エクスペリエンスの質を高めるために顧客行動の理解は不可欠である

 

「マーケターは、豊かな顧客体験を育みブランド認知を向上させるキャンペーンをできる限り短い時間で提供することを求められている」と、MarTechのカンファレンスで語るのは、共同作業管理用のプラットフォームを提供するWrike(本社:米国)のシニアプロダクトマーケティングマネージャーであるMegan Sangha氏。「信頼できる単一の情報源となるプラットフォーム内で科学とデータを統合し、より良い結果をもたらすことができれば、状況は変わるかもしれない」。

 

2020年の新型コロナウイルスのパンデミックや技術革新によって、デジタルディスラプション(デジタル技術による破壊的イノベーション)がかつてないほど発生している。これらの変化により、購入プロセスにおける消費者行動は変わり、その結果、ブランドはデジタルトランスフォーメーションの取り組みを加速する必要に迫られている。

 

Sangha氏は「消費者行動がデジタルへと劇的にシフトする中、消費者の注目を得ようと迅速に動く競合相手が増えている」と述べた。「マーケティング担当のエグゼクティブは、既存顧客を維持しようと必死に努力している一方で、競合相手との差別化を図っている」。

 

さらに、同氏は「今まで以上に、マーケターは他社との差別化を図るため、人目を引く革新的なキャンペーンを迅速に提供するべく、ツールやデータを革新的かつ創造的に利用しなければならない」と付け加えた。

 

タイトな締め切りと限られたリソースが一般的になっているにもかかわらず、マーケターは消費者に魅力的な体験を提供することを期待されている。Sangha氏は、これに対抗するために、心理学に目を向け、バイヤージャーニーから行動インサイトを収集することを勧めている。

 

行動科学で意思決定を理解する

「行動科学は、心理学を使ってキャンペーンのパフォーマンスを最適化するための優れた戦略だ」とSangha氏。同氏は、消費者の意思決定の過程を心理学的観点から説明したわかりやすい図(下図を参照)で指摘した。

 

行動科学:雑然とした意思決定プロセスの中間部分を理解するためのツール

 

 

出典:Megan Sangha氏

 

「大きな円は露出、つまりブランド認知だ」と同氏は述べた。「ブランド認知は、ソーシャルメディアをスクロールしているときに表示される広告や、クリックしたときのポップアップなどわかりやすいエリアにある。露出は、常に表示され、常に変化し、常に意思決定に影響を与える」。

 

次にSangha氏は、円の上下の点はそれぞれ「トリガー(きっかけ)」と「購入」の段階を示している、と説明した。「トリガーは消費者ジャーニーの始まりであり、露出かニーズのどちらかに影響を受ける」。

 

それから、消費者は円の「ごちゃついた中間部分」へと移動していく。これは、ブランドが提供する商品の調査と評価を開始する段階だ。

 

これらの調査と評価の段階は、ブランドがブランドロイヤルティと顧客満足を構築するチャンスなのである。Sangha氏は「優れた顧客体験、スムーズなトランザクション、そして現在の世界では迅速な配送」によってこれらは強化される、と言う。

 

購買行動や意思決定へ影響する認知バイアスを理解する

Sangha氏は「消費者は、購入の規模に応じて調査と評価を行ったり来たりしている」と述べた。「マーケターにとって、これは楽しいことではない。そして、間違いなく効率的ではない。ではどうすれば消費者をトリガーから購入に導くことができるのか。そこで、心理学を活用すべきである」。

 

同氏はさらに「消費者がごちゃついた中間部分で調査し評価するとき、認知バイアスによって買い物行動が形成され、他の製品ではなくその一つの製品を選ぶ理由に影響を与える」と語った。

 

購買行動や意思決定へ影響を及ぼす6つの認知バイアス

 

ヒューリスティックカテゴリ                  権威バイアス

希少性バイアス       無料の力

社会的通念                配送力

出典:Megan Sangha氏

 

Sangha氏は、消費者行動に影響を与える主要な6つの認知バイアス(上図参照)を解説した。消費者の傾向が、希少価値のあると思うものを購入するのか、権威ある情報源から勧められたものを購入するのか、マーケターは消費者の意思決定プロセスに何が影響を与えているかを知ることが重要だ。

 

「行動バイアスや顧客ジャーニーを理解することは極めて重要だ」とSangha氏。「原則や心理学を利用するマーケティングチームは、顧客満足度を向上させ、顧客の離脱はより少なく抑え、販売プロセスは改善し、既存の顧客からさらなる支持を得ることができる」。

 

行動データを活用したチャネルパフォーマンスの最適化

「マーケターはより良い(顧客の)意思決定を促すために、大衆が消費できる情報を提供できているかを確認しなければならない」とSangha氏は語った。「我々は、ステークホルダーがスプレッドシートや複雑なダッシュボードに圧倒されて、彼らの意思決定に自己満足することを望んではいない」。

 

この行動データを他の部門に理路整然と提示することで、全社的にマーケティング活動を調整し、チャネル間の顧客体験に生じる矛盾を減らすことができる。しかし、多くのシグナルを追跡していると、すぐに圧倒されてしまうだろう。

 

「デジタルマーケターには、多くのものが提供されている」と同氏は述べた。「彼らは、資産、キャンペーン、ユーザー、顧客パフォーマンスデータなどを追跡するために、さまざまなチャネル、プラットフォーム、ソリューション、ツールを利用する。そしてその各データが、市場動向や消費者行動に関するインサイトを与えてくれる」。

 

「ただ一つの問題は、現在ほとんどのデジタルマーケターは手作業ですべてをつなぎ合わせていることだ。つまり、データを参照したり、戦略を立てたり、実行したりするよりも、トラッキングや、とりまとめに非常に多くの時間を使っているのだ」と同氏は付け加えた。

 

Sangha氏は、顧客データがクリーンで関連するチャネルに適用されているかを確認するために、プロジェクトマネジメントプラットフォームを採用するようマーケターに勧めている。「McKinsey(米国に本社を置くコンサルティング会社)の最近の調査で、デジタルマーケターは、データの手動での移行や、パフォーマンスデータを追跡するためにスプレッドシートやダッシュボードをまとめることに彼らの時間の80%を使い、戦略構築にかけられる時間はたった20%しかないことがわかった」。

 

さらに「データの振り分けではなく戦略を練ることにもっと時間を使えるなら、キャンペーン戦略や全体的な成果において何ができるかを考えてほしい」と付け加えた。

 

マーケティング作業管理:スナップショット

概要:マーケティング作業管理プラットフォームは、マーケティングリーダーやそのチームがリソースを管理し、コミュニケーションやコラボレーションを円滑に進めながら締め切りや予算上の制約内で目標を達成するために、日常業務を組織化するのに役立つ。機能には、タスクの割り当て、時間のトラッキング、予算管理、チームコミュニケーション、ファイル共有などが含まれる。

 

なぜ今、重要なのか。新型コロナウイルスのパンデミックによって作業環境が劇的に変わっている。そのため、マーケターが新しいワークフローをナビゲートするための作業管理ツールに対するニーズが高まっている。

 

マーケティングプロジェクト(キャンペーン、ウェブサイト、白書オンラインセミナーなど)は、外部ソースとの共同作業が多いため、マーケターは社外と連携するプロセスの開発に取り組んできた。

 

また今日、マーケターには、インターフェースの設計や、コンテンツの執筆、そして魅力的なビジュアルアセットを作成することも求められており、アジャイルワークフローの実践を採用するマーケターも増え、アジャイルの実践をサポートする機能があることも多い。

 

このツールで何をするか。これらの変化によって、デジタルマーケターが行うプロジェクトを最適化し、記録するマーケティング作業管理ソフトウェアへのニーズが高まっている。そしてそれは、デジタル資産管理プラットフォームやデザインアプリケーションソフトのような別のシステムと統合することがよくある。しかし、最も重要なのは、これらのシステムがプロセスの明確性、透明性、説明責任を向上させ、マーケターが作業を軌道に乗せる助けになることだ。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の1/21公開の記事を翻訳・補足したものです。