最近実施された調査によると、小売業者は、予測されるオンラインショッピングの増加や多くの買い物客が競合他社に乗り換えるリスクに対応するための準備が十分ではないという。

 

AI(人工知能)を活用したパーソナイズプラットフォームのQubitは9月29日、2021年に米国と英国の消費者1,500人を対象に行った調査結果を発表。これによると、オンライン小売における顧客体験の改善の必要性が高まっているという。回答者の4分の3近くが、eコマースサイトを「直帰(バウンス)」または放棄する理由として、欲しい商品がなかなか見つからないことを挙げた。

 

本調査によると、37%が「自分にあったおすすめ商品が提示されることはほとんどない」と回答しており、マーケターが人工知能AI(人工知能)のメリットを十分に活用できていない可能性があることを示唆している。

 

Qubitが8月に公表したデータは、実店舗が再開したにもかかわらず、約86%の消費者が、同程度かそれ以上のオンラインショッピングを継続する予定であることを示している。約3分の1の買い物客は、次のホリデーシーズンでは、2020年のピーク時よりもさらに多くのオンラインショッピングをすると予想している。

 

eコマースの継続的な成長可能性を考えれば、Qubitによる最新の調査結果は、ブランドが来たるショッピングのピーク以降に向けて最適化をおこなうべき重要な分野を明らかにするものだ。

 

「消費者は買い物のニーズをますますeコマースに頼るようになっており、それも自分の意思でかつてないほど大量にオンラインショッピングをしている。パンデミック(世界的大流行)により前例のない成長を遂げたオンラインショッピングへの移行は、長続きする兆しを見せている」と、Qubitの最高収益責任者であるTracey Ryan O’Connor氏は述べる。

 

今回の調査により、顧客からのフィードバックや業界のベストプラクティスに基づき、ブランドが提供しているオンラインショッピング体験を早急に改善する必要性が明確になったと同氏は付け加えた。

 

最適化が解決のカギ

Qubitのレポートは、小売業者による自社ウェブサイトで訪問者が直面する問題に対するアプローチについて、5つの主要な懸念事項を明らかにしている。

 

1.オンライン買い物客を圧倒する商品

消費者は、欲しい商品を見つけるのが難しいという問題に直面している。これが、購入せずにサイトを放棄する最大の理由だ。

 

2.サイトの設計と商品の発見が難題

買い物客は、サイトを直帰したり、放棄したりする最大の理由として、「ナビゲーションが不十分であること(61%)」を挙げた。買い物客は、ページごとにしか商品を探さないということが調査結果から明らかとなった。ブランドが、通常、数回のページビューの間に、買い物客の注意を引きつけ維持しなければならないことを考慮すると、これは注目すべきことである。

 

3.オンラインでのカスタマーサービスに遅れや失敗は許されない

サイト放棄の理由として、「配送や商品に関するポリシー(54%)」と「レビューがないこと(52%)」が上位に挙げられている。

 

4.パーソナライゼーションの欠如

買い物客は、1対1のパーソナライゼーションを期待し続けているが、期待に応えられていないことが多い。例えば、米国と英国の消費者の34%(米国の回答者のみでは41%)は、「オンラインショッピング中に、自分に合わせてカスタマイズされたおすすめ商品が提示されることを期待している」と答え、37%は「おすすめ商品が自分の好みにあっていることはほとんどない」と回答した。

 

5.モバイルショッピングにより注力すべき

手軽なモバイル購入は、買い物客への影響力が大きい成長分野だ。特に、米国ではそれが顕著である。モバイルショッピングは英国よりも米国の回答者に人気があるようで、米国の消費者の40%が「スマートフォンで買い物をすることを好む」と回答しているのに対し、英国では30%であった。

 

ソーシャルメディアとモバイルデバイスによってモバイルでの購入が容易になり、今後数年間、モバイルeコマースは世界的に成長し続けるだろう。

 

聞く耳を持たないのか、データがないのか

小売業者は顧客のニーズを無視しているわけではないだろう。むしろ、O’Connor氏によると、小売業者はサイト放棄の主な原因を必ずしも把握していないという。

 

小売業者は非常にデータを重視しており、コンバージョン率、RPV(revenue per visit/一訪問あたりの売上)、クリック率、直帰率(サイトのページを訪れたユーザーが、サイト内の他のページを見ずに離脱してしまった割合)、離脱率(ユーザーがサイトに訪問し、どこのページで見るのをやめたかを示した割合)などの主要な指標を、週、月、季節、年単位で常に確認している。しかし、データ自体はその背後にある理由を示すものではないため、小売業者は、悪い指標や良い指標について、その根本的な原因を把握しているわけではないと同氏は説明する。

 

「もう一つの課題は、eコマースチームやマーチャンダイザーは、ブランドのドレスや靴といった、分離した『サイロ』の範囲内で作業することが多いため、これらの同じ指標がさまざまな角度から見られることが多いということだ」とO’Connor氏。

 

サイトのページは、さまざまな方法、地域や時間帯といった様々な方法で更新される可能性がある。そのため、データも、様々な方法で切り取られてしまい、サイト全体のレベルでの消費者の満足度や不満の根本的な理由や各ページの更新が消費者の満足度にどのように貢献しているかを明らかにすることができないと同氏は付け加える。

 

最も重要な結論

今回の調査では、小売業者はサプライチェーン問題にすべての責任を負わせることはできないことが示唆された。サプライチェーンの遅れが本当の原因ではないかもしれない。また、小売業者が潜在的な顧客のニーズを満たすためにオンラインディスプレイを更新していないことも原因ではない。

 

「今回の調査結果における最も重要な点は、購入せずに直帰する主な理由が、興味のある商品が見つからないということ、消費者の間でeコマースが継続的に受け入れられ成長していることである。そして、買い物客が商品を見つけて購入できるようにするための最善の戦略を理解することが必要である」とO’Connor氏はまとめる。

 

パンデミックが始まって以来、サプライチェーンの遅れは小売業者にとって大きな課題であったことは同氏も認識している。しかし、Qubitの消費者調査によると、買い物客が欲しい商品を見つけたり、見つけられないといった根本的な問題は、必ずしもそこにあるわけではない。

 

「その原因は、欲しい商品の可視性とサイト上での表示方法にあるようだ。つまり、顧客が小売サイトに到着してから、購入したい商品をどれだけ早く見つけられるか、品切れの場合に代替の商品を提供できるかということだ」と同氏。

 

このプロセスに時間がかかったり、あるいは到着後すぐに行われなかったりすれば、顧客は購入したい商品を探し続けることはないだろう。代わりに、顧客はより簡単に商品を見つけられる競合他社のサイトに向かう。

 

一歩引いて考えれば、それは実店舗での買い物体験によく似ている。顧客が何かを買おうとして店に行って、商品が乱雑に並べられていたり、興味のあるものがすぐに見つからなかった場合、顧客は店の隅々まで確認して買いたいものを探し続けることはないだろう、とO’Connor氏は述べている。

 

「顧客は、より簡単に商品を見つけられる他の店に行ってしまうだろう」と同氏は話す。

 

ブランドに必要なバランス

パンデミックは、eコマースの成長と利用を加速させた。その成長には、すでにオンラインショッピングに慣れている消費者と、オンラインショッピングの経験が少ない新しい買い物客の両方が含まれるとO’Connor氏は述べる。

 

「小売企業にとって重要なのは、継続的な利用増加が必ずしも購買体験に対する満足を意味しているわけではないことを理解することだ。オンラインでの買い物は便利だが、利便性だけでは小売業者がオンラインで無限の利益を得ることはできない」と同氏。

 

ブランドは、絶えず進化する顧客の期待と購買習慣に対応し続ける必要がある。それにより、よりダイナミックでプロアクティブな優れたオンラインショッピング体験が提供され、リピーターやロイヤルカスタマーを維持するだけでなく、新規顧客を呼び込むことができると、同氏は締めくくる。

 

今回の調査対象の買い物客が、小売サイトを放棄する重要な理由として挙げなかった項目は、小売サイト上におけるチャットボットとのやり取りの中での簡易な決済だった。

 

現在のオンライン消費者は、迅速でフリクションレスなサービスを求めている。それはデジタル決済でも同様だと、Gladly(カスタマーサービスプラットフォームを提供する米国企業)のCEOであるJoseph Ansanelli氏は話す。一般的には、消費者がチャットである特定の商品について質問するときは、その商品の購入意志があり、ショッピングカートに戻ってチェックアウトすることなくチャット内で取引を完了させたいと考えている。

 

「商品に関するアドバイスの提供、購入履歴や好みに応じた追加商品の提案、そしてデジタルチャネルでの販売の完結など、顧客のジャーニー全体をサポートするサービスチームを擁するブランドが次のコマースの時代の勝者となるだろう」と同氏は述べている。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」 の10/5公開の記事を翻訳・補足したものです。