読者の注意力の持続時間が短くなるなか、従来のニュースレターは苦戦している。ここでは、よりスマートで焦点を絞ったメールマーケティングにシフトする方法を紹介しよう。
私たちの働き方は、この5年間で大きく変化した。たとえば、在宅勤務の柔軟性やバーチャルミーティングの増加などのトレンドにより、多くのマーケターは通勤や出張、オフィスでの他愛もない雑談を減らし、時間を取り戻すことができるようになった。これは多くの人にとってプラスの変化である。しかし、オンラインでの仕事が増えることで、私たちの注意力の持続時間が低下しているという副作用もある。
受信トレイ疲れは実際に起きている。その打開策とは
2023年のインタビューで、カリフォルニア大学アーバイン校情報学部の学長教授であるGloria Mark博士は、「インターネットとデジタル機器が私たちの集中力にどのような影響を与えているか」を説明した。同氏の洞察はデータによって裏付けられている。平均的なアテンションの持続時間は2012年の75秒から、パンデミック後はわずか47秒に低下している。メールマーケターはこれに注目すべきだ。
2020年以前なら、関心のあるトピックの最新情報を入手するのに欠かせないものとして、「メールニュースレター」を挙げていただろう。イントロをスクロールしたりプロモーションタブをじっくり見たりするのは、苦ではなかった。しかし、今はどうだろう?受信トレイを整理することを考えただけでゾッとする。一括削除が私のデフォルトになった。
この変化は、私のメールマーケティング戦略を見直すきっかけとなった。メールが廃れたわけではない。長文のニュースレターは、デジタル疲れした読者の関心を引き付けられないことが多いのだ。そこで私は自問し始めた。なぜ、ほとんどのメールは流し読みするのに、いくつかのメールでは立ち止まって目を通すのだろうか?これらの例外的なメールには、どんな共通点があるのだろうか?
答えは、メールのおかげで一つのことに集中しやくなったからである。注目を集めたいのであれば、ニュースレターの編集者のような考え方をやめて、問題解決者のように考える必要がある。つまり、コンテンツを詰め込む考え方から、ニーズに基づいた考え方に移行するということなのだ。
ここでは、アテンションが分断された現代社会に対応するために、メール戦略を見直す5つの方法を紹介する。
1.あなたのメールは「RAD(魅力的)」か?
ニュースレターは往々にして、「毎週火曜日に購読者リストの人たちに何かを送っている。だから、彼らはそれを期待しているはずだ」という考えに陥りがちである。しかし、コンテンツが素晴らしいから、誰かから頼まれたから、あるいは単にあなたが設定したスケジュールだから、という理由だけで送られるメールは、たいていあまり「RAD(魅力的で効果的なメール)」とはいえない。
「RAD」なメールとは、以下のような特徴を持つものをいう。
・関連性がある(Relevant)
・付加価値がある(Add Value)
・ナビゲートしやすくデザインされている(Designed to be easy to navigate)
「関連性」とは、タイムリーであること、そして何より重要なことは、メールを受信する人にとって役に立つことであり、メールを送信する企業であるあなたにとって役に立つことではない。
2.今、何が、誰にとって重要なのか?
優れたメールにはある種の緊急性が感じられる。そうしたメールには、たとえば以下のような理由で今すぐ見る必要がある情報が含まれている。
・最近のニュースで見逃しているかもしれない出来事がある。
・すぐに解決が必要な技術的な問題に対処している。
・「何かお困りですか?」というトリガーメールを受け取った。
・会社と自分との関係に、知っておくべき変化があった。
もしあなたが、古いコンテンツを順不同にまとめ、購読者リストの全員に配信する傾向のあるニュースレターを中心に戦略を組み立てているとしたら、これは大きなシフトである。「この購入者は今、何を知る必要があるのか」、という視点に意識をシフトさせることで、気が散りやすい受信者はその日に最も関連性の高いトピックだけに集中できるようになり、メールを読んでくれる可能性が高まるのだ。
3. スケジュール送信か、それともトリガー送信か?
メールニュースレターの問題点は、特定の時間に送信がスケジュールされてしまうことである。これは、10年前のブログで誰かが「火曜日か木曜日が、メール送信に適した日だ」と言ったからである。そして、通常は月単位か週単位で送信がスケジュールされる。それも、メール配信の神様が求める正常性要件を満たすためにはそうしなければならない、と誰かが言ったからだ。
しかし、このようにスケジュールされた送信は、私たちが今を生きることを妨げているのだ!
だからといって、スケジュール送信を一切すべきではないというわけではない。それでは、混乱を招くからだ。しかし、もしカレンダーにもう少し余裕を持たせ、トリガー送信、つまり「購読者が行動Xを取ったら、メールYを送信する」という条件を満たすメールのためのスペースを増やしてみてはどうだろうか。
このようなトリガー送信は、一部の人にしか関係しないが、トリガーが正しく設定されていれば、いざという時に効果を発揮する絶好の機会となるのだ。
4.件名は開かれた扉である
最後にプロモーションタブを一括削除したときを思い出してほしい。何を残しただろうか?中身が明記されたニュースレターだっただろうか?
キャッチーな件名は楽しいし、絵文字はかわいい。しかし、一括削除モードに入っているとき、私は気の利いた件名を探しているのではない。より深く検討する必要があるものを探しているのだ。そのために、件名を見て、そのメールを「今すぐ削除しなくてもよい」という理由を正確に理解するのだ。
だからといって、楽しんだり、少し遠回しの表現をしたりしてはいけないというわけではない。ただし、クリックベイト(ユーザーの興味を引くために、誇張された見出しやサムネイルを用いる手法)のような巧妙な件名で開封率を得る時代は終わっている。「このメールが今、あなたにとってなぜ重要なのか」を率直に伝えることが大切なのだ。
5.スクロールを賢く使おう
喜んでスクロールしてしまうメールもある。たとえば、旅行アプリから時々届く、「訪れることを考えもしなかっただろうこの場所を訪れるべき理由」といった内容のメールだ。それらは長くて複雑で、行動喚起はあるにはあるが、その優先順位は高くない(たとえば、「アプリをダウンロード」、「お得な情報をゲット」など)。しかし、トナカイに餌をあげられる場所や、海辺の洞窟で古代ルーン文字(ヨーロッパで誕生した文字体系)を見つけるためのヒントがあれば、私は一日中それを読み続けるだろう。
ターゲットを絞ったショッピングメールについても、同じように感じている。新しいパンツを探しているなら、Webサイトをクリックしてフィルタリングし、さらにスクロールするという面倒な作業を省くために、私は喜んでメール内にある20種類もの選択肢をスクロールするだろう。時間を節約するためだ。
一方で私があまり好きではないのは、「これが好きですか?それともこれは?あるいは、こちらはどうですか?それともこちらは?」と尋ねられているようなコンテンツのメニューを延々とスクロールすることだ。ビジュアルスクロールやストーリー性のあるコンテンツなら何とかなるが、コンテンツの詰め込み過ぎは私のアテンションの持続時間の限界を超えてしまう。
アテンションの持続時間が限られ、デジタル通知が増加しているこの時代は、メールニュースレターを廃止し、適切な相手に適切なメールを配信する時なのだ。