Discover、Papa Johns、L’Occitane en ProvenceなどのCXエキスパートが、AI導入やエクスペリエンスのテストの機会についてディスカッションを行った。

ブランドは、AIをマーケティングの機能に統合しつつあり、顧客体験においてこれらのツールをテストする準備ができているところもある。現在、アナリティクスと市場調査がAIの主たるユースケースであり、コンテンツやカスタマーサービス、Webサイト制作はリストの下位にある。コンテンツ構築やWebサイトの設計などのCX機能へのAI導入は、これらのエクスペリエンスが顧客対応のものであるため、さらなるリスクを伴う。しかし、一部のブランドでは導入に踏み切っている。

マーケターとCXの専門家は2024年9月10日、CXプラットフォームの顧客約600人とともに、Contentsquare(顧客体験分析ツールを提供する米国企業)が主催する「CX Circle New York」に集まった。ここでの話題の多くはCXイノベーションに関するものであり、これらのイノベーションにはAIの導入も含まれていた。

Contentsquareの最高顧客責任者(CCO)を務めるJohn O’Melia氏は、「主要なテーマは、AI、パーソナライゼーション、オムニチャネル、そしてこれら3つの相関関係であった」と語る。「そして、私にとって特に印象的だったのは、ビジネスやブランドによって、これらのテクノロジーを使用することの重要度が大きく異なる可能性があるということである」。

そして、同氏は次のように付け加えた。「誰もが格闘しているのは、可能なことを実現する技術であり、それは急速に変化している。可能なことが必ずしも正しいとは限らない。多くのマーケターは、パーソナライゼーションによって素晴らしい顧客体験を創造することと、AIにその役割を担わせることの境界線に本当に苦慮していると思う。AIにその役割を担ってもらいたいが、やり過ぎは禁物である。それによって、顧客を遠ざけてしまわないだろうか」。


CX
における大きなAI変革への小さな一歩

AIはマーケターによるアナリティクスに広く利用され、顧客や市場のインサイトを提供している。AIを利用してこのパーソナライゼーションによる体験を自動化し、推進することは、重要な次のステップである。しかし、その体験には、顧客と、顧客がこの次のレベルのパーソナライゼーションをどのように受け止めるかに関係してくる。顧客はこれらのメッセージに関連性や有用性を感じているだろうか。(個人情報などの)知識レベルに、気味の悪い印象を与えてしまわないだろうか。

米国の金融サービス企業Discoverの製品および配信担当副社長であるTarun Dadoo氏は、「私たちは現在、カスタマージャーニーのあらゆるタッチポイントでAIを活用することができる」と語る。「私たちは小規模なユースケースから始め、クリエイティブの最適化を検討した」。

クリエイティブの最適化は、適切な顧客セグメントに適切なメッセージやプロモーションを提供するのに役立つが、まだ特定の顧客に向けた完全にパーソナライズされたメッセージとはなっていない。Discoverは、ファーストパーティデータにAIアプリケーションを使用して顧客セグメントを作成し、キャンペーンを計画する際にマーケターに情報を提供している。これらのインサイトは、パーソナライズされた新しいWebエクスペリエンスを促進することもできる。

「顧客から提供された情報に基づいて、どのようにパーソナライズされた体験を提供できるだろうか」とDadoo氏は問いかける。「AIは、リアルタイムでセグメントやパーソナルな体験を構築することで、そのデータの生産性を大幅に向上させる。そして、それはこの分野では一定の成功を収めている。私たちはカスタマイズされたオファーを紹介しているのではなく、ユーザーにとってプラスになるような体験を創造しているだけである」。

金融サービスは規制の厳しい業界であるため、Discoverはファーストパーティデータとサードパーティデータの間に厳重なガードレールを敷いている、とDadoo氏は述べる。パーソナライズされたオファーは顧客を不安にさせるリスクがあるだけでなく、差別を助長し、規制上の罰則や顧客離れが生じさせるおそれもある。

「パーソナライゼーションはチャンスであるが、ヒューマニゼーションとは異なる」と語るのは、社会科学者でコンサルタントのTricia Wang氏だ。「ブランドはこの2つを並行して考える必要がある。AIをどのように使うかを計画的に考えること。そして、パーソナライゼーションと、コミュニティや帰属意識、ロイヤリティといった製品のヒューマニゼーションを混同しないようにしよう」。


AI
主導のエクスペリエンスで顧客と従業員にさらに良いサービスを提供

高級化粧品および家庭用品の小売業者であるL’Occitane en Provenceは、デジタルエクスペリエンスを活用して顧客とつながり、その接点を維持している。ただし同社は、店舗でのエクスペリエンスも活用したいと考えている。

同社が数年前に立ちあげたモバイルアプリにより、顧客はパンデミックによる営業停止中も買い物や探索ができるようになった。顧客がアプリを店内で使うか、リモートで使うかに関わらず、顧客は商品について自ら学んでおり、L’Occitaneで働く店員も同様である。このアプリはリモートのカスタマーサービスや販売もサポートしている。AIは、アプリでの検索と教育エクスペリエンスを促進している。

L’Occitaneのチーフ・コマーシャル・オフィサーであるCarole Silverman氏は、「私たちは、クライアントアプリを活用することで、店舗でのエクスペリエンスから得た学びをオンラインエクスペリエンスに取り入れたいと考えている」と話す。「AIを使うことで、音声や教育に素早くアクセスできるようになる。店舗の休憩時間にはAIツールを使って(従業員の)知識を補強し、ある製品や成分に関する知識を深めることができる。特に、精通している顧客の場合、従業員には高度な知識が必要となる」。

L’Occitaneは、顧客が来店・購入した後に、決まったタイミングでメッセージを送っている。それに加え、同社はAIを活用して、「エンゲージメントの高い顧客を特定し、ビデオアドバイザーに、誰に、なぜその顧客にコンタクトすべきかについての戦略ガイダンスを提供する」ことを計画している、とSilverman氏は述べる。

米国の自動車販売店Sonic Automotiveは、業界特有のニーズから、異なるCXアプローチをとっている。同社の顧客は、自動車販売店で長い時間を費やすことを望んでおらず、試乗して書類にサインし、車を持って帰りたいと考えている。

Sonic Automotiveのデジタルエクスペリエンスは、店舗での時間を短縮するため、リモートでの自動車購入エクスペリエンスをサポートすることに重点を置いている。これにより、販売員はより多くの取引を成立させることができる、と同社の最高デジタルリテール責任者であるSteve Wittman氏は語る。

自動車販売店は、自動車購入後のサービスや保証のアップセリング(顧客が検討しているものよりランクの高い製品・サービスの販売をすること)にも注目しているが、チャットボットやアプリでこれらの購入を成約させるのは難しい。

「保証の市場拡大は、eコマースの課題である」とWittman氏。「ボットに向かって『ノー』と言う方が簡単なので、そこはまだ模索中だ」。


Papa Johns
はプロモーションとトッピングをテスト。そして、AIの検討も

米国のファストフードチェーンPapa Johnsは世界中に5,500店舗(そのうち約半数が米国)を展開しており、多くの顧客にたくさんのピザを提供している。ピザは、トッピングやクラスト、ソースのさまざまなオプションを組み合わせることで、約24万通りを作ることができる。これは、テストすべきデータと変数がたくさんあるということを意味するが、Papa Johnsは、CXと売上の改善が検証されていることを確認するための、強固なテストプログラムを有している。

「テストは基本的に顧客の問題を解決することに帰結し、それはデジタルエクスペリエンスやメニューチーム、オペレーション、サプライチェーンに影響を与える可能性がある」と、同社のデジタル製品およびカスタマーエクスペリエンス担当ディレクターのGrant Gunderson氏は述べる。

「たとえば、Papa Johnsが「チーズ増量」のプロモーションを開始し、その売れ行きがよかった場合、店舗での品不足を引き起こし、顧客や従業員、サプライヤーに影響を与える可能性がある」と、Gunderson氏。また、顧客の問題を解決するには、コンバージョン率などの主要な指標を監視したり、注文アプリの調整を行ったりするだけでは十分ではない。大嵐や停電のような外部的な事象には、解決策を提供するための人間の注意と洞察力が必要となる。

Gunderson氏は、Papa Johnsのアナリティクスチームが注力している2つの主要なデータセグメントを挙げた。一つは、注文履歴を含む、顧客のファーストパーティデータ。もう一つは、顧客行動分析である。ユーザーエクスペリエンスに対する変更をテスト・検証する際、チームは行動データを売上データと結びつけようとする。チームは、テスト中により広い視野を持ち、他のイベントにも目を向ける必要がある。たとえば、新しいタイプのクラストを提供した場合、その売上は、他のタイプのクラストやトッピングの売上とカニバリゼーション(自社の商品が自社の他の商品を侵食してしまう共食い現象)を起こしていないだろうか。

カスタマークスペリエンスは、より良いデータにもつながる。Papa Johnsはテストを行い、ログインが最初の画面に表示されるよう、注文方法に簡単な変更を行った。一部の顧客は、必ずしも情報を共有したくないからではなく、このフリクションポイント(抵抗を感じるポイント)のためにログインせずに注文していたからだ。

Gunderson氏のチームはAIについて、特にAIが注文体験をどのように改善できるかについて検討を行っている。また、パーソナライゼーションにも力を入れている。

「私たちはAIに注目しており、来年に向けてテストする予定だ」と同氏は語った。


※当記事は米国メディア「MarTech」の9/12公開の記事を翻訳・補足したものです。