LINEをEC事業者はどのように活用していくべきか - LINEの最近のコマース関連事業アップデートと狙い
国内の月間アクティブユーザー数(MAU)が7,000万人を超えているLINE。日本では驚異的な浸透率を誇っており、メッセージングアプリのデファクトともいえるLINEだが、通話やメッセージといったお馴染みのサービス以外にも様々なEC関連サービスを展開している。過去から多くのサービスの提供を行ってきているが、見切りも非常に早く、長く続くサービスもあれば、終了やリニューアルなどを余儀なくされたサービスもあった。今回はこの変動の激しいLINEのEC関連サービスのアップデートとその狙いから、EC事業者がどのようにLINEを活用していくべきかを考えていく。
<参考>
LINEのEC関連事業への参入が本格化!EC市場でも覇者となれるのか
LINEのコマース事業の変遷
まず、ここまでのLINEのコマース関連事業の変遷について見ていこう。LINEのコマース関連事業は大きく分けて6ジャンルに分けられる。1企業がここまでジャンルの異なるコマース関連サービスを提供するのは極めて異例と言ってもいいだろう。
まず、2013年にC2Cサービスの「LINE MALL」をスタート。約2年半で当サービスは終了したものの、その中の派生サービスの「LINE ギフト」は現在も継続している。2014年の後半から翌年にかけて、LINEは立て続けにコマース関連事業をスタート。宅配サービスのLINE WOW、そして決済サービスLINE Pay、アパレルB2BのLINE CollectionやB2C向けのLINE FLASH SALEなどをリリース。しかし2015年後半から2016年の中盤にかけて、一気にサービスの終了を行い、見切りの早さを見せつける形となる。一方で、一度撤退したサービスを再度チャレンジする流れも今年に入り目立っており、B2CのLINEショッピング、宅配サービスLINEデリマなどの提供を開始している。
こうしてみると、LINEは、一定期間サービスを立ち上げて攻勢を強める「立ち上げ期」と、その効果検証などを冷静に行ってサービスから撤退する「見切り期」を繰り返しているようにも見える。しかし、一方で決済サービスや事業者向けサービスは今のところ撤退することもなく堅調にサービスを展開中だ。
それでは、現時点でもサービスを展開している、LINEギフト以外の6サービス(LINEショッピング、LINEデリマ、LINE Pay、LINE@、LINE Ads Platform、Official Web App)を見ていこう。
LINEショッピング
LINEショッピングは、B2C向けのショッピングサービスである。もう少し正しく表現すると、有名なB2C向けの総合通販サイトへの入り口・ポータル的な役割をしているポイントサービスとなる。
そのため、LINEショッピング内で商品を購入するのではなく、LINEショッピング経由で楽天市場や、Yahoo!ショッピングといった登録されているモールへ行き、商品を購入することで、LINEポイントがもらえる形態をとっている。ポイント還元率は1~20%で、LINE Payなどの電子マネーへ交換が可能であったり、スタンプなどが購入できるLINEコインへの交換も可能である。LINEショッピングは、2016年5月にLINEの運営するC2Cフリマアプリ、LINE MALLが閉鎖し、位置づけは少し異なるもののその後釜として2017年6月にLINEのコマース関連サービスの主役として登場した。開始1ヶ月半の8月1日時点で既に500万人を突破し、まさに破竹の勢いで成長を遂げている。
EC事業者にとってLINEショッピングは非常に注目すべきサービスプラットフォームである。なぜなら、全国にいるLINE利用者にとって、LINEショッピングを通して買い物をすることでLINEポイントがもらえるということは、大きなメリットとなるからだ。今まで様々なモールでインターネットショッピングを行っていた人にとって、LINEショッピングを介すだけでLINEポイントがもらえるのであれば、LINEショッピングを利用するに越したことはないだろう。EC事業者にとってLINEショッピングを利用することのデメリットとしては、LINE利用者内でまだそこまでLINEショッピングの知名度がないという点だろう。LINEアプリからLINEショッピングへ移動することができるのだが、そこまで大々的に宣伝している訳でもなく、まだ存在を知らない人や、存在を知っていてもサービスの内容を知らないという人も多いのではないだろうか。しかし、まだ始まったばかりのサービスのため、まだまだ伸びしろが期待できるサービスといえる。
しかし現時点ではLINEショッピングへ出店するためには、LINE運営側の審査に合格する必要がある。そのため、既にLINEショッピングに登録されている、楽天市場やYahho!ショッピングといったモールへ出店することがLINEショッピングへの出店の一番の近道といえる。
LINEデリマ
LINEデリマは、アプリから簡単に注文のできるフードデリバリーサービスだ。
2016年7月から運営していた公式アカウントである、「出前館onLINE」を引き継いで、2017年7月に現在の形で提供を開始した。以前と同様に、LINEデリマの公式アカウントにチャットを行うと店舗や商品を探すことが可能であったり、LINEアプリ内にあるLINEデリマのページに飛んで検索することも可能だ。全国1万4,000店舗のフードメニューを検索、注文することができる。
EC事業者にとっては「フードデリバリー」という限定された商品のため、関係ないと考える人も多いだろう。しかし、運営側は今後生鮮食品や日用雑貨、医薬品といったフード以外の商品の取扱を目指すと公言しており、もし今後多様な商品が取り扱われるようになった場合、関係のあるEC事業者も多いのではないだろうか。今後LINEデリマがどのような成長を遂げるのか、注目していきたい。
LINE Pay
LINE Payは、子会社であるLINE Pay株式会社の運営する、モバイル送金・決済サービスである。
利用者間での送金や、ECサイトでの決済を行うことができる。送金には手数料がかからず、出金に200円の手数料がかかる仕組みとなっている。銀行やコンビニ、ATMからのチャージが可能であり、QRコード決済や、外貨両替といったことも可能。JCB加盟の実店舗で利用できる、LINE Payカードもあり、非常に多様なサービスを展開している。LINEユーザーはLINE Payアカウントを登録することで利用することが可能だ。
EC事業者はECサイトでの決済にLINE Payを利用していきたい。LINE Payは2017年2月で登録者数が1,000万人を突破し、非常に多くのユーザーを獲得している。そのため、ECサイトにLINE Payを導入し、決済を簡単にすることで少しでもカゴ落ち率を下げることができるのだ。また、LINE Pay加盟店は、月間100万円まで手数料が0円という点も非常に魅力的だ。初期費用などはかからず、気軽に始めることができるだろう。しかし、現在LINE Payと似たようなサービスを行っている決済サービスも多く、自分のサイトにどのような顧客が多いのかしっかりと見極める必要がありそうだ。例えば、中国でモバイル決済として主流であるAlipayであったり、Amazon会員がAmazonのアカウント情報を使って決済が可能なAmazon Payといったように、自分の顧客にLINE PayではなくAmazon利用者が多いのであれば当然Amazon Payを導入すべきであり、EC事業者は、顧客をしっかりと見極めて導入を考える必要がある。
LINE@
LINE@は、企業や事業者が顧客に向けてメッセージを送ることのできるLINEアカウントのことだ。
2012年12月にスタートしたLINE@、2015年2月には実店舗事業者以外の、個人やEC事業者へも解放された。その後開設数が24万件に達するなど、その勢いは広まる一方だ。LINE@には承認済みアカウントと一般アカウントというものが存在する。承認済みアカウントとは、その名の通り運営側に認められたアカウントのことであり、実店舗を持っているアカウントであったり、EC事業者でも証明可能なアカウントが審査に合格しやすいと言われている。
LINE@には、主に3つの機能がある。1つ目は、LINE@を友達登録している人達へメッセージを一斉送信する機能。2つ目は、LINE@を友達登録している人と1:1のトークをする機能。3つ目は、個人のLINEと同様のホーム画面や、タイムラインを利用できる機能である。その他の機能としては、クーポンを配布する機能や、抽選ページ作成、リサーチページ(商品に対するアンケートのようなもの)の作成、LINEショップカードという、電子のポイントカードを作成する機能などがある。また、パソコンからLINE@を管理することも可能で、LINE@マネージャーを利用することで長い文章を打つことができたり、文章の投稿予約ができたりする。
このLINE@、EC事業者でも利用している店舗はどんどん増えてきている。それは、そもそもLINEを連絡手段として利用している人が非常に多く、簡単に友達登録してもらえるという便利さが評価されているからだ。また、LINEを開く頻度が日常生活の中で非常に高いため、他のSNSやメールマガジンに比べて情報を見てもらえる確率が非常に高いということも挙げられるだろう。このような利点があるLINE@だが、簡単に利用できるがゆえに欠点も含んでいる。それは、簡単にブロックされてしまうというものだ。「有効友だち数」というものがあり、ブロックされた友達を抜いた数を指している。この数が本当に影響を及ぼすことができる数といえる。あまりに多すぎる投稿であったり、少しでも気に入らない投稿があるとすぐにブロックされてしまうという傾向があるため、EC事業者はいかにブロックされないかに気を配る必要がありそうだ。
LINEにはLINE@と似たような機能備えた、公式アカウントというものが存在している。公式アカウントとLINE@の大きな違いは、費用の面である。公式アカウントは少なくとも初期費用で800万円以上、月額費用で250万円以上かかってしまうのだが、LINE@はフリープランも存在しており、気軽に始めることができる。しかし、機能としてはそこまでの違いはなく、大きな違いは、公式アカウントは公式スタンプが作成できるため、友達登録をした人に無料スタンプをプレゼントすることができる点である。大規模EC事業者でなく、どうしても公式スタンプを作成したい訳ではないEC事業者は、まずLINE@から始めてみるのがよいだろう。
LINE Ads Platform
LINE Ads Platformは、LINE初の広告プラットフォームだ。
2015年12月からLINEのタイムライン上の広告などを行っていたが、2016年6月にLINE Ads Platformが本格的に始動した。LINE Ads Platformは、LINEのタイムラインとLINE NEWSの2つの配信面を持ち、1,000以上のLINE外のメディアであるHikeにも配信が可能というものだ。かつては最低出稿金額というものが設定されており、なかなか簡単に手の出せるものではなかったが、最低出稿金額制度が廃止され、より多くの人が利用できるようになったのではないだろうか。しかし、投稿するためにはLINE側の審査があるため、注意が必要である。
LINEには企業が運営することのできる公式アカウントが存在し、これはタイムラインに投稿することが可能だが、このLINE Ads Platformでは、今まで届けることのできなかった層に情報を届けることが可能だという点で魅力的であるといえる。
Official Web App
Official Web Appは、LINEと企業のWebサービスをシームレスに繋ぐことで、Webページへの集客や、商品購入などのアクション誘導、購入後のリピート促進などを行う仕組みである。
これはLINEを集客や認知拡大といったビジネス活用していくためのプラットフォームサービスで、2016年10月に本格的に提供を開始し、現在にいたる。
Official Web Appの主なサービスは3つある。1つ目は、「LINEログイン」である。これは、企業のサービスを利用する際、新規会員登録を行わなくてもLINE IDでログインが可能というものだ。新規会員登録の面倒さを取り除くことができるサービスだ。2つ目は、「Profile+」である。これは、LINEに登録されている個人情報を、自動的に入力することが可能だというものだ。LINEは、あまり個人情報を登録していないため、反映されたとしてもあまり意味を成さないケースもあるが、このProfile+に個人情報を登録することで、基本的な情報は網羅されることとなる。3つ目は、「LINEビジネスコネクト」である。これは、個別のメッセージをAPIを利用して送ることのできるサービスである。今までは個別のメッセージをやりとりすることはできなかったが、このビジネスコネクトでは可能である。これにより、商品の注文をLINE上で行うことができたり、個別に商品情報を送ることも可能になる。
この他にも、LINE Payとの連携や、LINEショップカードといった機能も使うことが可能だ。EC事業者にとってOfficial Web Appは、LINEとWebページをシームレスに利用可能にすることで、より多くの人々が利用する可能性が高まるものであり、顧客にとってはより便利に利用が可能だというメリットがある。
LINEのコマース関連事業とその狙い
LINEは一時の「見切り期」以降、圧倒的なユーザーが利用している強みをより活かしたサービスにシフトしている。コマースの王道のB2CやC2Cのサービスも自前での運営を行わずポータル的な立ち位置に活路を見出している。また、事業者向けのサービスを手厚く展開。LINE@やLINEの公式アカウント、LINE Ads PlatformやOfficial Web Appで、トーク画面での1対1のトークであったり、タイムラインでの投稿といったような、LINEを利用している中で触れる機会を作ることで、他のサービスに比べて圧倒的に記憶に残りやすい環境を活用したサービス展開に成功しているといえよう。
また、商品購入までをスムーズに行うことで、カート離脱などが起こりにくい環境を作るという狙いもうかがえる。LINE Payを利用することで支払いの煩わしさを解決したり、Official Web Appでは「シームレス」という言葉がキーワードであるといっても過言ではないほどに、購入までをスムーズに済ませることが可能となっている。あらゆる面でLINEとEC事業を連携させることで、顧客はより快適な購入が可能となるのだろう。
LINEのEC関連サービスは変動が激しく、まだまだ始まったばかりのサービスが多いため、それが吉と出るか凶と出るかわからない面も多い。しっかりと利用するサービスを見極め、効率良く利用していくことが成功に繋がるのではないだろうか。