EC物流の最大のボトルネック「ラストワンマイル」を海外ではどのように乗り越えているのか

 

宅配事業者が請け負っている、「ラストワンマイル」といわれる、各営業所から消費者の自宅までの最後の物流。ここは今やEC物流の最大のボトルネックになってきていると言っても過言ではないだろう。国内では今年春先のヤマト運輸の値上げ報道をはじめ、多くの歪みが生まれてきており、問題が表面化してきている。今回はそのような「ラストワンマイル」物流を、海外でどのような取り組みでクリアしようとしているのか最新事例と共に見ていきたい。

 

<参考>

疲弊した世界に誇る繊細かつ高度な物流・宅配システムを救え - 今、EC業界としてやるべきこと

限界を迎えた日本の物流システムが行うべき変革

 

 

ラストワンマイル物流はなぜそこまでボトルネックになっているのか

 

ラストワンマイル物流はなぜそれほどまでにボトルネックとなっているのか。最大の問題点は宅配ドライバー・トラックの不足と、それの主要因の1つとして挙げられる再配達問題となるだろう。国土交通省による平成27年度の調査によると、再配達は総宅配数のうち約20%、全訪問回数に対する再配達訪問回数は19.1%、再配達の距離は総走行距離のうちなんと25%も占めている。これは環境に悪いといった問題はもちろんのこと、サービスのコストとしても非常に大きなものとなってしまう。年間の労働力に換算すると9万人の労働力に匹敵するとの試算にも繋がってきている。その結果、宅配ドライバーの労働環境の悪化や、残業代の未払いなどの付随的な問題が発生。そして回り回って宅配ドライバーが魅力的な職業に見えにくくなっている、という形でドライバー不足を招いているという構図だ。

 

 

海外におけるラストワンマイル物流の改善ソリューション

 

それでは、海外で取り組まれているラストワンマイル物流を見ていこう。世界中のソリューションを見ていくと、マッチングやシェアリングエコノミーなどの「オンデマンド型配送サービス」と、AIや無人配送などの「ロボット型配送サービス」の2つの種類に分けることができる。

 

オンデマンド型配送サービス

オンデマンド(要求に合わせてサービスを提供する)型は荷物の送り手の配送したいという要求に合わせて運搬する人やトラックなどを用意するものだ。「シェアリングエコノミー」という言葉で、表現されることも多く、今話題の「Uber」などもこの型に該当する。Uberは、目的地まで送って欲しいという利用者の要求に対してドライバーを用意するサービスであり、その手軽さや便利さから利用する人も多い。

 

Lalamove

香港発でオンデマンド物流サービスを提供してい物流界のUberともいわれる、Lalamove

lalamove

2013年に、Lalamove社の前身であるEasyVanが創立され、2014年には名前をLalamoveへと変更、資金調達を繰り返し、2017年10月、新たに1億ドルもの資金を調達するなど、ますます成長を続けている。現在、中国の50都市や、香港、シンガポール、タイ、フィリピン、台湾の東南アジア6都市で幅広く展開している。総ドライバー数は世界で200万人とも言われている。

Lalamoveは、ドライバーと荷物の送り手をマッチングさせるサービスを提供。送り手にとっての利用方法は非常に簡単だ。車種(トラック、バン、バイクの3種類)を選び、配達ルートや、配達の日時、配達住所や荷物の大きさといった情報を指示通り記入するだけで、登録が完了する。非常に簡単なステップで利用ができ、ドライバーの情報が共有される点や、GPS機能により現在荷物がどこを運送されているのか、リアルタイムで知ることのできる点が、非常に便利である。オプション機能として、荷物配送の助手を付けることができたり、エクスプレス便、冷蔵配送も可能だ。

Lalamoveは、様々な国で多くの企業と提携を行っている。その中でも注目したい提携は、タイで提供されている「LINE MAN」というサービスだ。これは、「24時間いつでも日常生活をサポートする」をコンセプトとした、オンデマンド型アシスタントアプリである。タイで利用している人の多い日本のコミュニケーションアプリ「LINE」と、タイの大手レストラン情報サービス「Wongnai」と提携することで実現。荷物の配送や、フードデリバリーといった、日常生活で必要なちょっとした手伝いを得ることができるものだ。

 

GoGoVan

同じく香港を拠点に活動しているサービスでは、他にもGoGoVanが挙げられる。

こちらも2013年6月にサービスを開始し香港だけでなく、中国、韓国、台湾、シンガポール、オーストラリアなどでサービスを展開中だ。こちらはLalamoveよりも法人企業が利用するケースが多くなっている。

 

Roadie

アメリカのアトランタに拠点を構える、Roadieは、自家用車を持っているドライバーと荷物の送り手をマッチングさせるサービスだ。

roadie

Roadieは、Lalamoveと非常に似たようなサービスといえる。送る荷物は小さなお菓子から、家具、ペットまで配達可能。保険が500ドルまでかかっており、追加料金を払うことで1,000ドルまで増額が可能である。2015年3月からはアメリカ全土を対象にサービスを提供しており、より活動の幅を広げている。

 

Uber Freight

アメリカを拠点に活動しているサービスでは、他にもUber Freightが挙げられる。

Uber Freightは今年開始されたUberの貨物版ともいうべきサービスだ。トラックで運びたいものがある人・企業が、アプリに登録されている運送会社やトラックドライバーを探し、荷物の種類や目的地、料金などの条件が合えば運送を依頼するというもの。わずか数タップで依頼できるという非常に簡単なサービスだ。運送会社やトラックドライバー側のメリットも多く、業務の費用支払いが迅速に行われるようになっており、しかも手数料も発生しないのだ。今後Uberは買収した自動運転トラックのOttoの技術と連携させていくことでさらなる新しい未来を切り拓いてく可能性が高いだろう。

 

Amazon Flex

Amazon Flexは、自家用車を持っているドライバーがAmazon Prime Nowの商品を宅配するサービスだ。

amazon-flex

Amazon Flexが他のサービスと大幅に異なる点は、隙間時間を先に見つけておいて、働きたい時間を申請しておくというシフト制だということだ。2時間、4時間、8時間のブロックに分けられており、1日最大12時間まで働くことが可能だ。時給18ドル~25ドルであり、日本円にすると約2,000円~2,800円と、なかなかに高額である。2015年にシアトルで開始したサービスであり、2015年時点では、今後活動場所や、配達業務を増やしていくという方針ではあったが、実際に拡大しているかは定かではない。しかし、現在もサービスの提供は続けている。

 

オンデマンド型配送サービスのメリットとしては、個人・法人共に、空いている時間での配送となるため、ドライバーを手軽に始めることができる点だ。また、ドアトゥドアのサービスが基本のため、今までは梱包が難しかったり、運ぶのが大変だったものも、預けることができることも使い勝手がいいのではないだろうか。一方、デメリットとしては、配達のスケジューリングやルート調整が、法人ニーズの場合は特に複雑になってくるため、システムで単純に管理することが困難であることだ。また、Uberでは、ドライバーと顧客のトラブルにより、サービスを停止しなければならない場所もでてきてしまっているため、ドライバーの数は必要であるが、いかに質の良いドライバーを用意するかといった仕組みも対策が必要だろう。

 

 

ロボット型配送サービス

ラストワンマイル物流を、人間以外のもので補うという取り組みは非常に先進的で夢を掻き立てられるものだ。世界中の先進企業がこのロボット型の配送サービスの開発に取り組んでいる。無人ロボットが街中を動き回る世界を想像してほしい。かつてSFの世界でしか存在しなかったものが、今現実の世界となろうとしていることを肌で感じることができるだろう。

 

Kar-go

Kar-goは、イギリスで開発されているAIとセンサーによる周辺認識能力により無人化を実現した宅配ロボットだ。

kar-go

舗装された道であれば、住宅地や、標識のない道路においても走行が可能である。様々な荷物に応じて荷室を変えることができるという、非常に優れた機能を持っている。実際にKar-goが実用化された場合、現在人が行っているラストワンマイル物流の90%をKar-goがカバーすることができるという。

Kar-goを開発したのは、イギリスのギルドフォードに拠点を構えるロボット企業、Academy of Roboticsである。公道テストなどを終え、2017年6月に発表された。現在は同じくイギリスに拠点を置く自動車メーカー、Pilgrim Motorsと協力し、合法的に公道を走行可能な車両の量産を目指している。

 

Starship Technologies

エストニアに本社を置くStarship Technologiesが作るデリバリーロボットは、自動運転を主とし、人間のオペレータによる遠隔操作を組み合わせたものである。

starship

半径5km圏内はロボット単体での走行が可能であり、この範囲内であれば5分~30分で配達可能。18kgまで配達が可能である。受取人は、スマートフォンで荷物がどこを走行しているのかリアルタイムで確認することができ、ロボットが到着した際は、スマートフォンに送られてきたコードにより受取人だけがロボットの蓋を開けることが可能だ。

 Mercedes-Benz Vansと提携し、「Robovan」というバンの開発も進めている。これはバンにたくさんのロボットを乗せ、目的地付近まで行き、そこからロボットが各目的地まで配達する、というもの。より効率的な配達が可能だと考えられている。2017年夏には、ドミノ・ピザがデリバリーロボットを利用するということを明らかにしており、ピザの配達にロボットが使われる日は、そう遠くない未来かもしれない。

 

Amazon Prime Air

Amazon Prime Airは、無人小型操縦機であるドローンを利用して商品を運ぶサービスである。恐らくこのジャンルのサービスで最も世界中の耳目を集めているサービスだろう。

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このドローンは最大5ポンドまでの商品を30分以内に運ぶ。2015年に飛行許可を取得し、2016年にはプライベートトライアルまで行っている。しかし、その後実際にサービスとして提供するまでの段階には到達しておらず、実用化される日はまだ遠いと考えられる。ドローンは空を飛ぶため、天候の問題、落ちてきたときの事故の問題など、様々な問題を抱えている。そのため、地上を進むロボットよりは実用化が先だと考えられている。

 

ロボットによる配送サービスのメリットとしては、環境に良いという点が挙げられる。自動車やバイクといった配送手段よりも、ロボットの方がよりクリーンであるケースが多い。また、コスト削減にも繋がる。人件費という点はもちろん、本当にロボットがほとんどのラストワンマイル物流を担当するようになった場合、コストが1/10に減るとも言われている。一方デメリットとしては、実用化されるまで非常に時間がかかるという点である。無人で動くロボットが配達するという考え自体は以前から存在し、研究が重ねられてきたが、実用化され、普及するまでには多くの時間を費やすというのは確かだ。そして、安全面という意味から、許可を得ることが非常に難しいという問題がある。実際、Starship Technologies社は、5つの州(ウィスコンシン州、アイダホ州、バージニア州、フロリダ州、オハイオ州)ではロボットの歩道走行に対して許可がでているが、サンフランシスコ州などでは、禁止という結果になっていたりと、人々の理解を得ることにも時間がかかりそうだ。

 

 

ラストワンマイル物流は国内にどのように浸透していくのか

 

海外での事例を見ても、このラストワンマイル物流の現時点での切り札は「シェアリングエコノミー」と「ロボット」という2つの選択肢となるようだ。「シェアリングエコノミー」については、日本でも、マッチングサービスである「ハコベル」や、料理配達サービスである「Uber EATS」といったサービスが既に存在している。しかし、まだまだ地域が限られているなど浸透には時間がかかりそうだ。また、個人をドライバーにするような配達サービスはなかなかカルチャー的に国内でスムーズに浸透していくことは考えにくい。

「ロボット」については、日本では楽天ドローンが2016年5月から世界初のドローンの商用利用を開始したものの、地域や時間限定の展開に留まっており、その認知も高まっていない。また、全国へ展開するに際しても他国よりも法規制や問題発生時のリスク対応などについてのハードルが高いことも容易に想像がつく。

しかし、今や国内のラストワンマイル物流の業務量と宅配ドライバーの数のバランスは崩壊寸前のところまできている。日本のカルチャーや法規制をクリアすることが出来る革新的なサービスが日本のラストワンマイル物流を救う日は来るのだろうか。今後も注目をしていきたい。