TTFV(Time to First Value)は、顧客が留まるか離脱するかを決定付ける、重要だが見過ごされがちな瞬間である。


カスタマーサクセスプラットフォームを提供する米国企業、Gainsightの2024年のレポートによると、離脱した顧客の73%が、投資を正当化できるほど早い段階で価値を見出せなかったと答えている。

インスタントグラティフィケーション(即座に得られる満足感)が求められ、忍耐力が失われつつある時代において、製品やサービスは「何ができるか」ではなく、「どれだけ早く有意義な価値を提供できるか」で判断される。顧客は単に製品やサービス、サブスクリプションを購入しているのではなく、問題に対する解決策、つまり「成果」を求めているのだ。

顧客にとって最初の有意義な成果がすぐに達成されなければ、価値を提供したことにはならない。それを測定するための指標は、貴社のCX戦略において最前線に立つべきものである。

では、その指標とは何だろうか。それは、「TTFV(最初の価値、ファーストバリューを実現するまでの時間)」である。TTFVは、顧客が継続するか離脱するかを決定づける、重要だが見過ごされがちな瞬間である。それは、顧客が定着するか、成功するか、それとも静かに去っていくかを示す最も初期の指標なのだ。

これを追跡していないと、カスタマージャーニーにおける最も重要な時期を見逃すことになる。

 

「価値」とは何か?

「価値」とは、顧客が貴社の製品やサービスを選ぶ際に期待する具体的な成果である。それは、金銭的、感情的、あるいは運用的な面から顧客の投資を正当化するものである。最も重要なことは、価値は貴社ではなく、顧客によって定義されるということである。

価値を以下の3つの側面から考えてみよう。

1. 機能的な価値:機能し、説明されているとおりに動く。
2. 感情的な価値:満足感が得られる。
3. 戦略的な価値:変化や違いをもたらす。

真の「ファーストバリュー(最初の価値)」は、これら3つが顧客の期待と一致するところで生まれる。

 

「価値」は顧客によって定義される

1980年代、顧客価値管理や市場価値分析の分野で知られるBradley Gale氏は、顧客が価値をどのように定義するかを理解するための最も明確なモデルの1つである「顧客価値分析(CVA)」の概念を開拓した。Gale氏によれば、「顧客価値」とは、低価格や高品質を単体で意味するものではなく、顧客が得るものと与えるものの間のトレードオフを意味する。同氏によるシンプルだが強力な公式がある。

顧客価値=知覚品質/知覚価格

それは、単なる品質や請求書上の価格ではない。顧客が時間、お金、労力、リスクといった、彼らが犠牲にしていると考えているものと引き換えに、何が得られると感じているかということである。こうした認識が、ロイヤリティ、アドボカシー(支持)、そしてリテンション(顧客維持)を促進するのだ。

Gale氏の調査では、相対的な知覚価値が市場シェアの動きを直接予測することも示されている。貴社の価値を競合他社よりも高いと認識した顧客は、そのまま留まる。そうでない顧客は離れていく。

これは、「TTFV」とどのような関係があるのだろうか。機能的な価値であれ、感情的な価値であれ、戦略的な価値であれ、早い段階で顧客が成功体験を実感できなければ、顧客は価値交換に疑問を抱くだろう。TTFVとは、顧客が「正しい選択をした」ことを素早く証明することである。それがモメンタムを生み、信頼を築くのだ。

Gale氏はまた、顧客に品質と価格の定義を尋ねることの重要性も強調している。顧客にインタビューを行い、ジャーニーマップ(ユーザーが商品やサービスを購入するまでのプロセスを、時系列に沿って可視化したもの)を活用しよう。そして、次のような質問をしてみよう。

  • この製品/サービスに期待する、最初の意味ある成果は何か?
  • 当社のソリューションを選んだとき、どのような結果を期待していたか?
  • 成功とはどのようなものか?それはどのくらいの期間で達成したいか(最初の30日、60日、90日)?
  • この製品/サービスにどのような仕事(またはあなたが解決しようとしている問題)を任せたいか?
  • どのような課題を解決しようとしているか?

そして、こう尋ねてみよう。「期待通りの結果が得られたと、どのようにして分かったのか?」

顧客は、自分が求めていたものを手に入れたと感じるまで、価値を認識しない。そして、彼らがその価値を感じるまでは、離脱のリスクがあるのだ。

 

「TTFV(Time to First Value)」とは何か

「TTFV」とは、顧客が貴社の製品やサービスに申し込んだり、購入したりしてから、その製品やサービスから得られる有意義な結果やメリットを初めて実感するまでの期間のことである。それは、初回ログインでも、キックオフミーティングへの参加でも、オンボーディングの完了でもない。それは、顧客が「なるほど」と口にする瞬間である。それは、顧客が「なぜそもそもこの製品を購入したのか」という理由と合致する成果を実感する瞬間なのだ。

私の好きな言葉に、「『動き』と『進歩』を取り違えてはいけない。ロッキングホース(揺り木馬)は動き続けるが、進歩はしない」(Alfred A. Montapert、米国の哲学者)というものがある。

顧客が貴社ブランドと交流や関わりを持ち始めたり、貴社製品を使い始めたりしたからといって、必ずしも彼らが価値を受け取ったとは限らない。ファーストバリューは、タスクではなく、成果によって定義される。

スマートホームデバイスを製造する企業にとって、ファーストバリューとは、梱包箱が届いた時やデバイスが設置された時ではなく、顧客が製品を接続し、リアルタイムのエネルギー節約効果を初めて目にした時かもしれない。

データ主導でAIが強化された世界では、TTFVは単なる指標ではない。それは、事前に予測し、設計できる瞬間なのだ。

 

なぜ重要なのか

今日の人々は、単に成果を求めるだけでなく、それを即座に求めている。そのため、組織が価値を提供する方法は大きく変化した。ネット・プロモーター・スコア(NPS)、顧客満足度(CSAT)、オンボーディング完了率といった従来の指標は、遅行指標(過去の成果に対する指標)である。

TTFVは、成功を示すプロアクティブな指標であり、収益を予測する先行指標である。価値を迅速に提供できる企業は、「これは価値があった」「ただ売ることだけが目的ではなかった」と信頼を築き、販売から更新までのサイクルを短縮する。価値実現のスピード=ROI(投資対効果)実現のスピード=ロイヤリティ実現のスピード。価値提供が遅れれば、リテンションの“通貨”である「信頼」も遅れることになるのだ。

 

ファーストバリューの瞬間を特定する

ジャーニーマップは、ファーストバリューの瞬間が起こる「重要な真実の瞬間」を特定するのに役立つ。

ジャーニーマップによって、以下のことが可能になる。

  • 顧客の「価値」の定義を明らかにすることができる。ジャーニーマッピングは、顧客が何を価値と感じているかを見出す。それは多くの場合、課題の解決、タスクの簡素化、目標の達成、リスクの回避といった成果と結びついている。顧客とともにジャーニーを歩むことで、オンボーディングなどの社内で定められたマイルストーンだけでなく、真の価値ある瞬間を発見することができる。
  • ファーストバリューの瞬間をコンテキストの中で特定できる。TTFVは、単に価値が何であるかということではなく、それがいつ、どこで実現されるかということである。ジャーニーマップは、最初の「なるほど!」と思う瞬間が起こるステージやタッチポイント、製品購入からインパクトが出るまでのタイムラグ、そして顧客がすぐに価値を実感するのか、それとも複数回のインタラクション(トレーニング、オンボーディング、統合など)を経て初めて価値を実感するのかを把握するのに役立つ。これにより、ファーストバリューに到達するまでの時間や、何がそれを遅らせる可能性があるのかを可視化することができる。
  • ファーストバリューを遅らせるフリクションを明らかにすることができる。ジャーニーマップは、ファーストバリューまでの時間を長引かせる要因となる、技術的、感情的、物流的な障害やフラストレーションを特定する。たとえば、納品されたものの組み立てが分かりにくい製品や、ツールは機能するものの、顧客はそれを購入した目的を達成するための方法を理解していない場合などである。目に見えないものを修正することはできないのだ。
  • 価値にまつわる感情的なジャーニーを把握することができる。ジャーニーマッピングによって、顧客が自信や安心感を覚え、疑いから確信へ、そしてバイヤーからアドボケイト(支持者)へと変化する瞬間が明らかになる。このような瞬間は価値認識と相関関係にあることが多く、TTFV分析の一部として認識されるべきである。

ジャーニーマッピングは、単に摩擦を診断するためのツールではない。それは、顧客がいつ、どこで、どのように価値を認識するのかを共有することで、各部門の足並みを揃えるためのものである。ジャーニーマップを適切に活用すれば、TTFVを向上させるために、全員が自分の役割を確実に把握することができるようになる。

しかし、ここで重要なのは、ジャーニーマップは単なる診断ツールではなく、設計ツールとして使用しなければならないということである。それは、(プロアクティブなCXデザインを通じて)ファーストバリューを発見し、向上させるための最も実用的でインパクトのある方法の一つであるが、それを実現するには、社内の視点ではなく、価値主導の視点からアプローチする必要がある。

 

価値主導の視点が果たす役割とは

価値主導の視点は、ジャーニーマッピングを単なるタスク(顧客は何をするのか)の記録から成果(顧客は何を達成しようとしているのか、いつ成功するのか)の診断へとシフトさせる。このシフトは、TTFVをマッピングする上で不可欠である。単にステップをたどるのではなく、顧客が利益を実現するまでの道のりを明らかにするのだ。

ジャーニーマップには、次の3つの要素を含める必要がある。

1. 顧客が何をしているか(結果に向かって取られた行動)
2. 顧客が何を考えているか(目標、ニーズ、期待、潜在的な価値の瞬間)
3. 顧客が何を感じているか(自信、フラストレーション、安堵、喜びなど、前進や苦痛を示す感情)

最後に、顧客からのフィードバックや行動データを使ってマップを検証しよう。そうすることで、価値を推測するだけでなく、その価値がどこで受け取られているかを把握することができるようになるだろう。


※当記事は米国メディア「MarTech」の5/29公開の記事を翻訳・補足したものです。