メタバースやWeb3はまだ現実のものではないが、それらが生み出す可能性のあるポジティブな機会とネガティブなリスクについて考え始める時が来ているのではないだろうか。

 

メタバースはすでにここにある」と言われても信じてはいけない。今あるのは仮想現実の群れであり、それらはまだつながりを持っていない。つながりを持った時、メタバースに入ることが可能となる。

 

「metaverse(メタバース)」という言葉は、正確にはどのような意味なのだろう?この言葉は、実は、30年前にSF作家のNeal Stephensonが彼の小説「Snow Crash」の中で初めてつくった造語である。ギリシャ語から派生しており、”meta”は「beyond(超えた向こう側)」を意味する接頭辞である。そうすると、「宇宙の彼方へ?」という意味になるのだろうか。問題は、”versus “が「~に転じる 」という意味であり、” universe “という言葉が続いていれば完璧に意味を成すが、”beyond”ではあまり意味が通じないということだ。

 

より明確に理解するため、メタバースの準備方法についてクライアントにアドバイスを行うマーケティングコンサルタントのTim Parkin氏に情報を求めた。

「実際には、メタバースは定義されておらず、非常に曖昧なものだ。最も重要なことは、それが変化していくことである。今日あるものが明日あるものとは限らない。つまり、ムービング・ターゲット(絶えず変化する目標)なのだ」。

とはいえ、Parkin氏は、メタバースがインターネットのインフラストラクチャ上に構築されたまったく新しいレイヤーであり、「新しい次元の可能性と潜在性」を開くであろうと、あえて明言している。

 

基本的に、メタバースは、少なくとも過去2年間に、私たちの多くが存在してきたデジタル環境を仮想現実ベースの世界にアップグレードしたものであり、マーケターなどにとっての多くの機会をもたらすと同時に「いくつかの恐ろしい現実」を生み出すとParkin氏は言う。

 

VRからメタバースへ

VRヘッドセットを装着したことのある人なら誰でも、バーチャルリアリティがどのようなものかを理解できるだろう。しかし、メタバースは、少なくともコンセプトとしては、それをはるかに超えるものだ。「今のインターネットについて考えてみよう。それは、サーバーやWebサイト、さまざまなプラットフォームやアプリの集合体で構成されているが、それらはすべて同じ領域の中に存在している。しかし、メタバースでは、その仮想現実を一緒に体験することができる。それらの体験はすべて、この巨大な領域の中で起きており、つまり、私たち全員が共存しながら協力し、さまざまな体験、冒険、コミュニケーションに参加することができるということだ」。

 

これは、ハイブリッドのユースケースを除外するものではないとParkin氏は説明する。「物理的な環境を通して交流することもあるだろう。食料品店に実際に来店し、バーチャルに人々と対話したり、バーチャルに物を注文することができるかもしれないのだ。家でヘッドセットを装着したまま座っているだけではない。現実の世界にいながら、それをメタバースにつなげることができるのだ」。

 

もちろん、メタバースはハードウェアの現実にしっかりと根ざしたものになるだろう。「我々はそのことを忘れがちだ。シミュレーションを行い、トランザクションを処理し、これらの世界をレンダリングするためには、コンピューターに依存することになり、そのすべてがインターネットに接続されている。私たちはインターネットから逃れるのではなく、メタバースはインターネット上に構築されているのだ」。また、インターネットと同様、誰にも所有されることはない。「それがメタバースの素晴らしいところだ」と、Parkin氏。「しかし、欠点でもある。誰も所有していないとなると、どのようにそれを取り締まるのだろうか?」。

 

Web3は、メタバースと同列に語られることが多々ある。どのような関係性があるのだろうか?「Web3は、ブロックチェーンと分散化のアイデアを組み込んだ次のレベルのインターネットである。ブロックチェーンを重ねることで、トランザクションを追跡し、発生していることすべてについての信頼できるソースを獲得できる。メタバースはWeb3とは別物だが、Web3とメタバースをオーバーラップさせるチャンスはある」。

 

一部の企業はすでにメタバースの実験を行っているが、Parkin氏は、メタバースそのものはまだ存在していないと主張する。「体験に取り組んでいる人もいるが、実際に消費者が参加できるまでは存在しているとは言えない。そして、近い将来に実現するともと考えていない」と同氏は説明した。「メタバースが高度に採用され、その中で人々が有用な価値のある何かを行うにはまだ少し時間がかかるだろう」。

 

マーケターは予測不能な未来にどのように備えるべきか?

メタバースはまだ我々が現実に使えるものではないが、それが何を意味するのかを考え始めるのに早すぎるということはない。「3つの大きなポイントがあると考える」とParkin氏は言う。「1つ目は、オープンマインドでいること。これは変化するものだ。Webページや電子メールの原型がどのようなものであったかを振り返り、それらを今日と比較すると、現在とは大きく異なることがわかる。メタバースが将来的にどうなるかについて判断を下すべきではない。なぜなら、その価値を見出すのは人々であるからだ。これは探索のプロセスなのだ」。

 

2つ目は、大手ブランドがどのような準備をしているのかを知ることだとParkin氏は言う。「NikeTacoBellは、メタバースでプレーするためのリソースがありその必要性を認識している。ほとんどの企業は、メタバースに取り組む時間や余裕がないが、常に革新的あるいは限界を押し上げる必要がある大企業は、これを探求するだろう」。

 

Parkin氏は最後に、「ゆっくりでいい」と言った。「多くは過大評価され興奮を招いていて、多くの人々は先行者が利益を得られるだろうと考える。しかし、今後2〜3年、あるいは5年の間で、多くの人が考えるほどの変革は起きないだろう。私はメタバースについて非常に系統的かつ慎重に考えている。そして、本当に大きなブランドでない限り、これをあまり推し進めるべきではない。傍観し見守るべきであり、メタバースは非常に不安定でリスクを伴うため、参入には時間をかけ、自社がどのポシション目指すべきかをゆっくりと検討すべきである」。

 

ゲーム業界にとって大きな勝利

Parkin氏は、大手ブランドの動向を見ることに加え、とりわけゲーム業界でメタバースをサポートするだろう企業に注目すべきだと述べている。「Epic Gamesは、長い間メタバースに取り組んでいる」とParkin氏。「彼らは多くのビデオゲームと、高度な3D作成ツールであるUnreal Engineのクリエイターだ」。「メタバースは本質的に1つの巨大なビデオゲームの世界であるため、Epic Gamesは、メタバースにおける主要なプレーヤーとなるだろう」。

 

Parkin氏は、ゲーム業界は、(メタバースとは違いつながっていない)仮想世界における長年の経験があり、時代を先取りするだろうと予測している。「ゲーム文化全体こそ、マーケターが本当に注意を払うべきものだ」とParkin氏。「新しく見えても、ゲーム業界にとっては通過点でしかないものがたくさんあるからである」。そして、彼は、ゲームデザインの学位を持っていることを快活に語った。

 

もちろん、広告主はすでにゲーム業界に進出しており、仮想世界の中でメッセージを表示し、パフォーマンスを測定するための指標を開発している。「これは、必ずしもゲームのコンテキストではなく、ソーシャル化し一緒に時間を過ごすことができるグローバルな世界にゲーム体験を持ち込んだだけなのだが、ゲームからは学ぶことができる多くの基本的な要素がある」。

 

ディストピアに注意

これらのメタバースには、大きなマイナス面がある可能性もある。メタバースは、悪の場所になる可能性がある(そう、文字通り「ディストピア」が意味するのだ)。理由を理解するのは難しいことではない。ソーシャルメディアの潜在的な有害な影響、特に若者のメンタルヘルスに対する有害な影響は、広く議論されている。Facebookが、Instagramの有害な影響に関する内部調査を隠しているように見えたことからだ。これは、アプリやWebサイトを見ただけで、FacebookやMetaがその大部分を確実にコントロールしようとしている現実に完全に没頭しているわけではない。

 

「ソーシャルメディアは危険な場所だ」と、Parkin氏は同意した。「メタバースでは、現実から別の次元を取り除いてある。あなたはスクリーン上のキャラクターであり、実在する人物ではない。ソーシャル・ダイナミクスについて、考え、準備する必要がある」。ビンジゲームは、2021年に増加し、ゲーマーの3分の1は5時間連続でプレイすることに慣れていた。脆弱な人々が、非現実的な世界のキャラクターとして長い時間を費やしていること想像すると、不安がよぎる。

 

「メタバースの“ダークサイド”について考えるのは興味深いことだ」とParkin氏。「インターネット上で発生する悪の活動は数多くある。多くの人々が、メタバースのチャンスやポジティブな側面に着目しているが、一方で、欺瞞的で二枚舌を使った行動が多く発生することになるだろう。すべてがポニーとレインボーではないのだ」。

 

一つだけ、規制当局の力が及ばないということは確かなことである。

 

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の1/13公開の記事を翻訳・補足したものです。