ECの即日配達サービスの限界への挑戦

 

Amazonの当日配達にも慣れてきたこの頃だが、最近では数時間から数十分以内で商品を届けるというECサービスがいくつか話題となっている。いずれも今のところは地域限定での取り組みではあるが、その取り組みは非常に興味深い。今回は、大手ECモール事業者を中心とした配達時間の限界に挑戦するサービスの可能性について考えていく。

 

 

大手ECモールの配達時間まとめ

 

まずは、国内大手モール3社の現状の配達時間、当日・翌日配送サービスの概況をまとめたみたい。

 

 

楽天、Amzon、Yahoo!ショッピング3社とも翌日配送サービスを展開している。楽天以外では、Amazonの「当日お急ぎ便」、Yahoo!ショッピングの 「きょうつく」それぞれで規定の時間(大体正午前後まで)に注文の場合、その日中に商品を届けてくれるサービスが展開されている。

一見、それぞれのモールの当日・翌日配送のサービスに差はないように見えるが、実際はAmazonが一歩リードしている。楽天とYahoo!ショッピングと比較して、当日・翌日配送サービスの対象商品が多く、配送可能範囲が広いという点だ。それは、Amazonが自前で在庫とフルフィルメントセンターを全国各地に持っており、そこでの業務効率化によって為せることなのだろう。その点、自社で在庫を抱えていないためにそれぞれの店舗の努力に頼ることでしか翌日・当日 配送を実現できない他の2社は難しい部分も多い。

ECが拡大し始めた2000年代前半と比較すると、翌日・当日に注文した商品が届くのは非常に進歩したと言える。しかし、これからの時代当日配送は当たり前で、注文から配送まで30分や2時間というサービスが現れ始めている。

 

 

ヘリコプターで30分で配送を目指す米国Amazon

 

即日配達サービスの限界というと、つい先日衝撃的なヘリコプターの映像と共に発表された米国Amazonの事例を思い起こす方も多いだろう。そのヘリコプターこそAmazon Prime Airというサービスだ。

 

 

 

まずは動画を見て欲しい。

 

倉庫から無人ヘリコプターを使って消費者へ商品を届けるサービスだ。Amazonのサイトによると、「この配送システムの目標は、30分以内に顧客の手元に 商品を届けること」のようだ。この動画を一見すると、こんなサービス本当にやるのか?と思ってしまうがどうやらAmazonは本気で実現しようとしてい る。サイトの質問リストにも、「Q:これはサイエンスフィクションか、現実か? A:サイエンスフィクションに見えるが、現実だ。」とある。しかも、早ければ2015年にはサービスの運用が可能になるというから驚きだ。

だが、実際には安全な配送のためのFAA(連邦航空局)との規則や規制作りという大きなハードルがあるようだ。また、鳥との衝突や、ヘリコプターの盗難、マンションやアパートへ配送、等の課題をどうクリアするのか気になるところだ。日本より規制の緩そうなアメリカでもまだルール作りができていないとなると、日本でこのサービスが実現するのはまだまだ先になるだろう。

もし、このサービスが実現したとすると、商品が30分で届くことの価値は非常に大きい。何か欲しい物があった時に30分で届くのであれば、これまで以上にECを利用しようとする人は増えるはずだ。また、日本に限った話をすれば、配送スピードの面で言えばAmazonが楽天やYahoo!ショッピングを圧倒することになるだろう。空中小型ヘリが飛び交って、荷物を届けてくれるそんな近未来的な世界は案外すぐそこまで来ているのかもしれない。

 

 

Yahooの2時間で届けるサービス

 

日本でも負けずにYahoo!ショッピングがテスト的に始めた“すぐつく”を開始した。

 

 

“すぐつく”は、お店の商品を店頭価格に手数料500円で2時間以内に届けるサービスだ。こちらもまだテスト運用のためか、配送地域は豊洲限定で、購入できる商品は食品や日用品を中心に 現在の対象商品は約2,500点で3ショップの商品だけだ。だが、対応商品・店舗は順次拡大予定だ。注文の受けつけから商品の配送までは、食品宅配事業等を手掛けているココネット株式会社が運営を代行する。半年間のテスト期間でニーズを見極め、今後の本格的なサービスの展開を検討するようだ。

Yahoo!ショッピングは、大規模なフルフィルメントセンターをいくつも構えるAmazonとは対照的に、その地域の店舗と連携しそこから配送することで、短時間での配送を実現していく方針のようだ。

2時間以内の配送は日々の食品や日用品の買い物をEC化する可能性を秘めている。これまでの前日までの注文であれば、翌日の夕飯の買い物を注文することはあまりなかったかもしれない。だが、例えば15時にその日の献立を考えてその材料を家まで届けてくれるのであれば、利用したいという主婦は非常に多いのではないだろうか。

 

<参考>

本気になったYahoo!ショッピングは楽天を超えることが出来るのか

 

 

 

大手ECモール以外の即日配達サービスも過熱

 

大手ECモールの取り組みを中心に見てきたが、個別のECサイトにおいても即日配達サービスは既に始まっている。お弁当の配達サービスであるbento.jpはスマホで弁当を注文すると20分以内に届けてくれるサービスで、配達時間だけで見ると世界最速である。さらにイオンネットスーパーでは最短3時間でお届けを謳うなど、ネットスーパーでは多くが即日配達が可能となっている。逆に、家電大手のビックカメラではECに対抗するために店頭で購入した商品を最短30分で配送するサービスも始まるなど、国内では即日配達から何時間・何分以内での配達を前面に出す動きが目立ってきている。

一方米国では、Amazon Freshという即日配達の生鮮品ECに対抗すべく、Instacartという1時間で生鮮食品を配達するサービスも登場している。さらに大手もWal MarteBayGoogle Shopping Expressなども即日配達を行うなど、こちらも過熱気味だ。

 

 

<参考>

ネットスーパーは店舗の商圏を拡大できるか - 独自配送網の諸刃の剣

USで話題のデバイスAmazon Dashが日本のEC市場に与え得る影響と可能性

オンデマンドECは日本市場に浸透するのか - kaukul、LINEWOWの挑戦

 

 

頼んだものがすぐ届くのが当たり前の未来はやってくるのか

 

Amazonの30分とまではいなくとも、“すぐつく”のように2時間程度での配送が当たり前になると、ECにどんな影響があるのだろうか。注文して商品がすぐ届くことに対するニーズが大きいのは、日用品や食料品だ。日用品や食料品等の日々の買い物が置き換わり、主婦層がよりECを利用するようになるのではないだろうか。

だが、そんな世界の実現にはまだ課題がある。注文から数時間での配送を実現するためは、ロジスティツクスの構築が必須となる。そのための一つの方法は、Amazonのように大規模なフルフィルメントセンターをいくつも構え、在庫を抱えてそこからの配送網を充実させることだ。だが、このモデルを実現できるプレイヤーは国内にはそうは多くないだろう。この方法よりも現実的な方策は、Yahoo!のようにその地域のリアル店舗の商品を買えるようにすることだ。そうすれば、商品の選択の幅は狭まるが、大規模な流通拠点をいくつも持たずとも、短時間での配送が実現することができる。また、主なニーズとなる日用品や食料品に限定すれば、この手段はどこでも実現することができるだろう。さらに米国のInstacartのようにクラウドのショッパーを多数抱える方法も可能性が拡がり面白い取り組みといえる。

一消費者としては、商品が早く届いた方が便利に決まっている。だからこそ、各社がしのぎを削り短時間での配送を実現することを願うばかりだ。