界の事業者が採用してきた実証済の戦略なのである。

 

次に、eコマース企業がどのようにプレオーダー戦略を活用し、売上増加を達成できるかを紹介しよう。

 

 

1.ビッグイベントを仕掛ける

ブランドは通常、主要製品の発売を強化するために、プレオーダー・マーケティング戦略を利用する。主要製品カテゴリの1つに属する小型アクセサリー製品の新発売のために、発売前、もしくは発売時期に、何ヶ月もの労力を費やすことは効率的ではない。

 

目指すべきは、自社のフォロワー(インフルエンサーとプレスも同様)間に、新製品に対する期待と欲求を生み出し、オンライン注文が可能になったと同時に、顧客をプレオーダーに飛びつかせることである。なおプレオーダー戦略は、主力製品の発売時に実行するのが理想的だ。

 

Appleは、このプレオーダー戦略で非常に高い効果をあげている。最新のiPhone、iPad、MacBookをはじめ、すべての主要製品の発売に先立って、魅力的な製品情報を慎重に小出しにしていく。その後、ジャーナリストやVIP向けにメディア向けイベントの招待状を送付し、「何かすごいことが起きるだろう」と期待させるのだ。

 

たとえば、iPhone 7搭載のカメラ機能の新改良をほのめかすために、プレス向け招待状の背景には、焦点が合っていないカメラ画像がデザインされた。イベント自体は、主力製品についての新発表の場となり、報道合戦を引き起こしている。

 

このような過剰宣伝の結果、先行販売期間中にわずか10分で完売したiPhone Xが証明しているように、前例がないほどの需要が生み出されているのである。

 

もちろん、ほとんどのオンライン事業者は、Appleと同レベルの注目を集めることはできない。それでも、発表内容をeメールではなく印刷物で送付したり、最新製品をオフラインイベントで公開したりすることで、Appleの過剰宣伝戦略を小規模に再現することは可能だ。

 

パーティーを開催するもの効果的である。自社のCEOまたは創業者を登場させ、影響力のある報道関係者やブロガー、VIP顧客を招待し、製品のローンチに参加させるのだ。発売初日には、「限定数のみの販売」とすることで、商品が極めて希少であり自分だけが特別に購入できる、という幻想をつくり上げることができる。

 

要は、銀行強盗をしなければならないほどの(大規模な)資金も必要がなく、実現不可能で高尚な目標を目指さなくとも、Appleの戦略からは見習うべき方法が多数あるということだ。Appleのコンセプトのみを採用し、自社のニーズに合わせて適切な規模に縮小して実行すればよいということである。

 

2.新商品発売の数ヶ月前からマーケティング活動を実行する

プレオーダー・マーケティングキャンペーンを成功に導くために最も重要な期間は、製品がプレセールで購入可能になった後ではなく、キャンペーン開始日でもない。

 

実際には、プレオーダー発注期間迄の数か月で、新製品ローンチキャンペーンの成否が決定する。eコマース企業が新製品の発売前に行うことは、発売後に実行するほとんどのことより、全体的な売上に与える影響がより大きいのである。

 

オンライン事業者は、プレオーダーの受注開始日よりずっと前にマーケティングを開始しなければならない。ほとんどのキャンペーンでは、大体の目安として6ヵ月間のリードタイムが必要である。インフルエンサーやプレス関係者にコンタクトを取り、新製品についての情報を提供しなければならないからだ。

 

既存顧客には、何か刺激的な商品が発売されることを認知させ、発売までのプロセス(詳細な製造過程、出荷時間、プレビュー、舞台裏の公開など)に関する情報を常にアップデートして提供する必要がある。定期的なeメールマーケティングも、既存顧客の好奇心を持続させるために不可欠である。

 

プレオーダーページが公開される前に、制作したコンテンツをニュースレターやソーシャルメディア、ブログ(自社または第三者を問わず)で配信し、製品に対する認知と興味を高めなければいけない。

 

例えば、著名なメディアストラテジストであり著者のRyan Holiday 氏は、自著「The Obstacle Is the Way:The Tripleph to Triumph」を6週間で3万部売り上げた。

 

同氏は、ゲスト投稿やポッドキャストを含むコンテンツマーケティングを重視し、プレオーダー購入者には、デジタルダウンロード特典を提供した。

 

さらに、有料メディアも、うまく使えばプレオーダー獲得に非常に効果的である。Glowforgeは3Dレーザープリンタを市場に投入する際、FacebookとGoogleの広告を活用して30日間で約2,800万ドルのプレオーダーを獲得した。Facebookの擬似オーディエンス機能、リマーケティング広告、およびプロダクトビデオを融合的に活用したGlowforgeのマーケティングミックスは、著しい成功を収めたのだ。

 

3.魅力的なバンドル販売を行う

プレオーダー・マーケティング戦略で非常に重要なことは、自分自身が特別なクラブに属しているような感覚を顧客に提供することである。例えば、プレミアム製品のアップグレード、送料無料、またはVIP顧客が他の誰よりも先にプレオーダーできるなど、通常購入者が得ることのできない特典を提供するといったことである。

 

特にゲームブランドは、プレセール・マーケティング戦略を芸術的に発展させ、すべてのビックタイトルのリリース時には、熱狂的ファン層をプレオーダーバンドル(セット販売)に飛びつかせる事に成功した。ゲームブランドのバンドル戦略には、レアなコレクターアイテム、デジタルボーナス、またはプライベートなライヴイベントへのアクセスの提供が頻繁に行われる。

 

ゲーム業界のバンドル販売は、プレオーダーを促進する効果があることを、Yale School of ManagementのVineet Kumar教授とCarnegie MellonのビジネススクールのTimothy Derdenger教授が行った調査研究が示している。

 

「バンドル戦略には、顧客に通常より早い時期に購入させるという、予想外の効果がある」と両氏は言及する。

「特に、家庭用ゲーム機や特定のゲームに高い価値を感じていない消費者は、ハードウェアの価格が下がるのを待つ。しかし彼らは、家庭用ゲーム機の割引とゲームソフトへの早期アクセス特典の両方を提供するバンドルディスカウントには飛びつく」と、両氏は指摘。「この早期購入へのシフトは、ゲーム購入の可能性のあるタイムラインの長期化につながり、結果としてゲームの売上総額が増加する」と話す。

 

もちろんバンドルは、ゲーム以外の市場でも機能する。例えばSamsung は、Galaxy Note 8スマートフォンのプレオーダーの際、バンドル販売として無料のGear 360カメラまたは充電パッドを提供した。

 

またLEGOは、Harry Potter拡張コレクションのプレオーダーに、12種類の商品をバンドル販売している。

 

さらにDave Matthews Bandも、最新アルバムリリースにおいて限定Tシャツと毛布の商品バンドル販売を行なった。

 

4.オンラインストアを、トラフィック急増に備える

先行販売キャンペーンの前にマーケティング活動を実施していれば、プレオーダー受注1日目にはサイトトラフィックの急増が予想される。これは喜ばしい問題のように思えるかもしれないが、新製品のまさに発売日にオンラインストアがダウンすることは、絶対に避けたいことであるはずだ。

 

一番望ましい状況は、マーケティング施策によって、サイトのトラフィックが著しく増加することである。そのため、ローンチキャンペーン初日からその後数日から数週間において、トラフィックの急増に対応できるようeコマースインフラを整備しておく必要がある。

 

適切に実行されたプレオーダー・マーケティング戦略は、商品発売日に向けて需要を生み出すための起爆剤となるように時間と労力を費やし、発売日後、しばらくしてから報われるものである。

 

重要なことは、プレオーダー戦略を成功させるためには、数週間ではなく、数ヶ月前から努力をする準備する必要があるということだ。プレセールの売上急増を達成するための基礎を築くには、プランニングとアウトリーチ、そして一貫したマーケティング活動を組み合わせる必要があるのである。

 

多くのeコマース企業が、ある商品を発売し、一夜にして成功を収めているように見えるかもしれない。しかし裏では、プレオーダー戦略を最大限活用したロングテール戦略が実行されているのである。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の9/10公開の記事を翻訳・補足したものです。