カスタマーエクスペリエンスにおいて「共感」が本当に意味するものと、いかに「共感」をマーケティング戦略に導入するべきか。
「企業には、顧客と従業員という、ビジネスにはなくてはならない2つの資産がある」と、Natalie Petouhoff 氏は言う。「しかし、彼らはバランスシートに載らず、そのポテンシャルを最大限に引き出すようなエクスペリエンスはデザインされていない」。
Petouhoff 氏は、クラウドCXプラットフォームを提供するGenesys の経営陣とともに、カスタマーエクスペリエンスのビジネスとバリューに関するコンサルティング、およびセールスイネーブルメントに取り組んでいる。Genesys のCEO兼会長のTony Bates氏との共著である彼女の新著では、CXとEX(従業員体験)の課題を解決するには「共感」が重要であることが述べられている。
来月IdeaPressから発売される『Empathy in Action』は、さっと読んで捨ててしまえるような内容ではない。この本は、取引型マーケティングから、インタラクション、エンゲージメントを通じて共感へと、ビジネスの成熟度曲線を押し上げる方法についての詳細なアドバイスによって、共感型マーケティングへの力強い後押しをするという充実した内容となっている。本書では、「盲点」を取り除く方法、顧客と従業員の生涯価値を高める方法、共感をベースにしたビジネスバリューにフォーカスする方法、つまり顧客と従業員に焦点を当てることで財務的成功を高め、実際に彼らの価値をバランスシートで示す方法を紹介している。
効率化の歴史
ビジネスの歴史は、共感の歴史ではなく、効率の歴史であることは言うまでもない。「企業がこれまで行ってきたことは、従業員と顧客の犠牲の上に成り立つ効率性を追求することであった。そして、その歴史は、第一次産業革命までさかのぼる」と、Petouhoff 氏。「自動車会社Ford Motor Company の創設者であるHenry Fordは、1つのモデルを作り上げた。そこには選択肢もなければ、パーソナライゼーションもなかった。私たちはその歴史を引き継ぎ、あらゆるコストをかけて効率性と有効性を追い求めてきたといえる」。
誰もがCXを(そして、最近ではEXも)話題にするようになったが、その価値は十分に提供されていない。「CXが実現できていない理由のひとつは、その体験を生み出す視点にある。私たちは皆、顧客であり、従業員でもある。そして、わたしたちを立ち止まらせ、『いったい何を考えているのだ。これはひどい』と言いたくなるような経験をしているはずである」。この本が主張することは、そのようなことは意味がないのでやめるべきであるということだ。従業員は、今、就職先の選択という投票をしている。そして、顧客はマウスで投票している」とPetouhoff 氏は言う。
Petouhoff 氏は、「私たちの多くは、顧客向けであれ従業員向けであれ、エクスペリエンスをどのように創造するかについてをビジネス中心の視点にしている」と述べる。「多くの企業は、優れたエクスペリエンスよりも、コモディティ化した製品やサービスを提供することに重点を置き続けている。もちろん、例外も存在する。「AirbnbやNetflix、Teslaのような企業は、経験経済を創造している。私たちは皆、素晴らしい体験を期待している。しかし、企業が自分たちのやり方から抜け出ことが極めて難しいという点は、とても興味深い」。
共感の本当の意味
共感体験の概念を理解するためには、まず「共感」について理解する必要がある。「思いやり」と混同してはいけない。思いやりとは、誰かの不幸を気の毒に思うことである。一方、共感とは、相手の立場に立って考えることだ。共感しなくても同情することはできる。例えば、「あなたが経験していることはお気の毒だと思う。私には想像もできない」というようなことである。
「言い換えれば、共感は思いやりや同情に変換されるものではない。企業にとって『共感』という言葉は、他人の視点から物事を見ることを意味する」と語るPetouhoff 氏は、著書でもそのことを強調している。
「自分の視点ではなく、相手の視点に立ち、その人が必要としていることにフォーカスするという意識的な決断のことである。企業にとっては、人材、プロセス、戦略、リーダーシップ、テクノロジーのすべてが、会社の視点ではなく、顧客や従業員の視点に基づいて調整されていることを意味する」(301ページ掲載)
そして、そこまでに到達するには、根本的な変革が必要なのである。
共感ビジネスへの参入
ブランドが飲み込まなければならない苦い薬の1つは、コスト削減から収益増加へと焦点を移すことである。どちらも利益を上げるための手段であるが、コスト削減は顧客の減少を伴うことが多い。そして今は、これまで以上に従業員の減少につながる。その他の盲点としては、顧客よりも投資家を優先する、パーソナライズされた体験を大規模に提供するためのテクノロジーに投資しない、データを効果的に活用しない、静的なビジネスプランと経営スタイルが挙げられる。
何を変えるべきかを検討し始めるのに有効なモデルが、Petouhoff 氏とBates 氏の「Force-Multiplier Flywheel(エネルギー増倍型フライホイール)」である。従来のファネルに代わるものとして提案されたHubSpotのフライホイールモデルを思い浮かばせるが、このバージョンには、共感を促す方法に関する詳細なアドバイスが組み込まれている。回転し続ける車輪の4つのセグメントには、「Listen(聞く )」、「Understand and Predict(理解し予測する)」、「Act(行動する)」、「Learn(学ぶ)」というラベルが貼られている。Listenへのインプットは、共感ベースの企業価値、共感ベースの文化、共感ベースのリーダーシップ、共感ベースのテクノロジーといった一連の共感ベースのビジネスバリューで、アウトプットは、継続的な共感ベースの分裂であるべきだ。
また、ブランドがそのフライホイールを改良し発展させる方法をサポートする、さらなるモデルがある。このモデルはOODAループと呼ばれ、戦闘機のパイロットを訓練するために開発された戦略に基づいている。OODAとは、「observe(観察)、「orient(方向づけ)」、「decide (決定)」、 「act(行動)」である。これらのカテゴリのほとんどは説明がいらないが、ここでいう「方向づけ」とは、自社の顧客と従業員の経験を競合他社と比較するベンチマークを意味する。
共感型顧客体験の構成要素として、コミュニティ感覚がますます顕著になってきている。B2Cブランドはこれをソーシャルメディア・チャンネルを通じて構築することができるが、B2Bの分野でも、顧客との長期的な関係や顧客の問題解決を支援することがますます重要になってきている。「私は、GenesysでBeyondというコミュニティ構築に取り組んでいる。しかし、今はまだ発展途中である」。「Genesysには、マネージャーやエージェント向けのコンテンツがあるが、私のここでの次の目標は、ソート・リーダーシップとコンテンツを備えたオンライン・コミュニティを構築し、人々が集まって学習できる場所を作ることである」。
コンテクストとしてのパンデミック
この2年間にパンデミックによって加速したものは数え切れない。そして、その一つがマーケティングには共感性が必要であり、人々のニーズや懸念に適切なトーンで語りかける必要があるということ、そして、マーケティングは単にリードを売上へと導くファネル下位に押し下げるためだけに存在するのではないという感覚である。つまり、トランスフォーメーショナルはトランザクショナルを超え、B2Bの領域でも、バイヤーは、単なるセールスの電話ではなく適切で共感的なエンゲージメントを求めている。
Bates氏とPetouhoff 氏が本を書き始めた時、今の状況を予見することはできなかっただろう。「私が採用されたのは、2019年10月だった」と、Petouhoff 氏。「私は、Tonyに会って、ビジネスを永遠に変えるような本をぜひ書きたいと話し始めた」。Bates 氏は、その本はどのようなものかど彼女に尋ねた。「共感についての本を書きたいと答えた。人間関係であれ、友人であれ、ビジネスであれ、信頼を生み、ロイヤルティ(忠誠心)を生むからである。そして、2020年が訪れた。それは、私たちにとってラッキーだったのかもしれない」とPetouhoff 氏は振り返る。