リピート通販の成否を左右する本質的な事業計画の作り方
オンラインへ多くの事業者が出店をしている今、EC事業は闇雲に運営していても売上アップなどの成果を手にするのは難しい市場環境になってきている。特に単品商品を繰り返し販売するリピート通販においても、先のことを考えずに施策を繰り返していても成長を見込むことは難しくなってきている。そこで今回は、しっかりとした売上目標を達成するために、どのよな事業計画をどのような視点で作っていくべきかを考えていく。
※今回は、リピート通販専用カートであるリピストを提供する、株式会社リピストからノウハウ提供を受け、記事を作成した。当記事で触れているリピート通販の事業計画のテンプレートはここからダウンロード下さい。
ECサイト運営における事業計画とはそもそも何か
ECサイト運営における事業計画とは、KGIとしての売上をしっかり作るために、それを構成するKPI要素をどのような値を目指すべきかを、具体的な数値レベルで定義するものだ。そして、その数値を目指すために、どの程度の投資を行うことが出来、どの程度のランニングコストがかかるのかを考慮したうえで、何をどのようにどのタイミングで行うべきかを検討していくものまでを含めて事業計画と呼ぶのが一般的だ。
リピート通販において事業計画を作るために必要な基本的な要素
リピート通販において事業計画を作るためには、5つの基本的な要素を抑えておく必要がある。それは、コスト、商品の販売単価、平均継続回数、投資可能な最大キャッシュ、目標とする最終的な年間利益だ。この中で、平均継続回数はKPIに、目標とする最終的な年間利益はKGIとして設定されることも多い要素となる。
それでは、1つずつ説明していこう。
コスト
リピート通販のコストは、一般的には割合として大きな順に広告費、原価、配送費、決済手数料、システム費用、業務委託費用(コールセンター等)となる。人件費や地代家賃に関しては企業ごとに事情が異なるのでここでは割愛するが必ず事業計画内に織り込むべきだ。この中で保管費・業務委託費用以外は売上件数や売上高に比例し、かつ適正な範囲があるので、上記の5つの要素が決まれば自動的にその他のコストも決まっていく。
適正な範囲は、
- 原価:15%
- 配送費: 800円~900円(メール便は500~600円。ともに保管費、WMS料金は別)
- 決済手数料:決済金額の4%
- システム費用:売上総額の0.5~3%
程度と考えるのが一般的だ。
商品の販売単価
商品の販売単価も事業計画を作る上では欠かせない要素だ。既に販売単価が決まってしまっているケースは、この部分の検討を行うことは難しいが、ある程度販売単価を検討する余地があるケースではしっかり事業計画検討の段階で検討していきたい。
リピート通販事業のコストの中で最も大きな比率を占めるのは広告費だが、一定以上の規模のリピート通販ではアフィリエイトが新規獲得の主力になるため、リスティングなどの運用型広告によるCPAのぶれの影響が低く、獲得単価と販売価格は概ね比例するようになる。また、販売価格の設定に際しては、競合商品の相場と大きく乖離した価格になると売ること自体が困難になるため、競合商品の価格を参照して検討する必要もある。
そのため、商品単価は、競合商品の価格と、獲得単価との兼ね合いから決めていくのが妥当だ。
平均継続回数
リピート通販の個客それぞれの継続率は、回数が上がるにつれて減衰していく。CRMなどの取り組みによって、その割合を軽減することは可能だが、一般的には継続率は5回目前後まで漸減していく。おおよその目安として、1回ごとに継続率は3~5%下がると想定しておく方が良いだろう。
投資可能な最大キャッシュ
リピート通販の事業モデルは広告費を先に支出し、継続した売上によって回収するモデルなので、黒字化するまでには時間がかかり、当然赤字になる期間が存在する。そして最終的な事業規模は支出した広告費によってほぼ決定づけられるので、どのくらいの投資ができるか、言い換えれば最大累積赤字をいくらまで受容できるかによって、リピート通販事業の規模は決まる。
もちろん少しずつ売上を増やし、累積赤字の最大額が膨らまないように運営することは可能だが、その場合は月間200-300万円の利益が見込めるようになるまでに4-5年かかるような長期計画になるため、事業計画としては採用しづらいと言える。
目標とする最終的な年間利益
事業の拡大ペースの指針として目標年間利益が必要になる。ただし年間利益だとスパンが長く測定に時間がかかるため、年間利益○○円を達成するために必要な月間売上高を算出し、この月間売上高への到達を目標に置いた方が事業開始後の指標として利用しやすい。
リピート通販で事業計画を作る際に気を付けるべきポイント
リピート通販の事業計画を具体的に作っていく上で、気を付けておきたいポイントを整理していく。
決済比率は後払いが圧倒的に多い
リピート通販で後払い、カード、代引きの3種類の決済を実装している場合、それぞれ55%、35%、10%程度の利用比率になる。一般的な決済比率とは大きく異なる点に注意が必要。
利益は新規獲得数の増加が止まってから出る
リピート通販では順調に毎月の新規獲得数が増え続けているうちは黒字にならない。新規獲得数がアッパーに達し、毎月一定数になった後に利益が出はじめる。
スタート当初はコストが割高
スタート直後の売上が少ない間は、決済やシステムなどの固定費が占める割合が高く、費用感に合わないケースが出てくる。すべてのステージで費用感を合わせていくことはできないので、スタート当初であっても、例えば月商1,000万以上にスケールした際にどうなるか、などの視点を持って考えていきたい。
KPIにして良いものと良くないものを理解する
KPIはKGI(≒売上)を達成するために必要な構成要素とするべきだが、施策を行っていく上で、本末転倒になるものや、本質的ではないものはKPIとして設定するべきではない。
例えば、LTVは非常に重要な要素だが、これをKPIに設定してしまうと大きな見落としが起きることがある。短期間での解約が多くLTVが低い場合、原因は商品そのもの以外に、パッケージ、広告とのアンマッチ、CRMのアンマッチなどが考えられる。しかし、LTVをKPIに設定していると、アップセルやクロスセル、解約顧客への再アプローチといった、問題の本質を解決しない方法でKPI改善が達成できてしまうため非常に危険だ。
またCPAもKPIにするべきではない。リピート通販では、前述の通り、獲得の主力はアフィリエイトになる。そのためCPAをKPIに設定しても、商品単価と連動するだけとなり、達成すべき指標としての意味をあまり成さない。
一方で、CVRはKPIとして重要な意味を持つ。CVRが低い商品はアフィリエイトでの露出量が増えないためだ。記事広告型アフィリエイトが最もCVRが高くなるが、この記事広告型アフィリエイトで9~10%のCVRが出ていれば問題ないだろう。また、「平均継続率」や「アップセル成功率」、「クロスセル成功率」などは少し細かすぎると感じる部分もあるとは思うが、KPIとして設定すると、非常にうまく機能することが多い。
エクセルに項目を並べチューニングを行う
ここまで色々とポイントを挙げてきたが、まずはエクセルに、決まっている値や、分かる範囲の値を記入してからチューニングしていくことをおすすめする。頭の中だけで計算するよりも、まずは数値をどんどんエクセルに記入して、事業計画を可視化していく方が良いだろう。その上で、それぞれの値の精度を高め、チューニングを行っていくことが重要になるだろう。
リピート通販における実際の事業計画と成功事例
それでは、ある企業で使用された事業計画を見てみよう。事業の現状に合わせて、これまで説明した項目を全て網羅する必要もないが、それぞれの事業の特徴を考慮した工夫は不可欠だ。具体的に、以下でダウンロードできる事業計画を見てみよう。
簡単な内容も含めて、上述したポイントをおさらいしてく。
- 売上の8割~9割はアフィリエイトによるものと設定している。(12行目)
- 定期継続率は2回目80%、3回目75%、4回目73%と減衰する設定となっている。(D5~D8セル)
- カードや後払いなどの決済費用は実際に即したものを設定している。(16行目~24行目)
- 配送手数料、CS手数料、システム利用料なども忘れずに記載。(25行目~37行目)
- 地代、人件費などもきちんと設定している。(38行目~42行目)
- 累積営業利益はかなり大きな値まで一時的に赤字となるが、26ヵ月目に累積黒字化している。(AD列)
※リピート通販の事業計画のテンプレートはここからダウンロード下さい。
事業計画を作りリピート通販の本質を理解していくべき
こうして見てみると、リピート通販と通常のECの事業計画では大きく違う点が3つある。まず、商品販売数の計画の立て方が継続率をベースとしたシンプルなものとなる点。次に、売上の大部分がアフィリエイト経由と言う前提でマーケティングコストを見る必要があるという点。そして、決済の多くが後払いとなる点だ。そのため、商品単価について検討を行う必要性が通常のECよりも高くなるということに繋がってくる。そして、累積での赤字をどこまで飲み込めるのか、によってその事業規模とスピード感は大きく変わってくるのだ。
通常のECと比べ、単品で繰り返し販売するだけ、と言った見方もされることの多い、リピート通販だが、事業計画の観点から、その本質を紐解いてみると、事業の成否のポイントも大きく異なっていることが分かる。このような本質を理解したうえで、事業計画をしっかり作ることで、リピート通販事業の取り組みの成功率を高めることが出来るのではないだろか。