Facebookへの広告ボイコット運動を行うブランドは、500社に達した。サブスクリプションベースのデジタルメディア会社The Informationが入手した情報によると、Facebook のCEOであるMark Zuckerberg氏は、オンラインでのタウンホールミーティングで従業員に次のように語っている。「私の推測では、これら全ての広告主は、すぐにFacebookプラットフォームに戻るだろう」。そこで我々は、業界関係者へボイコットに対する考えを尋ねた。
LoopMe(フルスタック技術プラットフォームによりキャンペーンパフォーマンスを提供)のCEO兼共同創設者Stephen Upstone氏:
「ヘイトコンテンツへの対応策として主要なソーシャルプラットフォームから撤退する大手ブランドがあることを考慮すると、ブランドが代替メディアチャネルを活用し、ブランドの求めているオーディエンスにリーチする機会は依然として存在する。今日の市場では、モバイルファーストのオーディエンスに関するインサイトと、インパクトのあるメディアを活用したソリューションがある。
「ブランドは、実際の成果をKPI(Key Performance Indicator:重要経営指標)として使用することで、リアルタイムで効果を測定し、行動を起こすことができる。そのため、自社のメディアキャンペーンがどのように受け取られているかを理解することができる。これをリアルタイムで把握し、戦略を変更することで、最終的にブランドの公平性とパフォーマンスを確保することが可能となる」。
「モバイルファーストのメディア戦略は、ソーシャル以外のブランドセーフティやヘイトフリーな環境においてソーシャルコンテンツのヘビーユーザーをターゲットにしながら、ソーシャルコンテンツやユーザーが作成したコンテンツ以外の広告のウエイトを上げることでバランスが取れる」。
「倫理的には、サイト運営者が ヘイトから利益を得ることは正しいことではなく、広告主はマーケティング費用をどこに投資するかによって、立場を公言すべきだ。これだけでも、多くの目的志向のブランドが即座にスタンスを示すのに十分といえるだろう」。
「また数年前、不適切なコンテンツの隣に広告が表示されたために複数のブランドがYouTubeを撤退したことがあったが、その際には、YouTubeや一部大手ブランドの広告パフォーマンスに実質的な影響はみられなかった。このことは、何が成果につながるかを適切に把握していないメディア投資ブランドが、どれだけプラットフォームに投入すべきかについて疑問を呈している」。
「最後になるが、ブランドが主要なソーシャルパブリッシャーに頼らず成長するためには、実際の売上に対する広告費用対効果を測定することで、メディア投資を多様化することによるビジネスインパクトを調べ、他のチャネルで購入したメディアと並べてブランド効果調査を実施するべきである。今日では、モバイルおよびソーシャルメディアの大手企業に依存することなく、それが可能となっているのだ」。
ESI Media(英国発、革新的なマルチチャネルメディア企業)のデジタル収益最高責任者、Andy Morley氏:
「国際的なブランドによるソーシャルメディアプラットフォーム、中でも最大手のFacebookのボイコットは劇的だが、予想外というわけではない。ブランドは、コンテキストが最重要であることを強く認識している。というのも、マーケティング担当者やビジネスリーダーは、自分の広告がヘイトフルな情報や非常に不正確な情報とともに表示されることを不安視するのは当然のことであるからだ。しかし、さらに踏み込んで考えてみよう。一般の人々が注目しているのは企業の行動であり、率直に言って、虚偽の匂いがする実質的な行動を伴わない空虚な言葉は許容しない。ボイコットを主導するブランドは、ソーシャルプラットフォームの責任を問う上で重要な一歩を踏み出したが、変化は一瞬では起こすことができないのだ」。
Hybrid Theory(英国発、パーソナライズされた広告を元に新規顧客の発見、情報発信を行う統合プラットフォーム)のCEO兼会長Patrick Johnson氏:
「市場担当者は、当然のことながら、自社の広告がブランドセーフの環境で確実に表示されることを望む。消費者は、ブランドが自社の価値観からぶれないことを期待しており、広告が表示される方法と場所も同様だ。したがって、ブランドが広告のコンテキスト(環境)に関して、より厳しい立場をを取ったことは理解できる」。
「ブランドにとって、ブランドセーフティは常に最重要事項であり、Starbucks(米国発の大手コーヒーチェーン)のようなブランドがFacebookをボイコットしているのは当然のことだ。他のプログラマティックメディア(最適化アルゴリズムに基づき、自動的に在庫の売買と配置を管理するテクノロジー)は、厳格なブランドセーフティ対策を維持しているが、ソーシャルメディアプラットフォームのブランドは、広告の横に何を表示するかについてほとんど、あるいはまったく制御できていない。ソーシャルメディアプラットフォームは、ブランドの懸念を和らげるため、よりオープンなチャネルがもつベストな機能を採用する必要がある。さもなければ、マーケティング担当者は投資するべき他のチャネルを見つけることになるだろう」。
Channel Factory(YouTubeの広告主にコンテキストパフォーマンスを提供するグローバルテクノロジーおよびデータプラットフォーム)の最高責任者および最高戦略責任者Jed Hartman氏:
「YouTubeは、テクノロジープラットフォームを構築する上で、極めて理想的なパートナーであると考えている。その理由の1つとして、YouTubeは2019年以降、バイオレンスなものやヘイトコンテンツを積極的に排除し、25,000以上の不適切なチャネルを取り除くという大幅な改革を行っているからだ。さらに、 YouTubeは、Channel Factoryなどの企業が、YouTube Measurement Program(YTMP)を通じて、チャネルと動画をコンテクスチュアルにフィルタリングすることで、広告主がブランドDNAに沿った最も適切で関連性の高いコンテンツを実行できるようにしているのだ」。
Impact(企業のパートナーシップを管理し急速な成長を活性化するための統合エンドツーエンドソリューション)のマーケティングディレクターOwen Hancock氏:
「私は、誤報を食い止めるという強力な組織の責任という中心的な問題の背後に、我々が見逃したくないもう1つのポイントがあると考える。それは、Facebookが行使している一種のパワーである。FacebookとGoogleがデジタル広告費の半分以上を占めているのであれば、痛みを感じさせるための集団行動なくして、広告主の意向を第一に考えさせることは期待できないだろう。一方、何十万もの異なるパートナーと多様なエコシステムを構築してきたパートナーシップ業界では、それぞれが異なる広告主のニーズに対応する必要がある。これは、ブランドの声を届けたい場合に、広告をボイコットする必要がある2つの巨大メディアオーナーよりも、より健全で調和のとれたモデルのように思える」。
The Ozone Project(デジタル広告エコシステムを作成するプラットフォーム)のチーフレベニューオフィサー、Craig Tuck氏:
現在行われているボイコットは、ソーシャルプラットフォームと広告主の両方にとって非常に現実的な問題であるものの、現在の状況は、長い間停滞していたマーケティング担当者の動きを加速させているように見受けられる。我々は、パンデミックの結果としての主要な社会変化と増加するヘイトスピーチに取り組む必要性が生じるなか、ブランドの安全性、コンプライアンスと説明責任に関連するデジタル広告のいくつかの主要な課題と直面している。多くの点で、それは広告主の再評価に最適な嵐を生み出したのだ。
「当社の創設以来、クライアントとの会話は常に一貫していた。彼らはプレミアムパブリッシャーやコンテンツクリエーターとの距離をさらに縮めたい、また、デジタルサプライチェーン全体の透明性を高めたいと考え、信頼できる安全な環境に広告が表示されることを望んでいる。我々のビジネスは、そうした要望すべてに応えるために構築されたものである」。
「取引の容易さと規模の大きさに関しては、これまで大手テックプラットフォームが優位であったが、当社のような企業と提携することにより、マーケティング担当者は、他のデジタルチャンネルでのブロードキャストの機会にアクセスするための単一ポイントを持つことができるようになった。実際に、英国における成人へのリーチは、月間4,510万人に達し(そのうちの63%はデイリーである)、これはGoogleに匹敵し、Facebookを常に上回っている。また、当社だけでなくプレミアムメディア環境からのオルタナティブなスケールプレイの2つの例として、Global(世界大手のメディアとエンターテインメントグループ)のDAX(英国最大のデジタルオーディオ広告販売および挿入プラットフォーム)、やNews UKとBauer(世界最大の民間所有メディア事業)の合弁事業であるOctave Audio platformを確認する必要があるだろう」。
「Facebookのようなプラットフォームは、適切な方法で使用された場合、広告主に非常に強力な成長チャネルとなることは否定できない。しかし、より広大な広告エコシステム上で、特にGoogleと組み合わせた場合のFacebookの独占状態が与える影響については、長い間疑問を感じてきた。ロックダウン以前でさえ、広告主とその代理店は、ブランド広告を表示するための高品質で信頼できる環境を提供し、持続可能なメディア業界を構築するために果たすべき役割を認識していた。そして、今まで以上に広告主は、その責任とパワーを認識しているように思われる。彼らは、彼らが望む変化を扇動するべきなのだ」。
Picnic Media(KPIの広告製品プロバイダー)のCEO、Matthew Goldhill氏:
「このボイコットは大いに注目され、多くの見出しを賑わせたが、最終的にはFacebookの収益と利益にはほとんど影響を与えていない。その素晴らしいフォーマット、洗練されたアプリ、そして最高品質のオーディエンス・ターゲティングにより、間違いなくFacebookは世界最高の広告プラットフォームを構築したのだ。ブランドはFacebookのUGC(一般ユーザーによって作成されたコンテンツ)のフィードのクリックベイトのヘイトスピーチ投稿に一時的に対抗することができるが、ある時点で、再びメディアの有効性を優先する必要があるのは当然のことだ。ボイコットを持続させるためには、他のメディアオーナーは、Facebookを非常に効果的なメディアにしている要素(形式、精巧なインベントリ、高品質のターゲティングなど)を再現し、ヘイトの資金源とならずにFacebookと同じくらい効果的な広告機会を提供する必要があるのだ」。
※当記事は英国メディア「Mobile Marketing Magazine」の7/2公開の記事を翻訳・補足したものです。