オーストラリアに本社を置きビジネスマーケットプレイスを提供するStoreConnectのCEO、Mikel Lindsaar氏によるインサイト。分断されたデータ、限られたAI機能、AIを組み込む複雑さなど、eコマースの中小企業が直面する課題の克服について語る。

オーストラリアに本社を置き、Salesforce(米国に本社を置くクラウドコンピューティング・サービス提供企業)用のeコマースAppExchange(ビジネスアプリのマーケットプレイス)パッケージを提供するStoreConnectの創業者でCEOのMikel Lindsaar氏によると、中小企業は、生成AIについて多くのニーズがあるにもかかわらず、適切なサポート先を見つけるのに苦労している、という。


中小企業が現行の商品やサービスに生成AIを組み込むことは、個々のクライアントの好みに合わせてパーソナライズされた商品やサービスを提供できるようにするために必要な、最初の一歩になるかもしれない。

StoreConnect CEOのMikel Lindsaar氏


小売業者は、思い切ったマーケティングプランやさまざまな顧客セグメントに合わせた広告メッセージを作成するために、生成AIを使用することができる。たとえば、事業主は技術に詳しい専門家がいなくても、AIが作成した画像や動画を使って、映画のようなプロモーションビデオを迅速に制作することができる。

中小企業がこれらの機能を使いこなすようになれば、CRM(顧客管理)統合や、キャンペーン管理システムなど、ECプラットフォームにより先進的なツールを導入でき、中小企業が直面する幅広い課題に取り組むことができるようになる。


これまでのAIのテクノロジーは、世界的な大企業だけが独占していた。しかし今日、中小企業にも広がる道筋ができつつあり、中小企業がより利用しやすくなっている、とLindsaar氏は指摘する。

「中小企業は薄利多売で運営しているので、どんな割合であれ効率が良くなれば、拡大や利益にもっと資金を使えるようになる。AIはそのための余裕を与えてくれる」と同氏は語った。


DIY不要の生成AI統合

最近の調査で、世界の経営幹部の実に97%が、AI基盤モデルがデータ接続方法に革命をもたらすと信じていることが明らかになった。AI技術のこの進歩は、ツールの使い方を大きく変えるだろう。


目下、AIの最大の問題は、実行に移すために多くの演算能力と訓練データを必要とする複雑な過程が必要なことだ。また、より小規模な企業は、分断されたデータに限られたAIの能力という課題にも直面している、とLindsaar氏は語った。

「AIの能力は入力された訓練データによって決まる。そのため、中小企業が独自のAIを構築することは、効果的ではない」。


さらにこの市場は、なんとかしてAIの誇大広告の波に乗ろうとする一攫千金業者の「このツールを使うだけで全ての問題を解決できる」という当てにならない話で溢れている、とLindsaar氏は警告する。

それがStoreConnectがビジネスの目標達成を支援している点なのだ。AIは、eコマースに関連した多くの単調な作業を軽減してくれるだろう。たとえば、商品について説得力のある説明を考えたり、消費者の傾向に合わせてホームページを変えたりするのに何時間も費やす必要がなくなる。

StoreConnectのサービスはSalesforceのCRM(顧客管理)システム上に構築されており、Salesforceがプラットフォームにすでに組み込んでいる営業支援GPTやサービスGPTのような広範なAIツールを活用している。それゆえに、同サービスは中小企業が複数のシステムを単一のソースに合理化するのに役立ち、中小企業のAI目標達成を支援することができるのだ。


課題が多い中小企業向けAI

中小企業がAI導入を考える際に、最も難しい課題の一つが、すべてを根底から覆すことなく現行のビジネスワークフローに統合できるツールを見つけることだ。Lindsaar氏によると、中小企業は昔から、問題に取り組み、最善の結果を期待するだけの時間や資金が不足しがちだ、という。


中小企業が直面するその他の課題は、熟練したAI専門家を見つけ、維持することやAIを訓練するための高品質なデータを確実に入手することが難しいことなどがあげられる。


これらの課題に加え、中小企業はワークフローの移行を管理し、AI技術を従業員に受け入れてもらう一方で、倫理的配慮、データプライバシー、アルゴリズムの偏りに対処しなければならない。


「AI関連の規制や業界標準をうまく克服することが、責任あるAI使用において最も重要である」とLindsaar氏は警告する。

AIの計り知れない可能性にもかかわらず、中小企業がうまく統合を達成するためには、入念な計画と完璧な実行が必要であり、多数の障害にぶつかる。しかし同氏は、中小企業が業務の合理化と統一プラットフォームの採用によってAIを活用し、販売を最適化することでそれらを克服し、大幅な成長を達成することができると反論した。

 

AIマーケティングの誇大広告に賢くアプローチする

「中小企業は、AIの誇大広告に賢く立ち向かう必要がある。何事もそうだが、うまい話には裏があるのだ。ビジネスにおいてすべての役割をAIに置き換えるのではなく、AIをどのように活用できるか検討を始める必要がある」と同氏は主張する。

大企業が難しい部分を担当することで、中小企業もビジネスにAIを使い始めることができる。一例として、Salesforceにはクライアントとの履歴を参考にして、メールの返信を生成するのに役立つAIツールがある。

「だが、重要なことは、これらの返信をいつもは良い草稿として使用し、決して完璧であると思い込まないことだ」と彼は提案する。


新技術は微調整に時間がかかる

AIは非常に新しいものなので、どの中小企業もまだ利点を逃している、とはLindsaar氏は考えていない。とはいえは、顧客とのコミュニケーションを迅速化し、日常業務を処理するために、これらのツールを使う動きが世界的に大きくなっているという。

「しかし実際のところ、現状のAIはAIではない。それはML(機械学習)であり、実際、経営者が目にするAIは、与えられた質問に対して最も可能性の高い回答を予測しようとするただのコンピューターにすぎない」と見解を述べた。

コンピューターに学習させたデータが不正確であれば、回答は大幅に違ってしまう。また、別の言い方をすれば、現状のAIツールは知的なものではない、とのこと。


Lindsaar氏は、結局のところ中小企業事業主には1つ以上のAIフォームを採用する以外に選択肢がなくなると考えている。このような調整をしなければ、AI革命から取り残される危険性がある、と主張する。


そもそも、AIはビジネス全体に置き換わることはできない。家を建てたり、衣料品をデザインしたり、どの商品を買い、売るのか決めたりするのは誰かがやらなければならないのだ、と同氏。

「一方、AIは生成的なアイデアを思いつき、修正や微調整を加えて驚くようなものに生まれ変わらせることで、これらすべての問題に役立つ。覚えておくべき重要なポイントは、AIは人工知能という名前で、時に知能があるように思えても、実際は知能があるわけではない、ということだ」と同氏は語る。

 

AI要素の研究

世界最大級の経営コンサルティングファームAccentureの最近のレポートでは、ショッピングにおける実店舗とデジタルの境界があいまいになっており、小売業者が買い物客の高まる期待に応えようと競い合うことで、小売業界に大きな混乱が起こる可能性があることが明らかになっている。また、小売業者が生成AIの必要性をどのように捉えているのかも明らかにされた。


Lindsaar氏はこのAccentureのレポートの正確性を認め、AI基盤モデルがデータ接続方法に革命を起こし、ツールの使用方法を大きく変えると信じている世界中の経営幹部97%に自分も含まれる可能性がある、と指摘した。


Salesforceが2023年8月18日に発表したレポートによると、6人に1人の買い物客が、購入のインスピレーションに生成AIを利用する、という。

「我々は現在、ほとんどの組織が既存の基盤モデルを活用するべく検討を始めているという導入サイクルの局面にいる。最大の可能性は、それぞれのニーズに効果的に対応するため、独自のデータを使用したモデルのカスタマイズと微調整にある」と、Lindsaar氏は両方のレポートの重要性を主張した。


生成AIの競争によって、中小企業へのAIの浸透に拍車がかかっている。買い物客の大部分は、生成AIの買い物における有用性の探求に関心を示しており、小売業者はAIが顧客エンゲージメントとオペレーションに果たす役割を評価している。

 

中小企業向けの基本的なAIの出発点

「中小企業は、業界の大手よりもはるかに効果的に顧客にパーソナライズされたサービスを提供することができるし、今後も常に提供し続けるだろう。つまり、これが彼らの強みであり、これを強化するためにAIを使用するのだ」と同氏は語った。

中小企業のAI使用について最大の教訓は、企業が基礎的なレベルでAIについて考え始める必要性があるということだ、とLindsaar氏は示唆。そして、AIを使ってどのように業務を強化できるかという問題に取り組むことだ。

「だからこそ、無駄な戦いをしないことに意味がある。セールスフローやサービスフローを改善する基本的な作業をすでに行っている大手プロバイダと提携することで、セールスフローを段階的に改善したり、広告文例の初稿作成にAIを使用したりすることができる。こういったことが、中小企業が課題を克服するための方法なのだ」。


AIとCRMのインターフェースは、次の3つの方法でeコマース中小企業の顧客エンゲージメントやコンバージョン率を向上させることができる。

  • 顧客の傾向をモニターし、サイトの予測に基づくパーソナライズによって、さまざまなページのコンテンツを調整することで、顧客が最も望む可能性が高い情報や商品をより適切に提供する。
  • AIは、顧客が製品サポートチームと話すとき、情報へより簡単に、かつ正確にアクセスできるようにする。
  • サイト上のすべてのコンテンツの生成と改善の手助けをする。


これらの機能は、AIがこの種のタスクのためにいかに正確に構築されているかを示しており、eコマース中小企業がマーケティングからカスタマーサポートまで、業務のさまざまな局面で人工知能の力を活用することを可能にしているのである。


※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の8/24公開の記事を翻訳・補足したものです。