クイックコマースは、超高速配送という点で、従来のeコマースとは一線を画しているが、他にもいくつかの異なる点がある。

 

毎週、あるいは毎月、最寄りのキラナストア(インドの食品・日用品市場を支える小規模な小売店)へ買い物に行くことは、遠い昔のことになってしまった。即座に満足感が得られる時代では、食料品やお菓子はアプリ内でボタンをタップすれば配達される。「クイックコマース」の出番だ。クイックコマースプラットフォームはeコマースの一部として登場し、オフィスワーカーや、多忙なミレニアル世代にとって、瞬く間に救世主のような存在となった。

クイックコマースは急速に成長し普及しており、eコマース業界が食料品、冷凍食品、新鮮な果物や野菜のような分野に範囲を広げ始めたことから始まった。これは、パンデミックによって、衣料品や生活用品にかける費用を削減し、食料品のオンライン購入に目を向けるという消費者行動の変化を背景としている。食料品分野の商品は大半が日持ちしないものであるため、企業はクイックコマースまたはqコマース(以下qコマース)と呼ばれる、配送時間が10~20分以内の範囲の食料品配達モデルを導入し始めた。

 

インド市場には、新規のqコマース企業が急成長している。その中にはフードアグリゲーターやタクシー会社のように、qコマースサービスを顧客に提供している企業もある。統計的には、2020年のインドのqコマースの市場規模は約4.9億ドルだった。インドの企業経営コンサルタントRedseerが実施した調査によると、インドのqコマースの市場規模は2025年までに10~15倍に拡大して55億ドル近くまで成長し、qコマースの普及においては中国を含む他の市場をしのぐと予測されている。

 

qコマースとeコマースの違い

厳密には、qコマースはeコマースの一部だが、ラストマイル配送において革新的な方法を取っている。qコマースの超高速配送モデルは、従来のeコマース業者とは一線を画しているが、その他にもいくつか違なる部分がある。

 

配送:一般的に、eコマースでは配達に大型の車両を使用するが、qコマースでは通常、自転車やオートバイ、スクーターのような二輪車を使用する。こうした二輪車での配送は交通渋滞をすり抜けることができるため、超高速配送が可能となる。

 

倉庫:eコマース企業は、大半の商品の在庫を保管する、中心となる倉庫でオペレーションを行う。qコマースでは、ダークストア(エンドユーザーへの配送拠点として機能する店舗、実際にエンドユーザーがそこで買い物をすることはない)を活用するため、オーダーから配送までより迅速に行うことができる。

 

価格:eコマース企業は世界共通の価格設定だが、qコマースは地域、販売拠点、在庫状況によって価格が異なる場合がある。

 

クイックコマースビジネスは持続可能か

qコマースの主な課題は、商品の仕入れ値と売値の差であるマージンが少なく、配送コストが高いことだ。小売業者はマージンを確保するため、1つのブランドと他のブランドを競わせて、自社のプラットフォームで目立つように表示するためにメーカーから手数料を徴収している。

 

ビジネス雑誌およびウェブサイトを提供するFortune Indiaレポートによると、Ankur Pahwa氏は、「マージンを得るには、平均注文額を確実に増やす必要がある」と述べている。同氏は、EY India(保証、コンサルティング、取引アドバイザリーサービスを行う企業)のeコマースおよび消費者インターネット部門のリーダーで、トランザクションおよびデリジェンスパートナーである。

 

また、そのレポートによると、qコマース企業のラストマイル配送のコストは、通常のeコマース企業の2倍になる可能性があるという。例えば、qコマースの平均注文額は300~400インドルピー前後で、配送コストは30~40インドルピー。配送コストは10%である。

 

主流のeコマース企業では、平均注文額は1,000~1,400インドルピーで、配送コストは50~70インドルピーである。単純に計算すると配送コストは15%だ。平均注文額が低ければ低いほど、同じ金額での配送回数が増え、効率が悪くなることが数字としてはっきりと証明されている。

 

グローバルな傾向

qコマースは、生活必需や食料品を購入する方法に革命を起こしている。ドイツの市場調査および消費者データや統計を提供するプラットフォームであるStatistaは、食品・食料品の宅配市場は、2025年までに723億ドルまで上昇すると予想している。この成長は、サードパーティロジスティクスサービスの事業成長に直接的な影響を与えるだろう。

 

qコマースは次の大きな流れになるか

企業は、インドでのqコマース分野に大きく賭けている。インドのqコマーストッププレーヤーにはBlinkit(インドの食料品デリバリーサービスGrofersのリブランド版で、10分で配送することで知られている)やZepto(15~30分配送)などがある。さらに、Zomatoのようなフードアグリゲーター大手もqコマース路線に乗り出した。同社は現在、グルグラム(インドの首都デリーの南西約30kmに位置する都市)で10分での配送を提供している。

 

市場の専門家は、すでにeコマースの大幅な成長を予測しており、ドローン、電気自動車、音声注文、ダークストアの自動化などの新技術の開発により、この分野は今後、加速的に発展すると考えられている。

 

※当記事はインドメディア「Entrepreneur」の6/21公開の記事を翻訳・補足したものです。