Metaが、Web上をクロール(巡回)して情報を取得するAI搭載の検索エンジンを開発中であると報じられた。同社のこの動きは、オンライン広告の販売方法に混乱をきたす可能性がある。

現在、MetaのAIチャットボットはGoogleとBingからニュース、スポーツ、株価、その他の時事問題に関する情報を入手しているが、米国のテクノロジー業界専門ニュース媒体The Informationによる10月28日付の記事によると、同社はその状況を変えようとしているという。

Metaは、チャットボットとのやり取りから外部検索エンジンを遮断して、プレミアム価格で販売できるハイパーターゲティング広告(極めて特定の顧客グループをターゲットにする広告)を売り出したい考えである。

また、チャットボットとのやり取りを完全にコントロールすることで、ユーザーはMetaのアプリを利用する時間が長くなり、より多くの広告を目にすることにもなるだろう。

「AI検索分野へMetaが参入すれば、同社は他のソースからのレポートやサードパーティデータに頼ることなく、ファーストパーティデータから多くのデータを取得できるようになるだろう」と、カナダ、トロントのデジタルマーケティング代理店のThe Digital GalのCEOであるAmanda Robinson氏は説明する。

「これは、これまでのWebサイト上のピクセル(Webサイト訪問者に関する情報を収集し、そのアクティビティを追跡する)のような追跡手段に置き換わる可能性があり、より関連性の高い広告が適切なユーザーに表示される状況に近づけられると考えている」と同氏は語った。「これは、ユーザーにも広告主にも利益がある」。

これは、Metaにとっても勝利といえる。「広告料金はさらに高騰する可能性がある」と語るのは、ニューヨーク市の消費者技術アドバイザリー会社のReticle Researchの主席アナリストであるRoss Rubin氏である。

「現在、検索している人物については過去の検索履歴を見ればある程度のことが分かるが、AIを使用すれば、プロンプトの設計方法やフォローアップの方法などから、その人のことをより多く理解できるようになるだろう」と同氏は語った。


会話型の広告

ヒューストンにある広報代理店、Pierpont Communicationsのデジタル戦略担当上級副社長であるChris Ferris氏は、「Metaの検索エンジンがFacebookやInstagramとのつながりを強化すれば、さらに多くのオンラインユーザーにリーチできるようになるだろう」と説明する。

Google Adsがこれほど機能しているのは、高い意図を持って検索するユーザーが利用しているからだ」と同氏は語る。「FacebookやInstagramの広告は、ユーザーの嗜好からの予測に基づいている。私がサッカー関連コンテンツを多く閲覧すると、サッカーシューズの広告が表示される。だが、私は55歳だ。もうプレーはしない。Metaがユーザーに関するその他の情報に検索データを重ねることができれば、かなり強い力を持つことになるだろう」。

しかし、同氏は、「Metaが新技術の開発が得意だということに、私は懐疑的だ。Metaの複合現実ヘッドセットと同じように、多額の費用をつぎ込んでもリターンはほとんどない状況になるのではないかと考えている」と付け加えた。

サンフランシスコに本社を置く、マーケティングコンサルティング会社RiseOppの創業者兼社長のKaveh Vahdat氏は、Metaの検索可能AIチャットボットの開発は、オンライン広告と検索ダイナミクスに変化をもたらす可能性があると指摘した。

「Googleのファクトベースの検索モデルとは異なり、MetaのAIは時事問題とパーソナライズされたおすすめを統合した会話型の回答を提供することを目指している」と同氏は語った。「企業が対話中心の広告モデルを多く採用し始めることで、このアプローチはユーザーエンゲージメントを変え、オンライン広告費に影響を与える可能性がある。既存のソーシャルデータにAIを統合することで、Metaは広告をより動的にターゲティングできるようになり、ユーザーにとって広告のわずらわしさが減り、オンラインジャーニーの一部であると感じさせることができる」。

「Googleは検索市場シェアの約90%を占め牙城を築いているが、Metaの参入は、特にユーザーの嗜好が会話型や統合型の検索体験へと移行している中で、Googleの支配に対する挑戦となるかもしれない」と同氏は付け加えた。「MetaのAIは、ソーシャルプラットフォームからリアルタイムでデータを利用して、高度にパーソナライズされ、ターゲティングされた広告を生成することができる。既存の検索エンジンは、現時点では同様のことはできない」。


Google検索の優位性は続くだろう

MetaがGoogle検索の優位性に手ごわい挑戦を仕掛けるかもしれないが、その可能性は低い。「Metaの検索への進出は大きな賭けだが、業界に有意義な変化をもたらすとは思えない」と語るのは、トロントでコンサルティング業を行うJordan Stevens Digital MarketingのJordan Stevens氏である。

同氏は、「Googleの大幅なリードの背景には消費者の行動があり、それを変えるのは難しい」と語った。

シカゴの投資調査会社、Morningstar Research Servicesのテクノロジー担当エクイティアナリスト(株式市場における投資機会を評価し、投資判断を提供する専門職)であるMalik Ahmed Khan氏は、今回報道された検索機能は、Metaのエコシステム内で検索する人々を対象としている、と指摘。「私は、Metaが独立した検索製品を作ろうとしているとも、長期的なビジョンがあるとも思っていない」と同氏は語った。

「これによって、人々はMetaが提供する一連のアプリ(FoA)内で検索することが増え、検索エンジンを利用した検索ボリュームが減少することになるだろうか。それは確かである」と続ける同氏。「しかし、このことがGoogleの優位性に対する大きな脅威になるとは考えていない」。

「私たちがこのように主張する第一の根拠は、依然としてスタンドアロン製品としての検索がオンライン検索の圧倒的大多数だからだ」と同氏は述べた。「Metaの検索製品が展開された時に、とはいえ、それはしばらく先になる可能性があるが、収益可能な検索の重要な部分をGoogleから奪うとは考えにくい」。

サンフランシスコに本社を置き、AIチャットボットを提供するQueryPalのCEOで創業者であるDev Nag氏は、「Googleのライバルになることが真の目標ではない」と付け加えている。

「真の目標は、潜在的な競合相手への依存を減らし、高性能で、より自給自足できるプラットフォームを作ることだ」と語る。「本当の戦いは、既存のWeb検索が相手ではなく、デジタル生活の中で、人々が情報を発見し、情報を交換するための主要なインターフェースになれるかである」。


さまざまな機能を持つアプリへの序曲

Webサイトを巡回するエンジンの開発は、Metaによる、より大きな計画の始まりとなるかもしれない、と主張するのは、トロントにあるWebサイト開発および検索エンジン最適化企業Rank Secure のCEOであるBaruch Labunski氏である。

「MetaやXのような大手ソーシャルメディアプラットフォームが『さまざまな機能を持つプラットフォーム』でWebを支配しようとしているのは公然の秘密だ」と同氏は語った。

「つまり、検索、チャットボットの使用、ソーシャルメディアの利用、商品の購入や配送など、あらゆるトランザクションのためにソーシャルメディアプラットフォームを使うことになる」と同氏。「主な取引に暗号通貨を使用する各プラットフォームの金融システムに進化する可能性さえある。このような変化は、Googleが不要になるので、インターネット全体におけるGoogleのシェアを大幅に減らすことになるだろう」。

「Googleは、検索を続けてもらうためのさらなる何かを提供しない限り、”Ask Jeeves”(インターネット黎明期からある検索エンジン、Q&Aサイトを展開するポータルサイトで、2005年にIAC/InterActiveCorpに買収された)になるかもしれない」と付け加えた。

マイアミにあるFlorida International University(フロリダ国際大学)のマーケティング学のAnthony Miyazaki教授は、Googleはその牙城を崩すやもしれぬ政府の介入を避けるために、意図的に市場シェアを削減するのが賢明と言えるだろう、と主張する。

「ここでMetaの出番だ」と同教授は語った。「長年、MetaのFacebookとInstagramの検索機能は、標準を下回っていた。事実、TikTokはその見事な検索機能によって、今や若年層がGoogleよりもよく使う主要な検索プラットフォームになった。その事によってMetaは検索の不足に気づいたようだ」。

「(Metaの共同創業者兼会長兼CEO の)Zuckerberg氏は、検索とAIの統合がGoogleやBingによってすでにテストされているため、有利な状況からスタートできる」と同教授は続けた。「検索のベースにAIを使い始めることで、検索体験のつながりをさらに作り出すことになり、MetaのInstagramやFacebookのユーザーにアピールできるだろう」。


※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の10/30公開の記事を翻訳・補足したものです。