ライブコマースはニューノーマル時代のオンライン活用の起爆剤となるか?ライブコマースのこれまでとこれから
コロナ禍で様々なことが大きく変化した2020年。消費者は実店舗での買い物が難しくなり、売上に悩む小売業も少なくなかった。その反面、巣ごもり消費で売り上げを拡大させようと奮闘した小売り企業やメーカーも見受けられた。消費者との物理的な距離の近さから苦戦を強いられている店頭販売であるが、ニューノーマル時代の到来においてライブコマースがその解決策となりうるのか、また、売り上げの増加に貢献していけるのか、いくつかの事例をもとに考えていきたい。
これまでのライブコマース
ライブコマースは最近始まったサービスではなく、中国で人気に火が付いたことをきっかけに、2017年ごろ日本に上陸した手法である。まずは、当時の事例をおさらいしていこう。
メルカリチャンネル ※2019年サービス終了
日本最大級のフリマアプリメルカリが2017年7月に提供を開始したアプリ内サービスが「メルカリチャンネル」である。
ランダムに選ばれた一般ユーザーが自身の要らなくなった洋服や化粧品をライブ中に販売でき、視聴者はその場で質問や値下げ交渉が可能である。サービス開始当初は有名タレントなども配信に参加し話題となったが、2019年にサービスを終了した。
BASEライブ ※2020年サービス終了
EコマースプラットフォームBASEを運営するBASE株式会社が2017年に開始した「BASEライブ」。
配信専用アプリをダウンロードすれば誰でもライブ配信が可能で、視聴者はBASEの商品ページで購入が可能。ライブ配信で商品の魅力を直接伝えられることが特徴だったが、2020年3月にサービスを終了した。
Live Shop!
LINEをはじめとして、多数のライブ配信動画の受託制作を行ってきたCandeeが2017年に公開したのが「Live Shop!(ライブショップ)」である。
主に10~20代の女性をターゲットとしている。上記2つのサービスとは異なり、人気モデルやインスタグラマーが自身のお気に入りの化粧品や洋服を紹介し、視聴者はライブ配信中にそれらの商品を購入することができる。出演者との距離が近く、プロのカメラマンが専用スタジオでカメラワークを担当しており、スマホで通販番組を見るような感覚でライブ配信が楽しめる。
<参考>
日本にも本格的に上陸してきたライブコマース(生放送動画コマース)の魅力と可能性
ライブコマースで最先端を行く中国
続いて、世界的にも大きな盛り上がりを見せる中国のライブコマース市場を見ていく。
中国のライブコマース市場規模
日本貿易振興機構JETRO(ジェトロ)の発表によると、2019年の中国におけるライブコマースの市場規模は日本円で約6兆9408億円、2020年は24兆円、2021年は32兆円規模に拡大するといわれている。さらに三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2020年8月の発表では、同年6月における中国のライブコマースユーザーは約3.1億人となっており、これはネット通販ユーザーの4割強を占める数字である。中国では、なぜこんなにもライブコマースが普及しているのであろうか。中国のライブコマース事情を事例をもとに紐解いていこう。
蘑菇街
蘑菇街はファッションに特化したソーシャルECプラットフォームで、2016年にライブコマースを開始した。
約56,000人のファッションインフルエンサーがライブ配信を実施し、商品の販売や宣伝を行なっている。2019年3月における1日あたりのライブ配信時間は合計3,600時間で、同期のライブコマース取扱額は41億元、日本円で約658億円にのぼり、全取扱額の23.6%を占めた。
バーチャルアイドルによるライブコマース
中国では2時間で約3億元の売り上げを達成した「ライブ販売女王」や、5分間で口紅約1.5万本を売り上げた記録を持つ「口紅王子」など、KOLと呼ばれる個性豊かでエンターテイメント性の高いライブ配信者が目立つ中、ライブコマース市場にバーチャルアイドルが参入した。2020年8月、元祖バーチャルアイドル「初音ミク」がアリババ傘下のECモール「淘宝(タオバオ)」のライブコマースツール「淘宝直播(タオバオライブ)」に参加したのである。ピーク時には300万人がライブを視聴し、一時的にサーバーがダウンした。2020年以降、中国ではライブ配信者によるトラブルが続発し、たびたび問題になっていた。その点、バーチャルライバーは実在する人間とは異なるので、ミスを犯す心配がないことはメリットといえる。しかし、配信費用が高額になるため、バーチャルライバーが今後ライブコマース市場で活躍していくかどうかは未知数である。
世界各国のライブコマースの“今”
次に、世界各国のライブコマース市場の流れを見ていこう。
Amazonによるライブコマース「Amazon Live」 (アメリカ)
Amazonは、ソーシャルメディアのインフルエンサーがライブ配信で商品を紹介することで手数料の配分を受けられるAmazon Liveを2019年に開始した。
これは、従来のインフルエンサープログラムのライブストリーミングサービスに注力する形で開始されたものである。テレビ通販番組と同様、ライブ配信で商品を紹介し、デモンストレーションを行う。動画の下部に商品が表示されており、視聴者はそこから購入できるようになっている。Amazonは2016年、美容・ファッションについてのヒントを紹介するライブビデオ「Style Code Live」というプログラムを行っていたが、こちらは短期間で中止していた。Amazon Liveで取り扱うテーマは多様性に富み、チャンネルも多数存在している。一例として、有名ゲーマーによるNintendo Switchを中心としたエンターテイメント性の高いストリーミング配信や、電子機器、家電のライブセールスなどが視聴可能である。
スウェーデンのライブ配信サービス「Bambuser」
Bambuserは、スウェーデンで2019年9月に始まったライブコマースサービスである。
H&M傘下のブランドMonkiやヘアケア・美容用品を扱うスウェーデンのLykoなどが、同社のシステムを通じてライブコマースを実施している。1対多数のライブ配信だけでなく、1人の顧客に向けた1対1のライブ配信も行っていることが特徴的で、非接触の接客という面でも可能性を秘めるサービスだ。
国内ライブコマース市場における“今”
2017年に上陸したものの国内では停滞気味にあったライブコマースだが、コロナ禍での非対面接客の推進を受け、販促面でどのように活用されているのだろうか。Zoomを活用したエンターテイメント性を持つライブコマースや、小売店の売り上げ減少を食い止める戦略としてのライブコマースなど、国内におけるライブコマースの“今”に迫りたい。
三越伊勢丹のランドセル販売
百貨店大手の三越伊勢丹は、2020年5月末よりZoomを活用したランドセル販売を開始させた。これはテレビ電話接客サービスの一環で、「おうちde伊勢丹forランドセル」と題されている。公式LINEのチャット機能で価格などを相談し、ある程度商品を絞り込んだ後にZoomでの接客を予約するという流れで、所要時間は1組40分ほどである。オンライン接客の告知以降、LINEアカウントの友だち登録数は劇的に増えたという。
全国の酒蔵と「オンライン飲み」できるイベント
オリジナル日本酒の販売やイベント運営を行う株式会社 耕は、2020年5月のゴールデンウィークに合わせ、ライブコマース型のオンラインイベントを開催した。このイベントは、全国の日本酒酒造の蔵元とオンライン飲みで交流しながら、その場でお酒の購入ができるというものだ。オンライン出演者は日本酒蔵元、主催法人の代表、酒米栽培の契約農家、日本酒インフルエンサーなど様々であり、視聴者は自宅でお酒を片手に参加者のトークを聞くことで、カメラ越しに飲み会の雰囲気を味わえる。YouTube Live配信も同時に行われ、チャット機能を利用した質問やコメントの投げかけも可能である。イベント開催中は、同社のショッピングサイトで日本酒が日替わりで限定販売され、視聴者はそこから商品を購入することができる。このイベントには毎日100人以上が参加し、5月後半、6月前半にも同様のイベントが開催された。
BEAMS
大手ファッションブランド株式会社ビームスは、2020年3月27日にオフィシャルサイトの特設ページ内で初のライブコマースを開催した。スーツやネクタイなど紳士服を中心に全24アイテムが販売され、約1時間で6000人以上が視聴、ライブコマース経由の収益は100万円弱にのぼったという。同社ではその後も積極的にライブコマースを配信しており、紳士服に限らず女性もののアイテムなど幅広い商品を取り扱っている。
ベイクルーズ のインスタグラマーを活用したライブコマース
ベイクルーズグループは、自社が運営する通販サイトで、2020年5月22日よりライブコマースサービス「LIVE STYLING」を開始した。店舗スタッフが商品を紹介しながらリアルタイムで質問に対応し、商品ページ内でそのまま購入が可能である。自宅で視聴しやすい20時ごろに1週間に1~2回の頻度で配信され、アーカイブはサイトで視聴できる。メンズブランド「EDIFICE TOKYO(渋谷店)」では、店舗の閉店後、俳優・モデルの君嶋麻耶が自身のインスタグラムアカウントからフォロワーに向けて商品の紹介や着こなしを提案するという、インフルエンサーを活用した販売の取り組みも行われている。
資生堂
資生堂は、ビューティーコンサルタント(BC)が化粧品を紹介し、ユーザーがリアルタイムでBCとコミュニケーションしながら商品を購入できるライブコマースサービスを、2020年7月22日より開始した。この試みは三越伊勢丹の化粧品オンラインストア「meeco」からスタートし、11月には自社サイトで2日間にわたりタレントやモデル、有名メイクアップアーティストを起用したライブコマース型オンラインイベント「あたらしい毎⽇を、あたらしいコスメと。Shiseido BEAUTY EXPO by watashi+」を開催。さらに2021年1月23日には、阪急百貨店公式通販サイト上で、2021年春夏のトレンドメイクに関するライブ配信が行われた。
百貨店の物産展をライブコマースで開催
大手百貨店の高島屋は、2020年10月の日本橋店での大北海道展をライブ配信でも開催した。これは、北海道在住のバイヤーや生産者が、現地産の商品の魅力をライブ配信を通して全国の視聴者に伝えることで、物産展の規模を全国レベルに拡大するというものだ。この配信は、家にいながら物産展の商品をリアルタイムで購入できるという、ライブコマースを活用した新しい物産展の楽しみ方をユーザーに提案した。
このような大規模物産展のオンライン開催は、小田急百貨店や大丸松坂屋など、他の百貨店でも実施されている。ニューノーマル時代において、オンラインを活用した新しい風が吹き始めているといえるだろう。
<参考>
eコマースへのトレンドシフトの波に立ち向かう百貨店のデジタル戦略
これからのライブコマース
ここまで、過去のライブコマースの事例や各国のライブコマース事情、そして“今”のライブコマースを、複数の実例をもとに紐解いてきた。オンライン会議システムを活用した双方向型ライブコマース、実店舗を持つ小売店や百貨店のライブコマース、インフルエンサーを活用したライブコマースなど様々な取り組みが行われており、各社が試行錯誤しているように思える。
ライブコマースが日本に上陸してきた当時は一般ユーザーの配信が可能で、誰もがライブ配信者になれるものであった。この特徴ゆえに、ライブコマースはブランドのイメージづくりには不向きと考えられていたのだ。しかし、現在のライブコマースはインフルエンサーを活用し、ターゲット層を意識するなど、明確なマーケティングの目的を持つものが増えている。また、企業がリアルタイムで視聴者の質問に答えるなど、ECサイトでは実現しづらかった要素をライブコマースで補うほか、オンライン飲みのようなエンターテイメント性を追及したコンテンツもあり、消費者の多様なニーズが垣間見える。ライブコマースは、多方面から顧客体験の向上に貢献できる可能性を持った、ECの形態のひとつといえるだろう。
ニューノーマル時代において、ライブコマースを活用した買い物がノーマルなものになっていくのか、今後も注目していきたい。