規制圧力が高まる中、この方針の変更はソーシャルメディアの巨人Facebookとその広告主にとって、新たなフェーズを迎えることを意味するだろう。2018年3月29日、Facebookは自社のプラットフォーム上の広告ターゲティングへのサードパーティデータの利用を、今後6ヶ月をかけて段階的に廃止する予定だと発表した。

 

Cambridge AnalyticaによるFacebookユーザーデータの不正利用スキャンダルでの炎上にも拘わらず、Facebookを見捨てない集団がいる。それは広告主だ。広告主はほぼ例外なく事態を静観しており、スキャンダルの影響を受けていないように見える。少なくとも現時点までは、という話ではあるが。

サードパーティのデータソースを排除すると、市場行動や家計収入など、多数のユーザー属性が広告ターゲティングに使用できなくなる。Facebookの今回の発表の詳細については、関連記事内のFAQ形式の解説を参照いただきたい。

Facebookによるサードパーティデータの利用停止は重大な意味を持つが、発表当日に話を聞いた複数のマーケターは慎重にも楽観的であった。かつて、広告商品が絶えず変更され、コミュニーケーションも酷いものであった当時のFacebookの広告ターゲティングの悲惨な状況を思い出すマーケターもいるだろう。その頃からのマーケターは、自社データやパートナーシップ、広告ユニット、そして概ね全インターネットユーザーとも言える膨大なオーディエンスによって、Facebookがゼロから400億ドルの広告企業にまで急成長するのを目の当たりにしてきたのだ。

広告主が、Facebookへの広告予算を他社に費やす主な理由は2つある。どちらの理由も、広告のパフォーマンスと関係する。Facebookの利用者数におけるスケールメリットを揺るがすほどの大量ユーザーが退会したからか、もしくは、広告ターゲティングの効果がなくなったからだ。その次は、ブランドセーフティーとブランディングへの懸念である。プライバシーとデータ不正利用問題が解決されるまで、Mozillaをはじめとする複数の企業がFacebookへの広告出稿を「一時停止」すると公表した。広告主と市場(特に市場については苦戦している)を納得させるためにFacebookは、大量のユーザーの退会を食い止め、規制当局に対して有効な策を提示する必要があった。そして今回の方針変更に至ったと考えられる。

「Cambridge Analyticaのスキャンダルによって、Facebookが現在も調査を受けていることを考えれば、サードパーティデータの使用制限を決定したことは驚くことではない。透明性への要求が高まるにつれて、Facebookはユーザーの退会阻止に注力するだろう」と、デジタル広告代理店、Nina Hale社のパフォーマンス・メディア責任者であるShuman Sahu氏は言う。「利用可能なデータが制限されたとしても、多くの広告主はFacebookとその傘下のInstagramやMessengerを引き続き活用するだろう。それらのソーシャルネットワークを組み合わせれば、ソーシャルスペースで比類のない規模となるからだ」。

とは言っても、広告主は今回の方針変更により新しいフェーズに入ることは理解している。

「私は10年近くFacebook広告の擁護者でもありと評論家でもあるが、次の進化に心から期待している」と、デジタル広告代理店、Aimclear社のアソシエイトクリエイティブディレクターMerry Morud氏。Morud氏は現在、Uberのソーシャルメディアマーケティングを担当している。

 

最も影響を受けるのは誰か?

「オーディエンスを発掘し限定するのにサードパーティデータに頼っているFacebookマーケターには、不意打ちを食らったと感じている人も多いかもしれない。そして、同様、もしくは類似のAND/OR演算機能で利用可能な同じデータがあるか、ビックデータを使用したターゲティングを概算できるFacebookベースのターゲティング変数があるかを、急いで確認していることだろう。オーディエンスをターゲティングするためには、よく2つの方法が用いられる。それはパートナーデータを使用する方法と、ビッグデータターゲティング変数の代わりとなるFacebookのターゲティング機能を使用する方法だ」とMorud氏は加えた。

広告主によって受ける影響の深刻さは異なる。自社の顧客についての最低限の情報しか持っていない広告主は、さらに大きな変化に対応する必要が生じる。

「CPG(消費財)のような十分な(固定の)顧客を有さない業界への影響は、より大きなものである。何故ならば、こうした業界はより一般的なオーディエンスをターゲットしているため、他社との激しい競合状況にあるからだ。その結果、Facebookの定義するオーディエンスについてのCPM(コスト・パー・ミル/広告を1,000回表示させるのに必要な費用)は増加するだろう。もちろん、パートナーカテゴリ(サードパーティ提供のデータを使用したFacebookのターゲティング機能)では、CPMプレミアムを扱っていたため、有効性への影響は不明である」と、ある大手代理店のソーシャルメディア責任者は匿名を条件に語っている。

「サードパーティのデータセットを使用して構築されたターゲティングパラメータに依存している広告主は、今回のニュースに衝撃を受けたことだろう」と、Sahu氏。「ペルソナに基づいたFacebookユーザーの調査とターゲティングは、家計収入や財務データを使用する頻度が高く、かなり困難になるだろう。今後もFacebook広告を活用するマーケターは、引き続き提供されるユーザーの行動や関心についてのデータに基づいてオーディエンス属性を推定する方法を工夫しなければならない」。

Sahu氏はさらに、「今後数ヶ月の間に、いくつかの変化が起こると予想している」と述べた。「まず、サードパーティのデータフィールドに依存している広告主は、代替のターゲティング戦略を試す必要がある。ヘルスケアや金融サービスなど、より複雑なターゲティングが必要な業種の企業は、オーディエンス属性を入れ替え、セグメンテーションとテストを続ける必要が生じるだろう」。

 

潜在的なチャンスを見出す

しかしながら、何年間にもわたってFacebookがマーケターに対し、より広範なターゲットを設定するよう勧告していることから、Morud氏は「広告主が、慣れ親しんだターゲティングコントロールをやめることにより、パフォーマンスが大幅に向上する可能性がある」と確信しているという。しかし、実際にパフォーマンスが向上するまでには、少しの忍耐が必要となるだろう。「マーケターに言いたいのは、“パフォーマンスは一日にしてならず”ということだ。何十万ものデータポイントを分析可能なアルゴリズムは、オーディエンスを理解するために時間とアトリビューション分析用のコンバーションデータを必要とする」と言う。

キャンペーン自動化とレポーティングプラットフォームを提供するAdStage社のグロースマーケティング担当責任者ディレクターJD Prater氏は、広告主はパフォーマンスを詳細に監視するべきだと考えている。「最終的には、Facebookが広告サービスによる優れた結果を出し続ける限り、広告主から引く続き堅実に広告収入を得るだろう」と述べている。

もちろん、広告主は、自社データも引き続き使用することが可能だ。間違いなく、カスタムオーディエンス(企業の顧客データとFacebookの利用者データを照合し、Facebookを利用している顧客を見つけ出す機能)は、サードパーティのブローカーからのデータ提供よりも大きな影響をもたらした。

「今回のサードパーティデータ利用停止によって影響を受けない、ピクセルベースのリターゲティング、カスタムオーディエンスリスト、類似オーディエンスなどのダイレクトレスポンスのターゲティングオプションは、引き続きうまく機能し、大多数の広告主のパフォーマンスを向上させるだろう」と、Sahu氏。「Facebookは、最近、カスタムオーディエンスのリーチ予測を制限しアクセシビリティを変更したが、カスタムオーディエンスは、依然としてコンバージョンを向上させる最良の方法の1つである」と語る。

米国の広告主はFacebookのサードパーティデータに慣れ親しんでいる一方、これは世界中で提供されているわけではない。「カナダのような大規模な市場でもパートナーカテゴリは一度も提供されていないが、広告主は効果的なキャンペーンを計画し、成功させている。カナダのような例は、今回の変更にもかかわらず市場にとって明るい材料と言えるだろう」と、Sahu氏。

単にデータブローカーから直接オーディエンスを購入し、Facebookのカスタムオーディエンスとしてインポートする前に、自社データに組み込む広告主もいるだろう。また、Facebookがサードパーティデータを取り込む抜け道を見つけるかもしれない。

「Facebookが、サードパーティが提供していたデータフィールドを自社で取り込み、広告主に再リリースする可能性もある」とSahu氏は言う。

 

他の選択肢も探す広告主

明らかなのは、今まではわずかにしか空いていなかった他のネットワークへのドアが、開いているということである。

「サードパーティセグメントを使用しているクライアントに対しては、Facebook内の適切な代替手段を特定し、もしくは(且つ)、引き続き活用可能な高いパフォーマンスのサードパーティデータのソースリストを模索するためのシナリオプランを提案した」と、あるソーシャルメディアのトップは述べた。「Facebookが競合他社に勝つために必要な有効性レベルを維持し、収穫逓減点を超えているかどうかは、今回の変更のフェーズが進むにつれ明らかになるだろう」。

「もしTwitterとLinkedInだったら、今こそ広告商品に多大な予算を費やすだろう。両社ともかなり出遅れてはいるが」と、3月29日にMorud氏はツイートした。

SnapchatとPinterestも、広告主の有望な検討対象になり得たはずだ。

Facebookがサードパーティデータを制限する方針を変更するか、同等のターゲティングパラメータの提供を開始するかしなければ、広告主は認知メディアを使ったオーディエンスセグメントのテストを引き続き行うための代替チャネルを検討する必要がある。これらの代替チャネルを通じて、ウェブサイトのトラフィックを獲得し、Facebookはサイト訪問者への効果的なリターゲティングや、または、最終的なコンバージョンの促進に活用することも可能だ。

AdStageのPrater氏は次のように述べた。「今回のFacebookの方針変更により、広告主はターゲット設定や広告クリエイティブにおいてより戦略的になることを余儀無くされるだろう。また、他の広告ネットワークにも多角的に予算を振り分け、テストを行だろうと予測する。しかし、FacebookとGoogleの2大巨頭による寡占状況は、2018年も引き続き続くだろう」。

 

Facebookは既にさらなるターゲティングデータを収集

Facebookは、収集したユーザーデータをユーザーが把握しコントロールできるように改善策を講じるかもしれないが、数カ月以内にはさらに大量のユーザーデータに依存することになるだろう。

「今回の方針変更が、広告ターゲティングとパフォーマンスにどの程度影響を及ぼすかはまだ不明である。Facebookが所有するネットワークや製品(Facebook、Instagram、Messenger、ウェブサイトピクセル)を通じて、ユーザーは多くの情報や購入信号をFacebookに提供していることを忘れてはいけない」とPrater氏。

当然のことだが、Facebookは何百万ものサイトの至る所に配置された「いいね」ボタンを通じて、ウェブをブラウズするユーザーデータを収集してきた。そして2015年に同社は、そのデータを広告ターゲティングにおいて利用可能にした。

匿名のソーシャルメディア責任者は、サードパーティが、もっとも堅固な買い物客及び市場行動データを所有する傾向にあると指摘。しかし、「Facebookのログインによってより多くのサイトへの流入が起こり、Facebook上のコンテンツとのインタラクションは増加し、Facebookのピクセル採用も増加しているため、Facebookが、ある程度正確に、買い物客及び市場行動の特性を推定できるようになる可能性がある」と言う。

Morud氏は、Facebookが自社プラットフォームで行なっている「自己開示データを構築する新しいいくつかの取り組み」を強調した。その中の一つはアンケート機能によるものである。ぼかしを入れた下に示すスクリーンショットを参照してほしい。

 

問題は、Facebookの自社データが、実際に広告ターゲティングにおいてどれほど価値があるかということである。

「Facebook、そして恐らくは、InstagramやMessenger、Whatsappの所有するデータを直接活用したターゲティングは、より魅力的なものになると考えている。それは(マーケターの間で使われてきたナッジ理論のようだが)、望ましいことである」と、Morud氏は述べた。

 

サードパーティデータの代わりに、データに基づいた代替オーディエンスの開発に取り組んでいるかどうかとの問いに対し、Facebookは「まだ始めていない」という回答であった。

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の3/30公開の記事を翻訳・補足したものです。