2024年のホリデーショッピングシーズンは、小売業者にとって最高のシーズンとはならないかもしれない。感謝祭からクリスマスまでの期間が例年より短いこともあり、市場関係者はこの期間の売上高が鈍化すると予測している。

たとえば、Salesforce(クラウドベースの顧客関係管理ソフトウェアを提供する米国企業)は、11月と12月の世界の売上高が前年比2%増の1兆1,900億USドル、米国は2%増の2,770億ドルに達すると予測している。2023年の世界売上高の前年比成長率は3%で、合計1兆1,700億ドルだった。

しかし、状況を好転させる可能性がある一つの変化がある。それは、慌ただしいホリデーショッピングシーズン中、小売店の業績と消費者の満足度を最適化する手段として、人工知能が登場することだ。

「感謝祭が11月28日であるため、2024年のホリデーショッピングシーズンは通常よりも短くなる。これにより、品揃えや価格設定、プロモーション戦略に影響が出るだろう。直近でこれほど期間が短かったのは、新型コロナ前の2019年だった。このような歴史的な需要パターンは、今年の需要を予測する上ではもはや信頼できるものではない」と、ソフトウェアエンジニアリングサービス、デジタルプラットフォームエンジニアリング、デジタル製品設計を手がけるEPAM Systems(本社:ペンシルベニア州ニュータウン)のリテール担当副社長、Martin Ryan氏は話す。

「小売業者は、在庫不足や過剰在庫を避けるために、需要予測の戦略を適応させる必要がある」と、同氏。「AIツールを使用すれば、複数のソースから得られた過去と現在のデータ分析に基づいて、正確でダイナミックな予測を提供することができる」。

「ソーシャルリスニングツールを使うことで、消費者の嗜好に関するリアルタイムのデータを収集することができる。通常、検討時間が短縮されるホリデーシーズンの方が、消費者の好みは購買行動へのコンバージョンが早くなる」と、同氏は付け加える。

 

AIギフト提案がホリデーショッピングを改善する方法

一方で、グローバルな顧客関係管理会社AttentiveのCMOであるKeri McGhee氏は、ここ数年、ホリデーショッピングの開始時期がますます早まっていると指摘する。「今年も例外ではない」と、同氏は話す。

McGhee氏は、大手調査企業Forresterの調査を引用し、米国のオンライン成人の約25%近くが2023年のホリデーシーズンの買い物を10月かそれ以前に始めていることを明らかにした。「今年も、感謝祭からクリスマスまでの期間が短くなるため、ホリデーシーズンは再び早く始まると予想している」と同氏は語る。

「AIツールを早期に活用するブランドは、従来のブラックフライデーからサイバーマンデーの週末の繁忙期まで待つよりも、迅速かつ効果的にこれらの顧客にアプローチし、より多くのコンバージョンを獲得することができる」と、McGhee氏。「AIは、BFCM(ブラックフライデー・サイバーマンデー)のプロモーションやニュースを顧客にいち早く届けることができ、SMSやメールで独占オファーや限定オファーを配信することで、シーズンを通してより多くの売上を上げることができる」。

小売業者がAIを使って買い物客にアプローチする方法のひとつに、ギフトのレコメンデーションがある。たとえば、AmazonはAIを搭載した会話型のショッピングアシスタント「Rufus」を提供しており、お買い得商品の検索からプレゼントの選択、ショッピングに関する質問への回答まで、あらゆる面で買い物客をサポートしている。

「インテリジェントなバーチャルアシスタントは、衣料品、ハイテク、ホビーなど、贈る相手の好みを分析することで、買い物客が最適なギフトを見つけられるよう手助けすることができる」と、フロリダ州オーランドにある生成AIソリューションプロバイダーKore.aiのCSO(最高営業責任者)であるGopi Polavarapu氏は語る。

「これによって、ギフトを贈る際に推測する必要がなくなり、特にホリデーシーズン中の時間の節約とストレスの軽減につながる」と、同氏は話す。「これによって顧客はより満足し、ショッピング体験がより自分に合ったものになったと感じられるため、小売業者にとってはリピーターが増えることを意味する」。

 

心に響くギフト

シリコンバレーを拠点とするテクノロジーコンサルティング企業、Nisumのグローバルマーケティング担当副社長であるTina Wung氏は、「一般的に、人々は喜ばれないプレゼントに71ドルを浪費している」と指摘。「小売業者は、買い物客がこのギャップを埋められるよう支援しなければならない」。

「顧客行動に関する膨大なデータにより、AIは特定の特性に適した商品をより正確に予測することができる」と同氏は語る。「この情報によって、大規模な言語モデルを微調整することができ、顧客はAIに話しかけてギフトに関するアドバイスを求めることができる。AIチャットボットの 『ギフト・アシスタント』は、買い物客に独自のプロンプトを尋ね、贈る相手の必要な詳細を把握し、完璧なギフト選びをサポートすることができる」。

「AIと消費者データに頼って需要を予測し、誘引することは、小売業者にとってこれまで以上に重要になっている」と、同氏は付け加える。「AIは顧客を緻密に理解する能力があるため、ターゲットを絞ったショッピング支援を行うことができる。消費者は、関連性のあるレコメンデーションを認識し、提供するブランドで買い物をする可能性が91%高く、パーソナライズされた体験を提供された場合は80%が購入に傾く」。

 

AIパーソナライゼーションによって購買に対する自信が向上

マイアミのデジタル・マーケティングとSEOの専門家であるJorge Argota氏は、ギフト購入に関して、AIは同氏の顧客のショッピング体験を変えていると語る。

「パーソナライズされたレコメンデーションは、今や私たちのオンラインストアの一部となっている」と同氏。「個人の嗜好や買い物行動を分析することで、AIはそれぞれの顧客の心に響くギフトを提案する。パーソナライゼーションは、ショッピングをより楽しくし、顧客がストレスを感じることなく有意義なギフトを見つける手助けをしてくれるものだ」。

また同氏は、ビジュアル検索や拡張現実などの機能により、ギフト購入がよりインタラクティブになったと付け加える。「顧客は写真をアップロードして、当社の在庫から類似する商品を見つけたり、AR(拡張現実)を使って商品が自宅や自分にどう似合うかを確認したりすることができる」と指摘する。「これらのツールは、ショッピング体験をより楽しいものにするだけでなく、不確実性を減らし、顧客がより自信を持って購入できるようにもしている」。

人工知能は別の方法でもギフトをパーソナライズすることができる。「自然言語処理を使用することで、AIは会話やソーシャルメディアでのアクティビティに基づいて、ギフトの心理的、感情的な価値を考慮することもできる。このレベルのパーソナライゼーションは、プロセスをより効率的で有意義なものにし、人々が最小限の労力で心のこもったギフトを選ぶのを手助けすることができる」と、ラスベガスにあるSmartTech Researchの社長兼主席アナリストであるMark N. Vena氏は語る。

 

小売ギフトショッピングにおけるAI導入の課題

フロリダ州ミネオラに本社を置くeコマースプラットフォーム・サービス企業、CommerceV3のCTO(最高技術責任者)であるBlake Ellis氏は、「AIは現在、顧客の閲覧履歴や購入パターン、さらにはソーシャルメディアでのアクティビティまで、あらゆることを把握しているため、毎回的を射たパーソナライズされたギフトのアイデアを提案できる」と指摘する。「まだそこまでには至っていないが、可能性は非常に大きい。これは、人々が他の人のために買い物をする方法に革命をもたらし、ギフトを贈るというプロセス全体を、よりスムーズで有意義なものにするかもしれない」。

AIのアシストによるギフトは小売業者にとって強力なものになりうるが、それは彼らにとって決して楽勝というわけではない。「AIは販売の検討率と成約率を大幅に向上させることができるが、それはうまく導入された場合に限られる。AIはまだ初期段階であるため、それを効果的に導入する方法を知っている企業はごくわずかである」と、アドバイザリーサービス企業Enderle Group(本社:オレゴン州ベンド)の社長兼主席アナリストであるRob Enderle氏は警告する。

「AIがうまく機能すれば、人々はAIがなければ考えもしなかったような製品に引き寄せられ、AIがなければ購入していたであろう製品から遠ざかるだろう」と、同氏。「AIが大規模に普及すれば、適切な使い方がわかっていない企業には大きな悪影響を与え、わかっている企業には大きな利益をもたらすだろう」。

コネチカット州スタンフォードに本社を置く調査・アドバイザリー会社Gartnerのコンシューマー・カルチャーアナリスト、Kassi Socha氏も、ブランド各社に対し、不安材料があるAIツールを導入しないよう警告している。「AIを活用したギフトジェネレーターやデジタルホリデーカードメーカーを展開するブランドは、ギフトを贈るプロセスをより簡単に、より効率的にすることに明確なつながりがない場合、ユーザーの採用率やエンゲージメントが低くなる可能性がある」と、同氏は述べる。

さらに、「マーケティングキャンペーンの一環として作られたツールは、ショッピング体験の中核に組み込まれたツールと違って、急いで作られた可能性があり、現実を見ておらず、買い物客のニーズや意図と一致しない結果を出したりする可能性が高い。これはブランドの評判を損なう可能性がある」と、同氏は付け加える。

 

AIによるホリデー商戦の需要予測

AIがホリデー商戦に影響を与えるもう一つの分野は、需要予測である。たとえば、2020年からAIを業務に組み込んでいるAmazonは、「SCOT(Supply Chain Optimization Technologies、サプライチェーン最適化テクノロジー)」と呼ばれるAI、機械学習、その他のシステムのコレクションを有しており、毎日数え切れないほどの予測、レコメンデーション、決定を下している。

Amazonの広報担当者のMaxine Tagay氏は、「SCOTチームは斬新な予測・生成技術を導入することで、すでに長期予測を10%改善している」と述べる。 AIと需要予測はゲームチェンジャーである、とCommerceV3のEllis氏は主張する。「どの商品が売れ筋になるかを予測する精度は、次の次元に達している」と同氏。「機械学習アルゴリズムは、膨大な量のデータ、過去の売上高、ソーシャルメディアのトレンド、さらには天候のパターンも分析できるため、小売業者は在庫計画を予測することができるのだ。推測や過剰在庫はもう必要ない。重要なのは、適切な商品を、適切な場所に、適切なタイミングで提供することである」。

 

ダイナミックな在庫管理

「代理店のオーナーとして、私はAIが需要予測をどのように変えたかを目の当たりにしてきた」と、Argota氏は付け加える。「以前は、ホリデーシーズンにどの商品が売れ筋になるかを予測するために、前年の販売データを基に予測を行っていた。今では、AIアルゴリズムが過去の販売実績や市場動向、経済指標、さらには季節的なパターンまで調べてくれる。超高精度の予測が得られるため、在庫やリソースの配分について、十分な情報に基づいた意思決定ができるようになった」。

同氏はまた、AIのリアルタイムのデータ処理能力についても称賛する。「ホリデーシーズン中の消費者行動は、プロモーションや流行によって瞬時に変化しうる」と同氏は説明する。「AIを使えば、その変化に合わせて戦略を即座に調整することができる。需要の急増や減少に不意を突かれることがなくなり、これが顧客満足度と業務効率の鍵となる」。

さらに同氏は、AIによって過剰在庫や品切れがほとんどなくなったと指摘する。「需要を正確に予測することで、適切な量の在庫を用意することができる」と同氏。「これにより、在庫の保管コストが削減され、顧客は欲しいときに人気商品を手に入れることができるようになる。これは微妙なバランスだが、AIのおかげで実現がはるかに容易になった」。

「AIは、新たなトレンドを特定することで、私たちが先手を打つのにも役立っている」と同氏は付け加える。「ソーシャルメディアの投稿、検索クエリ、販売データを分析することで、AIツールは何がトレンドかを教えてくれる。これにより、需要の高いトレンド商品を仕入れるための洞察が得られ、ホリデーシーズンの繁忙期に顧客の期待に応えることができるのだ」。

 

AIイノベーションと消費者の信頼のバランス

カスタマーエクスペリエンスのリサーチ・インサイト企業、UserTestingのエクスペリエンス・リサーチ・ストラテジー・プリンシパルであるLija Hogan氏は、AI導入を急ぐ小売企業は注意が必要だと警告する。「小売業者は、ブランドが顧客のことを『知りすぎている』と受け取られないようにしながら、ショッピング体験をパーソナライズすることとのバランスを取る方法を理解しなければならない」と、同氏は述べる。

「AIの統合が成功するかどうかは、小売企業が顧客の信頼と透明性を優先できるかどうかにかかっている」と同氏。「AIを統合するには、消費者のプライバシーに関する懸念に対処し、自身のデータの使用方法について顧客に情報を提供し、AIツールに対する消費者の態度を理解しながら、消費者と小売店の体験を継続的に評価する必要がある」。

そして、「顧客からのフィードバックに基づいてショッピング体験を継続的に改善する小売業のリーダーが、今日のダイナミックな状況で最も成功するだろう」と、同氏は付け加えた。


※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の10/1公開の記事を翻訳・補足したものです。