用途の広がりを見せるカスタムオーダーEC - オンラインでの個別ニーズ対応の終着点となるのか

 

「自分だけのオリジナル商品が欲しい」という消費者のニーズにこたえ、ECサイト上でオリジナル商品をカスタムオーダーできる“カスタムオーダーEC”。2年ほど前から脚光を浴びてからジワジワとその用途が広がってきているようだ。今回は最近注目を浴びているカスタムオーダーECを4つとりあげ、カスタムオーダーECの“今”をみていく。

 

<参考>

オンラインでモノをデザインしてそのまま売る - C2CとソーシャルコマースでカスタムオーダーECの新しい波を作る

カスタムオーダーEC - どこまで消費者の想像力と購買意欲を刺激し続けることができるか

 

 

LaFabric

 

この3月に大幅リニューアルを実施し、つい先日5/15には約1億円の資金調達を発表するなど注目を浴びているLaFabric株式会社ライフスタイルデザインが展開するスーツやシャツ、ジーンズなど男性用商品のカスタムオーダーのショッピングサイトだ。

 

 

これまでオーダースーツというと百貨店や伝統のあるテーラーが仕立てた富裕層向けと言うイメージがあった。しかし、オンラインで完結し、日本全国にあるアパレル工場とのネットワーク化により、最適な工場への発注を可能にし直接取引することで、多くの人が手に取りやすい価格で提供している。

サービスはコンセプトの『Wear Your Personality(個性を着よう)』の通り、デザイン、生地、サイズを好みに選ぶことができる。実際にジャケットの購入までのステップを踏んでみたところ、カスタムオーダーでボタンやポケット、生地の色まで選ぶことができるだけでなく、割増料金になるが刺繍を入れたり、本切羽仕様にしたりすることもできるのだ。

 

 

オンラインでアパレルを注文する際に最も気になるサイズ。LaFabricではよく着るブランドを選択し、そのサイズを書き込んだり、各部位の肉付きを選択したり、サイズの微調整として実際の太さを数字で書き込んだりすることもできるようだ。サイズの調整に関しては、わかりやすい動画を含めたガイダンスもあり、最大14か所の微調整が出来るため、サイズに対する不安はそれほどなさそうだ。その上、未使用で商品受取より30日以内であれば返品可能、サイズが合わないことが確認された場合は5,000円までのお直し代を負担、など心配な点もカバーしている。

 

 

ライフスタイルデザインは、各アパレル縫製工場と連携し、利用者がカスタマイズした洋服のデザインデータを工場の生産管理システムへ直接送信する業務システムの開発にも取り組んでおり、業務の効率化を進めている。従来は買うことができないような質の高い商品をカスタムオーダーで買えるようになった、という点でとても画期的であり、今後どのように事業を拡大していくのか楽しみだ。

 

<参考>

アパレルECに横たわる根源的な3つの課題は解消するのか - サイズ・レコメンド・コーディネート

 

 

ARENA

 

ARENA Custom Orderは、スイムウェアなどを手がける大手のARENAがスイム用品やチームウェアのカスタムオーダーができるサイトだ。

 

 

アスリートを応援するような水着や、チームウェアとして活用できるウィンドウブレーカー、ジャージ、Tシャツのカスタムオーダーができる。例えば水着では複数の形を選択。カラーも豊富で、ロゴの位置や字体も決めることができる。ウィンドウブレーカーなど、チームウェアについても同様に色やロゴを決めることができるようだ。

 

 

カスタムオーダーの特徴としてバリエーションが多いことが挙げられるが、このARENAもスイムウェアは3,060パターン、チームウェアは2,388パターンものバリエーションから選ぶことができ、自分だけ、チームだけのオリジナルウェアを作ることができるのだ。今まで取扱店で類似のサービスは行われていたため、取り立ててサービス内容に新規性は無いが、オンラインで完結出来るため、クラスや部活、会社として一つのユニフォームを作りたい時に、メンバーで画面の前に集まり簡単に楽しくオーダーメイドの商品を作ることができるという意味では、売上の裾野を広げてくれる可能性を高めたサービスといえよう。

 

 

BRILLIANCE+

 

今年の1月に資金調達を行ったことで話題となったBRILLIANCE+は、株式会社キューが運営する婚約指輪、結婚指輪、ジュエリーに特化したカスタムオーダーECサービスである。

 

 

完成品だけでなく、好きなリング(2,000パターン以上)とダイヤモンド (約7,000個以上)を組み合わせられるほか、素材、リング幅、テキスチャなど6工程からカスタマイズすることが可能で、300万通り以上の組み合わせ でオーダーメイドすることができる。驚くべきなのは、小売り相場価格の約半分の価格で購入できることだ。銀座と横浜に対面販売ができるショールームを開設しているが、オンライン販売を中心に運営しているため在庫を持たずに流通経路などを含む工程を効率化することで低価格に抑えることに成功している。そのため安かろう悪かろうではない商品の提供を実現している。

実際にサイトを見てみると、リングに関するコンテンツが非常に充実しており、指輪の選び方や品質に関する情報提供がしっかりされている。ま た資料請求だけでなく、サイズ測定器の貸出や手に合わせて確認できるリングイメージシートの提供も無料で行っており、サイズが計れないという問題の解決を行っている。

今後はスマホ向けアプリの開発に着手し、オンラインでフルオーダーを受けられるようなシステム開発を強化する予定であり、より便利になっていきそうだ。

 

 

Hem

 

最後に海外の動きを見てみよう。不調が長らく伝えられる元祖カスタムオーダーECのFabであるが、昨年欧州の家具製作会社を買収し、Hemという棚、机、椅子などの一見カスタムオーダーするのが難しいと思われる家具をカスタムオーダーすることができるサービスを昨年夏から開始している。

 

 

実際に使ってみると、棚の数の増減や、素材の変更ができるだけでなく、家具の高さや幅のカスタマイズも簡単にできる。また、好きな場所に開いたり閉じたりできる棚を設けたり、鍵をかけたりすることもできるため、どのように利用するかを考えながら想像力を膨らませた楽しい作業となり、まるでデザイナーになったかのようにカスタマイズを楽しめたのが印象的だった。

 

 

さらに所属のデザイナーによる無料のコンサルティングも受けることができるため、どのようにカスタマイズしたらいいのかをアドバイスもらえるのも心強い。そしてカスタマイズをしながら追加料金を確認することができるのも安心だ。サービスは欧米を中心に展開されており、まだ日本では開始されていないのが残念である。またカスタムオーダーで注文された商品は返品、払い戻しはできないのも難点だ。しかし、新規性、画期性といった点で面白いサービスである。

 

 

オンラインでの個別ニーズ対応の終着点となるのか

 

カスタムオーダーECという形態が世に出て既に2年以上。当初はTシャツやiPhoneケースなど、簡易な商材のみに適用されていた概念であったが、ここで紹介した商材(スーツ、スイムウェア、アクセサリー、家具)のように適用される商材のバリエーションはどんどん複雑化してきている。また、以前はカスタムオーダーを前面に押し出したサービスが市場を賑わせてきたが、ここ最近のサービスはユーザーの個別ニーズへの対応を行うためにカスタムオーダーを必然的に導入しているケースが多く、カスタムオーダーありきのでサービス構築ではないのが特徴だ。

このようなことを考えると、カスタムオーダーをオンラインで行うことは、それ自体が大きなトレンドとして存在するというよりは、通常のECサイトに必要に応じて組み込まれて活用される一機能、という位置付けに一般化されたと考えた方がいいだろう。消費の多様化が進み、面倒な手続きを嫌う消費者が増えたことで、カスタムオーダーがオンラインでより簡単にできるようになっていくことは自然の流れではないだろうか。

市場ではカスタムオーダーとは反対に、ユーザーの趣味・嗜好を自動で判定して提案してくるサービスも登場しているなど、顧客の個別ニーズへの対応を様々な方法で行おうとしている。ユーザーにあえて選択させることでワクワク感を提供するカスタムオーダーECも、返品への柔軟性や配達時間の短縮などクリアすべき課題もあるが、今後どのように進化を遂げていくのか、動向が楽しみである。

 

<参考>

キュレーションコマースへの進化の道程(後編)~藤巻百貨店からhatch、SumallyそしてSTYLESEEKへ