ソーシャルメディア広告への総合的なアプローチで、短期的な収益性と長期的なブランドエクイティ(ブランドとしての資産価値)のバランスを取ろう。
「広告予算に対して最大の効果をあげなければならない」というプレッシャーに直面しているマーケター達にとって、ROAS(広告の費用対効果)は最も重要なパフォーマンス指標となっている。ROASとは、広告にかける費用1ドルごとに得られた収益を測定するもので、キャンペーンの効果を評価するためのシンプルな指標のことである。
ROASは短期的な収益を示す優れた指標ではあるが、ソーシャルメディア戦略に対しては、唯一の指標であるべきではない。特にソーシャルメディアにおいては、ブランドの安全性や適合性も、ROASと同様に重要である。この3要素のバランスを取ることで、ブランドの評判を守り、ソーシャルメディア広告での長期的な成功を得ることができるだろう。
ROAS:出来すぎの重要業績評価指標(KPI)
ROASは、特に消費者直接取引(DTC、D2C)やeコマースのような、広告費を収益に結び付けることが鍵となるパフォーマンス重視のマーケターにとっては、重要なものである。大手のソーシャルプラットフォームは、高度なROASのリアルタイム追跡ツールを提供しており、迅速にキャンペーンの調整をすることができる。これは、変化が速く、トレンドに左右されるソーシャルメディアの世界では、特に有効でとなる。
しかし、MetaやInstagramが出している、5:1や10:1といった高いROAS数値を出すトップブランドがある一方で、これらの数値はすべてを物語っているわけではない。ソーシャルメディアの、特定のプラットフォームやエコシステムで閉じられた環境内の追跡フレームワークでは、キャンペーンで最後に接触した広告の評価が優先されるからだ。
ROASに固執すると、短期的な利益に焦点を絞ることにつながってしまう。高いROASは、既存の顧客や関心の高いオーディエンスをターゲットにすることで得られることが多く、これらは効果的ではあるものの、持続的な成長に必要な長期的なブランド構築を見逃すことになる。
ソーシャルメディアは購買プロセスの重要な初期段階であり、認知度とエンゲージメントを促進するものである。ソーシャルメディアでの交流は、将来的なコンバージョンを育てるのに不可欠であるが、すぐには販売に結び付かないことも多い。ROASだけに注目すると、交流の早い段階での価値を見落とすことにもなりかねない。交流は、購入スパンが長期的な業界やブランドロイヤリティを重視する業界では、特に重要である。
また、ソーシャルメディアにおけるROASは、動く標的である。アルゴリズムの変更や競争の激化、ユーザー行動の進化が、パフォーマンスに劇的な影響を与えるからだ。たとえば、AppleのiOS14.5がリリースされた(アプリはWeb上でユーザーの行動を追跡する前にユーザーの許可を求めることが義務付けられた)とき、多くの広告主はトラッキング機能の変更によって15~20%ROASが低下した。この変動は、ソーシャルメディア広告に対するより総合的なアプローチの必要性を強調している。
また、ROASを評価する際、Metaが提供するプラットフォームなどは、従来からあるTV放送形式であるリニアTVや動画のストリーミングに利用されるインターネットに接続されたコネクテッドTVのような、他のメディアチャネルから発生したコンバージョンを不当に評価している。このため、ROASは個別に測定するのではなく、すべてのメディアチャネルを対象として総合的に測定することが重要なのだ。
キャンペーンの効果はブランドの評判と同じ強さ
ソーシャルメディアの不安定さのもうひとつの理由は、予測不可能で常に変化するユーザー生成コンテンツ(UGC)の影響である。戦略を成功させるには、ブランドの安全性の確保が不可欠となっている。
ROASにおけるブランドの安全性の影響は、奥深い。有害なもしくは不適切なコンテンツと並んで広告が表示されると、消費者の信頼を失うマイナスなイメージを持たれる可能性がある。このような信頼の喪失によって、コンバージョン率や顧客ロイヤリティが低下し、最終的にROASも低下する。たとえば、消費者の67%以上が、不適切なコンテンツや不快なコンテンツとともに広告が表示されたブランドからの購入は控えるということが、DoubleVerify(デジタルメディア測定、データおよび分析のグローバルソフトウェアプラットフォームを提供する米国企業)の調査で明らかになった。
こうした課題に対処するには、ソーシャルメディアプラットフォームに合わせた強固なブランド安全対策を実施しなければならない。プラットフォームに特化したツールを使うことで、コンテンツをリアルタイムにフィルタリングし、キーワードでブロックし、掲載場所をモニタリングすることができる。ソーシャルメディアのコンテンツは瞬時に作成されるため、ブランドの安全対策は常に稼働し、適応力がなければならない。各プラットフォームで広告掲載のための安全な環境を定義する明確なガイドラインを確立することも必要となる。
安全性の先へ:ブランドの適合性
ブランドの安全性は有害なコンテンツを避けることに注力するものである。その一方、ブランドの適合性はさらに踏み込んだものである。それは、貴社の広告がブランドの価値やターゲットとなるオーディエンスの害とならず、良い反響を得られるような文脈で表示されるようにする。このコンセプトはコンテンツの傾向、スタイル、関連性が異なるソーシャルメディアでは特に重要である。
ターゲットとなるオーディエンスに関連する状況で表示される広告は、より効果的なエンゲージメントをもたらし、ブランドのロイヤリティを高め、より高いコンバージョン率をもたらす。米国に本社を置く世界的な調査会社Nielsenの調査によると、文脈的な関連性のある広告には次のような効果があったという。
・ブランド想起効果が67%高い。
・文脈と関連性のない広告よりも、エンゲージメントと購買意欲への効果が最大で3倍高い。
これは、関連性によって、オーディエンスのエンゲージメント、ブランドロイヤリティ、コンバージョンが高まることを示している。
責任あるメディアのための世界同盟(GARM)は、このアプローチの標準化に尽力している。GARMのブランド適合性フレームワークは、業界に共通言語を提供し、コンテンツをさまざまなリスクレベルに分類する。これによりマーケターは、単純に「安全」「安全でない」と区別するだけではなく、戦略を微調整することができるのだ。
ソーシャルメディアのアルゴリズムによる広告表示では、広告が適切な文脈で表示されるよう常に監視しなければならない。これには当然、費用がかかるが、顧客との関係強化や顧客生涯価値(CLV)の向上など、ブランド適合性の長期的なメリットは、先行コストを上回る。
3要素のバランス
ROAS、ブランドの安全性、ブランドの適合性のバランスを極めるには、高度なテクノロジーが必要だ。米国に本社を置くIASのような第三者検証パートナーは、機械学習を活用して大量のコンテンツをリアルタイムで分析し、安全性と適合性の基準を満たす広告掲載について迅速な判断を下している。
しかし、成功は、積極的で戦略的なマーケティングチームの手腕にもかかっている。定期的な監査や広告の配置の継続的な監視は不可欠である。キャンペーンが成功したかを理解するには、ブランドリフト調査(特定の動画広告を見た人と見なかった人のアンケート回答を比較する)やセンチメント(感情)分析、顧客生涯価値(CLV)といったROAS以外の指標も考慮しなければならない。
ROASはソーシャルメディア広告において重要な指標であるが、それだけに注目してはいけない。ブランドの安全性と適合性を戦略に取り入れることで、ブランドの評判を守り、財務収益を最適化し、長期的なブランドエクイティを築くことが可能になる。このバランスの取れたアプローチは、ソーシャルメディアの活発な状況で持続的に成功するために不可欠なのである。
※当記事は米国メディア「MarTech」の9/27公開の記事を翻訳・補足したものです。