ソーシャルコマース、ショッパブル広告、そしてeコマースによる購買は、2022年にどのように進化し、そして、オフライン小売業にも影響を与えるのか。
2022年、eコマースはマーケターの顧客との関わり方における推進力となるだろう。eコマース戦略は、テレビ、ソーシャルメディア、店舗での体験などのチャネルに、マーケターが想像する以上に浸透していくだろう。
マーケターは、eコマース戦略をよりパーソナライズしたものに変化させ、顧客データとマーケティングスタックを簡略化し、ショッパブル広告を取り入れ、そしてデジタルファーストの買い物客に対応するために店舗の従業員を再教育するだろう。
簡略化されたスタック
eコマースの未来は、パーソナライゼーションが推進力となる。AIを活用したエクスペリエンスプラットフォームを提供するCoveoが最近買収したパーソナライゼーションテクノロジー企業Qubitのグループ副社長であるTracey Ryan O’Connor氏によると、ROI(投資利益率)だけでなく、メッセージング精度を向上させるために、ブランドはデータソースとeコマーススタックを簡略化する必要があるという。
「全体として、ブランドはパーソナライゼーションへの支出において高い投資対効果を達成している。しかし、eコマースとデジタルマーケティングのスタックが非常に複雑になってきたため、データソースがバラバラになり、そのことがパーソナライズされた体験の提供効果を脅かしている」と、O’Connor氏は述べる。「結果として、2021年には、ブランドは技術スタックを簡略化しアクショナブルインテリジェンスを作成した顧客データソース件数を削減する取り組みを開始した」。
さらに、「2022年には、さらなるパーソナライゼーションにおけるイノベーションの推進力となる簡略化がプロダクトディスカバリーとの融合につながり、これらの取り組みが加速すると考えている」と、同氏は付け加える。
よりパーソナルに
最近のホリデーショッピングの盛り上がりで見られたように、季節イベントはより長期化し拡大している。「サイバーマンデー」(米国で11月の第4木曜日の感謝祭の次の月曜日から始まるオンライン上の大規模セール)が「サイバーマンス」になった。Amazonのサマーセールである「プライムデー」は、「プライムウィーク」のようになっている。
2022年には、バイヤージャーニーはよりパーソナライズされたものになるだろう。このようなデータシグナルに注目するマーケターが競争力を強化することができる。
「パーソナライゼーションとプロダクトディスカバリーを融合させることで、ブランドマーケターとマーチャンダイザーは、統合された顧客ビューを含むこれらのソースからのデータを活用することが可能となる。そして、ショッピングジャーニーのあらゆるレベルやあらゆるタッチポイントで、それぞれの訪問と体験をカスタマイズできるようになる」と、O’Connor氏は述べる。
AIを活用した最適化
「2022年には、AIを活用したパーソナライゼーションが進化し、より高度にカスタマイズされた体験を提供できるようになるだろう」とO’Connor氏。「これには、大規模に消費者を理解するために提供され、取り込み、活用できる様々なデータソースだけでなく、あらゆる顧客行動を考察した機械学習モデルが必要である」。
さらに同氏は、「我々はすでに、画一的なAIモデルを超えて、毎回『テストと学習』することなく個々の顧客の要求に応えるアルゴリズムに移行している。例えば、新しいAIモデルは、顧客のいる場所や行動、あるいは天気に基づいた商品カルーセルを強化するために使用することができる」と付け加えている。
eコマースと店舗の融合
パーソナライゼーションによって、プロダクトディスカバリー・ジャーニーが個人的なものとなる一方で、店舗とオンラインの体験は融合されるだろう。このトレンドが2022年にどのようになるかを理解するためには、eコマースがこの融合を推進する原動力となることに注目することが重要だ。
「2022年は、店舗とオンラインショッピングが融合することによって、eコマースが爆発的に普及するだろう」とO’Connor氏。「買い物客は実店舗に戻ってきているが、オンラインショッピングは減少しておらず、実際のところ、継続的な成長が見られる。2021年には、より多くの人がオンラインでショッピングジャニーを始め、欲しい商品を最安値で検索し、実際の購入は店舗で行った。パンデミック(世界的大流行)が収束しても、オンラインショッピングは成長し続けるだろう。なぜなら、この行動は今や定着し習慣化されているからだ」。
同氏は次のように説明する。「2022年、ブランドは、eコマースが過去2年間に達成した飛躍的な成長に見合うよう、オンラインと店舗が融合したショッピング体験を適応させる方法を決定する必要に迫られるだろう。このことは、ファッションや美容など、そのエクスペリエンスにおいてなお、オフラインの要素が好まれる小売業界にとっては特に重要であるが、最終的には、店舗が再開されたからといってオンラインのパフォーマンスが低下するとは予想していない」。
実店舗に対する総合的なアプローチ
小売テクノロジーを提供するAptosの小売イノベーション担当副社長であるNikki Baird氏は、eコマースを組み込み、デジタルショッパーが来店時に欲しい商品を手に入れられるようにする実店舗体験における総合的なアプローチを期待している、と話す。
「パンデミックが発生する前は、主にオンラインチャネルに対抗する手段として、体験型店舗のコンセプトを作ることが重視されていた。」とBaird氏。「2022年に向けて、小売企業は、買い物客がブランドとの物理的な交流からデジタルな交流へと移行できる総合的な店舗体験を追求するようになるだろう」。
Baird氏は、小売業者がより広く導入する可能性のあるツールの一つとして、「バーチャルクローゼット」を提案する。買い物客は、その小売店から購入した全商品がデジタル表示されたものを携帯する。買い物客は、これを参照しながら買い物をすることができ、店員も同様に確認することができる。
店員のエンパワーメント
「店員がカスタマーエクスペリエンスに貢献できるよう、デジタル面でのアップグレードが行われるだろう」とBaird氏は話す。「店舗のトラフィックが回復するにつれて、パンデミック時に小売業者がオンラインエンゲージメントに対して行ったすべての投資により、多くの小売業者が店舗で同様のレベルのデジタルエンゲージメントを提供する方法を評価し始めている」。
もちろん、小売業者は、デジタルショッピングから店舗での体験へのシームレスな移行においてミスをしたくないと考えている。そして、小売企業が、2022年にこの分野で成功するためには、店員のことを考慮することは必須である。
「店員と交流するために店舗を訪れる買い物客は、依然としてかなりの割合で存在する」とBaird氏は述べる。「2022年には、経験豊富な小売業者は、店舗体験全体における店員の役割を強化し、それをサポートするためにモバイルテクノロジーを活用することを目指すだろう」。
ITのアップグレード
より多くの実店舗が開店するにつれ、デジタル型ショッピングの新時代では、パーソナライゼーション、最適化、そしてエクスペリエンスのための投資が必要となる。
「小売企業の財務面での回復と、オムニチャネルのショッピング行動がパンデミック時に旧型ITシステムを限界点に近づけたという事実が相まって、2022年には基盤となる最新のテクノロジーシステムへの投資が促進されるだろう」とBaird氏は述べる。
2020年からのサプライチェーンの課題と消費者の期待の高まりにより、小売業者は、どの商品が購入可能で、それがいつ配達可能であるかの情報をリアルタイムで提供することが求められている。
「小売業者は、これ以上偽ることができないと理解する段階にきている」とBaird氏。「小売業者は、基本を正しく行う必要がある。これには、リアルタイムでの在庫の可視化が含まれる。小売業者がリアルタイムでの在庫の可視化を実現できなければ、すでに負けていることになる。それの実現なくして、小売業者が消費者のスピードに追い付くすべはない」。
広告はよりショッパブルになる
パーソナライゼーションと在庫のリアルタイムな可視化は、広告にも影響を与え、広告をよりショッパブルにするだろう。
「特に在宅勤務の買い物習慣がサプライチェーンの問題とぶつかっているため、ショッパブル広告機能はこれまでになく大きな役割を果たすようになっている」と、AIを活用したダイナミック広告配信と広告のパーソナライゼーションプラットフォームであるClinchのCEOを務めるOz Etzioni氏は話す。「ショッパブルコマースのメリットは、消費者だけでなく、小売業者にもあり、将来のキャンペーンやブランド全体に対する消費者の好みについて貴重なインサイトを得ることができる」。
メールやショートメッセージ(SMS)などのチャネルは、買い物客との関連性を高め売上を伸ばすために、最近の購入履歴やカート放棄された商品などのパーソナライズされたデータを長い間使用してきた。だが、これらのパーソナライズされた要素は、2022年にはディスプレイ広告やテレビ広告にさらに統合されるだろう。
「2022年にショッパブルキャンペーンを展開するマーケターにとって、最大の課題と最大の機会の両方がショッパブルテレビとなるだろう」と、Etzioni氏は述べる。「鍵となるのは、ショッパブル広告を可能な限り関連性の高いものにするために、利用しうるすべてのツールを活用することだ。そのためには、ファーストパーティデータと、時間帯、天気、地域のプロモーションなどの買い物客の環境を反映したパーソナライゼーションを統合する必要がある。そうすることで、マーケターは消費者をより深く理解し、顧客がリアルタイムで購買を決定できるような関連性のあるCTA(行動喚起)をより迅速に提供することができる」。
また同氏は、サプライチェーンの問題により商品の入荷が困難な状況が続いているため、マーケターは、最も関連性の高い最新のメッセージを顧客に送るために、何らかのダイナミッククリエイティブの最適化(DCO)について検討すべきだと付言する。
「商品不足が全体的に拡大している今、小売企業は、ミッドファネルからアッパーファネルの目標に焦点を合わせ直す必要があり、且つ、迅速に行う必要がある」と、Etzioni氏は説明する。「例えば、在庫に限りのある自動車メーカーは、消費者の心の中で影が薄くなることは望まない。そのため、顧客に自社のプレゼンスを認識してもらいつつも、必ずしも販売店に足を運ばせない方向にシフトしている」。
ソーシャルコマースは多様化する
ソーシャルメディアプラットフォームは、長い間、ブランドや商品の貴重な口コミの情報源となってきた。そして、2022年には、これらのデジタルコミュニティは、ショッパブルな収益の主要な供給源になるだろう。これは、ブランドがFacebookだけではなく、多様化を図り、広告コストを抑えていくことを意味する。
「ソーシャルショッピングを新しいチャネルに多様化することが重要となるだろう」と、eコマースソリューションを提供するChannableのCEOであるRob Van Nuenen氏は述べる。「破壊的なソーシャルチャネルのTik Tokは、2022年に20億人近いユーザーを生み出す可能性がある。また、InstagramとPinterestは関連性の高いソーシャルコマース体験を提供している。そして、ソーシャルコマースの収益は500億ドル近くに達する見込みであることから、これらのチャネルを利用した戦略を立てることが重要となる」。
eコマースマーケティングプラットフォームを提供するYotpoのプロダクトマーケティング担当副社長のRosa Hu氏によると、マーケターは「ソーシャルプルーフ」(ユーザーが作成したコメントやレビュー)を自社のソーシャルプレゼンスに取り入れたり、特別なイベントやその他のエンゲージメント戦略を推進したりすることでソーシャル支出の価値を高めることになるという。
「TikTokが最近行ったShopifyとの提携、そして、同社のアプリ内課金機能により、ブランドは2022年には競合他社よりもはるかに優れた広告費用対効果を得られるようになるだろう」とHu氏。
これらの新しいeコマースイノベーションの多くは、ROIによって推進される。しかし、そのリターンを得るためには、マーケターはパーソナライゼーションデータ戦略、ダイナミッククリエイティブの最適化(DCO)の実行やソーシャルメディアエンゲージメントにおいて、より機敏に動く必要がある。そうすることで、2022年にはマーケティング予算の効率を高めながら、顧客との関係を深めることができるだろう。