導入が進むチャットボットはECサイトの未来をどのように変えていくのか

 

2016年頃から市場に登場してきた「チャットボット」。2017年になりかなり実用的なサービスの登場やサイトへの導入なども進み、一気にECサイト運営やデジタルマーケティング業界にも浸透してきた。しかしまだまだチャットボットがどのようなもので、どのような可能性があって、どのようにEC業界を変えていく可能性があるのかがなかなか分かりにくい人も多いだろう。そこで今回は、そのチャットボットがECサイトをどのように変えていく可能性があるのかを考えていく。

 

 

チャットボットの定義とできること

 

チャットボットとは、人工知能(AI)を活用して自動対応する会話型プログラムのことを指す。チャット=対話型、ボット=ロボットを組み合わせた用語だ。技術進歩によって現在では、高度なチャットボットになると人間はチャットボットと通常の会話をしているような感覚になるくらい自然な応答が可能となっている。またその人工知能にどのような学習をさせるかによって、更なる裾野の拡大が考えられる分野だ。そのようなチャットボットだが、サービス導入の流れはEC業界にも押し寄せてきており、ECに関する業務や、マーケティング領域などでチャットボットの導入が始まっている。

 

 

ECサイトへ導入されている各チャットボットサービスの状況

 

このようなトレンドの中、現在市場には多くのチャットボット関連のサービスが勃興してきている。ここでは、ECサイトへの導入が可能なチャットボットサービスを30個ピックアップし、そのサービスの現状を見ていく。

 

※ログインして頂くとeccLab編集部で調査したサービス一覧(エクセル版)をダウンロードすることが出来ます。
※アカウント作成する方は、作成後再度このページへアクセスしてダウンロードしてください。

 

各サービスともリリースからそれほど時間が経っていないこともあり、数十から100社程度の導入数に留まっているサービスがほとんどだが、4サービスが1,000アカウントを超えている。Repl-AIが4,000アカウント、hachidori(hachidori plus)が3,500アカウント、続いてチャットプラスが3,200アカウント、chamoが2,900アカウントとなっている。

チャットボットのサービス費用は幅広く、数千円程度のものから、高いものだと100万円を超えるサービスもある。また、チャットボットの特性上、LINEやMessengerを始めとするSNSなどの多くの関連ツールとの連携が可能となっているものが大部分だ。

 

これらを導入に至るまでのシンプルさと、導入先の規模別にセグメントに分けて見てみよう。

 

当然のことながら大規模で技術的ハードルの高い右上のセグメントと、小規模向けで導入の技術的ハードルが低い領域にサービスが集まっている。テクニカルになればなるほどできることは多いが費用が上がってしまうため、自社にチャットボットを導入する際にはどのくらいの機能が必要なのかを選択することが重要だ。それでは、導入アカウント数の多いサービスや、上図の各セグメントの代表的なサービスを見ていこう。

 

 

チャットボットサービス

 

Repl-AI

株式会社NTTドコモとインターメディアプランニング株式会社が手がける簡単チャットボット作成ツールがRepl-AI(レプルエーアイ)だ。国内トップクラスの導入数で、アカウント数は4,000を超える。

資料をダウンロードする

ルールベースと機械学習を組み合わせたAIチャットボットで無料利用可能だ。

docomo Developer supportでAPI連携することができ、外部の様々なサービスと連携が可能。例えば、商品情報などのリアルタイムに変化する情報もチャットボットから回答させることができる。

プログラミング技術が不要であり、誰でも簡単に作成できることを強みとしているが、複雑な要件の場合はチャットボットの作成をRepl-AIビジネスパートナーとともに制作することができる。

横浜市の資源循環局の事例は、めざましテレビなどのニュースにも取り上げられた。以下で実際の画面を触ることができる。他チャットボットと比べて、レスポンスが速いことも特徴的だ。

▼チャットボット導入事例

横浜市資源循環局ホームページ

 

hachidori(hachidori plus)

hachidori株式会社が手掛けるチャットボットサービスhachidiriは、国内最大のチャットボットツールで、開発実績は3,500件を超える。

hachidori

開発から運用までをひとつの管理画面で行うことができ、より便利にチャットボットの運用を行えることが強みのhachidori。小規模な個人ユースに対応しているhachidoriと、比較的大規模ユースのhachidori plusの2系統のサービスを展開している。

各顧客属性毎に分析することで、チャットの返信や広告運用に至るまで各顧客に対して最適化を図ることができるのがhachidoriの強みだ。例えば住所・関心の対象など顧客ごとに属性を持たせることで、それらの顧客属性ごとにチャットボットの返信を変えることも可能。また、チャットボットが正しく応答できなかった問い合わせを参考にし、対応パターンを増やすことによって、チャットボットを成長させることが出来る。また、アナリティクス機能も充実しており、特定の会話した顧客、居住地域、行動履歴、属性から最適なコンテンツを配信することができる。

 

チャットプラス

チャットプラス株式会社が提供するチャットプラスは、導入のしやすさが売りのチャットボットツールだ。

わずか1分でIDを発行し、JavaScriptのタグを埋め込むだけで、3分でチャットを開始することが可能。デフォルトでおすすめの設定がされるため、面倒な設定をすることなく即時利用可能である。そのため誰でも簡単にサービスを利用することが出来る。

チャットプラスの特徴的な機能の1つがチケット機能だ。「チケット」とは、ユーザーの問い合わせを管理する質問票のことで、担当者がいないときや、一度のチャットで解決できないような要件に対して、質問内容を確実に受け取り、整理するために問い合わせ内容を管理するものだ。チケット機能を活用し、確実にメールや電話でのフォローを行い、抜け漏れのない対応が可能になる。また、チケット解決後にはアンケートを実施し、満足度調査を行うこともできる。解決に要した時間と、満足度調査を併用することで、サポート全体の品質管理を行える。

顧客とのやり取りをチャットだけで終わらせるのではなく、メールや電話といった対応を加えながらトータルでサポート管理をし、サービスの質を向上させることができるチャットボットサービスといえるだろう。

 

qualva

株式会社PROFESSYが手がけるqualva(クオルバ)は資料請求、予約、電子決済と顧客サービスを一括して対応できるチャットボットだ。 bot004

背景パターンも15色と豊富で、画像と組み合わせることによりLP(ランディングページ)を簡単に作成できる。全てのデバイスに対応しており、あらゆる方向から顧客のコンバージョンに向けて施策を打つことができる。再帰ユーザーへの入力内容復元、多言語対応や音声案内など、機能が充実している。

qualvaの特徴はそれだけではない。取得したデータを社内システムに連携させ、リアルタイムで情報を可視化できる。ダッシュボード環境の構築もサポートが受けられる。コンバージョン獲得に向けて、データ分析や運用サポートなど、総合的なコンサルティング支援も対応しているため、相談しながら導入や運用を行っていきたい企業には向いているサービスだろう。

 

DialogPlay

ユーザーに寄り添うチャットボット、この育成に力を入れることができるのがTIS株式会社のDialogPlayだ。

同様プログラミング不要で、手軽にチャットボットを作成できる。Web上にマニュアルがあり、アプリケーション公開方法まで網羅されている。24時間365日対応の自動応答チャットボットを作成し、ユーザーの回答内容に合わせて人間のオペレーターへ引き継ぐこともできる。LINEボットにも連携できるため、「いつでも」「どこでも」柔軟に対応したい企業にとってはうってつけだ。

料金プランも豊富(TRIAL、LITE、STANDARD、ADVANCE)、かつ明示されているため、企業規模に合わせた構築が可能である。まずは無料トライアルで作成環境を試してみて、それから導入を検討しても良いだろう。

 

AI Messenger

チャット機能のカスタマーサポートを全面的に支援してもらいたいと考えるならば、株式会社AIメッセンジャーが手がけるAI Messengerが有用だろう。

株式会社サイバーエージェントが設立したAI Labと連携し、自然言語処理に基づいた独自の会話エンジンを搭載している。また、企業のWebサイト上のやり取りに加えて、SNSメディアに対応しており、24時間365日、多様なチャネルにて、リアルタイムに問題を解決することができる。

沖縄にはチャットセンターを構えており、チャットボットとのハイブリット活用も可能だ。シナリオ設計から改善運用など、導入に関わる過程全体をサポートするコンサルタントチームも存在し、手厚いサポートでユーザー満足度の向上、離脱率の改善・CVRの最大化を売りにしている。

 

 

これからチャットボットがECサイト運営で担っていくであろう役割

 

このように多くのサービスが市場には溢れているが、これからECサイトの運営においてチャットボットはどのような役割を持っていくのだろうか。基本的には、今まで「人」が行っていたことの肩代わり、そしてそれを高度化した業務というところが一番FITするだろう。また、ここでいう「人」というのはECサイトの運営者だけでなく、ECサイトを訪れたユーザー側も該当するだろう。

 

顧客対応

まず、既に現時点で多くのサービスが導入事例として謳っている「顧客対応」領域がハードルが最も低く、EC事業者側もユーザー側もメリットが一番大きい部分だろう。送料や商品についての基本的な質問など、約80%の問い合わせはごく一部の質問に集中することが多いため、それを少しでも減らす目的での導入が考えられるだろう。ECサイトによく掲載されているFAQに取って代わり、それをよりインタラクティブに高度化したものだと捉えることができるだろう。

 

<参考>

2020年までにカスタマーサービスの4分の1がチャットボットを利用

 

サイト検索

従来は検索窓を用意して、ユーザーにキーワードを入力させて結果を返すという方法が主流だったECサイトにおける検索。しかし多くのユーザーは検索するのが面倒だと感じて離脱しているケースも多かった。チャットボットの導入で、対話形式でユーザーの知りたいことを丁寧に回答することが可能になり、さらにページの右下などに窓口を常駐しておくことで、より問いかけやすくなるというメリットも期待できるだろう。

 

アンケート

受け身の「検索」というスタイルだけでなく、ユーザーの行動履歴などと照らし合わせることで、商品の提案という、かゆいところに手の届くサービスへの昇華も期待できるだろう。また、ユーザーへの簡単な質問をチャットボットが投げかけ、それに簡単に回答する、それを繰り返していくことで、ユーザーの望む商品やサービスを提案するようなスタイルの確立も考えられるのではないだろうか。

 

<参考>

ユニクロ、AIチャットボットが商品案内するコンシェルジュサービス「UNIQLO IQ」開始

 

在庫確認・配送状況確認

在庫データや受発注データと連携させることで商品の在庫情報や、購入した商品の配送状況などを伝えることも可能になるだろう。在庫情報であれば、いちいち問い合わせるのが面倒で離脱していたユーザーの離脱を防ぐことも出来るなど、リードタイムを減らしリアルタイムに対応することでEC事業者とユーザーの双方にメリットが出てくるだろう。また、配送状況についても配送番号の入力などの手間をかけなくても回答することが可能になるなど、今まではユーザーに1アクションをさせて当然と考えられていた領域にも次々とメスが入っていくのではないだろうか。

 

購入

最終的な購買までチャットボットで行ってしまうという事例は既に海外では登場してきている。オランダの航空会社KLMではチケット予約をチャットボットで完結し、米国のドミノピザではFacebookメッセンジャー上でオーダーを完結するなど購買の最終段階までチャットボットで対応している。現段階ではある程度定型的なオーダーがメインの業種に限られているが、この流れが今後加速し、ECサイトという構造自体を見直す根源的な改革が行われる可能性もあるだろう。

 

<参考>

【欧州】KLM、メッセンジャーチャットボットでのチケット予約開始

【米国】Domino’sピザ、Facebookメッセンジャーでの完全オーダーボットを発表

チャットボットの普及で「会話型EC」が当たり前になる日は近い?

 

 

ECサイトの未来をどのように変えていくのか

 

チャットボットを単なる自動接客ロボットと考えるのは非常に危険だ。ルーティーン、面倒なことなどを中心に肩代わりをしている「今」の活用方法だけでなく、チャットボット同士による連携や、AIの進化により、さらなる進展が考えられる。検索窓が変わり、コンタクトセンターが大幅縮小し、システム構築していた機能が置き換わるなどの変化だけでなく、究極的にはECサイト自体の存在がなくなるという可能性も否定できないところまできていると言ってもいいだろう。「昔はサイト上でナビゲーションメニューをクリックして欲しい商品を探していたんだよ」、と昔話が語られる日がやってくるのもそう遠くない未来かもしれないのだ。