オランダのビール醸造会社Heinekenのデータ・ドリブン・メディアディレクターを務めるOlya Dyachuk氏に、サステナブルな広告についてインタビューを行った。


Heinekenにおけるサステナブルな広告戦略への移行について聞かせてほしい。

Olya Dyachuk(OD)氏:Heinekenは、環境、社会のサステナビリティ、アルコールの責任ある消費にポジティブな影響を与えることを目的とした一連の野心的なコミットメントであるグローバルな「Brew a Better World(より良い世界を創る)」戦略を通じて、より公正で健康的、インクルーシブでサステナブルな世界を創造するためのレベルを上げている。当社の目標は、チェーン全体で2040年までに炭素排出ネットゼロを達成することであり、この目標が当社のマーケティング課題の最上位にあることを誇りに思う。メディアや広範なマーケティングをよりサステナブルなものにすることは難しいことではあるが、Heinekenのチームはこの目標に全力を尽くしている。

そのためには、当社のより広範なメディア展開の一環として、我々の計画とコミットメントをソーシャルメディア環境で適切に表明する伝達手段が必要となる。当社が、HeinekenとOld Moutという2つの戦略的ブランドにおいて、WeAre8(ロンドン生まれの寄付型ソーシャルアプリ)のようなパートナーと協力したのはそのためである。WeAre8のユニークな広告モデルを通じて、Heinekenブランドとのキャンペーンは、世界中の気候変動ソリューションに貢献し、Heinekenブランドにとって最も重要となる慈善団体への支援も行った。

我々は3つの全く異なるキャンペーンを実施し、さまざまなブランド目標を推進するべく、WeAre8の機能をテストした。

最初に行ったのは、新しい、非常に爽やかなプレミアムラガーである「Heineken Silver」のキャンペーンである。地球に優しい方法で新商品の認知と検討を促進し、キャンペーンの成功とオーディエンスの購買意欲に関する有意義なインサイトを得ることが目的であった。

2つ目は、「Heineken 12th Woman」のキャンペーンで、サッカーにおける男女平等を推進し、同ブランドによる女子サッカー欧州選手権のスポンサーシップを記念するものであった。

3つ目は、Old Moutの新しい、エキサイティングなフレーバー「アップル・ストロベリー」の発売と、WWF(世界自然保護基金)とのパートナーシップのプロモーションのためのキャンペーンである。


広告キャンペーンは、より広範な企業活動の一環なのだろうか?

OD氏:「Brew a Better World」戦略は、当社のすべての事業会社とすべてのチームを対象に2021年に開始された。この戦略により、環境保護、地域コミュニティの支援、社会への積極的な貢献など、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に貢献するために、企業における革新的な取り組みや協力体制が推進されてきた。このキャンペーンは、より広範なサステナビリティと責任に関する取り組みの一部であり、グリーンウォッシュ(環境保全への配慮を実態以上に見せかける行為)を避けるために、オーディエンスに真の意味で伝えられなければならないものである。

我々は、2040年までにビジネス全体でネットゼロエミッションを達成することを約束するだけでなく、サプライチェーン全体を通じて他の企業と協力して共通の目標を達成し、プラスの貢献を拡大し、マイナスの影響を抑制することも重要であると考えている。


サステナビリティに真剣に取り組んでいないところには広告を出さないなど、広告を掲載する場所に影響はあるだろうか?

OD氏:我々のサステナビリティへの取り組みは、広告の意思決定にも影響を及ぼしている。当社は昨年、初めての分析を実施し、電通の二酸化炭素計算ツールを使って、全ブランドと全チャンネルのキャンペーンがどれだけの二酸化炭素を排出するかを分析した。この結果は、当社のプランニング原則、クリエイティブや制作の決定、メディアパートナーとの関係に反映されることになる。

たとえば、デジタル広告が最も多くの二酸化炭素を排出していることは明らかであるため、我々はそれを最小限に抑え、相殺する方法に注力することを目指している。一例として、クリエイティブ面では、JPGの代わりにSVGファイルを使用することで、ファイルサイズや二酸化炭素排出量を大幅に削減できることがわかっている。そこで、我々はクリエイティブパートナーやメディアパートナーと協力して、二酸化炭素排出量を改善するためにファイルサイズに取り組むことを目指している。さらに、よりサステナブルなメディアを提供するパートナーとの協力も目指している。


この移行により、どのような影響があっただろうか。また、成果はどうだったのだろうか?

OD氏:WeAre8と協力して、よりサステナブルでインパクトのあるキャンペーンを実施することで、高品質の完成したビューを通じてブランド指標を向上させることができた。また、Heinekenは初めて、当社の「Brew a Better World」戦略に沿った指標を報告できるようになった。

WeAre8を使うことで、平均して95%の人々が広告を見ることを選択し、フル視聴したことがわかった。キャンペーンはすべて、ベンチマークであるクリック率10%の2倍以上を達成し、WeAre8の広告マネージャーであるSAM-I(Sustainable Ad Manager-intelligent)のインサイトツールは、100万を超える貴重な定性的インサイトを生成した。これにより、我々は選択されたオーディエンスにキャンペーンが与えた影響をより深く理解することができた。

キャンペーンの結果、3万ポンドを超えるメディア費用がWeAre8のユーザーと共有され、我々の二酸化炭素排出量はわずか1.2トンであった。一方、WeAre8とEcologi(気候変動の影響軽減を目的としたサブスクリプションサービスのプロバイダー)とのパートナーシップにより、66トンの二酸化炭素が相殺された。Ecologiでは、広告収益の1%が森林再生などの起動変動プロジェクトに支払われ、これは51回の長距離フライト、198平方メートルの海氷の保存、そして平均的な車の走行距離163,746マイルに相当する。よりターゲットを絞ったキャンペーンを展開し、熱心なオーディエンスを確保できることで、キャンペーン全体の二酸化炭素排出量を削減することができる。

Heinekenはこのキャンペーンを通じて、当社が行っている活動の成果を、単に二酸化炭素の排出量だけでなく、当社が広告にかけた費用の一部をどれだけの人々が受け取ったかという観点から、人間味のあるものにすることができた。我々は、自分たちが何をしているのか、自分たちのキャンペーンが何をもたらすのか、そしてそれが現実ではどのように置き換えられるのか(たとえば、二酸化炭素削減がフライト何便分に相当するのか)について、良いことに貢献し、ビジネスを教育していることを確認することができたのだ!

さらに、効果が目に見え、意味あるデータが得られるこれらのキャンペーンは、ビジネスの成果をプラスに導くことが証明されている。我々は、優れた購買意欲の反応を確認し、オーディエンスや情報がどのように受け取られているかについての貴重なインサイトを得るとともに、特に、サッカーが男性優位であるといった感情的なトピックについて、広告が感情に与える影響を測定することができた。


この経験から、どのような学びがあっただろうか?

OD氏:この経験は、人々と地球を大切にし、真の変化をもたらすキャンペーンを通じて前向きな変化をもたらそうという野心を持っているブランドと提携することの重要性と影響力を我々に示してくれた。

これらのキャンペーンで達成した成果は、今後のキャンペーンのベースラインを確立し、メディアマーケティングに関する新たなプランニング原則とカーボンニュートラル目標を設定する方法についての理解を深めるのに役立った。

この先、広告主、パブリッシャー、メディアオーナー、そしてサプライチェーン全体は、消費者の関心を引きつけ、サステナビリティに対する意識を高めるためになすべき重要な仕事がある。これは競争ではなく、サステナブルな選択が当たり前になる必要があり、すべてのパートナーは、テクノロジーが確実に二酸化酸素を削減できるよう協力することができる。

Heineken UKでは、今後もWeAre8と協力してキャンペーンを展開していく予定である。他のブランドにも、自社のメディア費用がどのようにしてより大きな影響を与え、地球を救うことができるかを検討することを勧めたい。


※当記事は英国メディア「Mobile Marketing Magazine」の12/22公開の記事を翻訳・補足したものです。